外山〜鳴虫山
先月は栃木県北西部の栃木百名山に、荒海山、塩沢山、葛老山と続けて登った。12月に入って寒さが厳しくなり、低山歩きに適した季節となった。という訳で、この週末は栃百で低山の外山(とやま)に登ることにする。日光表連山の南麓にある独立峰で、日光市街を通る度に小さいながらも尖った山容を見かけて、気になっていた山だ。頂上に毘沙門天を祀る信仰の山という点にも興味を惹かれる。外山だけでは3時間程度の軽い行程なので、近くの鳴虫山に繋げて歩いてきました。鳴虫山も栃百で、今回が3度目の登頂となります。
桐生を未明に車で出発。R122を走り、日足(にっそく)トンネルを抜けたところで日の出を迎える。日光市街に入り、JR日光駅の裏手にある大谷川(だいやがわ)河川敷駐車場に車を置く。料金は無料。そこそこ駐車があるが、広くてキャパに余裕があり、長時間駐めても迷惑にはならないだろう。車外は風が強くて寒い。手袋をはめ、ULDジャケットを着込んで、大谷川に沿って歩き出す。
駐車場からすぐの地点で、河川敷内に二宮尊徳像と「二宮堀五ヶ村用水の歴史」と碑銘が刻まれた石碑を見る。近寄れないので碑文は読めないが、後日調べると、尊徳は晩年、日光神領に赴任して農村復興事業に携わり、今市で没したそうである。
そのすぐ先で、大谷川に架かる歩道橋「ふれあい橋」を渡って左岸に移る。橋上から男体山、大真名子山、女峰山、赤薙山、と日光表連山の山々を遠望する。これは素晴らしい山岳風景だなあ。連山の前にはちんまりと盛り上がる外山も見える。また、下流側も河川敷を一面に覆う芒の穂に朝日が照り映えて、いい眺めである。
大谷川左岸の県道日光今市線を辿る。最近の栃百の山行で行き帰りに何度も車で走った道だが、ゆっくり歩けば新しい発見あり。霧降大橋のすぐ先で「小倉山遊歩道入口」という案内看板を見つける。入口は藪っぽいが、小さな渓谷に沿って歩道が奥へ通じている。
大谷川に沿って、日光表連山や対岸の鳴虫山を眺めつつ歩き、一大支流の稲荷川に架かる稲荷橋に差し掛かる。橋上から、峩々として聳える女峰山と赤薙山を遥かに高く仰ぐ。外山もすぐそこに見える。小粒だが、なかなか急峻な山だ。ようやく身体が温まってきたので、ULDジャケットを脱ぐ。
輪王寺にちょっと立ち寄って、WCをお借りしたのち、外山に向かう。稲荷橋東詰から坂道を上ると、急な右カーブの石垣に地蔵尊と「左外山参道」の石標がある。
左の坂道を上り、出版健康保険組合「つがのき」という保養所の入口を過ぎる。住宅地(別荘地?)が現れ、その入口の「外山参道→」の道標にしたがって右折。住宅地を通り抜けた突き当たりが外山登山口で、「←外山毘沙門天参道」の道標がある。周辺に駐車スペースはない。登山道に入ってすぐの民家の庭先にもフクロウの道標があり、和む。
小沢を渡り、杉林に入る。「左外山道」や「三丁」の石標と石鳥居がある。石鳥居は二番目、三番目と続き、風化した石祠と四番目の石鳥居を過ぎると急な登りに転じる。
杉林に覆われた急斜面をジグザグに登る。登山道は、長年に渡り良く踏まれたせいか、深く窪んでいる。「六丁」の石標を過ぎ、五番目の石鳥居を潜ると冬枯れの明るい雑木林の登りとなる。ほどなく急な尾根を絡む登りとなり、頑丈な鉄製の手摺が設置されていて、急斜面をジグザグに登る。この斜面は、手摺がなければ滑落の危険を感じる位、急だ。
南側の眺めが開けると外山毘沙門堂に登り着く。ここは輪王寺が管理しているそうで、南麓から荷上げ用の簡易な索道が上がって来ている。後日調べると、コロナ禍で近年は取り止めとなっているが、毎年正月三日に縁日が開催されていたらしい。毘沙門堂からは南面の展望が良く、神橋や下手の日光市街を俯瞰し、大谷川の谷を隔てて鳴虫山を望む。
毘沙門堂の裏手を一段上がると三角点標石のある外山頂上。建ち並ぶ石仏の背後に北面の眺めが一気に開けて、女峰山がドーンと偉容を表す。これは感動。絶好の展望台だ。眼下には広い河原をもつ稲荷川が横たわり、女峰山と赤薙山の間の大崩壊地に向けて一直線に駆け上がる。赤薙山の近くの山腹には、内ノ外山(うちのとやま)がアイロンのコテ先のように鋭角で黒々としたピークを突き出している。外山から内ノ外山へは一本の尾根で繋がるが、最後はとんでもない急傾斜だ。
頂上の石仏には毘沙門天や馬に跨った勝軍地蔵、大日如来や不動明王がある。蓮の台に乗った六手の坐像は何じゃろ🤔。また、大黒天の石碑もある。
女峰山の展望を堪能したのち、往路を戻って下山する。途中で3人組の女性ハイカーさんとすれ違う。登りで見逃していた「五丁」の石標を発見。下りは楽で、アッという間に登山口に下り着く。登山口から往復1時間ちょっとの小さな山だが、信仰の山らしい雰囲気と頂上からの女峰山の眺め、良かったなー。大満足。
続いて鳴虫山に登るため、登り口の憾満ヶ淵に向かう。稲荷橋の下流、日光小学校前の歩道橋で稲荷川を渡る。この橋の上からの女峰山と外山の眺めも良い構図だ。
日光美術館の敷地を通り抜け、神橋三差路を通る。まだ10時前と早い時間帯なので、観光客の数はパラパラと歩いている程度。神橋の下の大谷川は深い淵となり、見応えがある。箸を持って来るのを忘れたことに気がつき、R122沿いのコンビニに立ち寄る。稲荷寿司を買って、割り箸を一膳ゲット。レジ袋を片手にぶら下げて、憾満ヶ淵へ向かう。
本町から匠町の住宅地に入り、大谷川を渡る。通りの歩道は新しい石畳に覆われ、観光客向けに整備されている。銭沢不動尊入口の道標があり、興味を惹かれる(合峰へ登るバリルートがあるらしい)。憾満公園の入口に駐車場がある。初めて鳴虫山に登ったときは、ここに車を置いて、時計回りで周回した(山行記録)。今日は反時計回りで行く。
大谷川右岸の歩道に入り、ずらーっと連なる石仏群を見ながら歩く。ここも外国人が多い。途中、霊庇閣という東屋があり、ここで一休みして稲荷寿司を食べる。憾満ヶ淵では、この辺りが最も映える渓谷美が見られる。
霊庇閣から化地蔵と呼ばれる石仏群を通ると憾満ヶ淵は終了。日光第一発電所の放水路の横手を登り、車道に出て右へ。「←鳴虫山」の道標に従い、やしおの湯に向かう道を右に分ける。日光宇都宮道路を潜ると半地下式の日光第一発電所がある。入口の門には「日光第一発電所100周年記念 1918年5月1日運転開始」とのプレートが掲げられている。既に1世紀を越えて稼働しているとは凄い(因みに、後日調べると、日本最古の水力発電所は1891年運転開始の京都蹴上発電所だそうだ)。
発電所の左脇を通り、山麓の笹藪と雑木林の間の作業道を進む。この区間は日溜まりでポカポカと暖かい。すぐに杉植林に入って登り始める。作業道と踏み跡が錯綜し、道がやや分かり難いが、正規ルートは良く踏まれている。
やがて尾根筋が明確になり、杉檜の根が露出した尾根道の急登となる。木の階段が現れるが、段間の土砂が流出して、階段の用をなさない。小さなアップダウンを交えつつ急登が続き、「独標 標高925M」の標識のあるピークに登り着く。憾満ヶ淵から標高差300mを50分で登って来た。大した登りではないのに足が重いのは、外山の登降を含めて既に4時間歩いているためか。この頂上は風が冷たいので、少し進んだ地点の日溜まりで昼食休憩。缶ビールを飲んで、レトルト鯖味噌煮とCOOP&日清の極みだしそばを食べる。
休憩ののち、出発。ザレて滑り易い急登が続く。坂道を駆けって下る元気な男の子2人と親御さんを初めとして、数グループのハイカーさんとすれ違う。登り着いたピークには「合峰 標高1084M」の標識と石祠がある。銭沢不動尊へ下る尾根の入口には、一般ハイカーさんが迷い込まないよう、トラロープが張られている。
合峰からは、冬枯れの雑木林に覆われて明るく、緩く小さな上下のある気持ち良い尾根道となる。最後に階段が現れる。18年前、最初に鳴虫山に登ったときは真新しい階段を下った記憶があるが、今はすっかり古びていて、妙なところで年月の経過を感じる。
登り着いた鳴虫山の頂上にはソロハイカーさんが一人居るだけで、静まり返っている。木立の間から赤薙山の辺りが見えるが、展望はあまり良くない。
しばらく足を休めたのち、東武日光駅へのコースで下山にかかる。このコースは2018年にも歩いているから、比較的記憶に新しい。左斜面が自然林、右斜面が植林となった尾根道が続く。アップダウンが多く、急坂もある。木の根が密に絡んで、登山道を見事な程、覆っている。こんな尾根道がしばらく続く。
左斜面の雑木林に入り、落ち葉が積もった坂を下り、尾根に復帰して植林の中をひと登りすると、神ノ主山(こうのすやま)の頂上に着く。山名標識やベンチがあり、腰を下ろして一休み。三角点標石の上にはお賽銭?の一円玉2枚と2EURO硬貨1枚が置かれている。鳴虫山は外国人も登っているようである。前回は、植林の間から日光表連山や高原山が眺められたが、5年の間に木が育って、展望は全く得られない。
神ノ主山から下り、Y字の尾根の分岐は「←日光市街0.8KM」の道標に従って左へ。右の尾根を下ると東武日光駅に近いが、トラロープが張られて通行止になっている。
尾根を絡みつつだらだら下ると、天王山神社に着く。以前は石鳥居が建っていたが、破損したのか柱だけが残り、代わりに鉄製の赤鳥居が建っている。天王山神社から、すぐ下に見える日光市街に向かって、雑木林の斜面をジグザグに下る。
ふと右脇を見ると、大きな石碑があるのに気づく。近寄って見ると、高さ3mはありそうな庚申塔だ。大きく太く刻まれた「भः庚申」の文字が美しい(भःは釈迦如来を表す種字)。「弘化四丁未(1847)年四月十一日建 御幸町」と3人の氏名の銘がある。この庚申塔は初めて気がついた。最後にまた良いものを見させて頂きました☺️
落石防護柵の間を抜けると市街地の縁の登山口に着く。市街地を通り抜けてR119の御幸町交差点に出、観光客が行き交うR119を東武日光駅方面に向かう。
途中、日光ぷりん亭という店があり、買い物の待ち行列が出来ている。ぷりんは好物なので買おうと思ったが、登山の格好で並ぶのも何なので断念。代わりに東武日光駅前の土産物店でいちごのタルトとチーズタルトを買ったのち、大谷川河川敷駐車場に向かう。最後に、ふれあい橋の上から日光表連山を眺める。今日は一日快晴で、好展望に恵まれた。
帰りは、やしおの湯に日帰り入浴で立ち寄る。お客さんが多く、洗い場が常時いっぱいになる程。外国人の若者もいて、やはり日光は国際的だなあと実感。ゆっくり温まったのち、桐生への帰途についた。