塩見岳〜間ノ岳〜北岳
昨年のお盆休みはY氏と南ア南部を縦走した。当初の計画では畑薙湖から入山し、茶臼岳、上河内岳、聖岳、赤石岳、荒川岳、塩見岳、間ノ岳、北岳を踏破して広河原まで、小屋泊の7泊8日で縦走する予定であったが、三伏峠に達したところで天候が悪化したため、縦走を中断して、雨の中を鳥倉林道に下山した(山行記録)。
今年のお盆休み、再びY氏から、昨年の南ア縦走の続きを歩きたい、とのリクエストを頂いた。私も塩見岳〜間ノ岳の未踏区間は歩きたいと思っていたので、すぐに話がまとまる。残りの行程は3泊4日と短くなるので、今度はテント泊で出かけてきました。
出発前日の11日(山の日の休日)は山行準備に充て、マーケットシティ桐生のヤオコーで食料を買い出す。お湯を注ぐだけのQP玄米雑炊や麻婆春雨等の乾燥食品で軽量化を図る。それでも、食料とテント、シュラフ、ストーブ、コッヘル、着替えなどをザックに詰め込むと、測ってないが重さは15kgを軽く超えていそう。背負うとずしりと重く、歩き通せるか不安になる。まあ、最近は訓練を兼ねてほぼ毎週、山を歩いているから、大丈夫だろう。
11日深夜の列車で桐生から新宿に向かい、新宿四丁目ビジネス旅館街に泊まる。ここの宿は元々安いが、楽天トラベルのポイントも利用したので、宿代はたったの500円である。
翌朝、新宿7:00発スーパーあずさ1号に乗車してY氏と合流。岡谷で飯田線の鈍行に乗り換え、伊那大島で下車。昨夏、三伏峠から下山し、バスでこの駅に着いたことが、ついこの間のように思い出される。
駅前のバス停では、30人程の登山者がバス待ち中。しかし、その半分は学生の団体で、バスをチャーターしていた。他の登山者と我々は12:10発鳥倉登山口行きバスに乗車。始点の松川インターでは高速バスと接続しているはずだが、お盆休み渋滞で高速バスが遅れたのか、始点からの乗客はゼロ。途中に休憩を挟み、鳥倉登山口に14:00に到着する。
重いザックを背負ってゆっくり登り始める。既に標高1800mの高所なので、涼しいのは助かる。途中の水場で2.5ℓ分の水を汲んで、さらに荷が重くなる。下山する登山者から、三伏峠のテント場は満杯と聞く。夕暮れが迫る中、最後の坂を登って三伏峠小屋に着く。
早速、テント泊の手続きを済ませ、缶ビールを買ってテント場へ。やはり満杯であるが、持参のテントは小さいので、何とか空きスペースを見出す。テントを設営したのち、ちょっと肌寒いがまずはビールで乾杯。夕食を済ませて就寝する。
翌朝、パンとチーズ、ハムの朝食を摂って出発。天気は曇りであまり良くないが、雨の心配はなさそう。今日の行程は途中に水場がないので、三伏沢の水場で水を補給するか迷ったが、1.5ℓあるし、涼しいから足りると判断して塩見岳へ直行する(結果的にはあと0.5ℓは欲しかった)。
三伏山頂上は霧に覆われて何も見えずに通過。やがて少し霧が晴れて、本谷山への稜線が眺められる。登りが結構あるな。荷が重いとそう見えてしまう。塩見岳はまだ雲の中だ。
本谷山頂上も霧で景色は見えない。少し休んで先に進む。オオシラビソの尾根を緩く下り、権右衛門山の南山腹をトラバースすると涸れ沢に出る。チョコや飴を食べて休憩したのち、塩見小屋へ樹林帯を急登。森林限界を越えて、塩見小屋に登り着く。改築されてこの夏から営業が再開されたばかりで、板壁の塗装が真新しい。ここでも小休止。
塩見小屋からハイマツの稜線を登ると青空が広がり始め、やがて行く手に塩見岳前衛の天狗岩のピークと、その奥の塩見岳の頂が見え始める。天狗岩に登ると、岩肌を纏った鎧兜のような山容の塩見岳が眼前に聳える。小さく下って、岩場を縫うように登ると塩見岳西峰。三角点標石があるが、すぐ先の東峰の方がわずかに高い。
東峰に移動して大休止とする。塩見岳は私は2回目の登頂で、前回は10月下旬に訪れた(山行記録)。その時は快晴で、延々と続く仙塩尾根の彼方に雄大な間ノ岳を望み、いつかあそこまで縦走してみたいと思った。それが今回の山行のモチベーションにもなっている。今日は遠くの山には雲がかかり、間ノ岳も残念ながらすっきりとは眺められない。
仙塩尾根から来た単独行の方に話を伺ったら、二軒小屋から蝙蝠尾根を登って来たとのこと。そのルートも面白そうだな。登る最中はザックが重たくて屈めないので、高山植物の写真を撮る余裕がなかった。頂上で休んでいる間に周囲の花を撮っておく。長居をしていると続々と登山者が登り着き、狭い頂上が混み合ってきたので、腰を上げる。
塩見岳頂上からザレて開けた稜線を緩く下る。行く手から右に向かって蝙蝠尾根がどてっと横たわる。蝙蝠岳は雲の中で見えない。ハイマツを纏った岩稜を小さくアップダウンして蝙蝠尾根分岐に到着。単独行の登山者が3人、休憩している。我々もここで休憩。昼食に棒ラーメンを食べる。
仙塩尾根はここから低いハイマツ帯のザレた斜面の急な下りとなる。ひとしきり下った後は緩いアップダウンが続く。芝生のような草地にねじくれたダケカンバが点在し、牧場のような植生だ。稜線を絡んで下ると閉鎖された小さな小屋があり、ザレた斜面を登って稜線を辿ると北荒川岳頂上に着く。頂上は広く平坦で、ガスに包まれて展望はなく、あまり頂という感じはしない。
この先も草地とダケカンバ、ハイマツ等に覆われた緩い稜線が続く。昨年の南ア縦走の高山裏〜小河内岳あたりと雰囲気が良く似ている。所々にあるマルバダケブキの群落は、もう花が終わっている。オオシラビソの樹林帯に入り、稜線を絡んで進む。延々と樹林に覆われた同じような道程が続き、荷が重たいこともあって、淡々と歩を進める。水が足りなくなって、休憩の際にはちびちび補給する。新蛇抜山は頂上直下を巻く。頂上への踏み跡があるが、ピークハントしようという気にはならない。
新蛇抜山の先には岩稜があり、ちょっとした変化を与えている。ガスが晴れていれば眺めが良さそうな場所だ。安倍荒倉岳も頂上直下を巻き、針葉樹林の山腹をトラバースして緩く下る。やがて樹林が切れて開けた斜面に熊の平小屋が建つ。
熊の平小屋の建物も比較的新しい。テント場は小屋周辺のあちこちに点在する。早速、小屋でテント場の手続きをする。連泊の人もいてテント場が満員のため、許可も頂いて小屋の手前のスペース(通常は水場の水質保全のため幕営禁止)に張る。そちらは単独行の先客が1張りあるが、余裕。水場とWCは小屋から階段を下った所にあり、水場には冷たい水がバンバン流れている。
テントを張って塒を整えた後、小屋で500ml缶ビールを買って、小屋前のテラスのベンチで乾杯する。喉が乾ききっていただけに、これは最高にうまい。
さらにテントに戻って、乾物や缶詰を肴にウィスキーで宴会。夕食は麻婆春雨と乾燥玄米の雑炊とする。混み合った三伏峠のテント場と違って、他のテントに気兼ねなく宴会が出来て最高。やはりテント泊はこうでなくては。やがて日が暮れ、程よく酔ってシュラフに潜り込み就寝する。
パンとチーズ、ハムの朝食を摂り、快適な一夜を過ごしたテント場から撤収。靄が立ちこめる中を出発する。小屋から離れたところにもテント場があるが、水場やWCから遠いのはちょっと不便。既に出発したパーティーが多く、残っているテントは少ない。
テント場を過ぎ、樹林帯の斜面を急登する。食料はだいぶ減ったが、水を2.5ℓ持ったので荷はまだ重い。ゆっくり着実なペースで登っていく。徐々に靄が晴れて青空が広がる。振り返れば、下方に熊の平小屋の赤い屋根が見える。
ハイマツ帯に入り、右手に農鳥岳を眺めつつ登ると、砂礫地の広がる三国平に着く。農鳥小屋への巻き道が分岐する。吹き抜ける風が肌寒く、Tシャツの上に長袖シャツを着る。
ハイマツの広い斜面を登って行く。振り返れば、昨日辿った仙塩尾根が延々と続き、塩見岳の兜型のピークが遠望できる。行く手には間ノ岳が高く、その左の稜線上に三峰岳の岩峰がちょこんと突き出ている。
三峰岳へは岩稜の登りとなる。左は切れ落ちた斜面で、強風が吹き上がってくる。右は圏谷を見下ろし、巻き道を目で追うことができる。高山的な景観が続いて楽しめる。
岩場を登って、三峰岳の頂上に立つ。東は間ノ岳の巨大な山容で遠望が遮られるが、360度の大展望が得られる。南面は大井川源流域で、農鳥岳や荒川岳、塩見岳を遠望する。北面は富士川源流域で、北岳や甲斐駒、仙丈ヶ岳を遥かに望む。北から登って来た単独行の登山者の話を伺うと、両俣小屋から来たが遠くて大変だったとのこと。そちらも一度歩いてみたい。
大展望を楽しみながら砂礫の斜面を登ると、やがて多くの登山者が憩う間ノ岳頂上に着く。頂上はなだらかで広く、これまでの展望に東の展望が加わり、鳳凰三山や遠く富士山が眺められる。前回の登頂(山行記録)では雨に祟られて景色は全く見えなかったから、今回は天気に恵まれて良かった。
間ノ岳より、正面に北岳を眺めながら、だだっ広い砂礫の稜線を緩く下る。中白根山まで標高3000mの爽快な稜線が続く。登山者の行き来も多い。振り返って見る間ノ岳の山容はやはり大きい。
北岳山荘に着いて昼食とする。小屋前に丸太のベンチがあり、水も無料で汲めるのでありがたい。WCはチップ制。小屋の中はまだひと気が少ないが、今日はお盆休み中日。最繁忙期らしく、宿泊は3人/畳になるとの掲示があった。棒ラーメンを作って食べた後、北岳に向かう。
当初の計画では、今日は北岳を越えて、白根御池小屋でテント泊する予定。広河原からの甲府行路線バスの最終が16:40で、コースタイムから計算すると間に合わないためだ。
しかし、Y氏がどうも帰りを急いでいるようで、北岳を往復して大樺沢を下り、広河原からタクシーを使えば今日中に帰宅できると言う。広河原〜夜叉神峠間は18時で夜間通行止となるのでタクシーも使えない恐れがあるが、その時は広河原のテント場に泊まれるから、まあいいか。
八本歯ノコル分岐にザックをデポし、デジカメだけを持って北岳を往復する。雲がかかって、頂上では全く眺めがないが、今日はこれまでに大展望を堪能しているし、北岳は3回目の登頂だからあっさり。あまり惜しくはない。
北岳頂上から八本歯ノコル分岐に戻る途中で、登山道を横切るライチョウを見る。この辺りは高山植物も多い。ザックを背負い、八本歯ノコルへの道に入る。
岩が累積して歩き難い道を下る。この時間帯でも続々と登ってくる登山者は北岳山荘泊だろう。木の階段を下り、八本歯ノコルに着く。大樺沢を見下ろすと傾斜が緩く見え、広河原も見えていてすぐ近くのように錯覚するが、実際には標高差が1350mもある。トレラン風の装備の単独行の登山者が、広河原15:00発北沢峠行の最終バスに間に合わせたい、と言って、走って下っていったが、現在時刻は13:55。健闘と無事を祈って見送る。
八本歯ノコルからの下りは急で、木の階段が連続する。左には北岳バットレスが聳え、頂上は雲に隠れている。目をこらすと、大岩壁の途中にはクライマーが取り付いている。あんなところを登るなんて、凄いなあ。
大樺沢に下り着き、開けた沢の左岸に沿って下る。路面がザレて滑り易く、転ばないように神経を使う。下る先を見るとあまり傾斜がないように感じるが、振り返ると見上げるような急傾斜である。雪渓はほとんどなく、きれぎれに残っているだけだ。
二股で白根御池小屋への道を左に分け、大樺沢沿いのザレた道の下りが延々と続く。やがて仮設橋で右岸に渡り、森林の中を下る。途中で枝沢を渡る箇所があり、冷たい水を飲んで一息つく。
再び仮設橋を渡り、白根御池小屋からの道を合わせると、ようやく広河原山荘に着いた。八本歯ノコルからは3時間強もかかり、かなり疲れた。山荘泊がとても魅力的に思える。
吊り橋を渡って広河原インフォメーションセンター前の広河原バス停に向かう。最終バスは30分前に出ているが、乗り遅れた登山者が10人程。それに乗合タクシーのスタッフがいて、甲府行きのタクシーが出るとのこと。これはラッキー。着替えたのち、ジャンボタクシーに我々を含めて5人が乗車する。
既に日暮れの林道南ア線を走り、夜叉神トンネル、芦安温泉を経て、甲府駅に19時頃に着。甲府20:02発かいじ124号に乗り(早く並んで自由席を確保)、新宿でY氏と別れる。その後、埼京線、大宮22:26発なすの277号、小山を経由し、桐生に着いたのは日付が替わった00:04であった。