大和葛城山・金剛山
9月15日〜17日の3連休は、直前の14日まで所用で奈良に居るので、引き続き奈良県内に滞在して、周辺の山に登ることを企てる。
さて、どこに登ろうか。奈良県の山に登るのは初めてなので、まずは有名どころからということで、県内の日本二百・三百名山から大和葛城山(やまとかつらぎさん、959m)、金剛山(こんごうさん、1125m)、山上ヶ岳(さんじょうがたけ、1719m)、竜門岳(りゅうもんだけ、904m)の4座を選択。近鉄吉野線下市口駅(奈良県吉野郡大淀町下渕)の近くに3泊4日で宿をとり、ここを拠点にして、それぞれの山を日帰りで登ってきました。
大和葛城山
近畿には奈良県御所(ごせ)市と大阪府の境、和歌山県紀の川市と大阪府の境の二ヶ所に葛城山があり、前者は大和葛城山、後者は和泉葛城山と呼ばれている。
14日の午前で所用は終了。その後、猿沢池や興福寺、奈良公園を少し散歩する。海外からの観光客が非常に多い。奈良公園の鹿は、鹿せんべいを買った観光客にはワラワラと群がるが、販売所に積まれた鹿せんべいには見向きしない。よく学習しているなと感心する。
JR奈良駅の食堂街で昼食をとり、13時頃、レンタカーの N-WGN で駅前を出発。奈良盆地を南下して、大和葛城山に向かう。上空は灰色の雲に覆われ、途中で雨粒も落ちて来る。今日は天気が良くないし、時間も遅く、そもそも登山装備は予め宅配便で宿に送っていて、手元にないので、葛城山は往復ともロープウェイを利用し、ちょこっとだけ歩いてピークハントするつもりだ。
葛城山ロープウェイの山麓駅(葛城登山口駅)に到着。がらんとした駐車場に車を置く。平日なのに駐車料金1000円は痛い。ロープウェイ運賃は往復1250円。30分間隔の運行で、15:30発に乗る。乗客は私一人だけで、そりゃ、平日夕方のしかも雨が降っている状況で登る物好きはそう居ないだろう。係員も怪訝な感じで、上(国民宿舎がある)に泊まりかと尋ねるので、日帰りと答えると、下り最終は17:00発と念押しされる。なお、葛城山は春のヤマツツジが見事で、シーズン中には乗車待ちが2〜3時間にもなるそうである。
ロープウェイから見下ろす葛城山の尾根と谷は、1000mに満たない山にしては急峻だ。沢筋に砂が厚く堆積しているのは、先般、関西に上陸した台風21号の影響か。眺めを楽しんで山上駅に着く。しょぼ降る雨の中、折り畳み傘を広げて歩き始める。幸い、整備された遊歩道を歩くので、半袖カッターシャツ、チノパン、革靴という出で立ちでも問題ない。
途中、登山口に至る「櫛羅(くじら)の滝コース」と「北尾根コース」の登山道が分岐するが、いずれも台風の影響で通行禁止となっている。できれば、これらのコースを利用し、登山口から歩いて登りたかった。
ダイヤモンドトレールを右に分け、白樺食堂という休憩処(今日は営業していない)の前で右折。穂が出始めたススキ原の中の階段道を登って、葛城山の頂上に着く。
頂上は四方に開けて、天気がよければ大展望が期待できそうだが、今日は雨雲の中で何も見えない。周辺の山の影が薄っすらと見える程度である。写真を数枚撮って引き返す。
次のロープウェイは16:30発で、十分時間があるから、のんびり歩いて山上駅に戻る。往復40分くらいであった。改札を通り、搬器に乗り込んで、山麓を眺めながら発車時刻を待つ。下りも当然ながら乗客は私一人。大げさに良く言えば、葛城山を貸し切り独占状態でピークハントした(^^;)。山麓駅に到着して駅前から振り返ると、葛城山の上部が雲の間から少しだけ見える。機会があれば再訪して、じっくり歩いて登りたいものである。
葛城山山麓から宿を取った大淀町下渕までは、車で30分弱だ。宿舎の松月館の場所は少々分かりにくいが、R370沿いに案内看板が出ている。旅館というか、部屋数5〜6の民宿である。安く泊まれる点が人気で、満室のようだ。登山装備の宅配便は無事届いていた。
風呂に入ってさっぱりしたのち、(素泊まりなので)飯を食いに歩いて外出する。R370を少し西に進んだ大淀食堂街という所に良さげな定食屋があり、ここで生中、餃子、豚肉野菜炒め定食を頂いて満腹。宿に戻り、天気予報を見ると、明日より明後日の方が天気が良さそうだ。好天の日は標高が高い山上ヶ岳に充てて、明日は金剛山に登ることにする。
金剛山
翌朝、7時頃に車で宿を出発。出掛けに宿のオーナーのおじいさんに金剛山に登ることを伝えると、彼のホームグラウンドの山だそうで、登山ルートについて話を伺う。金剛山は大阪府側から登られることが多いようだが、奈良県側からだとやはり予定している天ヶ滝(あまがたき)新道がポピュラーなようだ。
R370を経由して、R24沿いのJR五條駅近くのすき屋で朝食をとり、コンビニで昼食のパンを購入。それから、カーナビ任せで小和(おわ)登山口に向かう。最後はすれ違い困難な細い坂道となり、集落を抜けて谷間を上がって登山口に着く。8台分程の駐車スペースがある。今日は他の車はなし。「金剛山登山コース」の案内板の他、奈良県警が設置した “Mountain accidents happen often!!” という登山者への警告を和英併記した黄色の目立つ看板がある。これによると、油断大敵は訳すと “over confidence is the greatest enemy” となるらしい。勉強になるな。
今日の装備は完全な登山用。登山靴に履き替えて出発、木の階段道を登る。すぐに車道を横断し、しばらく階段の急登が続く。気温は高くないが、霧が立ち込めて湿度が高い。なるべく汗をかかないよう、ゆっくり登る。
やがて傾斜が緩まり、尾根上を直線的に登る。檜林に覆われて、展望はほとんどない。林床の湿った落ち葉の間には、白いキノコがニョキニョキと大量に出ている。この秋はキノコが豊作な予感。
やがて「天ヶ滝 0.1km」の道標やベンチ、「金剛生駒紀泉国定公園」の標柱ある分岐に着く。右の滝への道に入ると、山腹をトラバースして緩く下り、一部藪っぽいところを抜けて渓流に降り、少し遡ると二段に落ちる天ヶ滝が現れる。水害でちょっと荒れた感があるが、落差7m×2くらいの立派な滝だ。
分岐に戻って尾根上を緩く登ると、左山腹をトラバースして斜め上へ登り始める。道の傾斜は緩くて楽だ。実をつけ始めたヤブミョウガが多い。檜林に覆われて相変わらず展望はないが、木の間から僅かに得られる個所があり、霧はだいぶ晴れてきたようだ。
大きくジグザグを切って登ると、尾根上の平坦な踊り場の「中ノ平」に着く。ここの道標はJR北宇智駅の時刻表(2016.11現在)付きなのがユニーク。ベンチもあり、涼しい風が吹き抜ける休憩適地だ。
標高の上がったこの辺りから、台風襲来の際の強風で折れて落ちた緑の枝葉が登山道を覆い始める。ただし、小さい物がほとんどなので、歩く邪魔にはならない。尾根を絡んで緩く登ると新欽明水で、右下に水場がある。ここも落ちた枝葉に覆われているが、パイプからチョロチョロと流れ出す冷たい水を飲むことができた。
新欽明水から山腹をトラバースして少しで主稜線に登り着き、縦走路(ダイヤモンドトレール)に合流する。笹原と低木が繁る平坦な稜線を北に辿ると未舗装の車道に出る。ここが伏見峠だ。道標にはダイヤモンドトレールを略して「ダイトレ」と書かれ、マクドみたいな関西風センスを感じる(^^;)。ちなみにダイヤモンドトレールの名称は金剛石(ダイヤモンド)に由来している。
伏見峠から金剛山までは、主に稜線上の未舗装車道を辿る。左側は府民の森ちはや園地で、金剛山キャンプ場や大屋根広場、休憩所などが整備され、ここで今日初めてハイカーさんを見かける。
休憩所の少し先には鉄骨製の展望台があり、登ってみると四方が眺められる。今日は曇りで霞んでいるが、これから向かう湧出岳(ゆうしゅつがだけ)や葛木岳(金剛山の最高峰)、微かに和泉山脈の山々が眺められる。
展望台の次の小ピークには「大阪府最高地点 標高1053m」との標柱が建つ。金剛山より低いのに最高点?と思って地図を良くみると、金剛山の頂上付近は完全に奈良県に属しているのであった(では何故、金剛山頂上が奈良県なのか。後日調べると、金剛山北面を水源とする水越川の水論の結果だそうだ)。
車道を辿ると、右に湧出岳への直登ルートが分岐するので、もちろんそちらへ。深く洗掘されて笹が覆い被さる山道を登ると、電波塔が建ち並ぶ湧出岳の頂上に着く。樹林に囲まれて展望はない。頂上の一角には「妙法蓮華経如来神力品第二十一」と刻まれた石碑がある。これは葛城二十八宿の経塚の一つで、修験道の道場になっている。また、金剛山展望塔という鉄塔も建つが、古いものなので保存が図られ、立入禁止になっている。展望塔の裏手に湧出岳の一等三角点標石がある。
湧出岳から急な作業道を下って車道に合流。ここに出迎え不動明王の石像がある。説明板によると、湧出岳には神々が湧き出て日本全国に広まったという伝説が残るそうである。
右に水越峠・大和葛城山へのダイトレを分け、一ノ鳥居を潜って緩く登る。樹齢500年の仁王杉をはじめとして杉の巨木が立ち並ぶが、太い幹がポッキリ折れたものもあり、先の台風の猛威が窺われる。
やがて葛木神社の参道石段の下に着き、石段を登って神社本殿にお参りする。本殿裏手の高みが金剛山の最高地点(葛木岳頂上)であるが、聖域のため立入禁止となっている。
神社から参道を下り、後醍醐天皇と大塔宮を供養するために足利時代に建立されたという宝剣塔や夫婦杉の巨木を過ぎると、右手の山間に転法輪寺の本堂が建つ。
本堂前の石段を下ると平地となり、不動像やひさご沼という小さな池がある。ひさご沼は太閤秀吉が参詣の際に瓢簞を模(かたど)って掘ったそうだ。
すぐ先には社務所や宿坊、公共WC、営業中の売店があり、広い山頂広場に続く。
山頂広場には金剛山頂の山名標識があり、普通はここが金剛山の頂上とされている。ベンチがあり、展望も得られて、休憩中のハイカーさんが多い。ただし、今日はガスっているため、展望は雲の下に富田林(とんだばやし)市辺りの街並みが眺められる程度である。山名標識の辺りはライブストリーミングカメラで常時インターネット中継され、名物になっている。また、ここの照明灯は夜間、大阪からも光っているのが見えるそうである。
府民に親しまれて繰り返し何度も登る人も多く、回数登山が盛んなことでも有名で、ちょうど1500回登ったおじいさんが、お孫さんと記念撮影をしていた。また、大台の回数を達成した人の名札を並べた看板があり、それによると最多は15,000回以上!もう人生をかけるレベル(毎日登っても41年)で、ビックリ仰天である。
ベンチに腰掛け、パンを齧って昼食をとったのち、下山にかかる。帰りはロープウェイ山上駅に向かう遊歩道を辿る。葛木岳と湧出岳を巻いて山腹をトラバースするので楽チンだ。
ちはや園地に入り、ロープウェイ山上駅から舗装された歩道を緩く登ると、見晴らしの良い尾根の鼻に千早赤坂村村営宿泊施設の香楠荘が建つ。ここから、行きに通った休憩所までは直ぐで、その先は往路をそのまま戻る。下りは楽だ。段々と晴れ間が広がり、明日の天気に期待を持つ。登山口に下り着くと駐車が1台増えていたが、天ヶ滝道の往復では一人もハイカーさんに会わなかった。
宿にサクッと帰り、入浴して汗をさっぱり流したのち、夕食は昨夜と別の近くの定食屋に入る。おばさんが一人で切り盛りしている店で、地元の人が数人集まって世間話で盛り上がっていた。生中と親子丼を頂いて宿に戻り、明日の山上ヶ岳のコースを検討したのち、就寝した。
(奈良県の山3日目の山上ヶ岳に続く。)