天狗山〜大芝山
この週末は、土曜は仕事、日曜は関東一円で天気がいまいちとの予報だったので、家で過ごすつもりにしていた。しかし、日曜になってみると午前中は天気が持ちそうで、これはどこかに出かけないと勿体無い。先週、大芝山に登ってから、ますます興味がわいた天狗山ならば、近場の低山で半日もかからないだろうから、訪ねるにはちょうど良い機会だ。
ここでいう天狗山とは、大間々町塩原の「大芝山の峰つづきなる一峰巒」で、その頂に石宮を祀るという山のことである。天狗山の山名は、萩原康次郎著『間々はゆりかご』の「塩原の神々」の章の以下の記述に現れる。
高草木正太郎氏宅の裏庭に、数百年を経たと思われる大欅がそびえている。この庭から、西方には頂に松を載せた蚕影山が、東方には谷を距てて羽黒山が望見できる。羽黒山のその上の山を天狗山という。急峻な岩山で、そこには天狗神社が祀られている。
石祠は二つ、大きい方を大天狗という。文政十年(1827)に、下田郷の名主伏左衛門らが建てたもので、小さい方は小天狗、文字は見にくいが、松島三郎兵衛という文字が読みとれる。4月23日の蚕影神社の例祭で、神社にあげたボンゼン(幣束の一種)と同じものを、その日のうちに天狗神社へあげる風習があったが、昭和53年以降途絶えてしまったという。
天狗山と蚕影山については、やまの町桐生の続 桐生地域百山 大間々編に記事がある。羽黒山の場所はだいたい見当はつくが、どんな山なのか、これも気になるところである。
桐生を10時頃にのんびり車で出発。大間々町塩原の調整池から北に向かい、数軒の集落を抜け、林道高松線起点の道端のスペースに車を置く。みどり市の「電話でバス『高松開墾』バス停」がある。左の稜線が急に切れ落ちた山が見え、あれが天狗山のようだ。
林道を辿り、カーブミラーのある分岐で右の林道に入る。すぐに沢を渡って、左岸の小尾根を登る。背の高い杉林に覆われて尾根上部の様子は窺えないが、やがて杉林を抜けると、疎らに灌木とアカマツが生えた尾根となり、風化した岩場が続いているのが見える。
傾斜は急で参道らしき痕跡もないが、獣の踏み跡を利用してジグザグに登ることができ、危険はあまりない。それでも登るに連れて高度感も出てきて、結構楽しめる。振り返ると荒神山稜や遠くに霞んで赤城山を望む。
最後に右から回り込んで岩場の上に登り着くと、アカマツに囲まれた小平地に大小2基の石祠が山麓を向いて建つ。大きい方の石祠には「大天狗 文政十丁亥 三月十二日 本郷惣氏子中」、小さい方には「三郎兵衛」等の文字が刻まれている。祠の前の切れ落ちた岩場からは、山麓の民家や畑が俯瞰される。大間々の山域では、梵天山に次ぐ神さびた雰囲気のある頂ではないかと思う。
天狗山から大芝山はすぐ近くの距離で、緩やかな尾根で峰続きとなっている。途中、小さな岩場を越え、雑木林を登って主稜線に合流。石像と石尊宮を通って大芝山の頂上に着く。ここで、コロッケたまごロールとペットボトルお茶で軽い昼食を摂る。先週訪れたばかりの頂だが、季節は急速に春に向かっているようで、ポカポカと暖かく、蝶が数羽ヒラヒラと舞っている。そういえば、啓蟄って今頃だっけ。先週は気づかなかったが、冬枯れの木立を透かして西を見れば、天狗山がすぐそこに見える。
大芝山からは南へ伐採地を下る。予報通り、雲が厚くなって来た。イバラの藪を通って高名木林道に出れば、あとは車道歩きとなる。途中の調整池の水面には、大勢の水鳥が浮かんでいた。駐車地点に戻り、約2時間の短い行程ながら変化のある山散歩が楽しめたことに満足して、帰途についた。