高谷山〜谷倉山
12月に入り、安蘇の低山・里山歩きに適した季節がやって来た。安蘇の山で目下一番気になっている山、というかポイントと言えば、谷倉山(やぐらさん)の難所、南東キレットの岩場がある。谷倉山には2015年1月に登っている(山行記録)が、そのときは南東キレットは通っていなくて、ここの通過が課題として残っている。
(安蘇山塊には、栃木市星野町にある標高599mの谷倉山と、鹿沼市中粕尾にある標高747mの谷倉山の二つの谷倉山がある。この山行記録の谷倉山は後者を指す。)
ネットで報告された山行記録によると、2011年12月のDIYさんを先駆けとして、きりんこさん、ふみふみぃさん、みつまんさんなど、その筋の方々が南東キレットから谷倉山に登っておられる。先人の山行記録の件の難所についての記述や写真を見ると、私にもなんとかこなせるかなー、という気がする。この週末は天気が良さそうだし、そろそろ課題を片付ける頃合いか。同じく、安蘇の山でまだ登っていなくて気になる山の一つ、高谷山(たかやさん)と繫いで歩いてきました。
桐生を未明の4時半に車で出発。R50沿いの吉野家で朝飯をしっかり食べたのち、太田桐生IC〜栃木ICは高速を使い、大越路トンネルを抜けて、県道鹿沼足尾線で思川の上流に向かう。まだ暗い中、下山予定地の上粕尾に到着。細尾沢橋の袂の広い路側に車を置き、100m程先の上粕尾郵便局バス停で、6:32発JR鹿沼駅行のリーバスを待つ。上空はようやく白み始めて、天気は予報通り良さそうだが、山の上には厚く靄がかかっている。
(なお、下山時に気がついたが、駐車は細尾沢橋を対岸に渡ってすぐの上粕尾公民館が良い。WCもある。)
定刻より数分遅れてバスが到着。普通の路線バスの大きな車両だが、乗客は私一人だけ。バスは蛇行する思川に沿って走る。入山予定地の鬼平バス停で下車するため、降車ボタンを押すべく車内放送を待っていたら、さり気なくすっ飛ばされて、危うく素通りするところだった(^^;)。乗車時に、下車するバス停を告げておいた方が良さそうだ。まあ、バス停でバスを待っていて、バスに素通りされることに較べれば、些細なことではある。
鬼平バス停から少し戻って、思川に架かる鬼平橋を渡り、直進。数戸の民家を過ぎ、林道鬼沢線に入る。この林道は地形図には記載されていないが、Googleマップに載っていたので、高谷山の登路に使えるかもと思って、今回、来てみた次第。未舗装の路面の轍は新しく、現役で利用されている様子が窺える。谷間の杉林に入っても、路上の倒木は片付いている。今のところ、目論見通りのいい道だ。
やがて谷は二股となり、正面は広大に伐採された緩い尾根となる。林道は右の谷に入って行くので、これを辿ると、泥の急斜面に突き当たって終点となる。この先に進むのは無理だ。二股に引き返して、伐採地の尾根を登ろうかと思ったが、工事現場そのもので殺風景でぬかるんだ斜面を登るのは、どうも気が進まない。左の谷に沿って古い林道があるので、これを辿ってみる。
しばらく杉林の中を進むと、右斜面は古い伐採地となる。これを過ぎると、谷の中に倒木が増えて歩きにくくなり、また、このまま詰め上がると高谷山の頂上直下の急斜面に突き当たるので、適当なところから右斜面に取り付いて、小尾根上まで強引に急登する。
登り着いた小尾根の右斜面は先程の古い伐採地となる。小尾根を登ると雑木林に入り、藪もなくていい感じの尾根歩きとなる。二股から最初の伐採地の尾根を登ってもこの辺りに合流し、近道で傾斜も緩そうなので、気が進まないなどと言わずに、あそこから登った方が良かったかな、とコース取りを反省。
細い尾根を急登すると、左側(登りかけた谷の源頭)はかなりの急斜面となり、岩場も現れる。右からの主尾根といつの間にか合流し、ひと登りして高谷山の頂上に登り着く。
頂上は落ち葉に埋もれた小広い平地となり、丸石を納めた石祠と三角点標石がある。また、ほとんど消えかかった文字で「高谷山」と書かれた山名標と古い温度計が木の幹に取り付けられている。温度計は、正しい値かどうかは定かでないが、4℃を示している。まだ靄がかかって陽射しは弱いが、風はないのでそれほど寒くはない。靄に加え、元より樹林に覆われているので、展望はない。
小休止したのち、谷倉山に向かって縦走を開始。少し下ったところで登路の小尾根を右(北)に分けるが、注意しないと気がつかない。自然と西へ主尾根を辿って急降下する。
やがて傾斜が緩んで、なだらかな尾根を辿る。杉林に覆われた尾根を緩く登ると、三角点によく似た標石がある。近くに看板が落ちていて、前橋営林署が設置した図根点(ずこんてん)だそうだ(この後、谷倉山までの尾根上で多数の図根点標石を見る)。
図根点ピークから少し下った峠で舗装された林道(与州加戸沢線)を横断する。道端には「道祖神」「復員紀念 髙橋寅清建立」「昭和二十年十二月二十八日」と刻まれた石碑がある。かつては古い峠道が越えていたのだろう。向かいの法面には斜めに歩道が切られて楽に上がれるが、その先に特に道はないので、シカのための歩道なのかも。
杉林に覆われた尾根を登り、丈の低い笹が現れると548m標高点のピークで、ここにも図根点がある。緩く降って鞍部に着くと、右側のすぐ下に作業道が通る。尾根を直進すると急坂となり、上部には露岩も現れる。登り着いた小ピークでは、左側の木の間を透かして山麓の集落を俯瞰する。こちらの斜面はかなり急そうだ。
相変わらず杉林の尾根歩きが続く。途中、左に防獣ネットが張られた区間は、少し草藪がある。それも終わって、広くなだらかな尾根を歩く。展望はなく、木の間越しに尾出山が見える程度。右側のすぐ下に再び作業道を見たのち、図根点標石がある小ピークに登り着く。ここが、629m標高点のようだ。
相変わらず杉林に覆われた緩いアップダウンの尾根が続き、いささか単調さを覚える。もう一つ図根点標石を過ぎると、送電鉄塔(新栃木線190号)に着いて、小休止とする。左右の樹林が切り開かれて眺めが良く、気分転換になる。左(西)には尾出山から高原山にかけての稜線、右(東)には端正な三角形の山容のハナント山や、遠くに二股山、古賀志山が眺められる。
ここまでは緩やかな変化に乏しい尾根歩きが続いたが、キレットに近づいて、この辺りから早くも険しい様相が現れる。送電線巡視路を左に分け、ちょっと登って図根点標石のある646m標高点のピークを越えると、第1の小ギャップへの下りとなる。直進すると崖なので、右に下ってから左へトラバースする踏み跡を辿る。しかし、下は切れ落ちて、あまり良くない。直進してロープを出して下った方が良かったかも。
小ギャップから急坂を登り返して小ピークに登り着くと、木の間からキレットを隔てて谷倉山が眺められる。谷倉山の手前に三つの∩状のピークが連なり、なだらかな山が多い安蘇山塊においては特異な険しさを見せる。キレットに面する件の岩場も見えている。
ここから第2の小ギャップへの下りとなる。左に少し下ってから右へトラバースしたが、ここも下は切れ落ちていて、滑ったらアウト。キレットの岩場の前に、こんな難関があるとは思っていなかった。
雑木林に赤松が混じって生える尾根を辿ると、キレットの岩場が眼前に現れ、よく偵察しておく。正面の岩壁はとてもじゃないが登れない。左下の松が生えている辺りを登って、岩壁の左上に上がるのが多分ルートだろう。
キレットに向かって急降下する。左斜面は松の幼樹が密生して、ちょっと藪っぽい。キレットの底は明るい雑木林でそこそこ広く、両側が切れ落ちているということはない。正午に近く、腹も減ったのでここで昼食にしようかとも思ったが、難所が控えていると落ち着いて食事できなさそう。ということで、気合いを入れて登ってしまうことにする。
ます、キレットから最初の岩場は、右側の急斜面を登って簡単にクリア。いよいよ、先人の山行記録の写真でも見ていた岩場の下に立つ。見上げれば階段状の岩場で立木も多く、傾斜もそれ程はない。ただし、最初の高さ3m弱の段を登るのが難しい。スタンスは滑るし、岩角を摑んだらパックリ剝がれた。先人はここが良く登れたなあ。
ここは無理せず、迂回ルートがないか探してみる。右はふみふみぃさんがトライして大変な目にあったそうなので、岩場の基部を左に回ってみる。そこはかとなく踏み跡があり、少し先から斜め右に上がるバンドを灌木を摑んで登ると、割と容易に一段目の上に出た。
この上は岩が積み重なった岩場で、登るのは難しくない。バンドっぽいところを左に斜上して岩壁の左上の縁に登り着く。ここまで来て見下ろすと、下は結構な絶壁で高度感がある。あとは岩壁の縁を登り、樹林に覆われた岩稜を上がると、石祠の小ピークに着いた。やったー、無事にキレットを通過\^o^/。まあ、こういう場所は、行けるという情報があったから行けたので、情報がなかったら登れたかどうか。先達の情報に感謝である。
難所を越え、すっかりリラックスして、昼食とする。石祠の前に腰を下ろし、お湯を沸かしてカップ麺の豆乳ごま坦々うどんを食べる。豆板醬が効いていて、なかなか美味しい。
食事を終えて、おもむろに出発。この先も痩せ尾根が続き、両側は結構切れ落ちているが、危ないところはない。左側が開けた岩場があり、そこから振り返ると辿ってきた稜線が眺められる。中央奥の双耳峰のように見えるピークが高谷山のようだ。
尾根上には大きな岩場(写真左下)も現れるが、左から巻ける。痩せ尾根を辿り、谷倉山の頂上への登りにかかる所に、尾根を横断する明瞭な峠道がある。これはどこにどう通じている道なのか、興味が湧く(通ったという山行記録があるかも)。
ここから杉植林帯の広い斜面をひと登りして、谷倉山の三角点標石のある平坦な頂上に着く。杉林に覆われた地味〜な佇まいの頂上で、南東キレットと東尾根末端の二つの難所のある山とは思えない。このギャップが、私が谷倉山を怪峰と思っている所以でもある。
西側の方が明るいので行ってみると、西斜面が大規模に伐採されて、尾出山を正面とする展望が開ける。前回、来たときは伐採されていなかった。人の手が加わった結果で、厳重に張り巡らされた防獣ネット越しではあるが、好展望が得られるようになったので、地味さはちょっと軽減されたように思う。
あとは駐車地点に向かって、一番楽そうなルートで下山する。まず、防獣ネットに沿って、尾根を北西に辿る。展望が楽しめるが、ネットに足を取られて躓かないように注意。
伐採地が終わって、杉植林帯に入る。程なく、右手に下る作業道が現れるので、これを下る。作業道は大きくジグザグを切りながら、山腹を下って行く。枝道が多く、登りでは進路に迷いそうだが、下りはとにかく下へ向かうだけなので、ルートファインディングは必要ない。所々の大きなカーブは杉林と草藪の斜面を直下降して、ショートカットを図る。
やがて、作業道は谷に下り着き、渓流に沿って真っ直ぐ下る良い感じの道となる。この林道もGoogleマップで目星を付けていた。道がないと、谷を下るのは通常は危険だ。
途中、無人のログハウスを過ぎ、思川沿いの山麓に下り着く。前回は左の枝尾根を下り、最後は砂防堰堤の工事現場を突っ切って、この林道に降りて来た。既に堰堤は完成したようで、工事関係の物は綺麗になくなっている。
広い駐車スペースとWCのある上粕尾公民館を過ぎ、細尾沢橋を渡って駐車地点に戻る。見上げると東尾根末端の鋭角な三角形の断面が聳り立ち、怪峰っぷりを発揮している。
帰りは久し振りに桐生♨湯ららに立ち寄る(土日750円)。相変わらず賑わっているが、浴室は余裕がある。長らくの課題を一つこなして、良い気分でゆったり湯船に浸かった。