鉢盛山

天気:☀️のち☁️
メンバー:T
行程:黒川林道終点 7:20 …作業道分岐 8:40 …波田町避難小屋 9:30〜9:40 …野俣沢林道分岐 10:05〜10:20 …鉢盛山(2447m) 11:20〜12:05 …野俣沢林道分岐 12:55〜13:05 …波田町避難小屋 13:20 …作業道分岐 14:00 …黒川林道終点 15:15
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

鉢盛山は北アの主脈から離れて、松本平の南西に広がる山塊の最高峰だ。山頂は長野県の波田(はた)町、朝日村、木祖村、奈川村の境界に位置する(波田町と奈川村は現在は松本市)。以前、金松寺山〜天狗岩鍋冠山〜大滝山に登って、その大きな山容を遠望して以来、興味を持っていた。日本三百名山の一座でもある。

鉢盛山に登るには、通常、朝日村側から野俣沢林道(約12km)を利用して登山口にアプローチするが、林道入口のゲートは施錠されており、1週間前までに朝日村に申請書を提出して、ゲートの鍵を借り出す必要がある。天気予報を見てから登る山を決めている私としては、少々出かけ難い。

ネットでさらに調べてみると、波田町側から黒川林道(約22km)を利用してアクセスするルートもある。こちらの林道入口のゲートも施錠されているが、事前の申請は不要で鍵を借り出せる。歩く距離と標高差は増えるが、なーに、その方が歩き応えがあって面白い。この週末は天気が良さそうなので、黒川林道からのルートで出かけてきました。

桐生を深夜に車で出発。高速を松本ICで降り、R158を上高地・乗鞍方面へ西進。松本電鉄新島々駅の少し手前にあるセブンイレブン波田赤松店に立ち寄り、店員さんに声をかけて、黒川林道入口ゲートの鍵を借り出す。手続きは貸出簿に住所、氏名、目的(鉢盛山登山)を記入するだけで、至極簡単。No.2の鍵を受け取ったので、先行者(多分、釣師)がいるようだ。

さらに少しR158を進んだところで、左に分岐する黒川林道に入る。砕石工場を過ぎるとゲートがあり、借り出した鍵で南京錠を開閉して通過する。林道は急峻な山腹の高いところをトラバースして続く。断続的に舗装されているがガードレールはなく、雨後のためか、路面には小さな落石が多い。途中で数台の駐車を見る。やがて、黒川の深い谷底を渓流に沿って走る道となり、どんどん山奥へと突き進むと、道の上にでかい落石。こんな物が落ちてくるとは怖過ぎる。どかそうと試みたが、1mmも動かない。辛うじて脇をすり抜けられる余地があったのは幸いだった。

黒川林道入口のゲート
大きな落石

林道を延々と辿ると未舗装道となり、「林道情報 この先 危険」の看板を見る。右側に1台分の駐車余地があり、車が1台。さらに奥に進むと悪路となり、すぐに林道終点となる。2台分の駐車余地があり、車を置く。鬱蒼と繁る樹林と草藪に囲まれ、とんでもない山奥に来た、とテンションが上がる。

車の外に出ると羽虫が襲来する。刺す奴もいるので、虫除けスプレーを振り撒く。ちょっとは効いたかな。登山ルートはここで鋭角に折り返して造林用作業道に入る。作業道の入口には「立入禁止」の看板と古びたゲートがある。一瞥して、作業道は草深く、しとどに濡れているのが分かるので、初手から下ゴア(雨具のズボン)を履いて出発する。

黒川林道終点
造林用作業道に入る

最初は軽四駆なら何とか通れそうな道だが、すぐに深い泥濘や土砂の押し出しがあり、車両は全くの通行不能。さらに枝沢に近づくと道は土石に埋まり、繁茂する樹木の枝を掻い潜り、沢を跨いで渡る。深い草藪に覆われて、微かな踏み跡が続く。続いて、次の枝沢の崩壊地に突き当たる。ここも崩壊した急斜面を踏み跡を辿って通過。かなり高い所を渡るので、滑落注意。

二つの枝沢を過ぎると、再び作業道のしっかりとした道型が現れる。草深いが、ガードレールや擁壁も残っており、かつては立派な車道であったことが窺える。道は大きくジグザグを切りながら、少しずつ高度を稼いで行く。傾斜が緩いので楽な登りだ。

車両通行不能
最初の崩壊地
二つ目の崩壊地
作業道を上がる

樹林に覆われて展望はほとんどないが、一箇所、切れ間から槍穂が眺められる。稜線の高いところにはまだまだ白く雪が残っている。また、木の間からチラチラと、鉢盛山北方のゆったりとなだらかな稜線が高々と見上げられる。

作業道なので道型はずっと明瞭だが、両側から笹に覆われ始める。道を覆う草藪の中に微かな踏み跡があるが、通っているのはハイカーか、それとも熊か鹿か猪か。低木に覆われたり、水が流れたりして、歩き難い箇所も多々あり。ヤマレコやYAMAPでは実線で記載されているルートだが、廃道へまっしぐらの荒れ具合である。ところどころで咲いている山野草の花を撮影しながら進む。

槍穂連峰をズームアップ
キバナノヤマオダマキ
草薮に微かな踏み跡が続く
低木や草が繁茂
ベニバナイチヤクソウ
フランスギク

大きなジグザグの曲がり角で、左にアキンド平・ハト峰方面への作業道を分ける。ハト峰も興味を引かれるが、そちらへの道も草と笹に覆われて、登頂は容易ではなさそう。

右に折れた作業道は深い笹藪に突入する。足元の踏み跡を探りながら、笹を掻き分けて進む。ジグザグに緩く登って行くと、笹が両脇に後退して、草地の細い道が現れ、だいぶ歩き易くなる。

作業道分岐
笹藪が深くなる

広くなだらかな尾根の上に達すると、樹林が少し開けた小平地があり、波田町避難小屋が建つ。小屋の入口の上半分には、雪囲いのベニヤが打ち付けられたまま。下半分から引き戸を開けて中を覗いてみる。屋内はがらんとして、板の間には枯葉が吹き溜まり、長らく使われていない様子だが、非常時には宿泊できそう。

波田町避難小屋
小屋の内部

小屋の外で腰を下ろし、水を飲んで一休みしたのち、登山再開。小屋の前を横切って尾根道に入るが、深い笹藪に覆われて、微かな踏み跡もない。この先で野俣沢林道からのメインルートに合流するはずだから、ここは頑張って強引に笹藪を漕ぐ。ポツポツと木の枝に色褪せた赤リボンが残っており、目印になる。針葉樹林帯に入ると少し笹藪が薄くなり、踏み跡が現れて、歩き易くなる。約半時間で、メインルートの登山道に合流。藪漕ぎ、疲れた〜。ベンチがあるので、腰掛けて休憩する。この先、笹藪はないので下ゴアを脱ぐ。

笹藪漕ぎ
野俣沢林道からの登山道に合流

合流地点は南面が笹原の斜面となっていて、眺めが開ける。風が吹き上がって来て涼しい。左下には、遠くに野俣沢の広い河原を俯瞰する。正面には緑に覆われた山並みが広がる。ちょこんと飛び出た頂は烏帽子岳(1952m)だろうか。湧き上がった雲に隠されて、残念ながら遠方は見えない。

野俣沢を俯瞰
南面の展望

「←鉢盛山山頂 110分」との道標があり、そんなに時間がかかるのか、とビビる。ここからは良く刈り払いされた登山道となり、歩き易くて感激。10分程緩く登ると「←鉢盛山頂 60分」との道標があり、ホッとする(実際、これくらいの時間で着いた)。「アキンド平・ハト峰 4時間→」の道標もあり、現在、道は笹藪に埋もれているが、かつてはハト峰まで縦走されていたようだ。

登山道を緩く登る
途中の道標

さらに進んで「鉢盛坂新道」の道標を過ぎると、登山道は左(南)側の急斜面を絡んで斜上する。花は終盤だが、オサバグサが多い。この辺りは野俣沢の源流域で、針葉樹林と笹原に覆われて、亜高山帯らしい雰囲気がある。途中でソロハイカーさんとすれ違う。

「鉢盛坂新道」の標識
左斜面を絡んで登る

急坂をジグザグを切って登ると広い緩斜面となる。やがて、針葉樹林が疎になり、笹原が明るく広がる緩斜面に差し掛かる。湿った小さな草原に「権現の庭」の標識があり、ワタスゲの白い果穂がそよそよと風に揺れている。

緩斜面を登る
権現の庭
ワタスゲ
ゴゼンタチバナ

再び針葉樹林帯に入ると、程なく鉢盛山荘(鉢盛山避難小屋)に着く。山荘と言っても、プレハブの組み立て小屋だ。屋内には石油ストーブやプロパンガスのボンベ、コンロがあり、冬山登山に利用されている様子。

鉢盛山荘
山荘の内部

山荘から短い急坂を登ると、鉢盛山の頂上に着く。頂上は小広い草地だが、樹林に囲まれて展望はない。文字が掠れた山名標識や展望盤があり、一等三角点の大きな標石を囲んで、四方の町村(波田町、朝日村、木祖村、奈川村)をそれぞれ向いた四つの石祠・小社が祀られている。

頂上への急坂
鉢盛山頂上
三角点標石の四方に祠
電波反射板

頂上は展望がないので、すぐ先の電波反射板に行ってみる。こちらは樹林が切り開かれて広々としており、まだ雪を残した乗鞍岳が眺められる。槍穂連峰の方面も見えるが、山の天辺は残念ながら雲の中だ。しかし、乗鞍・槍穂とも遠くて、そこまでの間に高い山がなく、そのことが鉢盛山の山塊の雄大さを感じさせる。

電波反射板を囲むフェンス際の日影に陣取り、眺めを楽しみながら昼食休憩とする。缶ビールうま。それからカップ麺を作って食べる。

乗鞍岳を望む
槍穂連峰方面の展望

下山は往路を戻る。登山道の途中で二組のハイカーとすれ違う。野俣沢林道分岐から笹藪に入るが、葉っぱはすっかり乾いている。波田町避難小屋で一休み。この先の作業道は、やはり荒れっぷりが酷い。往路ではテンションが上がっていたので、あまり考えずに突き進んでいたが、慎重に考えていたら引き返す選択もあり得るレベル。特に下部の崩壊地近辺は危険。藪も今後益々蔓延るだろうから、黒川林道からのコースはお勧めしない(でもまあ、野趣に富んで大変面白かった)。

無事に駐車地点に帰着し、帰途につく。この後、とんでもないアクシデントが起きる。

黒川林道を少し下った辺りで、車外からパタパタという異音が聞こえる。車を停めて調べてみると、なんと左前輪のタイヤが完全にぺっしゃんこ😱

車にはスペアタイヤは装備されていない。タイヤパンク応急修理キットなる物はあるが、説明書を読むと、ほとんど空気が抜けた状態で走行したときは使えないらしい。人里から10数kmも離れた山奥で、他の車は帰ったあと。電波も通じずJAFも呼べない(呼べても多分来れない)。詰んだ〜😱

自力走行は出来るので、最徐行で何とかセブンイレブン波田赤松店に辿り着き、ゲートの鍵を返却。店員さんの了承を得て、駐車場の端っこに車を置かせて貰い、スマホのアプリでJAFを呼んで待つ。幸い、半時間程で救援車が来た。タイヤはもうボロボロなので、今からタイヤ交換が可能なタイヤ店を探して連絡をつけ、JAFの予備タイヤを装着して頂く。その後、教えて頂いたタイヤ店に行ってタイヤを交換し(幸いホイールは無事だった)、JAFの基地に予備タイヤを返却。一時はどうなるかと思ったが、何とかなって良かった。タイヤの交換費用は5.7万円。高い授業料になった😭

ひと段落して、松本市街のスーパー銭湯でようやく汗を流したのち、松本ICから高速に乗る。途中、梓川SAで遅い夕食を摂り、その日の内の深夜に帰宅した。