恵那山
前日は、風越山に登ったのち、飯田駅前のビジネスホテルに宿泊した。今日は恵那山に登る予定。宿を4時にチェックアウトして、登山口の神坂(みさか)峠に向かう。飯田から神坂峠までは一見近そうだが、神坂峠には長野県側から車で上がれないので、中央道の恵那山トンネルを抜けて岐阜県側から上がる必要があり、1時間半以上も掛かる。そのため、飯田発でも4時出発とした。
中央道を中津川ICで降り、R19(中山道)を木曽方面に進んで、沖田交差点で右折。湯舟沢川の深い渓谷の底に通じる県道中津川南木曽線を走る。頭上にはさっき通った中央道の高架橋が見え隠れする。県道をずっと辿ると旧中仙道の馬籠宿に通じるが、湯舟沢川に沿って直進(中央道神坂PAにスマートICが2025年秋に開通予定だそうで、利用できるようになれば、神坂峠や馬籠宿へのアクセスが約30分短縮される)。
下山後に日帰り入浴する予定のクアリゾート湯舟沢を過ぎ、神坂峠方面の道標に従って右折。ここからすれ違い困難な細い車道となり、冷川と名を変えた湯舟沢川に架かる橋を渡って台地状の尾根に上がると、あとはひたすらジグザグの登りとなる。霧ヶ原の集落や耕地を通り抜け、グングン高度を上げる。車で登れる峠道で、こんなに険しい所はそうそうない。標高差約1000mを登って、ようやく神坂峠に着き、登山者用駐車場に車を置く。10台分のスペースは既に8割方埋まっていて、ギリセーフ。さすが日本百名山。危うく飯田発のアドバンテージを無くすところだった。


駐車場の近くに「古代東山道 神坂峠→」の道標があり、山道が通じているので立ち寄ってみる。林間に小さな草地が開け、「神坂峠遺跡 国指定史跡」との石柱が建つ。すぐ上が古の神坂峠だ。説明板によると、この地から剣・鏡を形どった滑石製の模造品や玉類、鉄製品が出土し、これらは古の旅人が旅の安全を祈り、荒ぶる峠の神に幣として供えたものとのこと。実際に来てみると、この峠の地勢の厳しさ、かつての峠越えの困難さが実感できる。


車道に戻り、現在の神坂峠から恵那山への登山道に入る。矮小な檜や潅木、笹原に覆われたなだらかな尾根道を登る。最近、刈り払いされたようで歩き易く、稜線を涼しい風が吹き抜けるので快適。今日の行程は長丁場なので、ゆっくりめのペースで歩く。


登山口から20分とちょっとで最初のピークの千両山に登り着く。笹原に覆われた頂上は360度の展望が開け、正面には左右に平坦な頂上稜線を広げた恵那山がドーンと姿を表す。これは素晴らしい眺めだ。頂上稜線への登りが急で長く、きつそう。そして恵那山まで遠い。テンションが上がるな。振り返ると、富士見台や神坂山の笹原に覆われたなだらかな稜線が眺められる。あの稜線も気持ち良さそう。機会があれば、歩いてみたい。


展望を楽しんだのち、縦走を再開。笹原の刈り払い道をどんどん下る。折角、千両山の登りで稼いだ高度を失って、鳥越峠に着く。道標によると鳥越峠の標高は1550mで、神坂峠(1569m)よりも低くて、ガックリ。右に林道に下る山道が分岐する。




ガックリしたが、鳥越峠からしばらくは山腹の樹林帯中のトラバース道が続き、平坦で楽だ。この区間は刈り払いされてなくて、所々で笹が被さる。先行者が露払いしてくれているのに、笹にはまだ露がしっとりついていて、トレッキングパンツの腿が濡れる。まあ、今日は天気が良いからすぐに乾くし、ゴアを履くのも面倒なので、そのまま突き進む。


平坦なのでサクサクと距離を稼いだのち、稜線に復帰する。ウバナギの標識があり、稜線の右側斜面は大きな崩落地となっている。ガスが出てきて全容はわからない。稜線上の登りとなり、刈り払いされた山道を辿る。緩く登り上げて、三角点標石のある大判山の頂上に着く。笹原に開けた平地で、晴れていれば眺めは良さそうだが、今はガスに覆われて何も見えない。ベンチがあり、休憩適地。腰をおろし、水を飲んで一休みする。今のところ、そんなに疲れはなくて、快調だ。




大判山から短い急坂を下ったのち、登りに転じる。所々で樹林が切れて笹原が広がるが、やはりガスに覆われて展望なし。ひたすら登ると、捻くれた針葉樹の陰に「こだまエリア」の標識がある。良くこだまするのかな。さらに登ると、一瞬、ガスの合間に行く手の稜線が見える。なかなかギザギザしていて、右斜面は切れ落ちている。いよいよ本格的な登りが始まるようだ。




針葉樹と笹原に覆われた稜線を登ると「テングナギ」の標識のある地点に着く。右斜面がテングナギのようだが、良く見えない。稜線の左側を絡んで急登すると「テングの頭」の標識のある地点に着く。右斜面は岩壁となって切れ落ちている。段々疲れて来たので、ここで一休み。


テングの頭から僅かに下ったのち、恵那山の頂上稜線に向かって一直線状に急登する。標高差は約300m。石や木の根の段差をヨイショと登るのを繰り返していると、腿の筋肉に応えてくる。白いザレの道になると傾斜はmaxとなるが、それを過ぎれば頂上稜線まではあと少しだ。




登り着いた頂上稜線で中津川側の恵那神社から登って来た前宮コースを合わせる。稜線は針葉樹林に覆われ、ガスにも覆われているから、展望は全くない。一休みしたあと、恵那山の頂上に向かう。あとは幅広く平坦な頂上稜線を辿るのみなので、楽なはず。少し進んだ所に二の宮剣神社の小さな社があり、天目一筒命(後日調べると、あめのまひとつのかみ、製鉄・鍛冶の神らしい)を祀る。さらに天照大神(あまてらすおおかみ)、豊受姫大神(とようけひめのおおかみ)を祀る三の宮神明社を過ぎると、登山道の左脇に「恵那山最高点2191m」の標識がひっそりと立つ。




最高点からもう少し進むと四の宮熊野社があり、速玉男命(はやたまのおのみこと)を祀る。この社の裏手に大きな岩場があり、その下に恵那山山頂小屋がある。岩場の上は、晴れていれば眺めが良いらしいが、ガスって遠方は何も見えない。
小屋の前の広場にはベンチがあり、5,6組のハイカーが休憩中。すぐ近くにはWCもある。私もここで昼食休憩としよう。まずは缶ビール。今日の行程はハードだったので格別に美味い。それからカップ麺を作って食べる。


昼食後、恵那山三角点まで行ってみる。笹原と矮小な針葉樹に覆われたちょっと高山的な稜線を進むと、木花咲開姫(このはなさくやひめ)大神を祀る五の宮富士社、続いて、一言主大神を祀る六の宮葛城社があり、最後に伊邪那岐大神(いざなきのおおかみ)、伊邪那美大神(いざなみのおおかみ)を祀る恵那神社奥宮本社に着く(後日調べると、一の宮から六の宮まで、恵那神社の摂社神とのこと)。
神社のすぐ先の広場に恵那山の三角点標石や山名標識がある。展望櫓もあり、登ってみたが、やはり今日はガスで展望なし(ネット情報によると、ガスがなくても展望はないらしい)。ここから引き返し、往路を戻って下山にかかる。


頂上稜線を戻って、前宮分岐へ。恵那神社の表参道となる前宮コースもいつか歩いてみたい(今回もちょっと検討したが、行程が長いので断念した)。


神坂峠に向かい、県境稜線を下る。テングナギを過ぎたあたりから、標高が下がったこともあり、少しガスが薄れて大判山が見えてくる。最後に短い急坂を登って、大判山の頂上に着く。




大判山から稜線上を下って行くと、行く手に赤茶色の大きな崩壊壁が現れる。あれがウバナギだろう。ウバナギから右奥へ延びる稜線を目で追うと、笹原に覆われた千両山の頂上も見える。まだまだ遠く、先があるなあ。しかし、下りは速く、程なくウバナギを通過。トラバース道に入る。笹原の露も完全に乾いており、難なく鳥越峠に着く。




ここから千両山まで、最後の登りとなる。30分程かかって、千両山の頂上に到着。再びガスが濃くなって、展望なし。しかし、往路でここから恵那山の勇姿を拝めたのは本当に運が良かった。


あとはだらだらと下って、神坂峠に下り着く。駐車場の車はあと2台残るのみでガランとしている。恵那山は久々に9時間越えの長丁場で疲れたが、その分、歩き答えがあって大満足。また、日本百名山にしては(季節にも依るだろうが)ハイカーがそんなに多くなく、また、終始涼しくて、静かで快適な山歩きが楽しめた。思い付きで遠出して、良かった。


帰りはクアリゾート湯舟沢に日帰り入浴で立ち寄る(1000円)。山奥にありながら近代的な施設で、家族連れの宿泊客も多い模様。ぬるぬるした泉質が温泉らしくて良い。さっぱり汗を流したのち、中津川ICから中央道に乗り、桐生への長い帰途についた。