八岡山〜両ノ手山〜六郎地山
今年2月に火戸尻山〜鳴虫山を縦走したとき、谷一つ隔てて間近に六郎地山の大きな山容とゆったりとした稜線を眺めて、あちらの山も面白そうだな、と興味を持った。
六郎地山の南東には、地形図に記載はないが、両ノ手山、八岡(はちおか)山とそれぞれ呼称される二つのピークがあり、烏ヶ森の住人さんや仮面林道ライダーさんが八岡山〜両ノ手山〜六郎地山を縦走されている。この縦走はなかなか歩き応えがありそうだ。やしおの湯まで足を延ばして、温泉に入って帰るとすると、10時間くらいかかりそうな長い行程の山歩きとなる。そこで、日が長くなる時期を待って、出かけてきました。
桐生駅5:52発の両毛線に乗車し、栃木駅で東武日光線に乗り換えて、新鹿沼駅に7:14着。7:35発の古峯神社行き鹿沼市民バス(リーバス)に乗車する。乗客の中に、あれっ、見かけたことがある人が居る、と思って声をかけたら、やはり火戸尻山〜鳴虫山を歩いたときに、小来川行きのバスで乗り合わせたご夫婦だった。あちらも私を覚えていらして、お互い奇遇にビックリ。今回は古峯神社辺りを歩かれるとのことであった。
西大芦小前バス停に8:11に着いて、ここで下車する。運賃は300円也。バス停は鹿沼市立西大芦小学校(今年3月末で閉校)の前、大芦川に架かる芦の子橋の袂にある。大芦川は4月に入って渓流釣りが解禁されたそうで、大勢の釣り人で賑わっている。
車道を少し戻り、脇道の県道鹿沼日光線に入って日光方面に向かう。山間の杉林を抜け、左に八岡山の伐採された斜面を見上げながら車道を登ると、鹿沼市と日光市の境の峠(八岡峠?)に着く。「道路改修記念碑 栃木縣知事小平重吉」という石碑が建つ。
ここから市境稜線を辿る。藪が酷く、どこから取り付こうかと右往左往して、少し日光市側に入った所のそこはかとない踏み跡を利用。ヒノキ植林帯の急斜面を登る。枝打ちがされてなくて、小枝の藪が煩い。左側には古くて放置された防獣網がずっと続いている。
急登して小ピークを越えると、行く手に八岡山の頂上が見える。成長した植林帯に入り、けもの道を辿って急斜面を登る。左斜面が若い植林帯から雑木林に変わると、程なく八岡山の頂上に登り着く。山名標の類はなし。かつては三等三角点(点名:高畝、俗称:タカハタ)が置かれていたが、2002年に亡失となっていて、標石は見当たらない。頂上手前に削り取られた平地があり、亡失の理由は多分これじゃないかな。
八岡山頂上からまだ蕾のツツジの群れを抜けると、今度は藪のないヒノキ植林帯となり、グッと歩き易くなる。尾根は細くなり、小さなアップダウンが多い。アカヤシオがぱらぱらと咲いているのを見かける。倒木帯の下りがあり、そこに差し掛かると行く手が開けて、両ノ手山が眺められる。意外と遠くて高い。
一旦下って、696m標高点へ植林帯の尾根を登る。頂上手前に右斜面が伐採された展望地があり、鶏鳴山と笹目倉山が眺められる。天気は良く晴れているが、上空の雲は多めだ。
なおも植林帯の尾根を登り、作業道の終点付近をしばらく通行。作業道を離れて尾根を急登すると露岩が目に付くようになり、やがて先人の山行記録の写真で見た大岩が現れる。これを右から巻いて急坂を登ると、両ノ手山の頂上に着く。
頂上はヒノキ林に覆われて展望はほとんどなく、地味〜な頂である。三等三角点(点名:花鳥屋、俗称:花ノ鳥屋)の標石の他に「両ノ手山」の山名標が二つある。出発からここまで2時間半はまあまあのペースか。しかし、先はまだまだ長い。
小休止ののち、次のピークの954m標高点に向かう。尾根を小さく上下して進むと、見事なアカヤシオが現れる。株はそう多くはないが、どれも八分咲き位のフレッシュな咲き具合だ。花の数も多い。今年はアカヤシオの開花が1〜2週早いそうで、鑑賞にすっかり出遅れていたから、ここで見ることができたのは嬉しい。
露岩が点在する尾根を登り上げて、954m標高点の狭い頂上に着く。先人の山行記録によると、ここから次の896m標高点までの間に三つの難場があるとのこと。少しドキドキしながら、急な尾根を下る。
やがて右斜面が切れ落ちた細尾根となり、前方が開けて、日光表連山が男体山から女峰山まで青空の下に遠望できる。中央手前のまろやかなピークが六郎地山だろう。結構、遠くに見えるな。その右奥のまろやかピークが1101m標高点、左奥は大木戸山のようだ。
尾根はここから立木が疎らな細尾根の急坂となる。第一の難場だ。両側は急斜面で、特に右側が切れ落ちて高度感がある。慎重に下って、小ギャップに着く。
ちょっと登り返して小ピークを越える。この前後にも目を楽しませるアカヤシオがちらほらあり、難場を通過する緊張感がいっとき解される。
再び急な細尾根となり、第二の難場の急坂に差し掛かる。第一の難場よりこちらの方が傾斜がきつい。しかし、下まで見通せて、木の根岩角が多いことがわかり、真っ直ぐ下れそうだ。一応、8mmロープは携行して来たが、使わずに降りる。
この後も点在するアカヤシオを楽しみながら、小さな上下の多い稜線を辿る。やがて第三の難場の岩稜が現れる。立木が多く、高度感もそれほどないので、この岩稜はあっさり通過。この辺りの岩場にはアカヤシオが多く、カメラに収めるのにしばしば足が止まる。
やがて岩場のある急斜面となり、剝がれやすい岩に注意して直登。896m標高点の頂上に着く。時計を見ると既に12時半を回っている。三つの難場の通過とアカヤシオに気を取られて、いつの間にか随分と時間が経過していた。ここで昼食にしよう。小さい缶ビールを飲み、鯖味噌煮とカレー力うどんの昼食をとる。
食事を終えて出発。細尾根を辿り、左から上がってきた作業道に並行してしばらく歩く。ただし、この作業道はすぐ下でザックリ崩壊している。847m標高点辺りから幅広くなだらかな尾根の歩きとなる。
次の871m標高点にゆるりと登ると、稜線は左にカーブする。ここもアカヤシオが多い。870m圏ピークへの登りで、男性単独のハイカーさんが先行しているのに気がつく。短い急坂を登って、870m圏ピークの頂上に着く。先行ハイカーさんが休憩中で、挨拶を交わす。この辺りの山を良く歩かれているそうで、こんなところを歩いていたり、白鬚山や大滝山という、ネットでしか山行記録のないマイナーな山の話もされていたので、その筋の方ではなかろうか(と思って、後日検索したらきたっちさんという方でした)。
(2020-12-22追記:『鹿沼市史』の折り込み地図「鹿沼市全図」には、871m標高点の西の鞍部に上道陸神峠の名があり、蕗平から太田に抜ける峠道が記載されている。)
870m圏ピークからはなだらかな稜線をほぼ真っ直ぐ真北に進む。石祠を過ぎ、赤松と丈の低い笹原の稜線を緩く登る。雑木林と檜植林帯の境界の稜線を辿ると右斜面が広大に伐採された展望地があり、谷を一本隔てて火戸尻山や、その奥の鶏鳴山が良く眺められる。
疎らな雑木林の中を登ると、落ち葉の間にカタクリの葉がポツリポツリと出ていて、花が咲いているものもある。登り着いたなだらかな高みに三等三角点の標石と山名標がある。普通はここが六郎地山の頂上とされているが、最高地点は100m程先だ。当初の見積りでは六郎地山14時着だったところが、40分遅れている。少しだけ休んでブロックチョコを齧り、エネルギーを補給。先を急ごう。
最高地点は平坦で、鳥獣保護区の倒れた看板がある他は何もなし。冬枯れの雑木林に覆われたなだらかな尾根を下る。斜め右には木立を透かして次に向かう1101m標高点のピーク、左手には逆光に浮かび上がって夕日岳が眺められる。
だらだらと稜線を下り、90度右折。赤テープあり。1101m標高点を正面に見て、鞍部へ急降下する。地面が適度に柔らかく足場は良いが、かなりの急傾斜だ。正面の山は下った分だけ高くなり、あれを登り返すのかと思ってゲンナリ。鞍部からザレた急斜面を直登する。今日のきつい登りはこれで終わりだろう。頂上稜線はなだらかで、1101m標高点には特に何もなく、尾根の途中という感じの場所だ。
雑木林の稜線を緩く下り、左に折れて、正面に大木戸山、三ノ宿山、その後ろにいつの間にか近づいていて大きく聳える男体山を仰ぎながら、樹林を帯状に切り開いた急斜面を大下りする。下り切ると小さなアップダウンのある細尾根となり、973m標高点のなだらかなピークを越える。尾根上には良く踏まれた道型が続いている。
最後に小ピークに登って左折、尾根上のザレた道型を急降下して、舗装された林道(林道河原小屋三の宿線)に下り着く。林道は高い切り通しで尾根を横断しており、向かいの擁壁には下手な工作の縄梯子が架かっている。もしかして三ノ宿山へはあそこから登るのかな。あとは林道を約7.2km歩き、滝ヶ原峠を経由してやしおの湯に下る。時間と体力に余力があれば三ノ宿山を越えて行くプランも考えていたが、そんな余裕は1mmもない(^^;)。
林道はほぼ水平で、歩くのは楽である。路上には落石が多く、車両で通行する際は要注意。樹林のため、クリアな眺めが得られる場所は少ないが、数カ所で展望が開けて、鳴虫山から火戸尻山、鶏鳴山、笹目倉山、羽賀場山・天気山の山塊が眺められ、今日登った1101m標高点も端正な三角形の山容を見せ、長く単調な林道歩きの中の楽しみとなる。
林道が下り始めると、程なく滝ヶ原峠に着いて、県道小来川清滝線に合流する。やしおの湯まで、あと約2.7kmの下り坂だ。峠下のヘアピンカーブからは、傾いた日差しに照らされた女峰山と赤薙山を高く仰ぐ。太陽が茶ノ木平辺りに沈み、残照の中、やしおの湯に到着する。休憩込みで9時間20分の久々の長丁場の山歩きで、かなり疲れた。最後の林道の区間は長かったが、1時間25分で歩けたから、長過ぎるということはなかった。
東武日光駅への路線バスの時刻を確認した後、温泉へゴー。時間が遅いので、そんなに混んでなくてゆったり湯船に浸かる。うーむ、極楽。温泉から上がり、食堂で何か食べようと思ったが、営業時間を過ぎていたので、売店で缶ビールとつまみを買って、ロビーで飲む。これができるのが、公共交通機関利用の最大のメリットだ(^^)。
やしおの湯18:54発のバスに乗車。乗客は私一人だけの貸切状態のまま東武日光駅19:11着。昼間は国際的な観光客でごった返す駅も、この時間帯は閑散としている。19:18発特急リバティけごん48号に乗車し、栃木で両毛線に乗り換えて、桐生21:07着で帰宅した。