高岩神社〜桐ノ城山

天気:時々
メンバー:T
行程:駐車地点 10:05 …鳥居 11:25 …高岩神社 11:55〜12:15 …秋葉峠 12:35 …桐ノ城山(1042m) 13:00〜13:35 …石尊山(954m) 14:00 …若御子山南峰(891m) 14:40 …林道に出る 15:00 …駐車地点 15:20
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

2012-06-02追記:高岩山の神社の名称について、この山行記録掲載時は「高岩山神社」と表記していましたが、地元での呼称は「高岩神社」のようですので改訂しました。)

昨年の秋に『小さな旅―西上州・神流川流域の山と峠』(三宅伴子著、1988年刊)という本を入手して読んだ。その一節に「高岩山」という題の紀行文があり、それによると、オドケ山の南、桐ノ城山(きりのじょうやま)の西に高岩山という台地状の岩山があり、頂上には立派な社が祀られているという。

頂きに神社を祀る岩山と聞けば興味津々、これに登らない訳にはいかないでしょう。「小さな旅」に載っている略地図(右に引用)を国土地理院の地形図と照らし合わせると、崖記号や破線路がよく符合することから高岩山の位置は正確に判ったが、山名や神社記号は地形図にない。

約1km西の御荷鉾山系主脈上には、同じく高岩山と称するピーク(これも地形図には山名なし)があり、登ったこともある(山行記録)が、もちろん全く別の山だ。主脈上の高岩山は別名を牛頭山と言い、もっそりした山容で岩場が無いことから考えると、別名の方が相応しい感じがする。

最近、高岩神社を訪れた人はいるのだろうか。ネット検索では情報がなく、唯一、神流マウンテンランのルート概念図に「高岩社」の記載があるのを見つけた。地元では知られた神社であることが窺える。ついでに、桐ノ城山から万場に落ちる南尾根には若御子尾根という名称があり、マウンテンランのルートになっていることも知った。大会コースならば整備の手が入っているだろうから、道迷いや藪漕ぎの心配なく歩けそうだ。

(2012-04-22追記:神流町観光サイト神流の山の地図にも高岩社の記載がある。)

高岩神社への参道は、「小さな旅」の著者が歩いた20数年前でも「あまりに心細いみち」だったので、現在では廃道化して通れない可能性がある。万場から参道を経て高岩山の登頂にトライし、首尾よく登ることができたら、桐ノ城山、若御子尾根を周回して万場に戻る計画を立てて、出かけて来ました。

桐生を車で出発し、伊勢崎、鬼石を経由して万場に向かう。今日は青空が広がり、あちこちで桜が満開、新緑が芽吹いて、こんな日はアプローチの運転も格別に気分が良い。

駐車場所を探して少々うろうろしたが、若御子尾根ルートの登山口近くに道幅が広くなった場所を見つけて車を置く。万場の市街から一段上がった地点で、眼下には奴郷平(ぬごうだいら)と呼ばれる緩斜面に畑地が広がり、神流川の対岸に茫洋とした山容の父不見山が眺められる。

駐車地点
左奥に千軒山が見える
駐車地点から父不見山の眺め

車道を西へ歩き出すと右に林道が分岐し、入口に若御子尾根ルートの道標がある。帰りは若御子尾根を下ってここに出る予定だ。入口を通り過ぎ、さらに西へ車道を歩いて、若御子山の中腹斜面に民家が固まる東塩沢の集落に入る。集落の中程にある龍松寺には大きなしだれ桜があり、八分咲きとなっていた。

龍松寺から右に分れる車道に入り、集落を外れて天狗沢川左岸の山腹を進むと、行く手の谷の奥に岩壁を抱えた山が現れる。あれが目指す高岩山のようだ。

龍松寺のしだれ桜
高岩山を望む

簡易水道の浄水場を過ぎると谷が狭まり、車道は杉林の中に入る。やがて坂本橋の手前で舗装が切れる。広い駐車スペースがあり、ここまでは車で問題なく入れる。

巨石が散在する荒々しい渓相の天狗沢川を渡ると、未舗装の荒れた作業道となる。渡ってすぐの道端に苔むした馬頭尊の石碑があった。この道は秋葉峠と古峠の二つの峠に通じ(現在は廃道)、かつては山向こうの鮎川流域の村との行き来があったのだろう。

傾斜を増した作業道を登って行くと杉林が切れて、落差20mほどの滝が現われた。滝の左側が崩壊斜面となっているのは少し殺風景だが、滝の上には高岩山が聳え、落口から水が一気に岩盤を滑り落ちている様はなかなか迫力がある。この滝は「小さな旅」には書かれておらず、名称は不明だ。

舗装終点の坂本橋
無名滝と高岩山

作業道は滝を過ぎると、緩斜面をジグザグに登る。この辺りは工事現場か土砂採取の跡地のようだ。高岩山の基部に近づき、見上げると中腹の岩壁が高い。

林道から高岩山を仰ぐ
岩壁に囲まれた高岩山の偉容

作業道を忠実に辿ると杉林に入る。そろそろ参道の入口があるはず、と注意していると、右手の杉林の奥に木の鳥居を見つけた。鳥居の前には落ち葉に覆われているが明瞭な窪みが続いており、これが昔の峠道らしい。

鳥居は朽ちかけていて、額束の文字も全く読み取れない。鳥居を潜り、微かな踏み跡を辿って枯れ沢を渡る。落ち葉に覆われた山腹をトラバースして大岩の下を通り、小さな支尾根に突き当たってその上に登る。支尾根上には踏み跡があり、これを登って行くと、途中の立ち木に黄テープが巻かれている。

参道入口の朽ちた鳥居
大岩の下の微かな踏み跡を辿る

この黄テープから踏み跡は支尾根を外れて、右の急斜面をトラバースし始める。しかし、斜面の下は岩壁なので滑落したらアウトだし、踏み跡も有るか無きかで、かなり怪しい。ここは安全策で支尾根に戻り、頂上に向かって直登する。木立を摑んで強引に身体を引き上げ、なんとか高岩山の頂上に登り着いた。

頂上には一対の狛犬と社が鎮座し、その立派さにまず驚かされる。社殿の軒先には「慶應三丁卯四月吉日講中安全 上州甘楽郡吉崎村 宮本 神戸善右衛門」と銘のある鰐口と鉦の緒が掛けられている。慶應三年は幕末の1867年、甘楽郡吉崎村は現在の下仁田町吉崎で、兄倉山の北麓だ。社殿の中には金属製の新しい鳥居が置かれ、額束には「髙岩山」と刻まれている。その奥に木の古い祠が祀られ、多数の剣や天狗の面が奉納されている。新しいお供え物もあるので、今でも参る人があるようだ。

社殿の前は小さな広場となり、その先は南面の断崖だ。木立の間から見おろすと、登って来た作業道や山麓の集落が眺められる。社殿に向かって右側に、斜面を降りる微かな踏み跡がある。これが秋葉峠に向かう破線路だろうか。ちょっと下って偵察してみたが、急傾斜な上に道が不明確なので、これを辿るのは止めておく。

高岩神社
社殿前の広場

神社の裏手に回ると、北へ向かう稜線の上にはっきりした踏み跡があるので、こちらを歩くことにする。稜線からは冬枯れの雑木林を透かして、左前方にオドケ山、右の谷の底に採石場跡が見える。緩い登りで藪もなく、あっさりと御荷鉾スーパー林道に出た。現在は参拝ルートがこちらになったため、下から登る参道は歩かれなくなったのだろう。

北の稜線を辿る
御荷鉾スーパー林道に出る

御荷鉾スーパー林道を右(東)に辿る。路面にはもう雪はなく、バイクツーリングのグループとすれ違う。程なく秋葉峠に着く。右(南)側の杉林の中に苔むした石の道標があり、四方の側面には「向 右塩澤峠 左御荷鉾山及三波川、向 右万場町 左日野村、大正十五年四月一日 万場塩澤青年會、町制記念」と刻まれていた。これを見ると、スーパー林道の開通以前に、主脈上に延々と道があったことがわかる。

(2021-12-11追記:広報かんなH22年9月号の記事によると、この道標は元は秋葉峠に建てられたが、スーパー林道の開削によって移動させられたもの、とのことである。)

秋葉峠
秋葉峠の石の道標

地形図では秋葉峠から高岩山に向かう破線路があるが、実際には杉の植林で痕跡も見当たらない。しかし、桐ノ城山方面への踏み跡はある。そちらからハイカーさんがやって来たので、尋ねるとやはり桐ノ城山から来たとのこと。ショートカットになるので、この道を行くことにする。

踏み跡は杉林の山腹を巻いていく。途中、右に下る踏み跡に引き込まれないように注意(間違えた)。尾根に出て、左から来た広い作業道と合流。ここからはマウンテンランのルートで、道が良くなる。鳥居を潜り、桐ノ城山に向かって、カラマツ林と杉林の境界の尾根をユルユルと下る。やがて雑木林に入り、小鞍部で万場への道を分けてひと登りすると、桐ノ城山の頂上に着いた。

桐ノ城山入口の鳥居
桐ノ城山への尾根道
桐ノ城山への登り
桐ノ城山頂上

桐ノ城山は、山名はロマンチックだが、頂上には昭和14年造立の石祠と山名標識があるだけで、樹林に覆われて展望もなく、薄暗い印象。陽が射し込む場所を選んで腰を下ろし、缶ビールを開け、ラーメンを作って食べる。出発から3時間歩き、時刻も1時を回っているのでお腹が減っており、美味しく頂く。

万場への分岐
桐ノ城山直下の石祠

昼食を終えて下山にかかる。小鞍部まで戻って万場への道に入る。桐ノ城山の頂上を巻いて南の尾根に出ると、3基の石祠が祀られている。ここから岩尾根を絡んで急降下する。要所にトラロープが張られているので、注意して歩けば危険はないし、変化があって面白い。しかし、マウンテンランではここを走って登るのだから凄い。

西御荷鉾山と自然村の展望
岩尾根のトラバース

急な稜線を下り、石尊山へ僅かに登る。登山道は石尊山直下を巻いているので、道標に従って石尊山に登って来た。常緑のアセビに覆われた頂上は狭く、鯉のぼりの形の山名標が掲げられているだけだ。宗教モニュメントは特にない。

石尊山直下の道標
石尊山頂上

石尊山からは気持ち良い雑木林の尾根道となる。鞍部から少々登り返しがあり、最近軽い山歩きばかりで久々に長距離を歩いたせいか、足が重い(^^;)。登り着いたピークには「若御子山(北峰)」の山名標があった。枯れ葉の上に腰を降ろし、水を飲んで休憩する。

雑木林の尾根道
若御子山北峰

北峰からは緩い尾根道となり、アセビ林のトンネルを抜けて若御子山南峰に着く。疎らに雑木が生えた広々とした頂上で、大人数でもゆったり休めそうだ。木立を透かして、西御荷鉾山も眺められる。

南峰からの下り始めは尾根が広いので(一部、二重尾根になっている)、要所に道標がなければ迷いそうな場所だ。やがて急な下りとなると、山麓の集落が見える。しかしそれも一瞬で、展望の無い杉林の中に入ると、あとは下るのみだ。

若御子山南峰
あとは下るのみ

途中、枝道があるが、尾根に沿って下ると林道に出る。「若御子尾根ルート登山口」の道標があり、桐ノ城山まで登り110分と書いてあった。下りでも約90分かかったので、なかなか歩き甲斐のあるルートだ。しかし、岩場や気持ち良い雑木林があり、変化に富んで面白かった。お勧め。林道をだらだらと下り、往路の車道に出て駐車地点に戻った。

林道に出る
満開の桜@桜山温泉センター

帰り道ではこれも久し振りで、鬼石の桜山センターうしおの湯に立ち寄る。周囲の桜は満開だ。この春の桜はどこでも見事な気がする。広い湯船にゆっくり浸かって筋肉痛をほぐしたのち、桐生に帰った。