赤岩尾根

天気:のち
メンバー:M,T
行程:赤岩橋 7:50 …赤岩峠 8:50〜9:00 …赤岩岳 9:25〜9:30 …1583m標高点 10:30〜10:45 …P1 12:20〜13:05 …八丁峠 13:25 …落合橋 14:00 …赤岩橋 14:35
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

両神山の北西の上武国境にギザギザと岩峰を連ねる赤岩尾根は、打田鍈一氏が「ハイグレード・ハイキング[東京周辺]」(山と渓谷社、1993年)で「人けのない岩尾根にかすかな踏み跡を求める、豪快な岩稜縦走」と銘打って彼の地を紹介したガイドを読んで以来、行ってみたいなあと思っていたルートだ。しかし、藪と岩のエキスパートのみに許されるルートとのことで、おいそれと足を向けられる場所ではない。

7年前に大ナゲシ〜赤岩岳に登った際、赤岩尾根に行くという単独行のハイカーさんに行き合った。その方はそれまでにも赤岩尾根を歩いた経験があり、ルートの様子を訊くと、明瞭な踏み跡があり、難所にはロープが張られているとのことであった。そう聞けば行けそうな気もするが、件のハイカーさんのように単独行というのは、私にとっては少々怖い。

その後、赤岩尾根を訪れる機会はなかなかなくて、長年の課題となっていた。今回、クライミングのエキスパートであるMさんの同行を得て、ようやく出かけてきました。

日が短い季節なので、未明の5時に桐生を車で出発。志賀坂トンネルから金山志賀坂林道に入って八丁隧道を抜け、小倉沢を日窒鉱山(現ニッチツ)の住宅跡まで下って、赤岩橋手前の広い路側に駐車する。今日は天気が良いのでハイカーさんが多く、橋の周辺には既に6台程の車があり、出発準備中のハイカーさんもいる。多くは赤岩岳か大ナゲシを目指すと思われるが、中には岩登り装備のグループもいた。どこに行くのかな?

鉱山住宅の入口に張られた鎖を越え、ススキに覆われた無住の家屋が建ち並ぶ中に入る。ここにはいつまで人が住んでいたのだろうか。ぐるりと山に囲まれ、見上げると赤岩岳の大岩壁が廃屋の上にのしかかるように聳える。今日は青空が広がり、絶好の登山日和だ。


赤岩橋周辺の路側に駐車


鉱山住宅跡に入る


赤岩峠登口の古い道標


廃屋の上に赤岩岳が聳える

鉱山住宅の外れに赤岩峠登口があり、「右→群馬縣上野村ニ至ル 左←赤岩神社入口 柳瀬鉱業所」と刻まれた石碑が建つ。後日調べると、柳瀬鉱業所とは1937年に日窒鉱山に買収されるまでの当地の鉱山の名称らしい。

C形鋼を3枚並べた橋で水のない流路工を渡り、峠道に入る。最初は薄暗い杉林の中を行くが、山腹を登って左手の小尾根の上に出ると明るい雑木林に囲まれた尾根道となり、木の間越しに赤岩峠付近の国境稜線と、その下に帯状に連なる岩壁が眺められる。


登山口に建つ石碑


小尾根を登る

やがて、落ち葉に厚く覆われた斜面のジグザグの登りとなる。黄葉した樹林の上から晩秋の陽射しが降り注ぎ、カラッと明るくて気持ちがよい。

登り着いた所が赤岩峠で、石祠1基と峠名の標識がある。北側から吹き付ける風が冷たくて、登りで脱いだ長袖シャツを再び着る。木立を透かして、大ナゲシの岩峰が見える。Mさんが未踏の大ナゲシをここから往復するという案も考えられるが、時間の余裕はそんなにないので、今回は割愛する。大ナゲシはコースを変えて、また来る機会があるだろう。


峠直下の斜面をジグザグに登る


石祠のある赤岩峠

赤岩岳へは、岩壁の基部を左へ回り込み、ザレたルンゼを登って小鞍部に上がる。左の小岩峰の上は好展望台で、大ナゲシの鋭峰や、神流川北岸の御荷鉾山から赤久縄山にかけての連山が一望できる。


岩壁の基部を巻く


小岩峰から大ナゲシを望む

赤岩岳へは小鞍部から右へ登る。急な岩稜が現れ、ちょっと高度感があるが簡単に登れる。樹林に入って急登すると、赤岩岳の頂上に着く。


岩稜を登る


赤岩岳の岩壁

赤岩峠から赤岩岳までは私は来たことがあり、2回目の登頂だ。樹林に覆われて展望に乏しいが、西側が開けて、鋭い三角形の宗四郎山や岩場の目立つ焼岩、大山、帳付山へと続く上武国境稜線が眺められる。


赤岩岳頂上


赤岩岳から西へ続く
上武国境稜線を見渡す

ここから先が、いよいよ未知の領域だ。樹林の中に明瞭な踏み跡が続き、これを辿る。少し進むと松が生えた岩稜となる。右側は岩壁の縁で、両神山のギザギザの頂上稜線を望み、谷底に小倉沢の鉱山集落を見おろす。鉱山は操業しているのか(後日調べると、石灰石が採掘されているようだ)、風に乗って機械音が聞こえてくる。

樹林に入って少し下り、小さなピークを3つほど越える。行く手には木の間を透かして険難な岩峰が見えるが、しばらくは長閑な尾根歩きが続く。


樹林中に明瞭な踏み跡が続く


小倉沢の鉱山集落を俯瞰


両神山を望む岩壁の縁を歩く


樹林に覆われた尾根を辿る

さて、その岩峰の登りにかかると、最初の難場が現れる。岩壁の基部を左へ一旦降り、ロープが掛かる岩場の段差を登って越える。下は切れ落ちて高度感がある上、ロープは老朽化して信頼できない。ロープにはなるべく体重を懸けないようにして登り切る。


最初の難場


難場を上から見たところ
古い固定ロープが下がる

岩稜を登って小岩峰を越えると、行く手に1583m標高点の岩峰が現れる。赤岩尾根の核心部だ。一見してどこを登るのか戸惑う険しい岩場を纏うが、岩稜の右のスラブが比較的斜度が緩く、固定ロープがあるのも見える。あそこを登るようである。


小岩峰を越えると1583m峰が迫る


1583m峰を望む
岩稜の右のスラブを斜上する

小岩峰からの下りにも、松の大木が生えた岩場がある。上から見ると、ここ降りれるの?と思う程の壁になっているが、階段状にスタンスがあり、容易に降りれる。

1583m峰の登りは岩壁の基部を右に回り込み、トラロープの下がるスラブを登って、中間のバンドに出る。この先のルートが少し分かりにくい。スラブを見上げると木の枝に赤いリボンがヒラヒラしていて、その先に古いロープの末端が垂れ下がっているのが見える。どうもここを登るようだ。幸い、乾いた岩肌は摩擦が効いて手がかり・足がかりもあり、登るのはそう難しくない。とは言え、高度感はかなりあるので、緊張を強いられる。ロープの上端から斜め右上に登ると、樹林に囲まれた1583m峰の頂上に着く。ホッと一息。休憩してリンゴを食べ、喉を潤す。


スラブを登る


登って来たスラブを見おろす

1583m峰からは、樹林の中を大きく下る。途中、山腹を右へトラバースして枝尾根に引き込まれ、とても下れない急斜面に突き当たる。どうも道を間違えたようだ。引き返すと、トラバースの途中に黄テープの目印があり、正規の踏み跡が左下に続いている。ここは迷い易いので注意。

下り切って小ピークを一つ越えたところが最低鞍部。ここからP4へ、岩場を交えた樹林の中の急登となる。登り着いたピークには、杉の幹に「P4」と書いたビニルテープが巻かれているだけで、展望に乏しい。次のピークには、木の幹に「P3」と書いたビニルテープが巻いてある(打田氏のガイド本では、ここがP3となっているが、後述のように、この先のピークにも「P3」の標識がある)。


1583m峰の下りから
最低鞍部を隔ててP4(左)を望む


P4への登り

しばらく樹林に覆われた尾根を小さく上下して進むと、次のピークへ急登となる。岩場が連続して現れ、最初の方は問題ないが、最後に控えるチムニー状の岩場は難関だ。オーバーハングしている上に、チムニーに入るとザックがつっかえて邪魔になる。まず、Mさんが攀じ登る。折角ザイルを持って来ているからということで、私は上で確保して貰ってトップロープで登る。これなら楽勝である。


P3への登り


チムニー状の岩場を攀じ登るMさん

登り着いたピークには、「P3」の文字が掠れた古い標識がある(この記事では、このピークをP3としている)。両神山の頂上稜線がかなり近づいて眺められる。この頃から曇り始めて、北から流れて来たガスが県境稜線を覆い始めていた。


P3の標識


両神山の頂上稜線を望む

緩く登り、「P2」と書かれた古い標識のあるピークを越えると、行く手にP1(1589m標高点)の岩峰が現れる。ガスがかかってうすボンヤリとしか見えないのが惜しい。なかなか険しい鋭峰だ。

P1への登りは岩稜の連続となる。急峻だが、ホールド、スタンスともガバチョとあるので、見た目より易しい。快適な登攀を楽しんで、P1の頂上に登り着く。

頂上は疎らに松が生えて明るく、展望が良い。正午を過ぎて腹が減った。ここで大休止とし、昼食をとる。私はこれからの季節の定番、鍋焼きうどんを食べる。食後はコーヒー・タイム。この先に難所はないので、のんびりと寛ぐ。


P2付近からP1を望む


P1へ岩稜を登る


P1の頂上直下


P1から赤岩尾根を振り返る

P1からは上武国境稜線と分かれて、八丁峠へ下る。明瞭な踏み跡を辿ると、「←至ル八丁峠 山子二」の文字が掠れた古い道標がある。昔の地形図には、北側からこの地点に上がって来る破線路が記載されている。これがかつての八丁峠道のようだ。

明瞭な山道を辿り、少し登り返すと覆屋の中に2基の石祠が祀られている。昭和年代の建立で鉱業所の名前があることから、鉱山の山の神として祀られたのだろう。


古びた道標


山の神

山の神から左の山腹をトラバースし、尾根に戻って下ると、すっかりガスに覆われた八丁峠に着く。赤岩尾根の入口には「この先危険 立入禁止」の看板が立つ。赤岩尾根は明瞭な踏み跡が通じ、難所の岩場にはロープがかかって、難易度が下がっていると思われるが、三か所の難場の通過はまだまだ一般的ではないし、固定ロープの老朽化も懸念される。このルートを歩く場合は自己責任でどうぞ。


八丁峠


赤岩橋の駐車地点に戻る

八丁峠から落合橋までの下りは、3週前の金山沢の沢登りの帰りに通ったばかりの道である。落合橋からは終盤の紅葉を愛でながら車道を下る。下流の中津峡の紅葉が見頃のようで、ドライブのマイカーやつるんで走るバイクが多い。

車を置いた赤岩橋に戻り、帰途につく。途中の万場ではお祭り開催中。翌日に開催される神流マウンテンラン&ウォークの参加者で賑わっていた。そのためか、長井屋製菓に立ち寄ってまんじゅうを買おうとしたら、早い時間帯にもかかわらず既に売り切れ。店の人が、売り切れで申し訳ない、と1個ずつまんじゅうをくれた。お心遣いに感激。さっぱりした甘さのまんじゅうを頰張り、桐生に帰った。

参考ガイド:関東周辺やまなみ歩き(新ハイキング社、2012年)、薮岩魂ハイグレード・ハイキングの世界(山と渓谷社、2013年)。