八海山
23〜25日の3連休も前半は台風15号が接近し、東海地方では記録的な大雨となった。連休最終日の25日は天気が回復しそうなので、新潟県の八海山に登ることを計画する。
八海山には城内口から屛風道を経て登ったことがある(山行記録)が、大崎口からのクラシックルートはまだ登ったことがなく、以前より興味を持っていた。大崎口コースは、千本檜小屋まで標高差約1400m、コースタイムで登り約6時間のかなりハードなコースなので、現在の自分の脚力を確認するのにもうってつけ。と言う訳で、出かけてきました。
桐生を深夜に車で出発。関越道を六日町ICで降りて大崎口に向かい、大崎ダム公園のだだっ広い駐車場に車を置く。上空はまだ厚く雲が垂れ込め、周囲の山々はガスに覆われ、草地はしっとりと濡れている。追々晴れることを期待して歩き出す。
駐車場から参道石段を上がると広場があり、中央に土俵の様な盛り土がある。ここでは毎年10月20日に大火渡祭が行われ、大勢の人が家内安全・無病息災を祈念して燃える炭の上を素足で渡るそうである。
広場の奥、幅広く立派な参道石段の上に八海山尊神社の社殿が鎮座する。石段の両脇にはこれまた大きな狛犬1対と石灯籠2対、中段に龍の像があり、篤く信仰されていることが窺える。石段を登って参拝したのち、社殿の裏手に回ると、八海山登山口の石碑群や石鳥居がある。ここにも駐車スペースがあるが、蕎麦屋のお客さん専用駐車場のようである。
石鳥居を潜り、建ち並ぶ霊神碑の前を通って沢を渡り、杉の大木に囲まれた境内に入る。参道の両脇はびっしりと苔に覆われ、石碑、石像が林立し、幽邃な雰囲気が漂う。奥の石段の上に里宮の小ぶりな社殿が建つ。説明板によると、享和三(1803)年に泰賢行者によって開かれた八海山の大崎口登山道の入口に建てられたもので、修行者はここで五穀を断ち、水垢離を取り、護摩を焚き、神意を戴いて先達として出立した、とのこと。
里宮の左手には泰賢行者がお籠りしたという霊窟や、不動滝の水垢離場がある。渓流を渡って少し登った所には、これも立派な泰賢霊神の石碑が建つ。
里宮の右手から登山道に入る。三笠山大神、御嶽大神、八海山大神の石碑が建つ祭壇を過ぎ、杉林の中を緩く登って行く。やがて杉林を抜けると左側の眺めが開け、急な山肌に突き上げる渓流を仰ぐが、山の上の方はまだガスに閉ざされている。
傾斜が増して、色づき始めた広葉樹林の中をジグザグを切って急登する。路面の赤土が濡れて滑り易い。短いアルミ梯子や鎖が断続して現れる。この辺りが十二グラの梯子・鎖かな。
最後にちょっと長い梯子を登ると支尾根の上に出て傾斜が緩まり、道端に石碑や不動明王の石像が横たわっている。少し進んだところの小平地に、鐘と八海山二合目の標識、左手の茂みの中に「岳峡山荘跡」の石碑がある。
夜来の雨にしっとり濡れた樹林の中を登っていく。やがて尾根を絡んで右斜面を登る道となり、右下から渓流の瀬音が近づいてくる。近づいて来た谷に接したところが金剛霊泉で、杉の大木の傍に「金剛霊泉」の石碑があり、その下から清水が渾々と清水が湧き出ている。置いてあった柄杓で汲んで飲むと冷たくて美味い。正に名水と言える。
少し戻り、尾根へ向かって分岐する道に入る。すぐに尾根上に出た所に霊泉小屋が建つ。2018年に改修されたそうで、中を覗くと板の間がピカピカに新しく、手入れが行き届いていて快適そう。小屋の外にWCがあり、水場も近くて完璧。山麓の眺めも良さそうだが、今はガスに巻かれて何も見えない。
霊泉小屋からはブナ林に覆われた尾根を緩く登る。「勇岳霊神」の小さな石碑を過ぎ、短い急坂を登って猿倉山からの主尾根の上に出ると陽が差して明るくなる。尾根道を少し進むと鐘と多数の霊神碑のある地点に着く。合目の石標は確認しなかったが、ここが三合目だろう。北面の眺めが開け、青空の下に一面に広がる雲海と、雲に映った虹を見おろす。
三合目からさらにブナや低木に覆われた尾根道をゆるゆると登る。風に乗って微かに低い機械音が断続的に聞こえてくるのは、八海山ロープウェイが動く時の音か。左側(北面)は急傾斜で水無川の谷に落ちて、すこしずつ晴れ始めた雲間から大倉辺りに集落を俯瞰する。遠くには権現堂山や守門岳も見え始める。1120m三角点(点名:三石)の標石を過ぎると、電波塔と展望台に着く。
展望台から右(南)に少し下がった所にロープウェイの山頂駅があり、ハイカーさんや観光客が三々五々上がって来る。展望台に上がると八海山の薬師岳や八ッ峰を仰ぎ見、その右には巻機山、苗場山、遠く微かに妙高火打を望む。
展望台のすぐ先には避難小屋と八海山大神の石像を祀る遥拝所がある。ここからは大勢の老若男女のハイカーと前後して歩く。右に八海山スキー場のリフトトップを見る。大昔の一時期、良く滑りに来たところだ。木の階段道を上がると「大崎道」、少し先に「四合目」の古い石標があり、古くから歩かれた道であることが窺える。傾斜が緩むと左に大倉口へ下る道を分ける。
堀割のような道を辿り、緩い登りから緩い下りに転じると正面に薬師岳が見えてくる。頂上直下にテラテラ光るスラブがあり、なかなか険しい山だ。
五合目の石標を過ぎ、「漕ぎ池→」の道標を見る。漕ぎ池は帰りに立ち寄ろう。急な登りに転じ、左に郡界尾根のギザギザを眺める。ジグザグの急登となり、「胎内くぐり→」の道標を見るが、そちらは危険のため通行止。短い梯子が架かる急坂を登る。行く手に急な崖が現れ、その上に女人堂の屋根が見える。もう少しだ、頑張ろー。
登り着いた女人堂は新しく綺麗な小屋で、中にはバイオトイレがある。間近に薬師岳を仰ぎ、ベンチもあって休憩適地だ。大勢のハイカーさんと共に一休みする。
ここから薬師岳へ最後の登りにかかる。低木帯を緩く登ると祓川で、バンバン水が流れる小沢を左岸へ渡る。道標があり、沢登は厳禁と書かれている。
急坂に取り付いて、左に春遅くまで雪が残りそうな草原を眺めながらドンドン高度を上げる。やがて「七合目」の標石と「急な登りも中間点 登りきると薬師岳(八合目)」と書かれた道標がある。
さらに急坂を登る。振り返ると雲の端に小さく女人堂を見おろす。だいぶ登って来た。岩盤が露出した急坂となり、やがてスラブに長い鎖が張り流された鎖場が現れる。ここは足元も鎖も濡れて滑り易く、注意して登る。同じ様な鎖場がもう一つ連続し、登りきると薬師岳山頂に到着する。
頂上には鐘や「八合目」「薬師岳」の石碑、霊神碑、赤鳥居、石垣の上に祀られた太郎坊大神の像など多くの宗教モニュメントがある。周囲は低木で、快晴の青空の下に一気に展望が開ける。正面には千本檜小屋と八ッ峰、左には中ノ岳と駒ヶ岳、右には上越国境稜線の下津川山、小沢岳、巻機山、上信国境の山々。さらには魚沼盆地を俯瞰し、微かに北アや頸城山塊を遠望する。
当初は未踏の薬師岳に登頂したら引き返そうと思っていたのだが、千本檜小屋が意外と近いので、取り敢えずあそこまで足を延ばしてみようと思う。小さく下って登り返すと、あっさり千本檜小屋に着く。小屋は営業中で、ビール700円、八海山一合700円などを販売中。酒が割安な気が😅
小屋の外で休憩しながら、さらに進むか、考える。八ッ峰の縦走は前回やっているし、鎖場が連続して危険度が高い。かと言って、ここで引き返すのも何か勿体無い。八ッ峰の最初の一峰の地蔵岳まで行ってみることにする。
八ッ峰に向かい、岩峰の基部を右へ巻いて迂回路に入る。のっけから滑り易い岩場のトラバースがあり、緊張する。
道標に従って迂回路から分岐し、稜線に上がる道に入る。岩場を登り、最後は稜線に向かってツルツルの岩盤に架けられた鎖場を登る。岩も鎖も濡れ、おまけに靴底がすり減っていて非常に滑り易く、神経を使う。やはり今日は地蔵岳までだな。そして靴は買い替えよう。稜線に出てすぐ左が地蔵岳の山頂だ。
頂上からの展望は、やはり千本檜小屋のそれより一レベル上だ。次の不動峰の頂上には大勢のハイカーさんが居るようだ。眼下に屛風道と山麓の山口集落を俯瞰し、振り返れば千本檜小屋と薬師岳も良く見える。あとから登って来たハイカーさんの団体は全員メット着用だった。まあ、八ッ峰縦走にはメットは要るかもなあ(前回は使っていない)。今日はここで満足して下山にかかる。
鎖場と迂回路の岩場のトラバースで肝を冷やしつつ、無事に千本檜小屋に戻る。ここで昼食とし、缶ビールで喉を潤して、鯖味噌煮、カップ麺を食べる。
あとは往路を戻る。まだ正午前で時間の余裕はあるし、ほぼ下り一辺倒なので、気はかなり楽だ。景色を楽しみながらのんびり歩く。
薬師岳を越え、直下の鎖場を慎重に下る。登って来た女性のソロハイカーさんは、この鎖場でかなり苦戦していた。女人堂で一休み。まだまだハイカーさんの数は多い。女人堂から下ると、眼下の森林の中にポツンと漕ぎ池の水面が見える。漕ぎ池に立ち寄ると、池塘というよりかは水溜りと言った方が良い。これはちょっと予想外。
展望台を過ぎると他のハイカーさんを見かけなくなる。雲海は既に消えて、水無川や魚沼盆地が良く眺められる。その代わり、上空には薄雲が広がり始めた。
三合目から霊泉小屋までの道はブナ林の中で、傾斜も緩く、気持ち良く下れる。霊泉小屋からの眺めも雲海が消えて、魚沼盆地を一望する。金色の田地の真ん中に盛り上がる緑地は坊谷山のようだ。金剛霊泉で冷たい清水をゴクゴク飲んで生き返る。実に有難い。
二合目を過ぎ、十二グラの梯子の上まで来ると大崎ダム湖や八海山尊神社の屋根をすぐ下に俯瞰する。ここでソロのトレイルランナーに追い越され、あとちょっとですね、と声を掛けられる。しかし、ここからの赤土の急坂が滑り易い。一回、全く無抵抗に滑って尻餅をつき、危うく変に足を捻るところだった。
ようやく杉林に入って傾斜が緩まり、無事に里宮に帰り着く。やれやれ。泥で汚れた手を渓流で洗い、駐車場に向かう。途中、登山口の八海生そば宮野屋は営業していて、お客さんが入っていた。
帰りは先々週に続いて金城の里に日帰り入浴で立ち寄る。今回は3連休最終日の行楽日和だからか、お客さんの数が多いが、湯船にはのんびり浸かれる。汗をサッパリ流したのち、桐生への帰途につく。この山行、登りではさして疲れを感じなかったが、翌日から2日程筋肉痛となって、やはりハードなコースであったことを実感した。