八十里越
それにしてもこの峠の長大さは、どうであろう。
樹海は眼下にあり、道は天空に連なって行く。
八十里こしぬけ武士の越す峠
司馬遼太郎の「峠」のこの一節に惹かれて、ひと気のない峠道を歩いてきました。
前日は宴会で二日酔い気味だったが、速攻で準備して出発。桐生駅11:41発の列車に乗り、越後湯沢、長岡を経由して東三条駅へ。駅前から15:05発遅場(おそば)行きバスに乗る。
途中、八木ヶ鼻には新しい♨が出来ていた。終点の遅場までの客は私一人。ここへのバスは1日2往復。バスを降りて歩く準備をしていると、折り返しの出発まで暇そうな運転手さんが「山を越えるの?」と声をかけて来た。春にも一人登山者を乗せたそうです。やはり、歩く人は少ないようだ。
道の脇の田んぼは刈り入れ真っ最中。橋を渡るといよいよ無人の山奥となり、1時間ほどで吉ヶ平に到着。ここは寂しさが漂う場所だ。吉ヶ平山荘は1階のござのところは辛うじて使えそうだが、あとは破れ放題。車道を隔てた反対側の林間にキャンプ場のようなところがあり、水場もある。テントを張り、カレーを食べてお酒を飲んで眠りについた。
藪の朝露で濡れるので、下の雨具をつけてスタート。馬場跡で雨生(まおい)ヶ池への道と別れ、林とススキの藪の道を椿尾根を目指して続く。藪とはいっても道型ははっきりしていて、迷うところはない。
椿尾根からは山腹を巻く林間のちょっと良い道に。守門岳の火口壁の眺めが良い。番屋乗越からは下田の低く延々と広がる山々を眺める道になるが、崩れかけた道は斜めに傾いて歩きにくく、一番の難所でもある。道路脇の岩を発破した跡の火薬庫跡からは烏帽子山の岩峰の眺めが素晴らしい。
ここからブナ林を緩く下る。ジグザグの旧道の跡を現在の道は突っ切っていく。ブナ沢を渡ると緩い登り。空堀小屋跡の周辺の草原は刈り払いされていて歩き良い。丸倉へはR289の工事のため通行止め。平成14年9月に設置された道標のある殿様清水は湧き水でうまい。鞍掛峠への登りには甘いアケビが沢山実っていた。
鞍掛峠を越えると雰囲気が一変し、ところどころに露岩のある明るい道となる。このあたりから浅草岳も見えるはずだが、ガスの中。田代平へは木道があり湿原を往復する。この辺りで、なんとデジカメのバッテリ切れ。残念〜。一度、車道に出るが再び山道に入って木ノ根峠(八十里峠)へ。ここでようやく道半分といったところか。天ぷらそばとナシを食べる。
ここからは会津。ゆる〜く下って行く。松ヶ崎からは叶津川対岸の、低いがスラブが迫力の山々が見える。旧国道らしく広い道を下る。ところどころ泥濘がひどい。それにしても素晴らしいブナ林だ。たいした下りもないうちにR289に到着する。
ここからは長〜い車道歩き。平石山スノーシェッドに車止めがあり、ちょっと先が浅草岳登山口で登山者の車数台が置いてあった。平石山の登りは標高差600mとはいえ、険しくてかなりしょっぱそう。入叶津から見上げる浅草岳はガスのため上部は見えないが、なかなか峻険だ。そろそろ痛くなってきた足を運んで叶津から只見駅に向う。もう東京方面への接続はない(と思ったら実はあったのだが)ので、駅前の民宿に泊る。
翌朝、只見駅5:56の始発に乗って帰った。