焼森山〜鶏足山〜花香月山〜八瓶山
この週末の行き先に頭をひねっていて、昨年11月に仏頂山〜高峯を歩いたときに出会ったハイカーさんから話を伺った鶏足山〜花香月山(はなかづきさん/はなかりさん)のことを思い出した。なんでも、少し前に登ったときに紅葉が綺麗だったとのこと。昨年通りなら、今頃が紅葉の時期となる。今年の紅葉はどこもイマイチな状況で、あまり期待はできないかも知れないが、ネット上の山行記録を調べてみると、栃木・茨城県境を縦走し、低山ながら歩き応えがありそうなルートなので、ちょっと歩いてみたくなって出かけてきました。
桐生を車で早朝に出発。北関東道を笠間西ICで降り、R50、採石場が続く県道鶏足山片庭線を経由して、城里町上赤沢の鶏足山駐車場に車を置く。既に駐車が2台ある。まだ新しい登山者用の無料駐車場で、ベンチやWC、登山道案内図が設置されている。茨城交通の鶏足山前バス停もあるが、休日は1日2便しかなく、登山での利用は難しそう。
行く手にこぢんまりと聳える赤澤富士に向かって出発する。茶畑の脇の車道を進み、すぐに道標に従って登山道に入り、杉林の中を登る。浅間神社中宮跡の標識を過ぎ、急坂を一直線にひと登りすると、浅間神社の石祠のある赤澤富士(富士ヶ平山)の頂上に着く。石祠には新しい榊と丸々と太った栗がお供えされている。樹林に囲まれて眺めはない。急登で身体が温まったので上着を脱ぐ。今日は快晴で風もなく暖かい。
尾根を緩く上下して進むと、尾根を横断する未舗装の林道に出て、「富士ヶ平(変形)十字路」の道標がある。鶏足山へは直進。すぐ先に「←富士山」に標識があり、木の間から雨巻山が眺められる。遠くは霞んで、残念ながら富士山までは見えない。
短い急坂を登って、三角点標石とベンチのあるピークに着く。樹林に囲まれているが、仏頂山や高峯が眺められる。山名標識には「三角点」と大書きされている。鶏足山の頂上はここではなく、北へ260mの地点らしい。そちらへ向かう前に、西の峰続きの焼森山を往復して訪ねてこよう。
坂を下ると、途中に「ミツマタの小道」の道標があり、右にミツマタ群生地へ下る山道が分岐する。緩い尾根道を辿って弛(たる)み峠を通り、その先で左に下小貫への道を分ける。右斜面が伐採地となって眺めが開け、鶏足山が眺められる。座禅岩という小さな岩場を巻いて、焼森山の頂上に着く。
頂上を囲む樹林は伐採されて疎らで、ほぼ360度の素晴らしい展望が得られる。西方には目立つピークはないが、低くなだらかな山並みが見渡す限り広がって、これはこれで特色ある眺めだ。南西から南にかけては、雨巻山、高峯、仏頂山が稜線を連ねる。いずれも低山の山並みの中にあっては、ゆったりと大きな山容がひときわ目を引く。その奥には霞んでいるが、加波山や筑波山、難台山の山影も見える。こうして眺め渡すと、見える範囲の目ぼしい山は大体登ったかな。展望を楽しんだのち、鶏足山三角点に戻る。
三角点から短い急坂を下り、登り返すと露岩の上に陶器製の祠の建つ鶏足山頂上に着く。丸太のベンチがあり、老夫婦のハイカーさんが休憩中。鶏足山の由来を書いた説明板があり、それによると、弘法大師が山麓で護摩修行を続けていたところ、山中から鶏の鳴き声を聞き、登ってみたところ鶏冠形の大岩があったので、この山を鶏足山と名付けた、とのこと。にゃるほど。
ここも360度の爽快な展望が開ける。西方には低い山並みが延々と続き、その中にちょこんと突き出た三角形のピークは芳賀富士のようだ。北にはこれから辿る栃木・茨城県境稜線が花香月山へ低く蛇行して延びる。花香月山の右に見える小さいながらも突き出たピークは八瓶山(やつがめさん)。今日は花香月山の後、この山にも立ち寄って登る予定だ。
山頂から北へ県境稜線を辿る。縦走路の入口には「←大沢口へ下山 大師コース」の道標がある。急な尾根を下ると、すぐに岩棚があり、「護摩焚石」の標識が立つ。岩棚から下を覗き込むと結構な高さの断崖で、ここで護摩を焚くと高難度の修行になりそうである。
さらに県境稜線を下ると右に枝尾根が分かれ、「←並柳 鶏石↑」の道標がある。ここは弘法大師ゆかりの鶏石に立ち寄ってみよう。ぐんぐん下ると、「鶏石」の標識とともに三角形の岩がある。これだけ見るとしょぼい岩だが、もう少し下って振り返ると、結構な高さのハングした岩壁であることが判り、確かに鶏冠(とさか)と言えなくもない。
「←並柳」の道標まで戻り、県境稜線を先へ辿る。稜線上には明確な山道が続き、サクサクと快適に歩いて行くが、どんどん下ってしまい、どうも様子がおかしい。GPSで確認して、県境稜線から西に外れる枝尾根を下っていることが発覚。このまま下ると並柳に出る。引き返して県境稜線まで戻る。道を間違えた地点では、県境稜線の方向には一見、道型がない。これはしてやられた(^^;)
少し下ると県境稜線にも明瞭な道型が現れ、5分程進むと「←鶏足山 大沢へ下山→」の道標、さらに数分で「思案峠」の道標が設置されていて、右に大沢口へ下る道が分岐する。
ここまでは、途中、間違い易い(実際に間違った)分岐があったものの、概ね良い登山道が続いていた。この先は道型が少し薄くなる。露岩の多い坂を登り、起伏の緩やかな稜線上の踏み跡を辿る。この辺りの稜線はヒノキと雑木が混じった林に覆われ、紅葉しているところもあるが、あまりパッとしない。これから色付くという気配でもないので、この辺りの今年の紅葉はまあこんな感じなのだろう。
ヒノキ林の中を歩いて行くと、高い電波塔に突き当たる。頑丈な金網柵を左に回り込み、管理道路を少し下ると、ゲートに閉ざされた道路が右に分岐する。ゲートの右脇から藪っぽい林に浸入。藪に覆われた道路を横断し、若い松が繁茂した平地に出る。どうやら電波塔の跡地らしい。ここは左へ、鬱陶しい小枝藪を払いつつ進み、段差を下る。この段差は、ネット上の山行記録の写真で見た覚えがある。
この先は藪から解放されて、雑木林の稜線上に明瞭な道型が通じている。左側が伐採された斜面となり、展望が開ける。下方には林道が通じ、ツーリング中のバイクが見える。稜線上には緑の葉と真っ赤な実をつけたツルシキミが群生して綺麗だ(ただし、有毒なので食べたりしてはダメ)。
鞍部に下って登り返すと緩い稜線となって、四等三角点標石を見出す。この頂に特に山名標識の類はないが、ネット情報によると倉見山と称されている(倉見は北東山麓の集落名)。11時近くなって腹が減ってきたので、休憩してチョコレートを齧り、ついでに地形図を広げて、今後のルートを確認しておく。
倉見山から進むと再び左斜面が大規模に伐採されていて、展望が開ける。日当たりの良い伐採地にはイバラの類の草木が多く、うっかり素手で払ってチクチクと刺される。
伐採地から一旦杉植林帯に入って抜けると、今度は右側が伐採された斜面となり、稜線は草と灌木の藪に覆われる。道型ははっきりしているが、蜘蛛の巣が多いのには閉口する。
樹林に入り、藪がなくなってホッと一息。木立の間から花香月山の電波塔がだいぶ近づいて見える。平坦で幅の広い尾根を進むと「←鶏足山」の道標があり、右に踏み跡が分かれる。これは山麓へ下る道と思って、ここは直進。なおも緩くて広い尾根を進むが、そういえば広く平坦な尾根になったら右折するんだった、と地図で確認したことを思い出して、引き返す。何のことはない、先程の道標で右折する道が縦走路だった(^^;)
この先にも尾根がT字に枝分かれして進路が分かりにくい個所があるが、直進して急坂を下ると峠に降り立つ。ここには、素朴な感じの如意輪観音の石像がある。
下生えにアオキが茂る植林帯をしばらく進み、ミヤコザサが現れたところで右折。尾根をゆるく登って、電波塔(docomo 花香月無線中継所)の下に出る。右側から管理道路が上がって来ていて、あとでこの道を下る。
花香月山の頂上は電波塔の背後にある。金網柵を左から回り込み、樹林を少し登ると三角点標石のある頂上に着く。雑木とヒノキに囲まれて、展望は全くなし。山名標識の類もなく、風雅な山名とは対照的な、実に地味な頂だ。しかし、陽が良く当たって雰囲気は明るいから、休憩には適している。ここで昼食にして、鯖味噌煮と缶ビール、鍋焼きうどんを腹に収める。
昼食後、電波塔に戻って、管理道路を下る。下り始めは、次に登る八瓶山が良く眺められる。管理道路の入口にはゲートがあり、一般車は侵入できない。田んぼが長閑に広がる谷間を少し下って右折。八瓶山の頂上を眺めながら、徳蔵方面への車道を歩く。
尾根を一つ越え、民家が点在する明るい谷を下って行くと、「八瓶山登山道入口」の看板があり、小さいながらもツンと尖った八瓶山が眺められる。看板には「頂上まで徒歩約40分」と書かれ、弘法大師が頂上に八つの瓶を置いて雨乞いをしたら雨が降った、とか、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が八岐大蛇(やまたのおろち)退治に八つの酒瓶を用意した、などの八瓶山にまつわる伝説が記されている。
登山道は、まず、電気柵を跨いで田んぼの畦道を進み、左手の廃屋の左脇から山の斜面に取り付く。あとは雑木林の中を良く刈り払いされた山道が一直線に続く。登るにつれて段々傾斜が増して、そっくり返るような急登となる。
雑木林からヒノキ林に入ると傾斜が緩み、程なく石祠のある小平地に着く。八瓶山の頂上はそのすぐ後ろだ。登りをちょっと頑張ったので、登山口から20分で頂上に着いた。
頂上には三角点標石と山名標識、円環状に埋められた八つの小さな瓶がある。これらの瓶はもちろん伝説に因んで最近埋められた新しいものだ。蓋がズレて、中に雨水が溜まっているのが見える。昔見たホラー映画の影響で、こういう瓶を覗き込むと中から何か飛び出て来そうな気がするので(^^;)、近づかない。頂上には文政年間の銘のある石碑もあり、この山が信仰の対象となっていたことが伺える。
下山は往路を下って、登山口に戻る。往復40分の小さな山だが、今日の行程中一番の急登で、楽しめた。
あとは車道を歩き、鶏足山駐車場まで戻る。あちこちにゴルフ場があるほかは純農村地帯で、長閑な田園風景の中を歩く。赤澤富士と鶏足山の全景が眺められるようになると、駐車場まであと少しの距離である。
帰りは笠間市街の外れにある「ぶんぶくの湯」に立ち寄る(500円)。案内看板に従って住宅の間を抜け、山間にちょっと入ったところにある一軒屋で、何気に秘湯の雰囲気がある。風呂は檜ではなくステンレス。浴室が冷え切っていて、湯船から出られなくなるが、他に客はいないので、ゆっくり浸かって温まる。この温泉は、私が入った立ち寄り湯の中でもマニアックさで2位に入る(^^;)。ちなみに1位は郡山市の中津川温泉 ザクの湯 藤屋旅館だが、改めて調べたら廃業したようである。