夕日岳〜地蔵岳
21日(金)は、北関東の各地で一日の最高気温が30℃を超える真夏日となった。この季節外れの暑さは、週末の土日には和らぐとの予報だが、低山・里山歩きに向いた天気ではないから、少し標高が高い山に登りたい。そんなことを考えて、前日光の夕日岳(標高1526m)に夕日岳新道を使って登ることを思い付く。
夕日岳新道は、夕日岳の南東尾根を末端の大芦渓谷・川中島(標高463m)から登り上げるルートだ。足尾山地で随一の標高差1060m余を有する登り応えのあるルートで、その筋の方々の山行記録を拝読して、一度歩きたいと思っていた。時期と標高からしてアカヤシオの開花も期待できる。という訳で、夕日岳新道で夕日岳に登り、地蔵岳から南東尾根(天狗尾根)を下って周回するコースを歩いてきました。
桐生を未明に車で出発。東北道を鹿沼ICで降り、鹿沼市街を抜けて、大芦川に沿って古峰原街道を走る。途中、大芦川を渡る引田橋の上から、先日探訪したかまど倉の頂上直下の大岩壁と洞窟を仰ぎ、車を橋の袂に停めて写真を撮る。麓から見ても岩壁に黒々と大穴が開いていることが分り、凄い岩窟だなー、と改めて感心する。
さらに大芦川を遡り、古峯神社の巨大な一の鳥居が見えて来たところで、東大芦川沿いの林道へ。大芦渓谷に深く分け入って、林道蕗平線分岐に車を置く。なお、すぐ手前の川中島にも広い駐車スペースがある。
尾根末端に地蔵様があり、その裏の崩れかけた参道石段を登ると、すぐ上に半壊した石鳥居と数基の祠がある。石鳥居の柱には「大正六年十月廿五日建立」の銘がある。
この神社は「山の神」で、『栃木県民俗資料調査報告書第4集(古峰ケ原の民俗)』p.88に詳しい記事がある。
高く育った杉林に覆われた尾根を一直線に急登する。10分程で左から上がって尾根を横断する林道に出る。この林道に沿って右に進み、山腹をトラバースする。眺めが開ける箇所があり、眼下に大芦渓谷が深く、対岸に六郎地山への稜線が長々と連なる。スケールは違うが、雰囲気がちょっと南アに似ている。
林道を辿って、尾根を絡む。林道が尾根から右山腹へ離れて行く地点で、尾根上の山道に入る。杉植林と新緑の雑木林に覆われた尾根をひたすら登って行く。単調な急坂が続き、グングン高度を稼ぐ。時折、新緑を透かして行く手にオオボッチのピークを眺める。程なく906m三角点の標石に登り着く。なだらかな尾根の途中で、最高地点は少し先にある。
三角点から、小さく上下する尾根を辿る。尾根の真ん中に一本の針葉樹の大木があり、根元に「本モ」という標識がある。これは多分、元は「一本モミ」という標識だろう。
植林帯が終わり、芽吹き始めの自然林に入る。岩塊に覆われた区間もあり、奥山らしい雰囲気。幅広くなだらかな尾根となり、一直線に登る。トウゴクミツバツツジが咲き始めている。ヤマツツジはまだ蕾だ。緩い尾根の途中に「ヒラッ平」という標識がある。これも先程の「本モ」と同じく、古くて一部が欠けている。設置されたのは何時頃だろう。
やがてアカヤシオの花がポツポツ現れ始める。左手に木立を透かして、この尾根の先のピーク(夕日岳の東峰)がピンクに染まっているのが垣間見える。うひょー、勝利確定✌。オオボッチの頂上付近まで登ると、頭上がもわーっとピンクの霞で覆われて、見事。ネット上の山行記録の写真で良く見た「オオホノチ」の標識を直に見たかったのだが、アカヤシオに目を奪われて、うっかり見逃した。
オオボッチを過ぎると、黒木に覆われた細尾根となり、地形図の等高線に現れない小さなアップダウンが連続する。岩場に天然檜の根が絡まって、神さびた雰囲気がある。
小さな岩場を下ると行く手に黒木のピークが現れる。このピークの基部には「胸突」の標識がある。標識から左上へ道型が通じているようにも見えるが、辿ってみると、その先は倒木で道型が怪しくなる。ここは正面の急坂を登ってみる。立木と木の根、岩角を摑んで這い上がると傾斜が緩む。その先は岩場が現れるが、階段状で問題なし。
小ピークに登り着き、ホッと一安心。ここを下る場合は8mmロープがあった方が良いかも。さらに細尾根を登ると、いよいよ頂がピンクに染まった東峰に近づく。
東峰への登りはアカヤシオの並木となる。天気は快晴。風は微風。アカヤシオは花付き良く、満開でフレッシュ。落花はまったくと言って良い程なく、まさにベストタイミング。他に人はいなくて独占。アカヤシオが咲いているだろうと期待はしていたが、予想を遥かに超える咲っぷりに、ほっぺたが落ちそうである☺
遠くからピンクに染まっているのが見えた東峰の頂に登り着く。やはりこの辺りがアカヤシオ密度が一番高い。アカヤシオ越しに薄く靄がかかった横根山を遠望する。
東峰を越えてしばらく進むと、再び檜に覆われた細尾根となり、行く手に夕日岳の頂上を仰ぐ。あとひと登りだ。小さく上下して、岩場を注意して下る。ネット上の山行記録によると、ここに「岩タア」の標識があるそうだが、見落とした(が、写真にはそのごく一部が小さく写っていた)。
夕日岳へ、まだ冬枯れの雑木林と丈の低い笹に覆われた尾根を登る。この辺りにもアカヤシオがあるが、蕾のものが多い。ひと登りで、多くのハイカーさんが憩う夕日岳の頂上に着く。夕日岳に登頂するのは、20数年振り2回目(前回の山行記録)。
頂上は北面が開けて、日光白根山から男体山、女峰山にかけての展望が広がる。白根山はまだ冠雪しているが、表日光の雪はほとんど消えている。頂上周辺にもアカヤシオがポツポツ咲いている。10時を少し回ったばかりの時刻だが、朝食が早かったので腹が減った。ここで昼食休憩とし、ドライゼロで喉を潤して、鯖味噌煮とカップヌードル・シンガポール風ラクサを食べる。このヌードル、とろみのあるスープが美味いな。
昼食を終え、地蔵岳を経由して下山にかかる。夕日岳からは、丈の低い笹原の下生えと冬枯れの樹林に覆われた明るく気持ちの良い尾根道が続く。大勢のハイカーさんと交差する。この辺りのアカヤシオも見頃で、十分楽しめる。
少し登り返して、薬師岳〜地蔵岳の縦走路上の三ッ目に着く。振り返ると、木立を透かして端正な三角形の山容の夕日岳が眺められ、その右にピンクに染まった東峰も見える。
三ッ目から地蔵岳へも、なだらかで明るく、至極快適な尾根道が続く。僅かに登って、地蔵岳の頂上に着く。ここの標石は三角点ではなく、主図根点。少し離れたところに大きな石宮があり、中に地蔵尊が座す。
ブロックチョコを齧って一休みしたのち、頂上から天狗尾根に入って、まず東へ急な尾根を下る。登山道から外れるが、丈の低い笹原と唐松、雑木に覆われた明るい尾根で、そこはかとなく踏み跡が通じ、藪は全くなくて歩き易い。
グングン高度を落とし、ようやくなだらかな尾根となって、方向を南に変える。あとは薄い踏み跡を辿って、緩い尾根歩きが続く。とても楽である。マーキングの類はほとんどない。ネット情報によると、3か所に石祠があるそうだから、それらが目印になるだろう。古峰原の射撃場からパンパン射撃音が響いてくるのが、少々耳障り(後日、ネットで調べて、射撃場のオーナーが古峯神社と初めて知って吃驚)。
一つ目の石祠は1245m標高点付近にある。新し目の石祠が建ち、後ろに潰れた古い石祠がある。多分、山の神を祀っているんじゃないかな。石碑もあるが、文字は読み取れない。
二つ目の石祠は10分弱進んだところにあり、こちらも新し目の石祠。脇に御影石の石碑が建つ。石碑には13人の氏名と「昭和六十三(1988)年十月二十八日建設」の銘がある(これも後日知ったが、氏名の筆頭の石原敬士氏は古峯神社の元宮司)。
この先から小さな岩場やアップダウンがある尾根となる。岩場には今日の山行で最後のアカヤシオが咲く。1222m三角点の標石を過ぎると、尾根上の急坂と踊り場の繰り返しで高度を下げて行く。トウゴクミツバツツジの群落が現れると、程なく1037m標高点にある三つ目の石祠に着く。これも前の二つと同じ様式の石祠だ。
この石祠の先の尾根の分岐は左へ。雑木と檜の境界となっている幅広い尾根をずんずん下る。やがて尾根が細くなり、ちょっと登り返すと821m標高点の小さな瘤。ここから濃い緑に覆われた細尾根の急降下となる。
最低鞍部に下り着き、左(北)斜面の薄暗い杉林を透かして見ると、割とすぐ下に明るい伐採地が見える。ということは、作業道もあるだろう。杉林の斜面をほぼ真っ直ぐ強引に下ると伐採地の上端に出る。蕗平沢を隔てて今日登った夕日岳新道の尾根が眺められ、谷の奥に高々と稜線を連ねる夕日岳を仰ぐ。あそこまで登ったのだなあ、と感慨を覚える。
伐採地に植えられた苗木の間を少し下ると、荒れた作業道に着く。あとは作業道を下り、林道蕗平線に出て、駐車地点へ向かう。
蕗平橋を渡ると、谷間に開けた平地があり、すっかり緑が濃くなった周囲の山々が見渡せる。ここには、かつて蕗平の集落があったとのこと。廃村となって久しく、陽光溢れる春爛漫な風景の底に一抹の侘しさが漂う。
程なく駐車地点に帰着。依然として他に駐車はなく、今日、夕日岳新道を末端から歩いたのは私だけらしい。当地の真の実力を発揮したアカヤシオも見られたし、登り応えも十二分にあって、今日の山歩きは大当たりだった。先日の山歩きに続いて鹿沼♨華ゆらりに日帰り入浴で立ち寄ったのち、桐生への帰途についた。