守門岳
桐生を深夜に車で出発。関越道を小出ICで降り、守門岳に向かう。R290から西川沿いの車道に入り、二分(にぶ)集落の辺りまで来ると、行く手に守門岳のゆったりと大きなシルエットが茜色を帯びた青空に高く浮かぶ。今日は快晴で絶好の登山日和だ。
道標にしたがって林道二分線に入り、二口登山口の駐車場に車を置く。猿倉橋を挟んで二つの駐車スペースがあり、ベンチや綺麗なWCもある。既に計5台程の駐車があり、ソロハイカーさんが出発するところだ。今日はここから二口コースで守門岳の主峰の袴岳に登り、大岳を経て保久礼(ほっきゅうれ)コースで戻ってくる予定である。
二口コースの登山口には登山届のポストがある。登山届はいつものようにコンパスから提出済。本高地沢の大きな渓谷に沿って、刈り払いされた幅広い登山道をしばらく歩く。道端の草叢は露にしっとり濡れ、ススキの穂にも水滴が光る。ミゾソバやセキヤノアキチョウジの花が多い。早朝の山のヒンヤリとした空気が気持ち良い。
再び「二口登山口」の標識があり、平坦で幅広い道は終わって、樹林に覆われた急斜面を登る山道に入る。「熊さんにご挨拶を」という標識と手製の鐘があり、謹んで挨拶して進む。熊さんからは挨拶しに出て来ませんように。
ブナの美林に入って急登。身体が暖まって来て、上着を1枚脱ぐ。猿倉山の東の尾根に登り着き、しばらく尾根を辿る。小さな窪に下ると護人清水があり、岩の間から塩ビパイプを伝って清水が流れ出している。傍の柄杓で掬って飲む。冷たくて美味い。
窪を詰めて、再びブナ林の斜面に入り、斜め右上へ登って行く。太陽がだいぶ高くなって、ブナ林の中に日光が差し込む。先行していたソロハイカーさんに追い付き、以降、前後して進む。やがて尾根の上に登り着く。少し先の下った地点に「谷内平」の標識があり、尾根の左側は笹と低い樹林に覆われた平坦地となっている。
尾根道を辿るとブナ林を抜けて低木帯に入り、四等三角点(点名:谷内平)の標石を過ぎる。左は大岳を源とする中の高地沢、右は青雲岳に突き上げるオカバミ沢に挟まれた廊下状の細尾根となり、行く手に守門岳のなだらかな主稜線を仰ぐ。良い眺めだが、逆光がハレーションを起こして、写真がうまく撮れない。
色づき始めた低木に覆われた細尾根を辿って行くと「中間点 見晴し」の標柱のある小さな岩場に着く。右のオカバミ沢には大きな滝がかかっているのだが、これも逆光で、写真ではほとんど判らないのは残念。振り返れば、登って来た尾根とその向こうに広がる山並みを望み、鋸山や米山を遠望する。良い眺めだなあ。一休みして、展望を楽しむ。
登山道は見晴しを過ぎるとブナを交えた樹林帯に入り、広い尾根の急登となる。途中で「大岳分岐 0:50」と記されたプレートがあり、主稜線までの所要時間が判る(実際にはゆっくり歩いて55分だった)。
再びブナ林を抜けると、低木がトンネルのように覆い被さり、赤土が雨水で抉れた道となる。傾斜が緩み、主稜線が近づいて来た予感がするが、ここからが意外と長い。行く手の眺めが開けるが、稜線はまだ少し先だ。振り返れば越後三山を遠望し、先週登った八海山のギザギザの稜線も視認できる。
低木帯をゆるゆる登り、ようやく大岳分岐に着いて主稜線の上に出ると、眼前に広闊な展望が開ける。左にはお椀状の山容の大岳が鎮座し、正面には下田山塊の山々が折り重なって広がる。その左端のちょっと高いピークが山塊最高峰の粟ヶ岳だ。
大展望を楽しみながら、袴岳に向かう。稜線の左側は爆裂火口壁で、細かい山襞が刻まれた急斜面が硫黄沢へ落ちる。一方、右側は低木に覆われた緩斜面となり、左右で非対称な稜線を辿る。硫黄沢を隔てて烏帽子山の尖ったピークが見える。烏帽子山の向こう側には八十里越の峠道が通じており、それを歩いたときのことが思い出される(山行記録)。
爆裂火口壁の縁を辿り、低木帯の斜面を登ると、青雲岳の草原に覆われた頂上に着く。正面には袴岳が間近に見え、左奥の袴腰へ凸凹の稜線が延びる。火口壁の縁に近づくと、低木に邪魔されずに大岳と中津又岳を眺めることができる。この2座の右斜面も荒々しい爆裂火口壁だ。背景には新潟平野が広がり、遥か遠くに弥彦山の山影を望む。素晴らしい。
狐色に色付く草原の中の木道を歩いて、袴岳に向かう。少し下った鞍部から低木帯と草原の中を登り返し、最後に短い急坂を登って、多くのハイカーさんが憩う袴岳頂上に着く。
頂上からの眺めは正に360度。御影石製の展望盤があり、それを参照しながら山名を同定していく。北西には青雲岳、大岳を間近に望み、奥に新潟平野を遠望する。北から東にかけては粟ヶ岳、下田山塊、御神楽岳と山並みが続く。御神楽岳は未踏で登りたい山だが、桐生からだとアプローチが遠い。南東には浅草岳が雄大な山容を見せ、これも未踏の毛猛山塊がシャープなスカイラインを連ねる。
袴岳の南面には大雲沢がV字谷となって切れ込み、良く見ると谷底に雪渓が白く光っている。山麓の大原集落や、藤平山(ふじびろやま)コースを俯瞰。背景には毛猛連山、越後三山、上権現堂山と下権現堂山と山並みが続く。守門岳に最初に来た時は、大原から藤平山コースを経て登って来たので、懐かしい(山行記録)。
まだ10時前と早いが、朝食も早かったので腹が減った。頂上の一角に腰を下ろして昼食休憩とする。缶ビールで喉を潤し、鯖味噌煮、カップヌードル Chili TOMATO を食べる。
昼食を済ませ、大展望を堪能したのち、山頂を辞して大岳に向かう。大岳分岐までは往路と同じ道。二口コースを左に分けて大岳に向かい、網張と呼ばれる鞍部に向かって下り、登り返す。右側は爆裂火口壁の急斜面で、展望が終始開ける。
急坂を登って、大岳のなだらかな頂上の一角の草地に着く。眺めが良いので、この辺りで休憩しているハイカーさんが多い。振り返れば、袴岳が両翼に袴腰と青雲岳を従えて爆裂火口壁を巡らせる。
大岳の頂上は小広い平地だが、低木に囲まれて展望はない。三角点標石や山名標識、鐘、2基の石祠、「巣守神社」と刻まれた石碑がある。大岳は18年振り3回目の登頂。前回は3月中旬にテレマークで登った。そのときの頂上は一面無木立の雪原で、鐘や石碑は雪の下。影も形もなかった。すごい量の雪が積もっていたんだなあ、と改めて思い起こす。
大岳から保久礼コースを下る。二口コースの上部と同じく、緩斜面の低木帯の中、赤土が雨水で抉れた滑り易い道を一直線に下る。展望がない単調な下りだが、所々で山麓の眺めが開ける。中央に小さく見える山は、昨年登った鳥屋ヶ峰だな。登った山は判別し易い。
やがて、文字が掠れて辛うじて「天狗清水→」と読める標識があり、左に山道が分岐する。水はまだたっぷり残っているが、水場に行ってみよう。低木帯の斜面をトラバースし、浅い窪に下ると水場があり、塩ビパイプから清水が流れ出す。置いてあったステンレスコップで汲んで飲む。冷たくて美味く、生き返る。
登山道に戻り、さらに低木帯の中の赤土の道を下る。すぐに「不動平」の標柱があり、その先で展望が開けて、まったりと稜線を広げる大岳を振り返る。
どんどん下ると「←第2展望台 大岳まで1.6K 40分」の標識があり、ここからも保久礼コースでは貴重な山麓の眺めが得られ、魚沼丘陵や新潟平野が眺められる。
延々と下って来た低木帯から、ようやくブナ林に入る。ほどなくY字の分岐があり、どちらも保久礼に至るが、ここは右のキビタキ小屋経由の道を下る。
ブナ林を下ると、登山案内図の看板とキビタ小屋が建つ。立て付けが悪い入口の戸を開けて内部を覗くと、板間や壁は荒れており、非常時限定で3人位泊まれる感じ。
小屋のすぐ下で左の登山道に合流する。僅かに下ったところにキビタキ清水があり、岩の間から塩ビパイプを伝って冷たい水が流れ出している。
キビタキ清水の下からプラ階段の道が始まり、細尾根の上に続く。さらにブナ林の中のプラ階段を下ると、保久礼小屋に着く。
保久礼小屋は、2階建てコンクリート造りの建物で、小屋と言うよりはシェルター。テレマークで登りに来た時は、2階の窓の下まで積雪があったから、改めてこの地の冬の雪の多さを知る。内部はコンクリの土間のなり、腰掛けの上に三つ折りパンフレットの「守門岳登山マップ」が置かれていたので、一部頂く。パンフによると大岳頂上には守門大明神が祀られ、長岡市にも守門大明神を祀る栃堀巣守神社があるとのこと。
小屋の裏手にはWC、前には草地や水場があり、テント泊できそう。尾根上を少し進んだ所に駐車場があり、多くのハイカーさんはそこから大岳、袴岳に登るようである。二口登山口へは、尾根から南面の山腹を下る山道に入る。
良く踏まれた山道で急な山腹をジグザグに下る。コウクルミ沢の瀬音が聞こえ、ほどなく廃林道の終点に下り着く。廃林道は幅広く刈り払いされて歩き易いが、標高が下がって、かつ、陽当たりが良いので、暑くなる。廃林道を辿ると、二口登山口と保久礼駐車場を結ぶ舗装道(県道二分栃尾線)に出る。ここにも広い駐車場(二分駐車場)がある。
あとは二口登山口まで車道を歩く。途中で渡る中の高地沢の谷は大きく、奥に高く稜線を仰ぐ。道端のススキの穂はすっかり開いて日差しを受け、里山の秋の風情が良い。のんびり歩いて20分程で車を置いた二口登山口に到着する。
帰りは、R290沿いの守門温泉白石荘に日帰り入浴で立ち寄る(市外600円、入湯税100円込)。浴室と湯船はそう大きくはないが、他にお客さんがいなくて貸し切り。贅沢な気分でゆったり浸かる。その後、R252沿いの酒屋で「越乃雪蔵」純米吟醸を土産に買い、小出ICから関越道に乗って桐生への帰途についた。