鞍掛山・富士写ヶ岳
(この記事は石川県の山2日目、大日山からの続きです。)
大聖寺(だいしょうじ)を根城にして、前日は加南三山の盟主、大日山(だいにちざん)に登った。石川県の山歩き最終日の今日は、三山の残りの二座、鞍掛山(くらかけやま)と富士写ヶ岳(ふじしゃがたけ)に続けて登る。鞍掛山のコースタイムは2時間5分、富士写ヶ岳は4時間35分と短いから、1日で回れるだろう。幸い、天気も快晴だ。
鞍掛山
早朝、大聖寺駅前のアパホテルをチェックアウトし、前日からレンタルしているVitzで出発。R8沿いの吉野家で朝食を摂ったのち、小松市滝ヶ原町の鞍掛山登山口に向かう。鞍掛山への案内看板に導かれて、田園から里山の山懐に入る。第二駐車場からさらに谷間に入ると、杉林に囲まれた第一駐車場があり、ここに車を置く。まだ朝早いのに既に5台程の駐車があり、鞍掛山の人気の高さが窺える。新しい登山案内看板や登山届のポストがあり、滝ヶ原町鞍掛山を愛する会が環境や登山道の整備をして下さっているそうである。
駐車場から未舗装の林道を歩くと、すぐに西ノ谷登山道を右に分ける。帰りはそちらから降りて来る予定だ。分岐には(ここ以降の分岐にも)道標が完備している。
小さな沢に沿って林道を奥へ歩く。この沢は一枚岩のナメ床が続き、小さいながらもきれいな渓流を示す。鞍掛山は急峻な山で岩場が多く、そんな地質・地形が谷筋にも現れているようである。
右に中ノ谷登山道を分け、左の行者岩登山道を進む。しばらく林道が続くが、やがて道が細くなって山道となる。両側の山腹は急峻で、小さなV字谷を成す。沢を渡ったり、ナメに沿って登ったりして、変化に富んだ楽しい道が続く。
右斜面に帯状の岩壁を見ると、山道は渓流から離れて右斜面に取り付く。ジグザグに登ると「行者岩(トンビ岩)」の標識のある岩壁に着く。岩壁の基部には鞍掛山千手観音の新しい感じの石仏が祀られている。「仙人滝」の道標に導かれて基部の左に行ってみると、すぐ先に落差2mくらいの小滝が細々と水流を落としている。
登山道に戻って急登し、行者岩の上に出る。岩頭から緑に覆われた谷や対岸の尾根が眺められる。山腹を斜め左に登り、最後にジグザグに上がって、鞍掛山の「鞍」にあたる南の鞍部に着く。道標や十一面観世音菩薩の石仏、赤松の大木の下にベンチがある他、鞍掛山避難小屋(というよりは小さいながらも立派な山小屋)が建つ。鞍掛山へは右だが、左の後山に立ち寄ってみよう。
鞍掛山から来たハイカーさんと前後して左へ稜線を辿ると、小さく登って後山の頂上に着く。頂上から東に三童子山(493m)への縦走路、西に「加賀とのお新道」が分岐する。樹林に囲まれて展望はない。こちらに来たお目当ては、後山から少し下った所にある獅子岩からの展望だ。
獅子岩の岩頭に立つと下は切れ落ちて爽快、そして加賀南部の山々が一望できる。そう高くはないが、山並みが幾重にも重なって、なかなか奥深い山地だ。山並みの中でも、昨日登った大日山と、今日このあと登る富士写ヶ岳が頭一つ抜きん出た山容を示す。地域の山を代表して加南三山に数えられているのも宜なるかな。
避難小屋のある鞍部に戻り、そこからちょろっと登ると鞍掛山の頂上に着く。ザレた小平地が広がり、四方の展望が得られる。ただし、大日山や富士写ヶ岳は樹林の梢越しとなるので、そちら方面は獅子岩から眺めた方が良い。北の眺めは良く、山麓の田園や丘陵を俯瞰し、日本海を遠望する。
展望を楽しんでいると、ハイカーさんが次々に頂上に登り着く。そろそろ下山しよう。
頂上から西ノ谷登山道に入ると、頂上直下の急斜面をジグザグに下ったのち、明るい尾根上の急降下となる。ところどころにステップを刻んだ岩場や、ロープが固定された急坂がある。松と露岩が多い点で、足利の里山に似た風情がある。下から老若男女、家族連れ、グループのハイカーさんが続々と登って来る。人気が高い山だ。
途中、尾根の傾斜が緩むと舟見平という小平地に着く。ベンチがあり、休憩中のハイカーさんが雑談に興じている。振り返ると鞍掛山がキリッと聳えているのが眺められる。
舟見平から右に下り、階段道を急降下して檜林に覆われた谷間に下り着けば、車を置いた第一駐車場はすぐの距離である。
驚いたことに駐車場は満杯で、後から車が何台も来ては、駐車を諦めて引き返して行く。大人気の山だなあ(帰りに見たら、第二駐車場の方はまだ余裕有り)。駐車場脇の流水で汗を拭い、登山靴を履き替え、手早く駐車場から車を出して、富士写ヶ岳の我谷(わがたに)コース登山口に向かう。
富士写ヶ岳
我谷コース登山口には、昨日、大日山に向かう際に通りがかっているから、すんなり到着。富士写ヶ岳もハイカーさんに人気が高く、登山口の駐車場は満杯。少し先の駐車場が空いていたので、そちらに車を置く。
登山口は我谷ダム富士写湖(ふじしゃのうみ)の湖畔にあり、長い吊橋で湖を渡る。畑薙湖を吊橋で渡って登った茶臼岳を思い出す。山のスケールはもちろん違うが、ちょっと南アっぽい。吊橋の半ばから仰ぐ富士写ヶ岳の頂はなかなか高く険しく見え、1000mに満たない標高の山にしては迫力がある。
対岸に渡って山腹を登り、尾根上に出る。後は自然林に覆われた展望のない尾根を、ほぼ真っ直ぐひたすら登る。そんなところも、ちょっと南アっぽい。
途中、送電鉄塔下の刈り払いから、富士写ヶ岳の頂上を望む。天気が良く、日差しが強くて暑いくらいなので、樹林の木陰の道の方が楽だなと思う。
やがて中間地点の標識を見る。ええっ、まだ半分という感じ。このあとも、ブナを混じえた自然林の尾根の登りが続く。
ブナの美林を通ると少し傾斜が緩む。所々で眺めが得られ、富士写ヶ岳の頂上がようやく近づいて見えて来る。北には山中温泉や加賀市街、日本海を遠望する。
やがて頂上稜線への登りとなり、ブナ林に覆われた山腹を急登する。稜線に出、右に緩く登って富士写ヶ岳の頂上に着く。
頂上の周囲は意外と広く平坦で低木に覆われ、その中に切り開かれた広場に一等三角点標石と山名標識、方位盤がある。360度の展望が得られる中で、一番目を惹くのはやはり大日山だ。それと北麓の眺めも良い。
方位盤は御影石製で八角柱状の立派なもので、側面に「深田久弥 日本百名山著者」と深田氏のポートレイト、反対側に「2016年8月11日 山の日記念事業 実行委員会」の銘がある。大聖寺に生まれた深田久弥は、小学6年生の時に初登山で富士写ヶ岳に登っており、その所縁と山の日制定の記念で方位盤が設置された、ということのようだ。
ベンチに腰掛けて、パンとペットボトルのお茶の昼食を摂る。他には若いペアのハイカーさん1組が休憩している。話をすると地元の方だが山はあまり登ったことがないそうで、鞍掛山に登って来ました、と言っても鞍掛山をご存知なかった。下山は、私と同じく枯淵(かれぶち)コースをとるそうで、しばらくして先に下って行った。
休憩を終え、私もそろそろ下山するとしよう。鞍部に戻り、稜線を直進して前山の頂上に出る。石仏が祀られ、深田久弥の山恋の詩碑がある。
山の茜を顧みて
一つの山を終わりけり
何の俘のわが心
早も急かるる次の山
「←枯渕(九谷ダム)約80分」の道標を見て、北に尾根を下り始める。若いブナ林を下ると「めぐ見台」の標識があり、下る先の眺めが開ける。しかし、この先はブナや笹、シャクナゲに覆われた尾根の下りとなり、展望はない。赤土の細い道は急で滑り易い。我谷コースと比べると、歩く人は格段に少なそうだ。途中でペアのハイカーさんに追いつき、先に行かせて頂く。
だいぶ下ったところで、左に分岐して谷に降りる道があり、直進方向には「←五彩尾根」の道標がある。ここは尾根を外さず直進。さらに尾根を下り、それから右に折れてプラ仮設階段を急降下すると、眼下に木立を透かして九谷ダム五彩湖の湖面が見えてくる。
最後は急なコンクリ階段を下って、湖岸周回道路に降り立つ。ここには「五彩尾根登山口→」の古い道標がある。
九谷ダムの天端は渡らず、左岸の車道を下流に向かう。「登山口広場」の標識のある駐車場があり、その少し先に「富士写ヶ岳登山口」の道標がある。しかし、そこから入る登山道は草藪に覆われ、完全に廃道化している。分県登山ガイドではこちらの道が地図に記載されているが、登山道が付け替えられたらしい。
さらに車道を下り、大聖寺川の右岸に渡る。この辺りにはかつて枯淵町の集落があったが、ダム建設により離村したそうである。車道を下流に辿って県道に出、左に富士写湖を眺めながら歩く。覆道を抜けると我谷吊橋が見えて来て、せっせと歩いて駐車地点に戻った。富士写ヶ岳は標高の割に奥深く険しい山で、なかなか登り応えがあった。これで加南三山をコンプでき、満足だ。
帰りは山中温泉の道の駅の日帰り温泉「ゆーゆー館」に立ち寄って、ふた山分の汗をさっぱり流す。加賀温泉駅でVitzを返却したのち、JRで金沢へ。大勢の観光客で賑わう金沢駅ショッピングモールで買い物をしたり、夕食に金沢名物ゴーゴーカレーを食べたりして楽しんだのち、20:17発の北陸新幹線に乗車して、桐生への帰途についた。