摺古木山〜安平路山

メンバー:T
ルート地図 GPSのログ(緑:1日目、赤:2日目往路、青:2日目復路)を地理院地図に重ねて表示します。

8月末になっても猛暑が続く。この週末は土日とも晴れの予報が出ているので、久し振りに1泊2日で、暑さを避けて高い山に登りたい。北アや南アの山も考えたが、今回は中ア南部の摺古木山(すりこぎやま)と安平路山(あんぺいじやま)に登ることにする。

ネットで調べると、摺古木山には登山道が通じているが、林道歩きが長い。安平路山は日本二百名山に選定されているが、かなりマイナーな山で、登路は摺古木山から笹深い縦走路を往復するしかない。日帰りした猛者の山行記録も多いが、長丁場なので摺古木山の中腹の避難小屋(摺古木山自然園休憩舎)に前泊して歩く計画を立てて、出かけてきました。

8月30日
天気:☀️
行程:駐車地点 10:40 …林道ゲート 11:05 …昼食地点 12:00〜12:25 …摺古木山自然園休憩舎 12:55(泊)

桐生を早朝、車で出発。上信越道、R142(新和田トンネル)を経由して、中央道で伊那谷を南下する。今日は予報通りの快晴で、宝剣岳や、この夏に登った烏帽子岳風越山が青空を背に高く聳えて眺められる。

中央道を飯田ICでおり、大平(おおだいら)街道(県道飯田南木曽線)で天竜川支流・松川の深い谷間に入る。この街道は伊那谷と中山道の妻籠宿を結ぶために江戸時代に拓かれたもので、道端には道中の安全を祈る石仏が点在し、かつての往来を偲ばせる。松川左岸の高い所の山腹をトラバースして、カーブが多い狭隘な舗装道が延々と続く。車で走るのも大変な難路だ。やがて街道は松川を離れて、飯田峠を越える。ここには「大平街道」と深く刻まれた立派な石碑がある。

飯田峠
「大平街道」石碑

峠から緩く下ると、なだらかな山間に開けた大平宿(おおだいらじゅく)に着く。かつては大平街道の宿場町として栄えたが、他の交通網の発達によって廃れ、1970年に集団移住しているとのこと。今なお多くの古民家が保存され、宿泊体験ができる。しかし、今日は人影もなく静まり返っている。飯田ICからここまで車で40分もかかり、山深い秘境の里の感が強い。

大平宿で街道から分かれ、摺古木山へ向かって林道東沢線を北上する。最初は幅が狭い舗装道で、両側から笹が被って車の側面を擦る。渓流に沿って上り、水源取入口を過ぎると舗装が尽きて悪路となる。先月、鉢盛山に登った帰りの林道でタイヤバーストを食らって痛い目を見たばかりなので、無理して悪路を走ることはせず、水源取入口手前の1台分の駐車スペースに車を置く。

大平宿
飯田市水源取入口に駐車

今回は小屋泊で装備(シュラフやエアマット)が多いので、久々に70ℓザック(OSPREY Aether 70)を担いで歩き出す。未舗装道に少し入ったところにも2台分の駐車スペースがある。風化した花崗岩のザレ道が直線的に通じ、ザクザクと歩いて行く。駐車地点から半時間程で林道ゲートに着く。軽四駆ならばここまで進入可能。「摺古木自然園休憩舎登山口」の案内看板がある。ここまで車で入る予定だったから余分に時間がかかったが、今日は休憩舎までの短い行程だから問題ない。

東沢林道ゲート
ツリフネソウ
オオハンゴンソウ
林道を奥へ進む

林道の所々から、周囲のなだらかな山の様子が眺められる。陽射しを浴びて、山々の緑が眩しい。正午になって腹が減ったので、黒川に架かる立派な橋の袂で昼食休憩とする。ここは木陰があり、水量の多い渓流も近いので涼しい風が通る。お湯を沸かして、カップ麺を食べる。

昼食後、さらに林道を辿る。林道は黒川の左岸に渡ると、山腹を巻いて上がって行く。周囲の山も眺められ、笹原に覆われた稜線や、その直下の白い薙を仰ぎ、高山の雰囲気が感じられる。

黒川を渡る橋で昼食休憩
山腹を巻いて上る

やがてWCを過ぎると、その100m程先で林道は終点となり、摺古木山自然園休憩舎が建つ。かつてはここまで車で進入できたようで、手前には駐車スペースもある。休憩舎の立地は陽当たり良好。ただし、木立に遮られて展望がないのはちょっと残念。

WC
摺古木山自然園休憩舎

早速、休憩舎に入る。中はガランとして広く、誰も居ない。土間を挟んで左右に板の間があり、綺麗に保たれて利用もされているようだ。窓を開けて換気し、備え付けの箒で板の間を掃き、荷物を広げて居場所を確保する。窓が開いていても虫があまりいなくて快適。水場はWCの脇にあるらしい。缶ビールを冷やすため、水場に行ってみる。WCの右横の棘藪の中に小さい水流があり、バンバン冷たい水が流れている。ここで缶ビールをよく冷やし、休憩舎に戻って飲む。美味〜い。

休憩舎の中
ビールが美味い

それから、ピーナッツをつまみにウィスキーをちびちび舐め、のんびり過ごす。夕食にレトルトご飯+缶詰のバターチキンカレーを食べたのち、早めにシュラフに潜り込んで就寝した。

8月31日
天気:☀️
行程:摺古木山自然園休憩舎 5:05 …分岐 6:00 …摺古木山(2169m) 6:35〜7:00 …白ビソ山(2265m) 8:30〜8:45 …安平路小屋 9:20〜9:35 …安平路山(2363m) 10:30〜10:55 …安平路小屋 11:50〜12:15 …白ビソ山 12:50〜13:10 …摺古木山 14:20〜14:40 …分岐 15:00 …摺古木山自然園休憩舎 15:45〜16:00 …転倒地点 17:00〜17:15 …林道ゲート 17:25 …駐車地点 17:45

未明の4時に起床。まあまあ良く眠れた。朝食はインスタントの味噌汁とレーズンパンをとる。シュラフやエアマットなど不要な荷物は休憩舎にデポし、水場で1.5ℓプラティパスを満タンにして出発する。まだ日の出前だが既に薄明るく、ヘッドライトは不要だ。

休憩舎の奥から登山道に入る。最近、刈り払いされたようで、非常に歩き易い。最初から緩急を交えた登りとなり、グングン高度を上げる。

未明に休憩舎を出発
最初から急登

やがて山腹をトラバースする道となり、傾斜が緩んで楽になる。鬱蒼と茂るシラビソと笹原の斜面を巻き、所々で小さな沢を渡る。展望はないが、時折、行手に笹原に覆われた稜線が眺められる。途中、ネットでも写真でよく見たザレの崩壊地が現れるが、問題なく通過。

山腹をトラバース
崩壊地

さらにトラバース道を進み、二つ程小沢を横切ると、周回コースと直登コースの分岐に着く。道標によると摺古木山まで周回コースで70分、直登コースで50分とあり、時間はそう大きく変わらない。周回コースの方も入口付近は刈り払いされている。そちらは帰りで余裕があれば歩くことにして、直登コースに入る。

周回コース・直登コース分岐
直登コースを登る

ジグザグを切って急登すると、笹原に覆われた見晴らしの良い斜面に出る。振り返ると今年6月に登ったばかりの恵那山が青空にクッキリと浮かぶ。舟を伏せた様な山容が大きく、名山の風格がある。その左奥の台形の山も目を惹く。後日調べると、大川入山(1908m)の連山らしい。

見晴らしの良い斜面を登る
恵那山を遠望

なおも急登すると低木帯に入って、ようやく傾斜が緩くなる。広く平坦な尾根を進み、最後に短い坂を登って、摺古木山の頂上に着く。

低木帯に入る
広く平坦な尾根を進む

頂上は小広い平地で、山名標識と三角点標石に加えて、御料局標石もある。針葉樹林と笹原に囲まれているが、北から東にかけて樹林が切れ、眺めが開ける。今日は快晴で展望は素晴らしく、北には御嶽山、乗鞍岳、槍穂高連峰を遠望する。北東には中ア北部の山々が折り重なってギザギザの稜線を連ねる。どれがどの山か、定かでないが、木曽駒、宝剣岳、空木岳辺りが見えている模様。

摺古木山頂上
中央アルプス北部を遠望

摺古木山の頂上までは登山道が整備されているので、林道歩きは長いが、お勧めのハイキングコースだ。一方、周回コースの道を覗いてみると、道標は指しているものの全く刈り払いされていなくて、笹に覆われている。安平路山への縦走路も輪をかけて酷く、深い笹に覆われて、道があるようには見えない。こんなんで安平路山まで行けるのか、ちょっとめげそうになるが、ここまで来たら行くしかないでしょう。ゴアの下を履いて、縦走路に入る。

安平路山への縦走路に入る
白ビソ山(右)と空木岳(中央)を遠望

頂上からは急坂の下りとなり、樹林の間から行く手に白ビソ山のゆったりとしたピークが見える。安平路山は白ビソ山に隠れて見えない。白ビソ山が縦走路の大体中間地点だから、先は長い。大急登がなさそうなのが救いだ。

急坂はすぐに終わり、小さなアップダウンが続く。か細くも明瞭な道型が通じているが、深く笹に覆い隠されて見えない。足探りして抵抗のないところ、あるいは、笹原を上から見て、溝のように少し低い所が道型だ。所々にテープ類のマーキングもあり、手掛かりになる。笹は深い所で肩の高さを越え、しかも夜露でタップリ濡れているから、早々にゴアの上もザックから引っ張り出して着込む。

深い笹原の中をアップダウン
白ビソ山を目指す

幅広くなだらかな稜線の登りとなり、延々と続く笹原を搔き分けてひたすら進む。展望は皆無に近く、僅かな樹林の切れ間から南ア南部が見える程度。平坦でピークかどうかわからない樹林と笹原の中に白ビソ山の山名標識を見出す。ようやく中間地点か〜。休める様な広さはないが、とにかく腰を下ろして一休みし、気力と体力の回復を図る。

笹原に覆われた緩斜面を登る
白ビソ山頂上

白ビソ山からは緩い下りとなり、かなり楽ができる。シラビソ林を抜けると笹原が広がり、安平路小屋の赤屋根と、その向こうに安平路山の鈍角三角の端正な山容が現れる。これは素晴らしい風景だなあ。なだらかな稜線が広がり、牧歌的な雰囲気がある。

笹原を下る
安平路小屋と安平路山を望む

安平路小屋の入口の扉は、片方が壊れて開けっぱなしになっている。中に入ると土間があり、その奥の扉を開けると木の間がある。荒れているが、宿泊は出来そう。

安平路小屋
小屋の内部

小屋で一休みしたのち、安平路山に向かう。まず、緩斜面の笹原を登る。陽当たりが良く、笹が益々繁茂して、一部で道型が怪しい。やがて、小尾根の登りとなり、右側の沢には水が流れている。

安平路山へ向かう
小尾根の上を辿る

安平路山の頂上に向かって急斜面の一直線状の登りとなり、笹原の間の道型をひらすら辿る。ようやく傾斜が緩み、山名標識がある安平路山の頂上に登り着く。

頂上は広く平坦だが、樹林と笹原に囲まれて、展望は皆無。休める場所も極狭い。三角点標石があるはずだが、笹に埋もれているのか、見そびれた。COOPで買ったレモネードならぬ「うめネード」というスティックタイプの顆粒を水に溶かして飲む。これは美味いな。スッキリとした甘みと酸味があり、俄然元気が出る。今後、愛用確定。

急斜面を一直線状に登る
安平路山頂上

ゆっくり休んだのち、往路を戻る。もう、笹は乾いているだろうから、ゴアの上下を脱ぐ。身軽になって歩き易く、蒸し暑さからも解放されて、往路よりはだいぶ楽だ。頂上からの下りも急だが楽。安平路小屋の土間で日差しを避けて一休み。小屋から安平路山の山容を振り返ったのち、樹林に入って、白ビソ山へ緩く登る。

往路を戻る
安平路小屋
白ビソ山へ緩く登る
白ビソ山頂上

白ビソ山の頂上で一休みし、摺古木山へ長くなだらかな稜線を下る。往路では、この区間と安平路山への登りが一番きつかった。復路はだらだらとした下りとなって、だいぶ助かる。深い笹にも慣れ、ガサガサ搔き分けて歩くのがちょっと楽しくさえある。摺古木山に近づくと小さなアップダウンが連続する。最後に肩までの笹を漕いで急坂を登り、ようやく摺古木山の頂上に戻り着く。

いや〜、安平路山は遠くてきつかった。よく往復して登って来たと思う。うめネードを飲んで生き返る。もう、笹を漕ぐのは勘弁だし、体力の余裕もないので、周回コースは割愛して直登コースを下ろう。あとは整備された登山道と林道歩きだけだから、距離はかなり残っているが、もう安全圏だ(との油断が後のアクシデントを招く)。

「←摺古木山 安平路山→」道標
小さな岩場を登る
ガマズミの実
摺古木山に近づく
白ビソ山を振り返る
摺古木山頂上

直登ルートに入り、亜高山帯を抜け、見晴らしの良い尾根道から周囲の山や下界を眺めつつ、快適に下る。周回コースの分岐からトラバース道に入り、小沢を横切るところで冷たい水で顔を洗い、汗を拭って少しサッパリする。

直登ルートを下る
見晴らしの良い尾根道
冷たい沢水で顔を洗う
休憩舎に帰着

休憩舎に帰り着き、デポした荷物をパッキングして、水場で水を1ℓ汲む。あとは林道歩きだから、水はこれ位あれば足りるだろう。日帰りの猛者がいるかなと思っていたが、結局、この2日間、誰にも会わなかった。休憩舎の泊まりも快適だったし、奥深くで静かな山歩きが満喫できた。下山予定時刻を過ぎそうだから、林道歩きは少しペースを上げて行こう。

林道を延々と下る
布引の滝入口

黒川を渡る橋の手前には「布引きの滝」の標識がある。ここから約10分とのこと。道はなさそうだし、時間の余裕はないので、行くのは止めておく。この標識、往路でも上の横棒は見た記憶があるが、下の説明板は見ていない。不思議だが、後日考えると、多分、下の板が落ちていたのを誰かが拾って取り付けたのだろう。

橋の袂で一休みしたのち、駐車地点に向かって残りの林道を歩く。林道から見上げる青空には白い入道雲がムクムクと湧き上がり、夏の終わりらしい季節を感じる。この後、とんでもないアクシデントが起きる。

林道で転倒し、左半身からザレた路面に叩きつけられる。一瞬のことで、何が起きたかすぐには理解できない。眼鏡と帽子が吹っ飛び、額を切ったらしく、血がポタポタと地面に落ちる。これはヤバい。タオルを残りの水で湿らせ、額を押さえて何とか止血する。その他、あちこち打ち身しているが、行動に差し支えはない。

その後も時々垂れてくる血をタオルで拭いつつ、ようやく駐車地点に戻る。ミラーで額を見たら血だらけであった。これでは日帰り入浴は無理だ。血は粗方止まっているので、そのまま帰途につき、途中、高速のPAで着替える。慎重に運転し、約5時間かけて桐生に帰った。

青空に夏雲が湧く
駐車地点に帰り着く

翌日、最寄りの皮膚科を受診する。特に暑い時期は化膿する可能性が高いとのことで、抗生物質の飲み薬や塗り薬をたんまり処方される🤕。一時期はジュクジュクしていたが、一週間後の現在はお陰で快方に向かっている。