三倉岳
9月12日に広島で所用があり、その後の14日〜16日は折良く3連休となるので、引き続き連休最終日まで広島県内に滞在して、周辺の山に登ることを企てる。
さて、どこに登ろうかな。広島県の山については、昔、やはり所用のついでに十方山に登ったことがあるだけで、不案内だ。県内の日本三百名山には道後山と吾妻山があり、この2座にはこの機会に是非登っておきたい。県北部の三次(みよし)に3泊4日で宿を取り、ここを拠点にして、4日間で三倉岳、比婆山〜吾妻山、道後山・猫山、福田頭・葦嶽山にそれぞれ日帰りで登ってきました。
と言う訳で、広島県の山1日目は県西部の三倉岳に登る。標高702mの低山だが、3つの岩峰を連ねた怪異な山容の山で、広島で最も人気が高い山の一つとのこと。また、ロッククライミングのゲレンデとしても知られている。
朝8時、広島駅前をレンタカーの日産ノートで出発。平日の金曜日なので、市街の道は通勤の車で混み合っている。市街を抜け、広島ICから山陽道に乗ればスイスイ。瀬戸内海を眺めつつ西進して、大竹ICで山陽道を降り、R186を走る。すぐに山地に入り、小瀬川の渓谷に沿って走る。人家が途絶えて秘境の趣きがある。やがて谷が開け、なだらかな山並に囲まれた小盆地に民家が点在する栗谷(くりたに)の集落を通り抜ける。行く手の山並に三つの岩峰が突き出ているのが三倉岳だ。
三倉岳の麓を緩く上がり、三倉平駐車場に車を置く。広い駐車場の奥にはロッククライミングの大きな人工壁がある。平日なので、他の車は一台だけ。出先の山歩きの足回り(トレランシューズ)と、今回、新調した軽量折りたたみリュックという軽装で出発する。良く晴れて暑いので、上衣は速乾性のTシャツ1枚だ。
少し色付き始めたモミジ並木の舗装道を上がると、三倉岳休憩所の広場に出る。ここから仰ぐ三倉岳は花崗岩の峰を連ねて、なかなか登高意欲を唆る眺めを見せている。
広場の奥にログハウスの休憩所があり、その前も駐車可で、数台の車がある。休憩所には管理人さんが居り、登山届に記入して提出する(いつも通り、コンパスでも提出済)。管理人さん曰く、三倉岳は「きつい山だよ」、私の靴を見て「田中陽希と同じだ」。そうなんだ(後で調べたら、メーカーが同じノースフェース)。
広場から三倉岳への登山コースに入り、キャンプ場を通り抜ける。平日だからか、キャンプしている人はいない。小さな水流をいくつか渡るとT字の分岐に着く。左が三倉岳登山道のAコース、右がBコース。今日は、BコースからAコースへ周回する予定だ。
Bコースを登り始めると段々傾斜が増して、階段道の急登となる。「4合目小屋入口」の道標を過ぎると「胴乱岩の由来」という説明看板がある。それによると、この辺り一帯は古来、磐境と言われ修行の道場とされていたそうな。どれが胴乱岩かは判らないが、周辺には巨岩が多い。五合目の標識を過ぎ、石段道を登るとベンチがあり、山麓の眺めがちょっと開けて、休憩舎の屋根が遠くに見える。
六合目を過ぎ、大きな岩壁の基部から右に回り込んで石段を上がると七合目。さらに急な石段道が続き、暑さも加わって、少々しんどくなって来る。管理人さんの「きつい山だよ」という言葉にも頷ける。
大きな岩壁を右に見て登ると八合目。ここからひと登りで、中岳(中ノ岳)と朝日岳(上ノ岳)の鞍部に登り着く。まずは右へ、朝日岳に往復しよう。と言っても、道標に「朝日岳 0.03km →」とある通り、僅かな登りで頂上に着く。おむすび形の巨石が山頂で、樹林に囲まれて眺めはあまり良くない。
鞍部に戻って中岳に向かうと、ルンゼ状の岩場が現れる。鎖とU字アンカーの足場で簡単に越えて、白砂に覆われた小ピークに登り着く。風化した道標があり、掠れた文字はかろうじて「天狗の踊場」と読める。
さらに鎖場を登ると中岳の頂上直下の分岐に着く。小ギャップを隔てて、大きな岩壁を擁する夕陽岳(下ノ岳)が眺められる。あの頂へは、どこをどう登るのだろう。楽しみだ。
ここには休憩して涼んでいるソロハイカーさんが居て、「中岳の頂上は肝が冷えますよ」と伺う。中岳のピークは丸みを帯びた一つの大きな岩場で構成され、鎖で登ると鎖の手摺が張られている。手摺の向こうは断崖絶壁で、下を覗き込むと確かに肝が冷える。岩場の最高点からの360度の展望は素晴らしい。南へ急角度で岩稜が落ち、隣の朝日岳の岩尾根や山麓の広場、休憩舎、栗谷の集落を俯瞰する。
岩場を下って分岐に戻る。ここから夕陽岳に向かう道の入口はトラロープで塞がれ、立入禁止の案内板が掲げられている。実は、登山口にも中岳〜夕陽岳の間は通行止との案内があり、このことは事前にネットでも調べていて知っていた(平成30年7月豪雨の被害らしい)。しかし、ネット情報によると、現在は通行止区間も注意すれば通れるとのこと。山を良く知る地元の方からの情報もあり、問題なく通行できると判断して先に進む。
鞍部に小さく下り、岩場を右に回り込んで登ると、確かに道が崩れた個所がある。しかし、頑丈な木の根を伝ってあっさり通過。急なルンゼ状の岩場となり、鎖とU字アンカーで登る。むしろ、ルンゼ内の落石の方が(僅かだが)危なそう。落石注意の看板もある。
さらに樋状の急登が続き、通行止区間の終点に張られたトラロープを越えて、Bコースの登山道に合流する。中岳からここまで特に危険な個所はなく、通行止にする程ではないと思う。左に少し登った所が夕陽岳頂上で、松に囲まれた岩場の上に御影石の石碑がある。
頂上から南へ、傾斜が緩く幅広い岩稜が延び、少し下れば三方に開けた展望が得られる。さらに下ると段々傾斜が増して、その先はクライマーの領域だ。左隣には中岳の岩峰と樹林に覆われた朝日岳を見おろす。周囲には緑に覆われた低い山並が延々と広がる。一通り展望を楽しんだのち、岩稜を登って頂上に戻り、Aコースで下山にかかる。
夕陽岳から下り始めると、すぐに鞍部(九合目)に着く。倒壊した小屋の残骸があり、これが九合目小屋らしい。Aコースはここから左に下るが、三倉岳の三角点峰も往復して登っておこう。
直進して少し登ると道が分かれる。赤テープの標識によると左が新道、右が旧道とのこと。ここは新道へ。登りの途中で、振り返って夕陽岳が見える場所がある。三角点は樹林に囲まれて展望は全くない。瓦小屋山への縦走路が分岐する。三角点から旧道を下って鞍部に戻る。あとはAコースの登山道を下るだけだ。
AコースもBコースと同じ様な、急な石段道が続く。小さくジグザグを切って下り、小沢を渡ると六合目の標識がある。
沢から離れ、五合目の標識を過ぎる。振り返ると中岳の頂と夕陽岳の大岩壁を仰ぐ。四合目小屋の標識から左の微かな踏み跡を辿り、水流に付かず離れず緩斜面を下るとA・Bコース分岐のT字路に出る。あとは往路を駐車場に戻る。
三倉岳は3時間ちょっとの軽い行程だったが、登り下りとも急坂が続き、結構歩き応えがあった。なんと言っても三つの岩峰の景観と、頂上からの展望が良かった。好天にも恵まれたし、今回の広島の山歩きの幸先は良いな。
泊地の三次へはR186を北上。途中、羅漢渓谷の道の駅でソフトクリームを食べて休憩し、吉和ICから中国道に乗る。ここまで、山と谷が複雑に入り組んだ山地の道が続き、ドライブを楽しむ。中国道を三次ICで降りて三次市街に入り、宿舎のホテル・アルファ-ワン三次に到着、チェックインする。部屋は7階で、窓から市街が一望できる。
三次は周囲を丘陵に囲まれた盆地にあり、江の川(ごうのかわ)の大きな3つの支流が合流する所に発展した街だ。江の川は中国地方最大の河川で、中国山地を貫流して日本海に注ぐ。ということは、三次は広島県なのに日本海側?ここに来るまで、全く知らなかった^^;
フロントで聞いた話によると、江の川の河川敷で8月31日に開催予定だった大きな花火大会(第30回みよし市民納涼花火まつり)が、大雨が続いたため明日14日に延期されて開催されるそうだ。ということは、明晩は宿の部屋で花火見物ができるな。
シャワーで汗を流してさっぱりしたのち、宿の近くの飲み屋で一人宴会。生ビールと牛筋煮込みと豚キムチを美味しく頂く。宿に戻り、明日の天気をチェックし、山歩き準備を整えて就寝した。
(広島県の山2日目の比婆山〜吾妻山に続く。)
参考ガイド:ひろしま百山(中国新聞社、1998年)