茶の木平〜薬師岳〜三ノ宿山
関東甲信地方は梅雨の最中で、この週末の天気もいまいちの予報だが、土曜日はそこそこ保ちそう。前回に続いて低山でちょっと長めの山歩きを考えて、日光の茶ノ木平から細尾峠、薬師岳を経て、三ノ宿山(さんのしゅくやま)へ縦走するコースを歩いてきました。
桐生を朝5時過ぎに車で発ち、R122を経由して日光市街へ。6時半頃、日光和の代♨やしおの湯に着いて、広い駐車場の隅っこに車を置く。今日は三ノ宿山から尾根伝いでここへ下って来て、下山後即温泉入浴する計画である。
やしおの湯から少し歩いて清滝一丁目バス停に移動し、7:08の湯元温泉行のバスに乗車。10人程の乗客のほとんどはハイカーさんだ。第二いろは坂を登って、明智平バス停で下車する。運賃は820円也。華厳渓谷の深い谷を隔てて男体山が眺められるが、頂上には白く重たげな雲が掛かり始めている。今日の天気は、雨に降られなければ御の字だろう。
明智平からはロープウェイ下の破線路を歩いて展望台駅に上がろうと思っていたのだが、Σ(°д°lll)ガーン、その道の入口はロープウェイ会社が設置した「通行禁止」「会社施設につき、許可なく立ち入らないでください」との看板で塞がれている。したがって、ロープウェイ利用で上がるか(営業時間は9時からで片道400円)、日光レークサイドホテルバス停までバスに乗って、そこから茶ノ木平に登るのがおすすめである。
という訳で、今回の行程の説明は茶ノ木平・明智平分岐から始める。細尾峠への道は明智平や茶ノ木平からの道に比べて歩く人が少ないためか、入口はちょっと笹藪っぽいが、歩き始めると道型は明瞭だ。
茶ノ木平の平坦な山頂部の東端にある1618m三角点の標石を過ぎると、樹林に覆われた尾根の下りとなる。丈の低いミヤコザサが下生えに広がって、気持ち良い道だ。少し下ると積み重なった大きな露岩があり、二体の石仏が置かれている。文献(末尾参照)によると、籠石あるいはカワゴ石と呼ばれる地点で、石仏は金剛童子と不動明王。日光修験の三峯五禅頂(さんぶごぜんじょう)の修行道の一つ、夏峯(かぶ)の遺構とのこと。今日予定のコースは、三ノ宿山の北の1158m標高点まで、かつての夏峯の道を歩くことになる。
さらに笹原に覆われた尾根をグングン下る。エゾハルゼミが盛んに鳴いて、すっかり初夏の雰囲気。かなり下って送電鉄塔と雨量観測所を過ぎると、車道が通じる細尾峠に着く。
路側には駐車が1台。薬師岳方面に向かったハイカーさんが居るのだろう。峠越えの車道は役目を日足トンネルに譲って久しく、微かに饐えた臭いのする湿気が立ち込めている。少し休んで水を飲む。前回の水不足に懲りて、今日は2Lプラティパスを満タンにして持っている(結局、十分に足りた)。
薬師岳へ向かい、細い尾根上の登山道を辿る。途中の崩壊地から、南側に神子内(みこうち)川流域の深い緑に覆われた谷を俯瞰する。ここから傾斜が増して尾根上を急登。道の上にはドウダンツツジの花がたくさん落ちている。開花時期には見事な群落だったに違いない。梅雨時の今日は咲いている花はほとんど見なくて、その点はちょっと残念。
急坂を登り上げると薬師岳の肩に着き、頂上は僅かに左に入った所である。木立に囲まれた岩の上に二基の金剛堂(石祠)が置かれ、開けた小平地に三角点標石と山名看板がある。薬師岳は久しぶり2回目の登頂(前回の山行記録)。晴れていれば日光連山の眺めが良い場所が、その方向は真っ白な雲に覆われて何も見えない。
薬師岳から笹原と雑木林の尾根を東へ、緩く下る。ガイドブックにはないルートだが、一般登山道並みに良い道が続く。やがて右斜面が伐採地となって開け、東大芦川本沢の谷を隔てて夕日岳が大きく聳えているのが眺められる。これはなかなか良い山岳風景である。
下り着いた鞍部はヒノキガタァーと呼ばれ(タァーは鞍部の意)、ブナの大木の先に計三つの金剛堂が祀られている。南側からコンスタントに風が吹き上がってきて涼しい。
鞍部から急坂を登り、1159m標高点を越えて平坦な稜線を辿る。次の小鞍部(シモガタァー)から再び傾斜を増した尾根を登って、樹林に囲まれた丸山の頂上に着く。珍しく山名を記したRK氏の山名標と「日光山紀行」と記された山名標が木の幹に取り付けられている。頂上は小広い平地となって腰を下ろすにはいい場所なので、ここでカップ麺の鴨だし蕎麦の昼食とする。今日は蒸し暑いので、鯖味噌煮を肴に飲む缶ビールがとても美味い。
昼食後、次のピークの大木戸山へ。相変わらず低い笹の尾根道が続き、所々に露岩のある坂を登ると、三角点標石のある大木戸山の頂上に着く。こちらの頂は少々狭苦しいので、丸山で昼食にして正解だった。山名標の他に「山を汚す登山者に蛙たちも呆れ返る」云々の古い看板もある。この看板、以前は山でよく見かけたが、最近は稀少な気がする。
大木戸山から稜線を緩く下って左折すると、三ノ宿山との鞍部への一直線の急降下となる。下り着いた鞍部(三ノ宿峠)には、石仏を収めた金剛堂と少し離れてもう1基の金剛堂(こちらも中に仏像を収めているそうだが見ていない)がある。この鞍部の南斜面の棚部に、かつての夏峯の三ノ宿があったとのことである。
三ノ宿峠から急坂を登り返して、ミヤコザサとカラマツ、雑木林に覆われた平坦な山頂部に登り着く。平坦な稜線を少し進んだ所に「三ノ宿山」の山名標識が掲げられている。展望はないがゆったりできる頂で、水を飲んで休憩する。
この先は大きなアップダウンはない。尾根道を緩く下って小さな岩場を越えると、前方に目指す1188m標高点のピークが見える。鞍部から再び笹の尾根となり、緩く登って1188m標高点のピークを越える。
1188m標高点と次の1158m標高点の間には、平坦で幅が広い尾根が続く。この辺りに、かつての夏峯の五葉ノ宿があったとのことである。
笹の尾根を緩く登って、1158m標高点のピークに着く。ここで東に滝ヶ原峠への道(かつての夏峯の道)を分け、北の尾根を下る。そちらを指して「←やしおの湯」の道標があり、登山道として整備の手が入っているようだ。
なおも低い笹原の尾根が続くが、右側は杉植林帯となって里山らしい雰囲気。1048m三角点峰にも道標あり。三角点標石(点名:長峰)は少し東に寄った杉林の中にある。
あとは北へ尾根を急降下。笹がなくなり、道型は薄くなるが、尾根筋に藪はなくて快適に下る。やがて送電鉄塔が現れ、両側の樹林が切り開かれて展望が得られる。西には日光市街とその向こうに茶ノ木平から細尾峠、薬師岳に至るスカイラインを望む。結構な距離を歩いたなあ。東には山麓にやしおの湯を俯瞰し、ゴールまであとちょっとだ。日光市街の向こうの端正な三角形の山は外山(とやま)のようだ。
なおも尾根を下り、発電所の調整池に突き当たって、右側の涸れ沢に下る。
涸れ沢に沿って下り、山麓の平地に着く。やしおの湯に近い所なのに、私に驚いたシカが跳ねて逃げていく。送電鉄塔を過ぎ、芝生地と涸れ沢を横切って、ちょうどやしおの湯の入口の真ん前、「中禅寺線51号」の鉄塔巡視路の標識のある地点で車道に出る。
車で荷を解き、着替え一式を持って早速、温泉へ。お客さんは多いが、混雑という程ではない。汗を流してゆっくり湯船に浸かる。さっぱりしたのち、R122を経由して帰桐した。
参考文献:池田正夫著『全踏査日光修験 三峯五禅頂の道 ―夏峯編―』