道後山・猫山
(この記事は広島県の山2日目、比婆山〜吾妻山からの続きです。)
広島県の山3日目は、日本三百名山の一座の道後山(どうごやま)に登っておきたい。しかし、道後山だけでは半日で終わってしまうので、もう一つ登ることを計画。道後山の南に「猫山」というシンプルかつ気を引かれる名前の山があり、『ひろしま百山』によると歩行時間も往復2時間半で手頃だ。という訳で、道後山と猫山をはしごして登ることにする。
道後山
この日の朝はのんびりして、陽が昇ってから三次の宿を車で出発。西城の町を過ぎ、西城川とR183、JR芸備線に沿って険しい山間に入って行くところまでは昨日と同じ。R183から分かれて、道後山高原スキー場の車道を上がって行く。スキー場の中腹にWCがあり、用はここで済ませておくのが吉(登山口にもWCがあるが、故障のため使用不可)。
スキー場トップからさらに少し上がった車道終点が登山口の月見が丘だ。広い駐車場には既に多くの車があり、何人ものハイカーさんが出発の準備をしていて、道後山の人気の程がわかる。駐車場の奥には、なだらかな丘のような岩樋山(いわひやま、1271m)がすぐ近くに見える。ここはもう標高1070mなので、標高差は200mしかない。楽勝である。
登山道は、最初は幅広く平坦だ。緑深い樹林帯の中を歩く。小さな湿地にはオタカラコウが咲いている。やがて傾斜が増して、細い山道となる。先行していた3人組ハイカーさんが道端で何かに熱心にカメラを向けているので、何を撮っているんですか、と声を掛けて見せて貰うと、昨日、比婆山で見た花だ。名前を知らなかったのでハイカーさんに尋ね、ツルニンジンと教えて頂く。昨日以来の疑問が解けてスッキリ。
やがて休憩所を過ぎ、右に岩樋山を巻くトラバース道を分ける。岩樋山頂上に向かう山道には丸太階段が多く、登山口から見たときの印象よりかは登りが急だ。
やがて樹林を抜け、低木帯のなだらかな斜面に出る。右側に展望が開け、樹林に覆われてゆったり広がるスロープの向こうに金字形の独立峰が眺められる。あれが猫山だ。どっしりと大きな山容で、なかなか見栄えが良い。
低木とススキ野原を緩く登って、誰もいない岩樋山の頂上に着く。頂上は広く平坦で360度の展望が開け、周囲の草原には色々な花が咲いている。なお、岩樋山の方が道後山より2m高い。
岩樋山から道後山へは、低木と草原に覆われた高原状の稜線が続き、終始、眺めが得られる爽快な散歩道だ。少し急な坂を下り、笹原に覆われた鞍部で巻道と合流する。ここからゆるゆると登って、着いたピークは1271m標高点峰。道後山の頂はその先、すぐの距離に見えている円頂だ。
道後山の頂上も平坦で広い。振り返ると草原に覆われたなだらか稜線の向こうに、岩樋山の頂上が少しだけ見えている。南面は低木に覆われた緩斜面で、その中程には大池の水面が小さく光っている。
復路は巻道を使う。道後山から東に向かって草原を下る。北東の方向には伯耆大山があるはずだが、遠いため霞んで見えない。低木帯に入ると持丸山登山口への道が左に分岐する。そちらの道は草藪に覆われて、利用者は稀なようだ。
巻道は道後山の南面に回り込み、低木に覆われた緩斜面をトラバースしていく。やがて大池という名の小さな池の畔を通る。木々が少し邪魔だが、道後山のなだらかな頂上を背景にして、水面に映った頂上の影の写真を撮る。
さらに巻道を歩いていて、ふと、右上の岩場に二体の石仏が祀られていることに気づく。近づいて見てみると、一体は左の掌の上に薬壺(やっこ)を載せ、右手に数珠?を持つ僧侶のような像だ。台座には何やら文字が刻まれているが読めない。結構、古いものであることだけは確かだ。もう一体は風化が進み、像容が分かりにくい。
巻道が終わり、低い石垣の跡を跨いで稜線上の登山道と合流する。この石垣は登山道に沿ってしばらく続く。この辺りには、かつて、両国牧場という牧場があったそうなので、その境界の遺構だろう。
下り着いた鞍部で左に分かれて、岩樋山南面の巻道に入る。笹原と低木帯の斜面をトラバースし、程なく樹林帯に入って、緑陰の山道を辿る。往路と合流し、あとは月見が丘駐車場まで往路を戻る。駐車場の車はさらに増えていた。
道後山は約2時間半と短い行程の軽い山だが、牧歌的な稜線歩きは開放的で、好天と展望にも恵まれ、リラックスして楽しめた。紅葉や積雪の時期も良いのではないかと思う。
猫山
猫山の登山口は北麓にあり、小奴可(おぬか)に向かう車道沿いに「猫山登山口→」の看板と広い駐車場がある。3台程の駐車があり、先に登っているハイカーさんがいるようだ。隣の福岡ナンバーの車では、ソロのおじさんが出発の準備をしている。挨拶して話を伺うと、午前中は「多飯(おおい)が辻山」に登って来たそうだ。これまたマニアックな山に登っておられる(^^;)。
駐車場から猫山を高く大きく仰ぐ。頂上までの標高差は約500mあるから、一山登った後ではそれなりの登り応えがありそうだ。出発の前に昼食にして、パンを齧って腹に入れる。
駐車場の右奥から山道に入ると、すぐに二体の石仏がある。山道の左側の少し離れた場所にあり、見逃しやすい。両方とも「行者道」と刻まれており、猫山の山岳信仰に由来する物のようだ。
山道は斜面を直上して一直線に登って行く。山道を流れる雨水のため、道は掘り窪められて湿った落ち葉が積もり、歩くのに支障はないが、やや荒れた感じがする。周囲の林は藪っぽい里山の雰囲気があり、色々なキノコが出ている。
山道は猫山スキー場に沿って登り、左側の木の間を透かして、すぐ隣にゲレンデが見える。檜の植林帯に入り、徐々に傾斜が増す。やがてスキー場トップ(リフト終点)に着き、ゲレンデに出ると岩樋山と道後山の優美な山容が眺められる。
山道はここで右に折れ、急峻な山腹のトラバースに入る。このトラバースは、感覚的にはずいぶん長い(時間は約10分)。ようやく枝尾根に達し、左に折れて枝尾根を直登する。
急坂を登り、それから樹林に覆われた斜面を右上に登ると傾斜が緩み、程なく猫山の頂上に着く。頂上は塚のような岩場で、その上に三角点標石と山名プレートがある。樹林に囲まれて展望は全くなく、ちょっとガッカリさせられる。
展望は頂上の先で得られる。笹原の中の踏み跡を辿って南に向かうと、樹林が切れて草地となった所に出る。ここは展望が良く、南には小奴可盆地の田園や白滝山、手前に猫山と峰続きの南峰が眺められる。ここでは先行パーティが休憩中。話を伺うと、南峰を目指したが遠そうなので、ここで止めにしたとのこと。私もちょっと足が重くなって来たので、そうしようかな。と思って、南峰の頂に目を凝らすと、どうも人が居る。多分、二度とない機会だし、南峰まで行ってみよう。
草原の中の微かな踏み跡を辿り、すぐに樹林帯に入る。しっかりした踏み跡が続き、緩く登ると意外とあっさり南峰の頂上に着く。
頂上では年配で3人組のハイカーさんが休憩中。地籍図根三角点のプレートがある。展望については、南に小奴可盆地や白滝山が見えるのは同じだが、グッと近づいて俯瞰する度合いが強まるし、西にも展望が開けて、遠くに福田頭や比婆山連峰らしき山影が見える。また、北には猫山の頂を望み、山頂から右へ大きく山麓に落ちる斜面を一望する。素晴らしい展望で、南峰まで来て良かった。
南峰からの眺めを堪能したのち、往路を戻って下山する。トラバース道を歩いているとき、行きには見逃していた堂の跡に気が付く。堂の背後の岩場には、役の行者をはじめ三体の石像が祀られている。この場所に着いては、参考ガイドに「トタンぶきの猫山大権現の御堂が現れ、大岩のある五合目に着く。登山口から約40分。役の行者を祀った「山上さん」があり、三体の石像が安置されている。」と記述されている。
猫山は、最初に山名に興味を持って登った山だったけれども、大きな独立峰でなかなか歩き応えがあるし、頂上付近や南峰からの展望が素晴らしくて、期待以上に楽しめる山だった。登山口の駐車場に下り着き、三次の宿への帰途についた。
(広島県の山4日目の福田頭・葦嶽山に続く。)
参考ガイド:ひろしま百山(中国新聞社、1998年)