半田山・羽山・日影山
年末年始は、福島県の飯坂温泉2泊+磐梯熱海温泉1泊の温泉旅行に行くことになった。毎年恒例の温泉旅行であるが、今回は休日の並びが良くて正月休みが長いので、例年より1日プラスして、12月31日から1月3日までの3泊4日である。温泉周辺で軽く山歩きをするつもりだが、この辺りは低山でも積雪が予想される。装備にスパッツを加え、現地で様子を見て、登る山を決めることにする。
31日は飯坂温泉の宿舎(旅館伊勢屋)に現地集合とし、私は桐生から車で、S&Sは新幹線と福島交通飯坂線の乗り継ぎで、飯坂温泉に向かう。飯坂温泉は東北道・福島飯坂ICから約4kmと近く、交通の便は至極良い。多数のホテルや旅館、飲食店が温泉街を形成し、一方通行の街路は狭くて、いかにも温泉地らしい風情がある。
正午に宿でS&Sと合流し、午後は周辺の見所を巡ることにする。宿で観光パンフを貰い、まずは昼食の場所をリサーチ。そば処で旨い鴨南そばを食べながら、行き先を考える。温泉街の散策も面白そうだが、今日はとても寒いので、車で横付けできる所が対象である。
まず最初は、日本三大不動の一つと言われる中野不動尊に行ってみる。駐車場に車を置いて不動尊に向かうと、参道沿いには多くの屋台が建てられて、元旦の初詣客を迎える準備で忙しそうだ。今日はまだパラパラと参拝客がある程度だが、寺の方に話を伺うと、今日(大晦日)の晩から大変な人出になるらしい。
順路に従って参道を進んで小さな谷に降りると、朱塗りが鮮やかな大日堂が建ち、その背後に不動滝が落ちている。大日堂の基部には隧道の入口がある。中に入ると、固い岩盤を掘り抜いた隧道が迷路のように続く。天井が低いので、頭をぶつけないように注意。隧道は内部で二手に枝分かれし、一方は滝の裏側を回って対岸まで通じている。内部には三十六童子の銅像が点々と祀られている。滝に祀られた不動尊像は良く見るが、ここは信仰を集めて規模が大きく、その代表格といった感じだ。
次は、福島市街に程近い信夫山(しのぶやま)の山麓にある岩谷(いわや)観音に行ってみる。麓の親水公園の駐車スペースに車を置いて急な石段を上ると、中腹に露岩帯があり、多数の仏像が彫られている。かなり古そうなものだが、彫りのシャープさを残す奇麗な像が多い。説明板によると、西国三十三観音像の他に60体もの仏があり、宝永六〜七(1709〜1710)年に現在の磨崖仏群が形成されたとのこと。これは一見の価値有り。
なかなか興味深い宗教スポット巡りののち、宿に戻って早速、温泉へ。風呂上がりにビールを飲み、夕食のご馳走を頂いた後は、全員酔いが回って速攻で寝入ってしまい、意識のないままに年を越す。うーむ、一昨々年から全く同じパターンだ(^^;)
半田山
明けて元旦は良い天気。今日は、飯坂温泉の北隣りの桑折(こおり)町にある半田山に登ることにする。昨日の見所巡りの途中で、周囲の山々から頭一つ抜き出た丸い頂きが眺められて、興味を惹かれた。樹林に覆われた頂きは白く冠雪し、結構積雪があるようだが、行程が短いので大丈夫だろう。
半田山にはかつて銀山があり、江戸時代には佐渡金山、生野銀山とともに日本三大鉱山と呼ばれた程、栄えたとのこと。また「はんだ付け」の語源は、この半田山だとか(福島県HP内「半田山(桑折町)の治山」)。これは業界内の話のネタとしても、登らねばなりますまい。
桑折町から半田山自然公園の道標に従って、山麓の曲がりくねった車道を登る。標高が上がるに連れて雪が現れ、ラスト100mくらいは完全な雪道となって、スタッドレスを滑らせながら何とか半田沼キャンプ場駐車場に辿り着く。数名乗車の先客の車が1台あり、ハイカーさんかなー、と思ったらすぐに下って行った。何しに来たんでしょ?
雪に覆われたキャンプ場には他に人影もなく、静まり返っている。雪の深さは、この辺りで踝くらいまで。今シーズン初のスノーハイキングだ、ワクワク。スパッツを着けて出発する。すぐに斜め左に分かれてキャンプに入る道が半田山登山道で、入口に道標がある。
要所の道標に従って無人のキャンプ場を通り抜け、杉林の中に入る。登山道は雪の下に隠れているが、先行者の足跡があるし、要所に道標が多数あるので迷わずに辿れる。やがて急な山腹に取り付くが、ジグザグに道がつけられているので、傾斜が緩くて歩き易い。
山腹をトラバースする林道に出て、林道を左に辿ると、尾根を回り込んで「林間駐車場」に着く。一面の雪に覆われているが、轍があるところを見ると、この積雪でもここまで車で来る人もいるらしい。ここから広く緩い稜線上の登山道を辿って、半田山頂上に向かう。ここから山頂までは距離900mなので、雪がなければどうと言うことのない行程だ。登り口には東屋がある。屋根の上に雪が厚く積もり、自重で今にも滑り落ちそうだ。
最初は緩い登りだが、途中から結構な急坂となる。雪は固過ぎず柔らか過ぎずで丁度良い案配、壺足で足場を固めながらグングン登って行く。ようやく急坂を登り切ると緩やかな稜線となり、山頂まであと300mの標識がある。標高が上がると西から灰色の雪雲が押し寄せ、雪まじりの寒風が吹き付けて、周囲の樹林はべったりと雪を着けている。冬山の厳しさの一端が覗いている感じ。
稜線は樹木に覆われて展望はないが、東側は崩壊跡の急崖となって、樹林の切れ間から半田沼を俯瞰することができる。車を置いた場所は半田沼の右隣りだ。意外と高度感があり、結構登って来たことが判る。
この辺りまで来ると、積雪は30cmくらいだろうか。先行者のトレースを辿って、ほぼ平坦な稜線を進むと、半田山の頂上に着いた。
頂上は山名標識の木柱を中心とする小広い平地となっているが、樹林に囲まれて展望はない。大振りな石祠が3基並んでいるが、雪で垂れ下がった木が被さって、ほとんど埋もれいる。雪混じりの風が強くて寒いので、写真を撮ってすぐに下山にかかる。稜線をさらに北に進んで周回することも考えていたが、雪が深くトレースも全くないので、ここはおとなしく往路を戻る。
雪道の下りは快適で速い。東屋で休憩し、パンで軽く昼食とする。再び青空が現れて、雪面に日が射す。東屋の屋根の雪に雪玉を投げつけ、全層雪崩を発生させる(^^)。あとは往路を軽快に下って、半田沼キャンプ場駐車場の車に戻った。軽い行程の山だが、結構雪があったので、楽しく遊べました。
宿に帰って温泉へゴー。雪山を歩いて冷えた身体を熱い湯船に沈めて温まるのは、もう最高である。
羽山
2日朝、飯坂温泉は吹雪である。仲居さんの話によれば、福島市街が晴れでもここでは雪ということは良くあることらしい。東の方は晴れていそうだし、昨日は雪山歩きを堪能したので、今日は雪の少なそうな阿武隈山地に出撃。飯坂温泉の東隣りの伊達市梁川町にある羽山(はやま)に登ることにする。ちなみに東北には羽山、葉山、麓山(何れも「はやま」と読む)が多く、福島県内だけで20数座ある。羽山信仰というものがあるそうで、大変興味深い。
宿をチェックアウト。飯坂温泉を離れて東の平野部に出ると、予想通り良く晴れていて、雪もほとんどない。阿武隈川を渡り、長閑な田園地帯を走る。ところどころに青いビニルシートを掛けた塊が集積されているのは、除染の堆積物だろうか。
山舟生(やまふにゅう)川沿いの山間部に入ると、道路にも薄く雪が残る。集落の間の道を上がり、登山口の羽山神社に着く。神社の前に駐車場があり、空いているのでここに車を置かせて貰う。
神社の入口の説明板によると、ここ山舟生羽山神社は古くから羽山信仰によるもので、毎年11月の第一土・日曜に行われる祭り囃子は約320年前から伝わるものだそうだ。村人の初詣はもう済んでしまったのか、ひと気のない神社にお参りしたのち、羽山に向かう。
羽山登山道の道標に導かれて、神社の右横手の車道を登る。うっすらと積もった雪は、昨夜降ったものだろうか。今は青空が広がって、冷え込んでいるが穏やかな日和である。
雪を踏んで車道を辿り、集落から外れると、羽山登山口の道標がある。左隣りには「天狗岩」という標識のある高さ4mくらいの大岩がある。形を天狗の鼻に見立てたのかな。
雪の積もる登山道に入り、小さく浅い窪を登る。登る人が稀なのか、冬枯れした藪が小煩い。すぐに分岐が現れ、右に双子岩への道を分け、左の出戸羽山へ進む。窪から山腹に取り付くと急坂となり、ロープを頼りに登る。
やがて左にトラバースし、杉林から雑木林に変わると、木立の間から山麓の眺めが開ける。低い山並みの間に雪に覆われた耕地がモザイク状に広がり、集落が点在する。なかなか趣がある山村風景だ。
尾根の先までトラバースし、折り返して尾根を登るとすぐに出戸羽山の頂上に着く。ぼそぼそと枯れ草に覆われた小平地の隅に、屋根に雪を載せて大きな石祠が建つ。山名標によると大山祇神を祀っているとのこと。「天明八戌申(1788年)十月八日」の銘がある。
ここからほぼ平坦な尾根の縦走となり、杉の植林の中を進む。右からの尾根道と合流すると、少し右に降りた所に中羽山の山名標と小さな石祠がある。月読命を祀るそうだ。
中羽山から羽山へは尾根上の急坂となる。頂上に近づくにつれて風がびゅうびゅう強くなるし、足元は滑るし、小さな里山といえどもなかなかに厳しい。長々とロープが張られていて、大変助けになった。もし雪が固かったら、軽アイゼンは欲しい所だ。
登り着いた羽山頂上には、木立に囲まれて羽山神社奥の院の社殿が建つ。新年を迎えるにあたって村人がお供えしたのだろう。正面には新しい注連縄や御幣、松が飾られ、強風にはためいている。祭神は天照大神とのこと。山ではあまりお見かけしたことのないビッグネームである。風を避けて社殿の陰で立ち休みとし、パンや飲み物を補給する。
さて、下山はどうしようか。予定では頂上から南に下るのだが、覗いてみると結構急である。年配者には少々厳しいかな。しかし、距離は短いし、ロープも張られているから大丈夫だろう。
実際、ロープの他に石段の痕跡もあって案ずる程の困難はない。最初の急坂をこなすと傾斜が弛み、木の鳥居を潜って山頂下駐車に下り着く。地元の人はここまで軽トラで来て、頂上に参拝するのだろう。雪の上には幾筋もの轍が残っている。
下山ルートは、駐車場の端から作業道に入る。こちらの作業道は荒れていて、車は走行不可。山麓の山村を眺めながら、山腹をトラバースしてゆるゆると下る。
やがて尾根上にぱっくりV字形に割れた大岩が現れ、双子岩との標識がある。岩の間を通り抜けると、小さな石祠が2基祀られている。この先、道は荒れ気味で、雪で倒れて絡まり合った木の間をすり抜ける個所もある。しかし、道自体は明瞭で、道標も要所にある。
緩く下ると、往路で通った分岐点に着く。雪が積もって滑り易い木道に注意して下ると、登山口に着く。あとは車道の下りで、羽山神社までは僅かの距離である。
神社の駐車場には軽トラが1台あり、地元の人が初詣の照明の後片付けをしていた。2時間半と行程の短い小さな山だが、周回コースは変化と見所となるスポットに富んで、なかなか面白い山だった。
この日の宿は磐梯熱海温泉。国見ICから高速に乗って、磐越道の磐梯熱海ICで降りる。山形との県境に近いこの辺りは、雪が格段に多い。宿の旅籠松柏は越後街道に面しているが、車通りも少ないので静か。静養向きの温泉ホテルである。早速、温泉へ。渓谷に面した大浴場で雪見をしながら、ゆっくり湯船に浸かって温まる。うーん、極楽、極楽。
日影山
3日も、予報では午前中晴れで、まずまずの天気だ。軽い山歩きを計画し、行程が短くて急な個所がなさそうな日影山(小野町)に登ることにする。
出発の際、車のバッテリーをあげてしまうというトラブルがあり、JAFに助けを求めて1時間弱の遅れで出発。今日は登り1時間ちょいの山なので、問題ないだろう。
磐越道を小野ICで降り、日影山登山口に向かう。この辺りは広く開けた田園を高原状の山々が取り囲み、牧歌的な風景が展開する。目指す日影山は、田園の奥に山裾をゆったりと左右に広げた山容を見せている。
日影山の登山口は、東麓の臨床研究牧場にある。広い歩道に車を置く。もう1台の駐車があり、先行のハイカーさんが居るようだ。登山靴に履き替えていると、暇そうな牛2頭が好奇の視線でこちらを見ているのに気がつく。「日影山登山道入口 山頂まで約2.3km」の道標から、牧場内の作業道に入る。
緩やかな山裾を一直線に登り、牧場から外れて、杉林の中の一面に雪が積もった作業道を辿る。単調だが、楽な登りだ。雪道には先行ハイカーさんの足跡が続き、やがて下山して来たご本人と行き違う。
斜面の傾斜が徐々に増すと、作業道はジグザグを切り始める。途中の曲がり角に水場の道標があり、その奥の小沢には確かに水が流れている。喉は全然乾いていないので、この水場は通過する。
ジグザグに登るうちに、山もいつの間にか険しくなり、ちょっと奥山の雰囲気が出て来る。作業道も雪が深くなり、一部に急な坂(といっても、昨日の羽山には全然及ばない)も現れる。
やがて道が左右に分岐する。左の道には「金堀穴」の道標がある。鉱山の跡でもあるのかな。右は「山道」で、直進の道とは上部で合流するらしい。という訳で直進道に入る。
作業道をさらに登ると雑木林となり、平坦な頂上の一角に出る。雪野原の上に兎の足跡が点々と続いている。ゆるゆると登って、日影山の頂上に到着する。
頂上からの展望は(登って来た東面に限られるが)意外と良く、阿武隈山地の緩やかな山並みが眺められる。山名からこの展望は予想できないなあ。頂上には山名標の柱と、新しい石祠がある。山名標柱の脇に腰を降ろし、パンで軽い昼食とする。午後になって雲が広がり日は影ってきたが、風は弱いので、山頂の居心地はなかなか良い。半時間程休憩した後、往路をそのまま戻って下山した。
正月温泉旅行の山歩きはこれにて終了。幸いにも天候に恵まれて、小さいながらもそれぞれ趣の異なる3座の山歩きができた。福島の山はあまり馴染みがないので新鮮だ。温泉も多いし、未踏の山だらけなので、また訪れたい。
帰りはあぶくま高原道路を走り、矢吹ICで東北道に乗る。岩船JCTの手前でUターン渋滞に捕まりかけるが、北関道に入ればスイスイである。足利ICで高速を降り、足利市駅でS&Sと別れて桐生に帰った。