芝草山
この週末はどこに行こうかな。最初、八総鉱山跡から荒海山に登ろうと思い付き、周辺の地図を眺めているうちに、近くにある芝草山が野岩鉄道の中三依(なかみより)温泉駅から歩いて登頂できることに気が付く。駅前には日帰り温泉もあるし、前回の信越トレイルで大いに味を占めた、公共交通機関利用で下山後にひと風呂浴びてビールを飲んで帰る、という山行ができる。こりゃいいな!という訳で、芝草山に出かけてきました。
桐生駅6:29発の両毛線に乗車し、栃木駅で7:42発の東武特急リバティ会津(全席指定)に乗り換え。特急券は往復とも予めネットで購入済み。新藤原から野岩鉄道の区間に入り、人家も疎らな山峡を走って行く。沿線のR121(会津西街道)は何度か車で走ったことがあるが、桐生からはすごく遠かった印象がある。それに比べると、特急は格段に楽だ。
中三依温泉駅に9:08着。下車したのは私一人。高台にある駅ホームからは、均整のとれた金字形の山容の芝草山が、快晴の青空にすっくと聳えているのが眺められる。一見、そんなに高くは見えないが(実際は登り応えはなかなかある)、周りに比肩する山がない独立峰なので、見映えがする。三依富士の別名があるのも頷ける。
駅は無人。駅前の広いロータリーの真ん中には、ポツンと小さな櫓が建っている(後日調べると、盆踊りが催されるそうだ)。芝草山登山口までは、車道を2.6km歩く。駅前からR121に出て右折。車両の通行は疎らで、幹線道路にしては寂しい。陽射しだけがジリジリと照りつけ、これはもう真夏並みの天気だ。男鹿川に架かる旧道の橋(通行止)の袂に「上の清水」の看板を見かけて、立ち寄ってみる。古来、会津西街道を行き来する旅人の喉を潤した水場とのことで、石垣の下から清水がバンバン湧いている。一口飲むと冷たくてうまい。この先の「三依小中学校入口」の案内標識でR121から左折。しばらく、芝草山を正面に仰ぎながら集落の間を歩く。
三依小中学校の入口を過ぎると民家もほとんど尽きて、山間に入る。左手を流れる渓流からドドドという水音が聞こえてくる。路側に駐車スペースがあり、どんどん滝との標識がある。滝があるなら、立ち寄って行こう。山道を下って僅かで河原に降り立つと、すぐ上流にどんどん滝がある。落差5m位の幅広の滝だ。滝上に取水堰が見えているのはイマイチだが、水量が多く、水飛沫で涼が得られるのは良い。
車道に戻って、渓流沿いに歩く。木陰が多くなり、涼しく歩ける。大山祇神社の草深い参道入口を過ぎる。ちょくちょく「三依渓流釣り場」の案内看板があり、残りの距離が表示されている。芝草山登山口は釣り場のすぐ手前だから、あと少しだ。
見通沢を渡ると、程なく広く開けて数軒の建屋のある所に着き、芝草山の登路となる尾根が間近に見える。「山宿観峰 太郎温泉」の看板があり、右手にペンション風の建物があるが、草木に深く覆われ、ひと気は全くなく、廃業して久しい様子。そういえば、太郎温泉の名前は昔に聞いた気がする。車で来た場合はここの空き地に駐車できる。
中ノ沢を渡って中ノ沢林道を右に分ける。そのすぐ先が芝草山登山口だ。登山口周辺には駐車禁止の看板あり。左下の渓流には釣り場の河原が広がり、お客さんもちらほら見える。登山口には「登山カードBOX」があるが、これ、黒い冷蔵庫だよ。不法投棄みたいで、違和感がある。なお、登山届はいつも通りコンパスで提出済み。BOXの扉には「太郎山(荒海山)、芝草山(三依富士)兼用です」との貼り紙。ということは、芝草山〜荒海山にもルートがあると言うことか。
途中、あちこち寄り道したので、駅からここまで50分かかった。ここから山道に入り、尾根に末端から取り付く。この道は送電線巡視路のようで、大きくジグザグを切りながら杉と雑木の混じった林を登って行く。やがて尾根上の道となり、送電鉄塔に登り着く。樹林に囲まれて、展望はほとんどない。鉄塔基部のコンクリートブロックに腰掛け、水を飲んでひと休み。登り始めるとやはり大汗をかく。しかし、早くも赤とんぼが辺りを飛び回っていて、季節感が混乱する😵💫
送電鉄塔からさらに巡視路を辿ると、右に尾根上に通じる山道が分岐する。「芝草山→」の古い道標もある。巡視路から分かれて、尾根道を登る。自然林に覆われた細い尾根の登りで、奥山の雰囲気がある。木の根が絡まり合った山道をほぼ一定の傾斜で登って、ぐんぐん高度を稼ぐ。路面には白く小さな釣鐘型の花がたくさん散らばっている。何の花だろう。頭上を見上げるが、青葉が重なり合って繁るだけで、何の木の花かは分からない。
小さな上下もある尾根を登って行くと、やがて正面に岩壁が現れる。これが地形図に記載のある「大岩」だな。岩壁の基部を左へ進み、切り返して右に登ると太い固定ロープが張られた急坂が現れる。ちょっと高度感があるが、しっかりした木の根の手掛かりが続くので、難しさはない。
大岩の上に出ると、木の間から展望のある場所がいくつかあり、日光方面や高原山を遠望する。振り返って中三依集落を俯瞰する場所もあり、結構登って来たな、と実感する。駅から芝草山を見上げたときより、上から見下ろす方が標高差が大きく感じられる。
大岩からはゆるゆると尾根を登る。ブナが混じる自然林に覆われ、標高も上がって涼しい風が尾根を吹き渡り、気持ち良い登りが続く。最後は急坂となり、三角点標石のある芝草山の頂上に登り着く。
頂上は狭く、数人で満杯になる広さしかないが、今日は一人で独占。樹林に囲まれて展望はなく、隙間からまだ雪が残る会津駒が遠望できる程度。2つの山名標識があり、その一つは山部さん作の懐かしいタイプのものだ。荒海山へ続く尾根は、入口から覗いた限りではシャクナゲ藪で明瞭な道型はなく、歩かれている痕跡がない。腰を下ろして昼食休憩とし、鯖醬油味煮付をつまみに缶ビールを飲み、カップヌードルにんにく豚骨を食べる。
頂上で小一時間休憩したのち、往路を戻って下山する。下りは楽でサクサク進む。大岩を注意して通過。標高が下がるに連れて次第に気温が上がり、送電鉄塔に着く頃にはすっかり下界の暑さに戻る。休憩して水を飲み、さらにジグザグを切って登山口に下り着く。
あとは車道を歩いて中三依温泉駅へ。途中、見通沢を渡る辺りで、渓流沿いに「白龍渓」の標識を見つける。行きには見落としていた。大した渓谷ではないが、岩を嚙かみ蛇行する清冽で水量豊かな流れを見ていると涼し気で良い。
青空には夏雲が湧き、陽射しが強烈。今日は梅雨の合間というよりは、もう真夏の天気だ(桐生では最高気温34.8℃を記録)。中三依温泉駅の手前から左の路地に入ってすぐのところにある、中三依温泉男鹿(おじか)の湯に日帰り入浴で立ち寄る。現在、時刻は15:15で、中三依温泉駅18:20発の特急に乗車する予定だから、時間はたっぷりある。
男鹿の湯に入館するが、受付には誰もいない。インターホンを押しても応答なし。セルフレジと書かれた箱があり、ここに料金700円を入れて、浴室に向かう。お客さんもいなくて、全くの無人だ。そう言えば、先月、戸谷峰に登った帰りも無人の温泉に入ったっけ。
浴室は新しく綺麗で、大きな窓から芝草山が眺められて、いい気分。ぬるめのお湯にゆったり浸かる。そのうち、子供が小さい家族が入って来たので、それを潮に湯から上がり、セルフレジにて缶ビールを買い、ラウンジで休憩して飲む。風呂上がりの🍺はうま〜い。やがて、スタッフの方がいらしたので、メニューからピザと2個目のビールを注文。デザートに那須千本松牧場のアイス(ストロベリーミルク)を食べる。
のんびり過ごしたのち、閉館時刻(18時)の少し前に駅に移動。一人、ホームで夕暮れの芝草山を眺めていると、ほどなく定刻となり、18:20発リバティ会津に乗車して、ほろ酔い気分で帰宅の途につく。栃木駅で両毛線に乗り換え、桐生駅着は21:07となった。