阿弥陀岳
この夏は記録的な猛暑が続いたので、手軽に行けて涼める高山として、好んで度々北八ヶ岳に出かけた。これで北八ヶ岳の主なピークはほぼ全て登って、残りは八子ヶ峰(やしがみね)くらい。南八ヶ岳まで範囲を広げると、阿弥陀岳と編笠山にはまだ登っていない。阿弥陀岳は、最近の山行で、南の権現岳や北の天狗岳から眺める機会があり、赤岳と並んで鋭く聳える三角錐の山容が格好良くて、改めて登りたくなった山だ。という訳で、この週末は阿弥陀岳へ。美濃戸口から御小屋山(おこややま)を経て登ってきました。
桐生を深夜2時頃に車で出発。佐久南ICで高速を降り、白樺湖を経由して八ヶ岳西麓の八ヶ岳エコーラインを走る。夜明け前の空に八ヶ岳連峰のシルエットが高々と浮かんで、登高意欲が高揚する。一番塚交差点で左折。林間を緩く上がって美濃戸口に着く。八ヶ岳山荘の前に5段に造成された駐車場(150台)があり、6割方埋まっている。出発準備中の登山者も多く、さすが八ヶ岳の玄関口、早朝から賑わっている。
歩き出して直ぐに左に美濃戸への未舗装道を分け、別荘地内の幅広い車道を登る。縦横に車道が通じるが、要所に新しい道標が設置されている。散歩中の別荘オーナーのおじいさんから、良い天気ですね、と声を掛けられて、ええそうですね、と返す。ここは標高1500mの高地で涼しいので、この夏みたいな猛暑を避けるには良い滞在地だろうな。
30分程で別荘地を抜けて、山道に入る。こちらのルートは登山者は少ないが、それでも若者やソロのおじさんがパラパラと登っている。皆、足が速く、どんどん追い越される。まあ、私の方は写真を撮ったりして、のんびり登っているが、それにしても健脚揃いだ。
カラマツやシャクナゲに覆われた尾根上の登山道を登る。右に舟山十字路からの尾根を望む辺りから、徐々に傾斜が増す。林床が苔に覆われた針葉樹林帯の急坂を登り、舟山十字路からの登路と合流。なだらかな尾根道となって、御小屋山頂上に着く。手前に三角点標石、少し先の最高地点に新しい山名標柱がある。樹林に覆われて、展望はない。
少し休憩したのち、平坦な尾根を辿る。シラビソやシャクナゲの樹林に覆われるが、所々から南アの北岳、甲斐駒、仙丈や、権現岳を望む。権現岳は左に旭岳、右にギボシと峻険な三峰が鼎立して、なかなか魁偉な山容だ。途中、稲子岳でも見た花がたくさん咲いている。名前は分からないままだったのだが、後日、同じ花の写真が山が一番さんの記事に載っていて、ハナイカリと判明する(感謝!)。
尾根道の傾斜が増してくると、不動清水(約5分)の道標がある。水は十分持っているが、どんな場所か、立ち寄って見よう。右に分岐して山腹をトラバースすると、僅か2分で水場に到着。岩の間からバンバン湧いていて、一口掬って飲むと冷たくて美味い。近くには「生力不動」の石碑と光背に迦楼羅を刻んだ不動明王像がある。
水場から戻って、急な尾根道を登る。水場で追い付いて来たソロハイカーさんはめちゃ足が速くて、アッと言う間に視界から消えた(^^;)。尾根上を直線的に急登、ぐんぐん高度を上げる。木の間から振り返ると、御小屋山が既にかなり下に見える。
やがて、傾斜が一旦緩んだ踊り場に登り着いて行く手が開け、頭上高く阿弥陀岳の頂を望む。逆光でディテールは見にくいが、頂上直下はかなり急そうだ。権現岳もゴツゴツした山容の大部分が露わになって、良い眺めだ。
尾根道を急登すると、高度が上がるに連れて樹林が低くなる。小岩峰を過ぎるとハイマツ帯に入り、眺めが開けて高山の雰囲気。左には横岳、硫黄岳、天狗岳、遠く蓼科山を望む。振り返れば御小屋山が遥か眼下。茅野市街や諏訪湖を望み、御嶽山を遠望する。行く手にはハイマツ帯のジグザグ道を先行するハイカーさんの姿が小さく見える。
さらに傾斜が増し、ロープが張られた小さな岩場を越えてハイマツの間を急登すると、頂上稜線の一角に飛び出る。阿弥陀岳の頂上は摩利支天(西の肩)の小岩峰の向こう、あと少し距離だ。
稜線の右側は急峻で、阿弥陀南稜を見おろし、その向こうに大きく盛り上がる権現岳を望む。左側には横岳から硫黄岳、天狗岳、蓼科山が一望だ。摩利支天の頂(犬反し岩)には「行場 敬愛社」と刻まれた御影石が埋め込まれている。摩利支天の下りは小ギャップとなり、右側は切れ落ちて高度感がある。設置された鎖と鉄梯子を頼りに、慎重に降りる。
登り着いた阿弥陀岳の頂上は広い平地となり、大勢の登山者で賑わっている。ヘルメット着用の人が多いのは、南稜を登って来たのかな(理由は直ぐに判明する)。山名の通り阿弥陀如来像が祀られ、その他、大日大王神、金比羅神社、武尊山神社、諏訪神社、羽黒山神社、御嶽神社、白髭大明神など多数の石碑があって、信仰の山であることが窺える。
頂上からの展望はまさに360度。今日は比較的空気が澄んで遠見が効き、富士山や南アがくっきり見えるほか、白い雲がちょっと纏わり付くが中ア、御嶽山もよく見えている。
阿弥陀岳は南八ヶ岳の主稜線から少し離れた所に位置するので、その展望は南八ヶ岳の主要ピークを横並びに眺め、さらに北八ヶ岳の天狗岳、蓼科山まで遠望できて圧巻。中でも、阿弥陀岳からガクンと下がった「中岳のコル」を隔てて、屛風のように聳える赤岳は白眉だ。目を凝らすと、赤岳頂上に大勢の登山者が居ることがわかる。
展望を楽しんでしばらく休憩したのち、下山にかかり、中岳のコルに向かって急坂を下る。ガレた道で浮石が多く、先行するハイカーさん、登ってくるハイカーさんが連続するので、石を落とさないよう神経を使う。ヘルメットを被っている人も多く、確かにここは着用した方が良い。無事にコルに下り着いて、ほっと一息つく。
時間と体力に余裕はあるが、赤岳は数年前にも登っていて記憶に新しいし、人がすごく多そうなので、今回は割愛。行者小屋に向かって下る。横岳や赤岳を仰ぎ、下方の樹林中に行者小屋の屋根を見ながら、ガレや草原の斜面をトラバースする。やがて大きくジグザグを切って樹林帯に入る。左に沢を見て下り、右からのガレ沢を渡ると赤岳へ登る文三郎尾根の分岐点。行者小屋はこの先、緩く下ってすぐだ。
到着した行者小屋は登山者で溢れんばかりの大盛況。まあ、赤岳や横岳、小同心・大同心の岩峰を仰ぐ景観は素晴らしく、大人気なのも頷ける。特に女性に人気が高い模様。家族連れも多い。小屋の前にたくさんのベンチテーブルがあり、そろそろ昼時なので休憩しようと思ったが、満席。しかし、どうもツアーの団体さんが休憩していたようで、やがて出発して席に着けた。レトルト鯖味噌煮とノンアルだけを飲み食いして、小腹を満たす。
行者小屋からは大勢の登山者と前後して南沢を下る。テント泊の帰りなのか、大荷物のグループが多い。最初は白河原と呼ばれる涸れ沢の広い河原をゆるく下る。振り返ると赤岳や横岳が眺められて、山岳展望を惜しみつつ歩く。
やがて傾斜が少し増して、樹林中の幅広い道を歩くようになる。水流が現れ、渓流に沿って下る。立派な木橋で繰り返し渓流を渡る。途中に石祠や「大山命 赤嶽神社 不動明王」の石碑、霊神碑が集まった岩場があり、ここも山岳信仰の道だったのだろう。
沢に砂防堰堤が現れ、苔むした林床の針葉樹林の中の布袋蘭の自生地の看板(花期は5月頃らしい)を過ぎると、未舗装の林道に出る。南沢と北沢の分岐点で、すぐ先に美濃戸山荘がある。山荘の向かいに日陰があり、ここで休憩。お湯を沸かしてカップ麺を作り、遅い昼食を摂る。その間にも続々と登山者が下ってきて、大勢が山荘前で一休みする。
あとは美濃戸口まで、小一時間の林道歩きだ。すぐに「やまのこ村」と赤岳山荘があり、周辺の登山者用駐車場は車でいっぱいだ。林道を大勢の登山者と前後して下る。時々、帰る車が、土埃を巻き上げないように速度を落として追い抜いて行く。途中、道標に導かれて、ショートカットの旧道を通る。
ジグザグに谷へ下って渓流を渡り、少し登り返して美濃戸口に戻り着く。八ヶ岳山荘前の美濃戸口バス停にはちょうど茅野駅行のバスが来ていて、ほぼ満席くらいの登山者が乗り込んでいる。車に戻ると、窓に駐車料金の請求書が挟まっていて、これを持って八ヶ岳山荘の受付で料金(500円/日)を支払う。
阿弥陀岳までの往路は比較的静かな山歩きだったが、復路は超メジャーな登山ルートの雰囲気を久し振りに体験した感じ。阿弥陀岳自体は程良い登り応えがあり、アルペン的な景観と大展望が素晴らしかった。立場山からの南稜も機会があれば歩いてみたい。
帰りは美濃戸口から近い「もみの湯」に立ち寄る(500円)。それ程混んでいなくて、ゆったり湯船に浸かる。露天風呂も有り。サッパリ汗を流したのち、まだ陽の高い八ヶ岳エコーラインから白樺湖へドライブを楽しみ、佐久南ICから高速に乗って帰桐した。