一盃山・蓬田岳

天気:
メンバー:T

郡山に所用で出かけたついでに、近郊の阿武隈山地の2座に登って来ました。どちらも1〜2時間行程のごく軽い山ですが、ハイカーさんに会うこともない静かな山歩きと、小さな谷と山が入り組む山麓の山村風景、それとマニアックな秘湯?を楽しんで来ました。

一盃山
行程:黒甫登山口 9:30 …音の岩 10:05 …大志の広場 10:10 …一盃山(856m) 10:20 …黒甫登山口 10:45
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

前日の金曜日は、所用を終えたのち、郡山市街のホテルに宿泊する。予報では明日、土曜日の天気は曇りのち雨だ。

翌朝、起きて窓の外を見ると予報通りの天気で、どんより曇っている。どこの山に登るか決めかねていたが、天気が良くなくても行程の短い山ならば大丈夫だろうと考えて、所用先で貰ったKoriyama City Map(以下、KCM)と持参した『分県登山ガイド 福島県の山』を参考にして、名前が魅力的な一盃山(いっぱいさん)に登ることにする。時間があって天気がもてば、もう一つ登れるだろう。ホテルを車で発ち、コンビニで朝食と昼食を仕入れて、登山口に向かう。

一盃山の西麓の馬場登山口を目指すも場所が良くわからず(反対側から来たため、分岐の道標を見落とした)、南麓の黒甫登山口に向かう。未舗装の林道をしばらく進むと、一盃山への道標がある。林道はこの少し先で拡幅工事が行われている。登山口には駐車スペースはなく、少し戻った路側に車を置く。

杉林の中の山道に入るとすぐに林道を横切り、右側斜面が伐採された眺めの良い緩い尾根を登る。行く手の一盃山はあまり高くなくて、すぐに着きそうな距離に見えるが、稜線には雲が掛かっていて寒そうだ。


一盃山の黒甫登山口


伐採地を緩く登る

植林された尾根から雑木林に入ると急坂になり、一部の滑り易い個所にはロープが下がっている。稜線直下を左にトラバースして登って行くと、音の岩のピークにひょっこり登り着いた。

頂上には小さな露岩と松が配され、一息入れるには良い所だ。チョコレートを口に入れる。晴れていれば展望が効きそうだが、今日はガスの中。風も強くて寒い。先に進もう。


稜線直下は急坂となる


音の岩

雑木とミヤコザサの緩い稜線を辿ると、大した距離もなく一盃山山頂の看板のある平坦なピークに着いた。山頂と称しているが、一盃山の三角点のあるピークではなく、大志の広場と呼ばれる地点だ。ややこしい。一帯は切り開かれていて桜が植えられているので、春先にはお花見で賑わいそうな所だ。少し先には簡易WCもある。その先に下れば探し損ねた馬場登山口に降りるはず。今日は三角点のピークを踏んで、往路を戻ることにする。


一盃山頂上(大志の広場)


頂上は草地が広がる

分県登山ガイドには、三角点への稜線は藪を漕ぐ、と書かれているが、途中までは桜の広場、その奥にも立派な道があり、難なく三等三角点に達する。北側に展望がありそうだが、やはりガスで何も見えない。

復路は速い。伐採地の尾根の下りからは、ようやく天辺から雲がとれた蓬田岳がちんまりと盛り上がっているのが眺められる。引き続いて、蓬田岳に登りに行くことにする。


一盃山の三等三角点


下りの途中から蓬田岳を望む

行きに見つけられなかった馬場登山口がどこか気になって再度探したら、ちゃんと大きな案内看板が出ていた(^^;)。広い駐車場もあり、こちらがメインコースのようだ。しかし、黒甫登山口の方が山道らしい感じなので良しとしよう。

蓬田岳
行程:糠塚登山口 11:25 …展望岩 11:50 …蓬田岳(952m) 12:20〜12:40 …糠塚登山口 13:10
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

蓬田山には多くの登山コースがあり、南東の蓬田新田コースが表参道になるが、KCMに載っていた北の糠塚登山口からのコースを往復することにする。

今度は要所に大きな案内看板があり、迷うことなく登山口に向かう。自然の香り漂う養豚場の横を登ると未舗装道になるので、無理せず道路脇の小さな空き地に車を置く。そこから僅かに進んだ所が登山口で、ここまで車で来れば10台分くらいの駐車スペースがある。

杉林に囲まれた小さな沢に沿って登ると、「↑岩登りコース、一般コース→」という標識のある分岐に着く。ここはもちろん、岩登りコースに行くでしょう。わくわく。


蓬田岳の糠塚登山口


岩登りコースと一般コースの分岐

岩登りコースはなおも沢に沿って登る。湧き水の水場を過ぎ、すっかり冬枯れした雑木林の斜面を登り始めると、「モスラの頭→」と書かれた古い道標を見る。これは歳が知れるネーミングセンスですね。次に現われた苔むした巨石がモスラかと思ったら、ペンキでくじら岩と書いてあった。


岩登りコースの水場


くじら岩

露岩が点在する尾根の登りとなり、大きな露岩を回り込むと赤ペンキで展望岩と書かれている。展望岩に上がると名の通り展望が良い。山麓の銭神の集落を眺めると、北海道っぽい景観だ。残りのチョコレートを齧って小休止する。


展望岩


展望岩から山麓の
銭神の集落を俯瞰

展望岩から降りて尾根を進もうとすると、岩の裂け目を指してが書かれている。凄く狭いんですけど、ここをくぐれということなのだろうか。右も左も崖で他に道はないので、ここを行くしかない。潜り込んで、何とか通り抜ける。実は、ここが岩登りコースの核心部であった(^^;)。出口には「モスラの鼻抜け右鼻入口」「この岩をくぐらないと展望岩には行けません」と書いた標識があった。


モスラの鼻ぬけ


右鼻入口

右から一般コースを合わせ、細くなった尾根を登る。二体の観音様がおわす岩を過ぎ、頂上に着いた。頂上は南北に細長く、一等三角点とTV中継局があって、北側の眺めが良い。さっき登った一盃山も見える。


蓬田岳頂上
一等三角点とTV中継局がある


蓬田岳から一盃山(中央)を望む

TV中継局の向こう側に菅布禰神社の社殿がある。社の前には小さな広場があり、ベンチ代わりの岩もあるので腰掛けて、山麓の田園風景を眺めながらパンで昼食とする。下界を往来する車の音が微かに響いて来るのが里山らしいが、それ以外は静まり返った山頂だ。


菅布禰神社


神社から山麓の
蓬田新田付近を俯瞰

下山は往路を戻り、展望岩の手前から一般コースに入って下る。右に見上げる展望岩(=モスラの頭)は、実は結構大きな岩場だ。雑木林の尾根道を気持ちよく下ると、岩登りコースとの分岐点に出る。そこから車までは僅かの距離だ。


一般コースを下る


雑木林とササの尾根

蓬田岳も小さな山だが、遠目からののたっとした山容からは想像出来ない変化のあるコースで、なかなか楽しめた。

ザクの磨崖三十三観音
行程:三十三観音入口 14:40 …観音堂 14:50 …三十三観音入口 15:10
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

まだ一山登る時間の余裕はあるが、天気も怪しいし、小さくても一日二山に登れば十分満足。KCMを見ると、一盃山の近くに中津川温泉(ザクの湯)という記載があるので、ここの風呂に入って、温まって帰ろう。

地図を頼りに車を走らせるが、近くに来てもそれらしい施設はない。通り過ぎたらしいので戻りながらよく探すと、「ざくの湯 藤屋」「藤屋旅館」という標識を発見!しかし、どう見てもその先には民家しかない。果たしてこれが温泉?

躊躇していたら、ちょうどおばあさんが通りかかったので、「あのー、すみません。ここのお風呂入れますでしょうか」と訊ねたら「ちょっと待ってもらえば入れますよ」。実はこの家の方でした。車を敷地に乗り入れると駐車場もなく、民家の前に横付けだ。帰りはバックで出るしかない。

おばあさんに続いて家の中に入ると、内部は太い柱や梁が黒光りする年代物の民家そのもの。一般の宿の雰囲気はない。これからお湯を張るのでしばらくお待ちを、ということで、居間の炬燵に招じられてお茶とせんべいを頂く。炬燵の回りには数匹の猫がうろうろ。ご当主のおじいさんと息子さんがいらして、今日は一盃山と蓬田岳に登って来ました、というところから会話が始まって、いろいろ話を伺う。ここの温泉は自然湧出のラドン鉱泉で、東日本では珍しいとのこと。創業以来、ご当主で4代目で、この建物は築200年かそれ以上らしい。ご先祖は戊辰戦争の落ち武者だそうで、計算が合わないような気もするが、とにかく古いのは確かだ。ちょうどテレビ(大型の液晶テレビで、これだけが現代的)が明治初期のドラマを映しているが、画面の中より外の方が古い(^^;)

しばらくすると風呂の準備ができ、お代(700円)を払って棟続きの隣りの建物に案内頂く。湯船は小さくて浅いが、御影石製で新しい感じ。熱いので水で少し埋めて入る。お湯を張ってもらって一番風呂に入ったのは、桧沢岳の帰りに立ち寄った大島鉱泉以来だ。よく温まった。


中津川温泉(ザクの湯)
藤屋旅館


藤屋旅館の湯船

帰り際、おばあさんから畑で取って来たという大きな大根一本を丸々お土産に頂いた。帰宅して、ふろふき大根にして食べた。甘みがあって美味い。

もう一つ、ザクの湯のご当主から話を聞いて興味を持ったので、すぐ近くにある磨崖三十三観音に立ち寄る。入口に説明看板があり、曰く、文化二(1805)年に当地の僧が信州高遠の石工を呼んで、通称「権現山」の山頂付近の花崗岩に西国三十三観音を線彫りさせたものとのこと。入口に車を置いて林道を辿る。左に階段が現われてこれを登ると、巨石の下に観音堂と市史跡指定記念碑がある。


ザクの磨崖三十三観音
参道を登る


観音堂と市史跡指定記念碑

三十三観音巡りの道は観音堂の裏手から始まる。浅い線画で彫られているため、風化で掠れて見えにくい物が多いが、あちこちの岩に観音様が番号とともに刻み込まれている。こういうスポットを巡る小さな旅が、江戸時代の庶民の楽しみの一つだったそうだ。


第十七観音


磨崖観音の山麓の山村風景

三十三観音を一周し終わる頃、とうとう雨がぽつぽつと降り始めた。車に戻って帰途につく。須賀川ICから東北道に乗ると、本格的な降りとなった。