阿津賀志山

天気:時々
メンバー:S,S,T

(この記事は温泉旅行4日目、深山からの続きです。)

4泊5日の温泉旅行も最終日。レンタカーの返却期限が福島駅12時なので、今日はその途中にあって短時間で登れる阿津賀志山に立ち寄る予定である。

2泊お世話になった小原温泉旅館かつらやをチェックアウト。車で出発する前に、旅館のすぐ下流にある小原渓谷の遊歩道を散策してみることにする。これが意外と面白かったので、少し詳しく書いておこう。

小原渓谷

旅館かつらやの前にある日帰り入浴客用駐車場の横手から舗装された遊歩道を下流に向かうと、対岸へ渡る吊り橋が見えてくる。両岸は切り立つ岩壁で、白石川は幅広い淵に碧色の水を湛え、深く静かに流れている。


小原渓谷入口の吊り橋


旅館かつらやを振り返る

吊り橋の袂のすぐ先に、市営の共同浴場の「かつらの湯」がある。渓流に面して、なかなか風情がある。これは入湯しておくべきだったなあ。まあ、小原温泉は気に入っているので、また来る機会もあるだろう。


岩風呂「かつらの湯」


左岸の遊歩道を歩く

ゆらゆら揺れる吊り橋で左岸に渡り、渓流に沿って遊歩道を下流に向かう。やがて対岸に、岩壁から細々と水を落とす桂沢の滝が見えてくる。最近、岩壁の大崩落があったのか、岩角鋭い大岩が大量に堆積して川幅の半分を埋めている。これは見るだに恐ろしい。遊歩道上にも細かい落石が散在するので、頭上注意である。


険しい渓谷が続く


桂沢の滝

遊歩道を進むと、道端に湯気を立ててお湯が流れ出る噴気孔がいくつもある。さらに、川岸の岩場にバスタブが置かれ、ダクトホースでお湯が引かれてバンバン流れ込み溜められている。手を入れたら丁度良い湯加減で、ちょっと入ってみたいかも。酔狂な野天風呂愛好家にお勧め。傍らに「なおの湯」との立派な木の看板が置かれている。


なおの湯


赤松沢を渡る太鼓橋

対岸には大きな岩峰(入道岩)が聳え、廃屋となった旅館(昭和40年代まで使われたらしい)も見える。遊歩道は支流の赤松沢を赤い太鼓橋で渡る。赤松沢には落差3m程の滝がかかり、勢いよく水を落として夏なら涼むのに良さそうである。


赤松沢大滝


入道岩

遊歩道はここから白石川本流を桟橋で渡り、右岸を登ってR113に通じていたが、水害で桟橋が流失しており、現在は太鼓橋のすぐ先で通行止め。往路を戻ることになる。吊り橋から太鼓橋までゆっくり歩いて約20分。なかなか壮観な渓谷で温泉も湧いているし、とても楽しめた。新緑や紅葉の時期はさらに良さそうである。

阿津賀志山

行程:ハイキングコース起点 11:00 …阿津賀志山(289m) 11:35〜11:45 …ハイキングコース起点 12:20
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

小原温泉を車で出発。白石市街からR4(奥州街道)を福島方面に向かう。阿津賀志山(厚樫山とも表記される)は県境を越えて福島県側に入った国見町にある。

この辺りは昔から福島〜仙台間の交通の要衝で、現代ではR4、東北道、東北本線、東北新幹線が集中して通る。かつて鎌倉幕府が奥州藤原氏を討伐するために出兵した奥州合戦(1189年)の際には、奥州側は阿津賀志山を防衛線とし、阿津賀志山山麓から阿武隈川に至る約3kmの防塁を築いて鎌倉幕府を迎撃し、大激戦となった(阿津賀志山の戦い)。

R4で国見峠を越え、下り坂の途中の「阿津賀志山防塁」の小さな標識で右折。果樹園が広がる緩斜面をトラバースして西に向かうと、車道を横切って上下に大きな溝が延びる。これが阿津賀志山防塁だ。約800年前に造られた物ながら、それと明瞭に判る遺構で興味深い。国史跡に指定されている。


阿津賀志山防塁


防塁と阿津賀志山を仰ぐ
東北本線の架線が見える

このすぐ近くにもう一つ国史跡があるので、立ち寄ってみよう。さらに西に向かい、東北本線と東北道を潜って山側に抜けると、石母田(いしもだ)供養石塔がある。覆屋に守られて石柱が建ち、説明板によると梵字と塔婆建立の功徳が漢文で刻まれているとのことだが、梵字らしき文字があることしか読み取れない。1308年建立で、元の帰化僧一山一寧の書とのこと。後日調べると、一山一寧とは元寇後に元の成宗から鎌倉幕府への国使を務めた高僧だそうで、大物でいろいろびっくり。


石母田供養石塔(国史跡)


覆屋の中の石柱

東北道に沿って車道を走ると「福島の遊歩道50選 あつかし山ハイキングコース」の看板がある。車道(林道阿津賀志線)はさらに山を上がって阿津賀志山の頂上直下まで通じているが、そこまで車で行くと山歩きにならないので、ここに車を置いて登ることにする。天気は曇りで、路面は夜来の雨に濡れているが、まあ降られることはないだろう。


ハイキングコース起点


ハイキングコースの看板

林道を登ると、仏を線刻した岩が樹林の中に多数ある。「阿津賀志山三十三観音八十八大師画像碑群」との説明板があり、それによると幕末の1853年頃、四国八十八ヶ所と秩父坂東百観音を巡礼した行者が大師堂を建立する際に近郊の村々の信徒に呼びかけて資金を集め、そのお礼として一石一体の画像を刻んで樹塔したものとのこと。今で言うところのふるさと納税、クラウドファンディング方式ですな。

カーブを繰り返して山腹を上がると、「阿津賀志山防塁始点」の標識があり、笹の下生えの雑木林の中に確かに溝が掘られて下に続いている。最初に見た防塁から標高差100m程もあり、こんな高いところまで築いた念の入れようと労力に感心する。


阿津賀志山画像碑群


阿津賀志山防塁始点

林道を緩く登り、阿津賀志山の頂上からだいぶ西で赤松林の稜線に上がる。三叉路の道標に従って右折、阿津賀志山に向かう。途中の稜線上に緑の葉っぱが茂る畑地が広がる。ネット情報によると菜の花とクリムゾンクローバーが植えられており、春の開花時期は見事だそうである。


林道を登る


稜線上の畑

畑地を回り込むと駐車場があり、ここから画像碑の点在する赤松林の山道を上がると、すぐに三角点標石のある阿津賀志山頂上に着く。そばに展望台があるので、早速上がってみよう。


阿津賀志山展望台駐車場


阿津賀志山頂上

展望台の上からは、360度の展望が得られる。今日は上空は雲に覆われ、地上には靄がかかっているのが少々残念だが、信達平野(福島盆地の別称)を俯瞰し、矩形の稜線が特徴的な霊山を遠望する。先日登った信夫山や女神山も見えそうだが、靄の中で判別できない。一昨年の正月に登って雪山歩きを堪能した半田山も眺められるが、今シーズンは今のところ暖冬で、積雪が非常に少ないように見える。

展望台の上には鉄製の櫓が組まれ、嵩上げされた天辺から八方へカーテン状にイルミネーションの電球が張り渡されている。年末年始の夜間に点灯されたようである。


展望台から信達平野を見下ろす


展望台から半田山を望む

展望を楽しんだ後に下山する。頂上で地元の家族一組に出会った他は、静かな山だった。途中、枯れた笹藪の中を下ってショートカット。後は林道を辿って車に戻る。

これにて5日間の温泉旅行は終了。天気に恵まれて、予定した山を全部登れた。福島、宮城には良い温泉と未踏の山が多いので、また来たい。福島駅でレンタカーを返却(正月ということで、超過料金はおまけして貰えた)、駅ビルの飲食店街で昼食をとったのち、14:23発の新幹線の指定席に収まって、帰宅の途についた。