大平山〜七跳山
先々週、有間山に登ったとき、浦山川の大きな谷を隔てて都県界尾根の蕎麦粒山や三ツドッケ、大平山(おおひらやま)を一望し、これらの山に秩父側から登ってみたくなった。先週は早速、仙元尾根を往復して蕎麦粒山に登ったので、今週は大平山に登ろう。一般登山道はないが、ネット検索すると多くの山行記録が見つかる。それらを参考にさせて頂き、よく歩かれていると思われる峠ノ尾根を経て大平山に往復する計画を立てて、出かけてきました。
桐生を未明の5時に車で出発。途中、深谷の松屋でしっかり朝食を摂り、浦山大日堂バス停の駐車場に車を置くところまでは、先週と全く同じ行動パターン。駐車が1台あり、中の人は既に出発したようだ。
この冬は例年に比して暖かく、降雪も少なくて、各地のスキー場からオープン延期の話を聞く。来る途中、秩父市街から見た奥秩父の山々も、全く白くなっていなかった。それでも、先週に比べれば、出発時の冷え込みは厳しくなった気がする。さすがにもう12月も下旬だしなあ。厚手のフリースを着込み、手袋を付けて歩き始める。
車道を少し戻って浦山川に架かる川俣橋を渡り、すぐに斜め右上に分岐する簡易舗装の道に入る。入り口には「新秩父線61号に至る」との送電線巡視路の標識があり、ここから送電鉄塔61号までは巡視路を辿ることになる。
ほとんど崖と言ってよい急斜面を穿って横切る道を進む。山の端を回り込み、送電線巡視路の標識から右に分岐する山道に入って、杉林の急斜面をジグザグに登る。急登で体が程よく温まってきたところで、地蔵峠に着く。
峠には藤?の大木の根元に石祠、その向かいに二十三夜塔と地蔵尊が祀られている。石祠には「浦山村細久保耕地一同 世話人 中山彦作 大正六年二月建立」、二十三夜塔には「安政三辰六月」の銘がある。峠道は尾根を大きく踏み窪めて、反対側の毛附集落に向かって下っている。
フリースを脱いで衣服を調節し、峠から尾根の上方に見える送電鉄塔に向かって登る。放擲された小さな茶畑を通り、杉林に入って尾根に絡んでジグザクに登ると送電鉄塔61号の脇に着く。振り返ると大持山、小持山から左に延びる高ワラビ尾根が青空にくっきりとスカイラインを描いている。あそこも、歩いてみたい稜線である。
常緑のアセビの混じる雑木林に入り、ふかふかに積もった落ち葉を踏み分けて登る。はっきりとした踏み跡が続いているのは、最近、大勢が歩いたのか、それとも獣が通る道なのか。薄暗い植林帯に入り、傾斜を増した尾根を登る。
植林帯を抜け、雑木林の幅広い尾根を登る。冬枯れの雑木林の中には燦々と陽が差し込んで明るく、藪も全くなくて、快適に歩ける。一旦、傾斜が緩むと、左側の防獣ネット越しに蕎麦粒山と三ツドッケを望む。この二山の頂きとの標高差は思ったよりも詰まった感があるが、先はまだまだ長い。
再び傾斜が増して、ブナも混じり始めた雑木林の尾根を登る。疎らな木立を透かして、右斜め後方には秩父さくら湖の湖面を俯瞰し、背後には大持山や武甲山の山影を望む。
右からバラモ尾根が近づいてきて、やがてこちらの尾根を合流する地点の小ピークに登り着く。尾根の途中の小突起で、山名標の類は何もないが、大ドッケと呼ばれている。展望は乏しいが、木の間から西側の深い谷(大久保谷)やそれを取り囲む山々(坊主山、立橋山の辺り)を眺めて、山奥に来たなと感ずる。標高が上がったこともあり、空気も一段とヒンヤリとしている。汗が冷えないうちに先に進もう。
大ドッケから尾根を一段上がったところが独標(1315m標高点)で、一叢のヒノキ林の中に掠れた文字で「大ドッケ」と読み取れる古い道標がある。さらに緩く登ると、広い尾根の上に雑木林に囲まれて凹地がある。木の間から中華鍋を伏せたような大平山の山頂を望み、ここも奥山の雰囲気がある。
雑木林の幅広い尾根の緩い登りが続く。この辺りの東側斜面、カラ沢左俣の源流部には福寿草の大きな自生地があり、近年、有名になって(きっかけは10数年前の山渓の記事らしい)、春先の開花期には大勢のハイカーさんが花見に訪れるそうである。
まろやかな尾根をゆるゆると登り、1469m標高点はピークらしくなくて気づかずに通過。左側はカラマツ林の緩斜面となり、作業道が見える。これは大クビレから延伸された林道らしい。しばらく林道を辿るが、すぐに離れて、だだっ広く緩い尾根を直線的に登る。大平山という山名も納得。こういう場所は、結構好きだ。この辺り、先日の雨が山上では雪だったようで、落ち葉の上に白い結晶が薄く積もって残る。
登り着いた大平山の頂上は、疎らな樹林に囲まれた小平地となり、真ん中に三角点標石、脇の木に木製の山名標が架けられている。展望は木立を透かして都県界尾根の山々が左から右へ連なるのが見える程度だが、目を凝らすとその奥に冠雪した富士山を遠望する。
当初は大平山までの予定だったが、時間に余裕があるので、さらに尾根を辿って都県界尾根とのジャンクションの七跳山(ななはねやま)まで足を伸ばしてみよう。標高はあちらが約50m高いだけの峰続きだから、大した行程ではないだろう…
…と思ったが、間に大クビレという結構落ちる鞍部があり、実はもっと登りがある。尾根上の薄い踏み跡を辿って下り着いた大クビレには天目山林道が通じていて、広い平地となっている。軽トラックが1台あり、運転席ではおじさんが日差しを浴びて気持ち良さそうに昼寝中。邪魔しないようにそっと砂利の上を歩いて、三ツドッケの写真を撮る。
大クビレから七跳山へは、雑木林に覆われた広くて急な斜面を直登する。振り返ると大平山の大きな山容が見え、都県界尾根からは独立した山で、なかなか風格がある。
急坂を登りきると平坦な尾根となり、小さなアップダウンを経て七跳山に向かう。七跳山の頂上付近にも円弧状の凹地があり、多分、地滑りによるものではないかと思う。
七跳山頂上は黒木の混じる樹林に囲まれて、こちらも展望に乏しいが、雰囲気は明るい。「公共」と刻まれた石標がある他は、山名標の類は全くない。メジャーな奥多摩の山なのに、これは意外。縦走路は頂上の南西を大きく巻いているので、わざわざ登る人も稀なのだろう。
フリースを着込んで大休止。ここで昼食とし、いつものメニュー(レトルトパウチの鯖味噌煮、WHITE BELG、鍋焼きうどん)を腹に入れる。ワンパターンだが美味いし、一週間経つとまた食べたくなってしまうのであ〜る。
下山は往路を戻る。七跳山の北面を僅かに下ると、樹林の大きな切れ間から北方の展望が得られる。都県界尾根の坊主山から北に派生した尾根は矢岳に続き、その向こうに両神山、赤久縄山、御荷鉾山、城峯山など関東山地の山々を望み、上信越国境の白い稜線を遠望する。高度感があって、都県界尾根の秩父側の奥深さ、険しさが感じられる眺めだ。
大クビレに急降下。軽トラではおじさんがまだ昼寝中だ(^^;)。大平山を越えれば、あとは落ち葉の積もる雑木林の尾根の下りのみ。特に大平山頂上からしばらく続く広い緩斜面の下りは快適。初めて下る場合は方向を迷いそうな場所だが、道は分かっているので鼻歌交じりで歩く。
大ドッケで東に方向を変えて、峠ノ尾根を下る。今日は終始穏やかに晴れて、12月下旬とは思えない暖かさだ。そんな陽気の中、疎らな雑木林の尾根を下るのは楽だし気分が良い。だいぶ下って植林帯に入り、送電鉄塔を過ぎて地蔵峠に戻る。
地蔵峠からの下りは、踏み跡が交錯するので引き込まれないように注意(実は道を間違いかけた。最後はどこも崖なので危険)。簡易舗装の道に降り着き、川俣橋を渡って、車を置いた浦山大日堂バス停に戻る。もう1台の車の主はまだ戻っていないようだ。結局、山中で誰一人として遇うことなく、静かな山歩きを満喫した。
帰りは秩父♨満願の湯の裏手にある皆野町営「水と緑のふれあい館」に立ち寄る(500円)。湯船は一つで大きくはないが、お客さんも多くないのでゆったりと浸かれる。暖かい一日だったとはいえ、さすがに体は冷えていて、温泉で温めるのは最高。さっぱり汗を流したのち、児玉、伊勢崎を経由して桐生に帰る。ただし、スマーク伊勢崎付近で酷い渋滞に巻き込まれたから、今後ここは避けて帰るようにしよう。