粕川(赤城)
Mさんから週末の沢登りのお誘いを頂いた。Hさんも同行するという。Mさんの仕事の都合で早い出発はできないので、近場の赤城・粕川を不動大滝から銚子の伽藍まで遡行することになった。Mさんが書いた記事はこちら。
Mさんを車に乗せて桐生を出発し、前不動駐車場でHさんと合流する。天気はまあまあ保ちそうだが、雲が低く湿度が高い。トレラン用シューズを履いて出発する。ここから不動大滝までは、昨年も歩いたコースだ(山行記録)。ほとんど登りはないのに、じっとりと汗をかく。不動大滝への渓谷道の途中で忠治の岩屋に入ると、地下の穴蔵の中はヒンヤリと涼しくて寒いくらい。蒸し暑い外界とは別天地で、外に出たくなくなる。
名残を惜しみつつ岩屋を出て渓谷沿いの歩道を歩き、不動大滝の下に着く。落口から弧を描いた水流が浅い滝壺に豪快に叩き付けられて霧となり、激しい風を伴って吹き付けて来る。まるで悪天下の3000級の稜線にいるようで、ここもかなり涼しい。
しばし涼んでいる間に、MさんとHさんは大滝の高巻きルートを探って、左岸の急斜面を登り始めている。後に続いて登ると、足元はドロドロ、トゲトゲの草が茫々の急斜面である。うへー。今日は涼しい沢登りのはずが、低山を登るより暑苦しい気が(^^;)。しかし、ここから高巻くのは無理と判り、引き返す。
下流に戻りながら取り付けそうな斜面を試しに登るが、どこも岩壁に突き当たって行き詰まり、結局、昨年とほとんど同じ所から高巻きに入る。延伸工事中の林道を右手に見て、つつじが峰通りの尾根を目指して登るが、尾根まで行かず、途中から本流上流に向かって山腹をトラバースする。大滝のすぐ上流を狙って下降すると、大きな砂防堰堤の上流の河原に着いた。堰堤の上から下流を眺めると大滝のV字の落口が見え、険悪な様相だ。
一方、堰堤の上流は広い河原となっていて、穏やかな谷だ。しかし、休憩しているとアブに集られる。虫除けを忘れたのは失敗した。以降、しばしばアブに悩まされながらの遡行となる。
ここからはしばらくの間、のんびりとした河原歩きが続くが、やがて両岸が岩壁となり、ゴルジュに差し掛かる。
ゴルジュの奥には二つめの砂防堰堤があり、越すことができない。ゴルジュの下流まで戻り、左岸の浅い沢から高巻きを図る。斜面を登ると、途中に庚申山のめがね岩のように孔が開いた(ただし孔は一個)奇岩があった。沢を詰めて小尾根を乗り越すとザレた斜面に出る。ザレの表面にはヒトの足跡らしきものが付いている。まさか、先行者?ザレの横を下り、ようやく粕川本流に戻った。
それにしても、大高巻きの連荘は疲れた。しかも人工物のために高巻きとは、徒労感5割増しな感じ。楽をするなら、つつじが峰通りの尾根道を登り、標高1090m付近から粕川に下降して、不動大滝と砂防堰堤の大高巻きを避けた方が良さそうだ。
堰堤上流の粕川は岩がゴロゴロと山積し、両岸を苔むした岩壁に囲まれている。所々に小滝や小さなナメがあり、ようやく沢登りらしい沢の感じになる。流れを頻繁に渡るようになってきたので、この辺でトレラン用シューズから渓流足袋に履き替える。積極的に水の中にじゃぶじゃぶ入った方が、飛び石伝いより危険が少ないし、何と言っても楽しい。
徐々に河床の勾配が強まると、2段樋状の滝が現われた。上段は脆い岩がU字に刳り貫かれた落差5mくらいの滝となっている。Hさんが大胆にも直登し、滝の上に立ってガッツポーズ。Mさんと私は左から簡単に巻く。
2段樋状滝の上流で谷は二俣に分かれる。両岸は高い岩壁となっていよいよ険しく、核心部に入った感じがする。左俣に入ると、岩壁を縦に割るように落ちる10m程の直瀑が現れる。Mさん所有のガイド本によると「かめ割の滝」という名が付けられているそうだ。周囲は岩壁が迫って靄がかかり、何とも陰鬱な感じの滝だ。
かめ割の滝はとてもではないが直登できないので、右岸から高巻く。岩場に残置ロープがあるが、古くて頼りにならない。滝の上もゴルジュが続き、さらに滝がある。この滝も登れそうにないので、左から大きく高巻く。本流は岩壁の下で、降りれる場所がない。一応、懸垂下降の装備は携行しているが、ゴルジュの中に降りてしまうと脱出できなくなる可能性があるので、ここでは使えない。さらに高く巻き、山腹をトラバースする。ここにはそこはかとなく踏み跡があるような気がする。
やがて枝沢に突き当たってこれを降り、最後は古い残置ロープにぶら下がって本流に着いた。しかし、この上流もゴルジュとなり、奥には滝がある。左岸の細い岩根を伝って越えられそうだったが、これもあと少しのところで先に進めない。結局、ロープを登って戻り、右岸から高巻き直す。この核心部の高巻きは難儀だ。
ようやく高巻きを終えて、粕川本流に戻った所が銚子の伽藍の入口だ。周囲の岩壁はのしかかるように高い。大高巻きの連続で少々疲れたので、ザックを降ろして一息つく。その間、MさんとHさんは銚子の伽藍の中に入って行ったが、しばらくして戻って来た。釜が深い滝があり、突破できなかったようだ。
それにしても銚子の伽藍のカミソリのような切れ込み具合は物凄い。奇勝と言えよう。今日はこの景観を見れたということで、大満足だ。銚子の伽藍の入口で長い休憩をとったのち、右岸を戻り気味に高巻く。途中で靴を履き替える。この登りも最初は道のない急斜面で、三段の滝のときのような立ち木を摑んでのゴボウ登りになるかと思ったが、途中からはっきりとした踏み跡が現われて、やれやれ助かった〜。牛石峠へ登る道の途中に出れば、あとはハイキングコースなので安全地帯だ。しかし、近場の手軽な沢登りを想像していたら、実際には本格的でなかなか大変な沢登りでした。
銚子の伽藍の落口、横引き峰を経て、つつじが峰通りの長い尾根を下山する。ガスが出て、今にも降りそうな天気だ。ハイカーさんに人気の銚子の伽藍だが、今日は天気のせいか、人っ子一人行き合わない。この時期のつつじが峰通りは笹が深く、余り歩かれていないようだ。笹の葉の露に濡れて靴の中がぐしょぐしょになったが、大高巻きのつらさに較べれば、どうということはない。下るにつれてガスが切れ、晴れて来た。下界はやっぱり蒸し暑いな。林道に出て15分程歩き、車を置いた前不動駐車場に戻った。