ウノタワ〜有間山〜蕨山
先週、奥武蔵の二子山〜武川岳〜伊豆ヶ岳を歩いてみて、私が奥武蔵に対してそれまで持っていた「軽ハイキング向きのお手軽な山」というイメージがちょっと変わり、存外に山らしい山、歩き応えのある山があって、結構楽しめるじゃん、と感じた。
という訳で、先週に続いて奥武蔵の山へ。大持山の南にウノタワと呼ばれる鞍部があり、そこには森の中にぽっかりと全く木の生えていない広場が開けて、昔は沼だったとの伝説があるという。ヤマノススメで紹介されているのを読んで興味を持っていたので、旧名栗村の名郷を起点にウノタワを訪ね、有間山と蕨山に縦走して周回する計画を立てて、出かけてきました。
桐生を未明に車で出発。途中、深谷の松屋で牛丼を食べて、しっかり朝食を摂る。秩父市街を抜けてR299を走り、山伏峠を越えて、山間の集落にある名郷バス停に到着。ここの有料駐車場に車を置く。WCあり。「なぐりづえ」という物騒なネーミング(もちろん名栗村の杖の意味)の竹杖が置かれていて、誰でも借りて利用可能。朝早いが、既に2台の車がある。駐車場は無人で、帰りに集金ポストに料金(800円)を入れることになっている。この辺りの駐車スペースはどこもキャンプ場の有料駐車場となっていて、車を安心して長時間置ける場所はここの他にない。
今日も青空が広がって風は穏やか。先週に続き、絶好の山歩き日和だ。入間川沿いの林道を歩いて上流に向かう。河原はキャンプ場となっている所が多い(というかほとんどがそうだ)が、シーズンオフのためか、お客さんは全く見かけない。
杉植林の中、谷沿いの林道を歩く。左に鳥首峠への車道を分けると、ようやくキャンプ場も尽きる。入間川起点の石標や地蔵尊を過ぎると、妻坂峠への林道を右に分ける。この辺りにかつて山中という集落があったそうだが、現在は廃村となっている。
左の横倉林道に入り、渓流に沿ってジグザグに上り詰める。路面には落石が多く、やや荒れている。林道終点は広場となり、その奥に「ウノタワ入口」の道標がある。
登山道に入り、すっかり葉を落とした雑木林の中、渓流に沿って登る。パイプから水が流れ落ちる最終水場を過ぎると水流は絶え、ザレた斜面をジグザグに急登する。このザレは石灰石だろうか。斜面全体を覆っている。苔むした転石を横目にグングン高度を上げる。
やがて雑木林に入ると、「ウノタワ約20分」の道標が地べたに落ちている。薄暗い谷間を抜け、ようやく陽の当たる斜面の登りとなり、平坦な小尾根の上に着く。大きな案内板がうつ伏せに倒れていて、何が書いてあるかは読めないが、ヤマノススメでも触れられていたウノタワの案内板だろう。
少し下ると、杉林や雑木林に囲まれて忽然と開けた広場に出る。広場には幾つかの浅い凹地があり、一面の苔と落ち葉に覆われている。かつては沼だったという伝説があるのもうなづける。多分、崩壊しやすい石灰岩が堆積した地盤のため、地滑りによってできた地形ではなかろうか、と考える。
広場の奥に大持山〜鳥首峠の縦走路が通り、ちょうど単独のハイカーさんが歩いていく。縦走路には「ウノタワ」の道標が立ち、ここにザックを置いて、ウノタワの中をしばし歩き回る。想像していたよりかは小さな広場だが、静謐に満ちた不思議な場所である。
ウノタワから有間山に向かって縦走路を南進する。露岩とアセビの多い稜線を少し登り、杉林の中を下って行くと工事中(架線架け替え?)の送電鉄塔に着く。さらに、石灰石採掘場の崩落箇所があるので迂回して下さい、との看板に従って下る。杉林の中をジグザグに急降下して、鳥首峠に着く。左に名栗、右に冠岩・川俣に下る峠道が通じ、石祠が祀られている。峠の少し先にも送電鉄塔が建ち、件の石灰石採掘場や伊豆ヶ岳が眺められる。
痩せた尾根を急登すると、右側斜面が大規模に伐採された稜線となり、浦山川の深く大きな谷を隔てて、大平山から三ツドッケ、蕎麦粒山に至る都県界尾根の山々の展望がドドドーンと開ける。大平山の右に少しだけ覗く黒木のピークは酉谷山のようだ。行く手には小ピークを連ねる有間山の山稜を望み、快晴下の大展望を楽しみながら稜線を緩く登ると、三角点標石と山名標のある滝入ノ頭に着く。ここで展望休憩。振り返れば大持山を望み、その左奥には両神山を遠望する。伐採のおかげとは言え、この展望は素晴らしい。
滝入ノ頭からも右側に防獣ネットが張られた伐採地が続き、終始、稜線からの展望が開ける。次のピークには「しょうじくぼの頭」の山名標と「三十三尋の滝を経て白岩へ」という古くて倒れた道標がある。都県界尾根の展望は相変わらず良い。特に、蕎麦粒山から派生してゆったり長々と延び、最後は浦山川に沈む仙元尾根が目を引く。次に登る山、決まったな。
しばらく展望の良い緩い稜線が続き、一旦急降下して登り返す。伐採地が終わり、ヒノキと雑木の稜線を急登すると、橋小屋の頭の頂上に着く。先客のハイカーさんが一人、コンロで昼食の準備中。「有間山(橋小屋の頭)1163m」との山名標が建つが、有間山の最高点はこの先のタタラノ頭(1213m)である。まあ、そちらに行くのは後にして、私もここで昼食にしよう。例によってレトルトパウチのサバ味噌煮を肴にWHITE BELGを飲み、ガソリンストーブで鍋焼きうどんを作って食べる。今日は比較的暖かい日とは言え、山上ではやはり熱い食べ物が美味しい。
腹を満たしたところで、タタラノ頭を往復してこよう。小さなアップダウンが連続する緩やかな稜線を辿る。丈の低いミヤコザサに覆われた気持ち良い道だ。短い急坂を上って、山名標と三角点標石のあるタタラノ頭の頂上に着く。雑木林に囲まれ、展望は木立を透かして見える程度。この先、稜線は有馬峠、仁田山を経て、日向沢ノ頭付近で都県界尾根に接続するが、今日はここで引き返す。
橋小屋の頭に戻り、東に派生する尾根を下って蕨山に向かう。急坂を下り、雑木林と杉林の境界の尾根を一直線に降りると、東屋と車道のある鞍部(逆川乗越)に着く。傍に新しい石祠が1基。車が1台登って来ていて、ハイカーさんが歩く支度中。ここまで来れば、蕨山へはほとんど登りがない。
蕨山へ幅広い登山道を緩く登る。途中、先行するハイカーさんが落としたと思しき手袋を拾う。蕨山最高点(1044m標高点)は杉林の中の瘤の上で、展望もなんにもない。会うハイカーさん毎に手袋のことを尋ねるが該当者なしなので、名郷への下山路の分岐点の道標の上に手袋を置いておく。
分岐のすぐ先、少し登ったところが蕨山の展望台だ。頂上からは、北から東にかけての展望が開け、武川岳や伊豆ヶ岳をはじめ奥武蔵の山々を一望する。ただ、周囲の雑木の梢が邪魔で、良い写真が撮れない。ここから東へ金毘羅山まで延びる稜線も、のんびりハイクが楽しめそうである。頂上にはベンチもあり、女性二人組ハイカーさんが楽しげにおしゃべり中。私もベンチに腰掛けて、水とお菓子を口に入れる。あとは名郷へ下るだけだ。
分岐に戻ると、道標の上の手袋はなくなっていた。傍にいらしたハイカーさんによると、落とし主がいたので伝えたら持って行ったとのこと。それはようござんした。
ここから名郷への登山道は、いきなりの急降下から始まる。ずんずん下ると、ベンチのある踊り場があって一息つくが、すぐに岩場を含む枝尾根の下りとなる。ロープの張られた岩場もあるが、特に問題ない。
樹林に覆われて展望は乏しいが、ところどころから武川岳や伊豆ヶ岳が眺められて、周囲の山々はどんどん高度を掲げて行く。尾根は痩せ、両側は結構な急斜面なので、足元には注意。途中で道標に導かれて、尾根から離れて右の杉林の斜面を下る。
やがて水流が現れ、幾つかの水流が合わさった渓流に沿って下る。険しさを増した渓流を巻き気味に右岸の山腹を斜めに下り、最後は急斜面をジグザグに下ると林道に出る。あとは林道をのんびり歩いて、名郷の駐車場に戻る。
駐車場は7割くらい埋まっていて、既に帰った車もあるから、一時は満杯に近かったようだ。バス停にも帰りのバスが来ていて、ハイカーさんが多数乗り込んでいる。車のワイパーにはナンバーを記した封筒が挟まれていて、それに指定された料金を入れて、指定された集金ポストに入れる。名栗温泉さわらびの湯の100円割引券もついていて、元々行く予定だったから、これはありがたく使わせて貰う。
帰りは有間ダムの下流にある名栗温泉さわらびの湯(通常、800円)に立ち寄る。木造ロッジ風の瀟洒な建物で、内装・浴室も木のぬくもりのある良い雰囲気。ハイキング帰りのハイカーさんが多くて更衣室はちょっと手狭だが、湯船にはゆったり浸かれる。これはなかなか良い温泉で気に入ったから、また来よう。土産に地酒・天覧山を買ったのち、飯能、R407を経由するルートで(途中、熊谷で渋滞に遭いつつ)桐生に帰った。