三嶺
前日は高知市中心街のホテルに宿泊し、レンタカーで出かけて、工石山・程野の滝を歩いた。今日は、日本二百名山の一座の三嶺(みうね)に登ったのち、高知空港から航空機利用で帰宅する予定だ。
宿を未明の4時にチェックアウト。東進してR195を走り、三嶺の高知県側登り口の光(ひかり)石登山口に向かう。香美(かみ)市街までは片側2車線道で信号が少なく、高速道路のように快走。物部川の大河に沿う道となり、両岸にはまだ暗い空に山並みのスカイラインが薄らと浮かぶ。永瀬ダム湖(奥物部湖)を渡り、県道久保大宮線に入って、物部川支流上韮生川(かみにろうがわ)の谷間を遡る。ようやく、夜が明ける。道幅は狭まり、カーブが連続。点在する小さな集落をいくつも通過して、延々と山奥に入る。これは、秋山郷に匹敵するような秘境だ。ますます急峻な谷に入り、山腹の九十九折りを登って、光石登山口に着く。
林道のカーブが登山口で、広い駐車スペースと案内板、WCがある。駐車は他には1台。先行するハイカーさんがいるのかな(結局、会わなかった)。林道はこの先通行止で、通り抜け不能との看板がある。上空は雲に覆われているが、予報によれば天気は良くなるとのこと。準備を整えて出発。登山道に入る。
登山道は山腹を横切って緩く下り、上韮生川上流の西熊渓谷に出て、左岸の高いところのトラバース道となる。足元は切れ落ち、眼下の谷底の渓流は大岩を喰んで水量が多い。なかなかの渓谷美で、深山幽谷の雰囲気がある。
砂防堰堤を過ぎると上流側が広い河原となり、川岸にはWCや東屋、幕営できそうな平地がある。この場所は、分県登山ガイドに「木戸の河原」という地名と🏕️記号が掲載されている。この先で谷は二股に分かれ、右股の長笹谷を立派な木橋で渡る。渓流には白い巨石が山積し、青く澄んだ水が深い淵を満たしてドウドウと流れている。
橋を渡ると「堂床谷出合い休憩舎」の標識と東屋がある。森林管理署により、登山道や休憩設備が良く整備されている。この先で左に八丁への道を分け、右の「さおりが原」への道に入る。
左下に渓流を眺めながら尾根末端を急登すると、その上は原生林に覆われた幅広い尾根の緩い登りとなる。かつては林床にスズタケが繁茂していたが、シカに食べられたそうで、下生えが全くない。どこでも歩ける状態で、特に下山時はルートが分かり難そう。テープのマーキングがずっと付けられているので、丹念に辿って行けば道を外すことはない。
やがて山腹をトラバースする登山道となり、緩々と高度を上げる。小さな沢を渡ってしばらく進むと、広く浅い凹地に入る。ここがさおりが原だ。名称から、なんとなく明るい草原を予想していたが、鬱蒼とした樹林と苔に覆われた平地で、イメージとだいぶ違う。ここもスズタケが喰われて、防獣ネットで囲まれた草叢が点々と僅かに残る。細い水流を跨いで平地の奥に進むと東屋があり、少し離れたところにWCが建つ。
休憩舎で右に西熊林道への道を分け、左の三嶺への道に入る。林間の緩斜面を登ると、沢岸に「森の巨人たち100選」の看板とトチノキの巨木がある。ここから急斜面に取り付き、大きくジグザグを切って登る。
やがて道標があり、右に韮生越への道を分ける。左へ斜面をトラバースするとすぐに次の道標が現れ、左にフスベヨリ谷への道を分ける。なお、光石登山口にあった案内板によると、フスベヨリ谷の登山道は水害で荒廃して歩行困難なため、他のルートの使用が推奨されている。ここは右へ、カヤハゲ経由三嶺への道に入る。
登山道はゆったりと大きな尾根の右斜面を絡んで、緩々と登る。緑濃い樹林に覆われて、山深さを強く感じる。やがて尾根の上に出ると、左手の木立を透かして、西熊山から三嶺にかけての高知・徳島県境稜線が見える。僅かに垣間見えるだけだが、目的地はまだまだ高く遠くて、よおし行くぞ、とテンションが上がる。
広くなだらかな尾根を、右斜面を絡んだり、尾根上を小さくジグザグを切ったりして、高度を上げていく。あまり急坂はなく、路面もおおむねフラットで、至極快適に歩ける。下生えがなく、道型があまり明瞭でないところもあるので、前後のマーキングには注意。
だいぶ尾根を登って来ると、尾根左側の斜面が草原状に開け、そこを絡んで登る。大きなフスベヨリ谷を隔てて県境稜線の展望が開け、青空の下、左の天狗塚・西熊山から右の三嶺へと連なる稜線が一望できる。稜線は一面の笹原に覆われ、ちょっと谷川連峰を連想させる。そして、ググッと稜線を持ち上げて、ちょこんと尖ったピークを成した三嶺は、なかなか格好が良い。これは見惚れる。名山だなあ。
尾根を登り詰めると、無木立で草原が一面に広がる主稜線に出る。草原の中を微かな踏み跡を辿って突っ切り、防獣網に沿って回り込むとカヤハゲの広くなだらかな頂上に着く。
カヤハゲからは、北に三嶺を間近に仰ぐ。頂上直下はなかなか急そうだ。東には県境稜線が延び、その果てに頂に雲がかかっているが剣山を遠望できる。剣山には2007年に見ノ越から往復して登っているから懐かしい(山行記録)。剣山への県境稜線は長大で、樹林に覆われて顕著な峰も見当たらなく、すごくマイナーそうなルートである。
カヤハゲから、木立がないのに苔に覆われた斜面を下る。不思議な植生だ。鞍部まで下ったところで、今日初めて、ハイカーさんとすれ違う。剣山への縦走だろうか。草原が下生えの樹林に覆われた登山道を辿る。なだらかで小さな上下のある気持ち良い尾根道だ。途中、暑さと疲れと眠気でとうとうダウン。日陰でしばらく横になり、昼寝して回復する。
いよいよ、三嶺へ標高差約200mの登り坂に取り付く。行手には大岩を見上げる。この大岩は右側を登る。鎖場が現れるが、途中から巻き道があり、大岩のすぐ上に抜けられる。
小さな瘤を越え、三嶺の頂上への最後の登りを見上げる。一面の笹原に覆われた斜面が美しく、頂上稜線直下の低木帯には岩場が点在して、高山的な景観を示す。斜面を横断する踏み跡は鹿道かな。笹原を直登。低木帯に入ると鎖も張られた急登となり、最後の頑張りで三嶺の頂上に登り着く\^o^/。いやー、最後の登りはきつかった。
三嶺は日本二百名山だけあって、頂上では大勢のハイカーさんが休憩中。大半のハイカーさんは、徳島県側から登って来られたようだ。その中のベテランハイカーさんと話をしたら、光石登山口からも2回登ったことがあるが、誰にも会わなかったとのこと。確かに、今日も県境稜線までは誰にも会わなかった。静かで良いルートだ。
ペットボトル飲料とパンで手軽に昼食を済ませたのち、カメラを片手に大展望を楽しむ。頂上からは正に360度の眺めが得られる。どちらを見ても山また山。北には祖谷の谷を隔てて高い山並みが目を引く。後日調べると矢筈山(1849m)を最高峰とする山系らしい。
頂上の東稜線上には三嶺ヒュッテが建ち、その向こうには剣山と次郎笈を遠望する。右に目を転じると県境稜線が延々と続いて、登って来たカヤハゲに至る。カヤハゲの右奥は白髪山(1770m)。左奥の双耳峰はちょっと目立つ。何山だろう。
西には西熊山、天狗塚へ開放的で気持ちよさそうな笹原の稜線が続く。ヒュッテに泊まって、あちらにも縦走してみたいなあ。しかし、今日は晴天に恵まれて、最高の山岳風景が楽しめたから大満足だ。帰りの飛行機には絶対に間に合わないとまずいので、早めに山頂を辞して往路を戻る。計画より1時間早いから、余裕は十分ある。
カヤハゲと登って来た尾根を俯瞰しつつ、山頂直下の急坂を下る。大岩の横を下り、樹林帯に入って稜線をアップダウンする道を辿る。往路では写真を撮る余裕がなかったが、道端にはシコクフウロや、トリカブトなどの花が咲き、カメラに収めていく。林間に群生し、実がなっていて黄色の花が咲き残っている草は、後日調べるとトモエソウらしい。
ちょっと登り返して、カヤハゲの頂上で一休み。振り返って夏雲湧く三嶺の勇姿を写真に収める。剣山も頂から雲が外れて次郎笈と双耳峰のように並んで眺められる。
カヤハゲから下山する尾根の下り口は草原の中の踏み跡が分かり難く、初めて下る場合は迷い易い。良く探すとピンクテープのマーキングがあるし、尾根筋を外さず下れば、すぐに登山道に合流できる。
あとは尾根を絡んで淡々と下る。往路で歩いているから問題ないが、ここも道型が薄いので、初めての場合はマーキングを見落とさないように注意が必要だ。
フスベヨリ谷分岐に帰り着いて一休み。さらにさおりが原、堂床谷出合と順調に往路を戻る。西熊渓谷の左岸をトラバースし、最後に軽く登って光石登山口に帰り着く。いやー、疲れた。計約8時間の標準的な日帰り山行の行程ではあったが、原生林に覆われた山や谷は深く、スケールが大きくて歩き応えがあった。また、一面に笹原が広がる稜線の景観や、頂上からの展望は実に素晴らしかった。四国の名山の一つを堪能できたと思う。
帰途は往路を戻る。平野部に出ると真夏の暑さ。途中、南国市の天然の湯ながおか温泉に立ち寄る(900円)。お客さんが多くて繁盛していたが、浴室はそう混み合ってない。汗をさっぱり流して、ゆっくり湯船に浸かる。その後、空港でレンタカーを返却し、レストランで🍺と夕食をとる。予定のフライトで羽田空港へ。京浜急行で浅草に出、りょうもう号最終の館林行と普通を乗り継いで24時近くに足利市駅に到着。駅付近に駐車していた車で桐生に帰った。
P.S. 帰宅後、熱が出た。検査の結果、コロナ陽性で、約一週間、自宅で療養しました。