持丸山
この週末はどこの山に登ろうかなと考えて、7月に登った芝草山の近くで、日光市三依地区にある持丸山(もちまるやま)に登ることを思い付く。『栃木百名山ガイドブック改訂新版』(2012年刊行)の持丸山の項を読むと、北麓の持丸沢林道から送電線巡視路を利用して登るメインコースとサブコースがあり、これらを繋げて周回もできるようである。
しかし、ネットで最近の山行記録を調べると、持丸沢林道は2015年9月の関東・東北豪雨で甚大な水害を被って廃道化している。また、多くの山行記録がメインコースの往復で登っており、サブコースはあまり歩かれていないもよう。水害直前の2015年5月にハイトスさんが周回して登っておられるが、サブコースには少々笹藪があるとのこと。今はどうなっているだろうか。今回は栃百のピークハントが出来れば良く、周回には特に拘らないので、メインコースを往復する計画で、出かけてきました。
桐生を早朝、車で出発。R122、県道日光今市線を経由し、R121(会津西街道)を北上する。途中、鬼怒川温泉街をバイパスする有料道路は、以前はセコく迂回していた😅が、いつの間にか無料化されていて、おかげで温泉街がスイスイ通過できて快適。後日調べると、2022年10月に無料開放されたらしい。途中、五十里湖上流の独鈷沢ふれあい公園にはハイカーさんの駐車があり、塩沢山の登山口でハイカーさんの姿を見かける。塩沢山も栃百で、人気があるようだ。持丸山はどうだろうか。
中三依の手前でR121を左折。細い車道に入り、芹沢橋で男鹿川を渡って、支流の芹沢に沿って走る。山間の奥まで集落が点在し、辺境の山村風景が続く。上坪の集落に入り、「ふくろうの里」の看板と木彫りの🦉が沢山置かれた民家の前で左折。持丸橋を渡ってすぐ、左手の墓地の脇の空き地に駐車する。他に車はない。
持丸山に登る前に、空身で芹沢薬師堂に立ち寄ってみよう。芹沢薬師堂はちょっと戻った所、ふくろうの里の向かいにある。参道入口には幟旗の高い支柱が立ち、「日光市指定文化財 芹沢薬師堂内 薬師如来立像(木造)/文政十三年北川子直銘三十六歌仙扁額」の説明板がある。参道脇の花壇にはキクの仲間の黄色い花が満開で、秋らしい風情。奥の本堂の中を覗き込むと、薬師如来は厨子の中で見えないが、その他の立像と扁額が数多く奉納され、信仰心の篤さが窺える。
駐車地点に戻り、ザックを背負って出発。左にキャンプ場への道を分け、「持丸山登山道→」の道標にしたがって林道に入る。5分も歩かないうちに倒木に道を塞がれる。手前から左側を迂回できるようだが直進して、倒木を跨いだり潜ったりして通過する。
渓流を右に見おろしつつ林道を進むと、すぐに崩壊地に突き当たる。右岸の枝沢を渡る地点で路盤がばっくり流出して、林道は影も形もない。崖に危なっかしい縄と梯子が架かっているが、それを使わずとも、崖の縁を右へ辿って簡単に沢に降りることができる。チョロチョロの流れを渡って対岸を登ると、再び林道の道型が現れる。
荒れた林道を辿り、滝見橋に着く。ガイド本ではここまで車で入っている。コンクリ製の橋は健在。橋のすぐ上流の右岸に滝があるようだが、木立に遮られて良く見えない。橋を渡って袂から沢に降り、近づいて眺める。落差5mくらいの小滝だが、なかなか綺麗だ。
滝見橋で左岸に渡り、さらに荒れた林道を辿る。スリット砂防堰堤を過ぎると、木立の間から持丸山に至る尾根の一部が垣間見える。途中、数箇所で路肩の崩壊や土砂の押し出しがあり、辛うじて人が通れるだけの道幅が残っている。「落ちてくる石に注意!」の黄色の交通標識があり、その先で林道は完全に断絶し、土石に埋もれて広河原が形成された渓流に降りる。
河原を歩くと前方の立ち木ににピンクテープが見える。そちらに進んで渓流を遡ると、赤テープとケルンの目印があり、右岸の斜面を登る道型の取り付き点を示している。この道型が持丸山のメインコースだろうと思って登り始める(が、ここで実は重大な道間違いをしたことが後に発覚する😅)。
急斜面をジグザグに登る道型は細く、崩れかけた個所もあるが、プラ階段が残っていて明らかに送電線巡視路だ。程なく尾根の上に登り着き、ブナが混じる広葉樹林の尾根を登る。一直線状に展望のない尾根を登ると送電鉄塔に着く。ここも見晴らしはない。結構、登ってきたので、一休みして水を飲む。
送電鉄塔から先の尾根にも送電線巡視路が続くが、だいぶ登った所で尾根を外れ始め、左斜面のトラバースに入って行く。尾根上に道型はないが、ここは送電線巡視路から分かれて、尾根上を直進して登るべきだろう。と考えて、GPSを取り出して現在位置を確認すると、ガーン、一本隣のサブコースの尾根であることが発覚。これはやってしまいました😨。どちらも送電線巡視路と鉄塔があるので、ここまで全く気付かなかった。まあしかし、サブコースでも頂上まで行けることは分かっているから、問題はなかろう。
道のない尾根を急登する。最初は下生えのない樹林を登るが、やがて薄い笹藪が現れ、稜線に近づくにつれて丈が高く、密度が濃くなってくる。藪漕ぎという程ではないが、ダニが居そうなので用心して進む(結局、大丈夫であった)。
尾根を登り上げると傾斜が緩み、1312m標高点のすぐ北の稜線上に着く。稜線といっても幅広くなだらかで、樹林に覆われて展望はない。稜線を北西に辿って持丸山に向かう。最初は道型がないが、やがて笹藪の間に微かな踏み跡が現れる。ピンクテープの目印もあり、ここを通るのはケモノだけではないようだ。途中で、鈴なりに実を付けたツチアケビを見つけた。ツチアケビは吾妻山で初めて見て、今回は二度目。実に不思議な植物だ。
稜線上の樹林は色付き始めて、緑に黄色が混じり始めている。一部には鮮やかな赤もあり、もう少し時期が遅ければ紅葉が楽しめそう。ケモノは見かけないが(熊鈴は付けている)、使われた様子が生々しい大きなぬた場があり、思わず辺りの様子を伺ってしまう。しかし、それだけ自然が豊かで、ひっそりとした奥山の雰囲気がある。道迷いが切っ掛けだが、結果としてこの稜線が歩けたのは良かった。
ブナと丈の低い笹原に覆われた稜線を辿り、短い急坂を登る。傾斜が緩まり、最後に密な笹藪を搔きわけると、笹の切り開きの中に持丸山の三角点標石を見出す。そのすぐ先に小平地があり、木立に持丸山の山名標識が掛けられている。樹林に囲まれて展望は皆無。見渡すと、山部さん作の山名標識も残っている。それにしても地味でひっそりとした頂だ。小平地の一角にランチシートを広げて腰を下ろし、缶ビールと鯖味噌煮、カップ麺のCOOP醬油ラーメン鶏だししょう油味で昼食とする。
昼食後、北に稜線を辿ってメインコースで下山にかかる。ブナと若い低木、笹藪に覆われた稜線を急降下する。樹林の一部に切れ間があり、芹沢沿いの集落を俯瞰し、その向こうに日留賀岳を遠望する。今日の山歩きでは、ここが唯一の見晴らしとなる。
傾斜の緩い肩のような地点で、赤ペンキの印に導かれて稜線を右折。丈の低い笹原の踏み跡を下ると、やがて下生えのないブナ林の広く急な斜面となり、ジグザグに急降下する。
広い急斜面の下りから、なだらかな尾根の下りに変わる。赤テープの印に導かれて尾根を右折。ほんのりと黄葉したブナ林の木漏れ日の中、幅広い尾根を一直線にドンドン下る。
やがて送電鉄塔に下り着く。鉄塔の基部から、間違えて往路に登ったサブコースの尾根と、その途中の送電鉄塔が眺められる。あっちの送電鉄塔はずいぶんと見上げる位置にある。どおりで、往路ではなかなか鉄塔に着かなかった訳だ。
送電鉄塔からは巡視路を下る。やや細くなった尾根上のプラ階段道を降りると、程なく巡視路は尾根から離れ、左の急斜面をジグザグに降下して、小さな沢に下り着く。かつては木橋が架かっていたようだが、流失しかかって、左岸に引っ掛かって止まっている。沢沿いの道も流失し、小滝の脇を滑らないように気をつけて下る。ごくごく短い距離だが、沢下りの気分が味わえる。
河原を少し下り、左岸の段を上がるとかつての林道終点で、送電線巡視路の黄色標柱があり、巡視路が二手に分岐する。プラ階段を下ると往路で通った広河原に出る。ここから改めて下ってきたメインコースの方を振り返ると、小沢の出合は草藪に隠され、よーく見ればピンクテープもあるが、とても見落とし易い。いやー、往路で出合を見逃すのも無理はないかも。すっかり欺かれた。
あとは往路と同じ廃林道を辿る。木の間から見上げるとカラッと澄んで秋らしい青空が広がっている。今日は天気に恵まれた。結局、山中では誰にも会わず、駐車地点に帰着する。ルートミスで周回しても約5時間程の軽い行程の山歩きであったが、道のない区間もあって、なかなか野趣に富んだ山歩きが楽しめた。
帰りは道の駅湯西川の温泉「湯の郷」に日帰り入浴で立ち寄る(700円)。あまり混んでいなくて、ゆったりと湯に浸かる。ここの温泉に入るのは、明神ヶ岳の帰り以来、十数年振りだ。野岩鉄道・湯西川温泉駅に隣接し、公共交通でもアクセスが良い。次は雪のある時期とかに鉄道で来よう、などと計画を考えつつ、桐生への帰途についた。