銚子の伽藍
近場の気になるスポットのひとつ、赤城の銚子の伽藍にツツジの咲く頃を見計らって出かけて来ました。ツツジの花の方は、今年はどうも数が少なかったようですが、不動大滝と渓谷の道、新緑の尾根、そして銚子の伽藍の奇観と、変化に富むハイキングが楽しめました。
前日の金曜日の夜は大宴会で、当日の朝は少々飲み疲れ気味だったが、天気は上々。今回は桐生山野研究会のMさんに同行頂くことになり、私の車で出発する。
おおさる山乃家に向かって赤城山麓に分け入ると、たちまち緑に深く包まれたとっても山奥の雰囲気になる。おおさる山乃家からつつじが峰通りに登るコースもあるが、今日は不動大滝を経由して行くとのことで、車をさらに走らせて前不動駐車場に向かう。
前不動駐車場の広いスペースは、まだ時間が早いせいか、車は2台だけでがらんとしている。今日は天気が良くて、最初からTシャツで出発する。登山口から山腹をトラバースする整備された遊歩道に入ると、僅かに左に逸れたところに前不動の社がある。近年、建て直されたものらしく、石像も社も新しい。
遊歩道に戻って進むと、道の脇の小屋掛けの下に剽軽な猿の像があり、伸ばした手の先から水が落ちている。延命猿水と名前が付いていて、飲んでみると美味しい。
この遊歩道には、この先にも「赤城山随一の景色 富士見所」(植林が育って、富士山どころか向こうの尾根すら見えない)、「忠治みはり岩」、「瀧み所」(不動大滝が僅かに見える)などの看板が立つスポットがあり、見所かどうかは微妙だが楽しいのは確かだ。
少し下り気味となった遊歩道を辿ると、不機嫌そうな表情の不動明王の立像が前にずらりと並んだ、一見、山小屋風の建家がある。これが滝沢不動尊の山門で、潜って中に入ると、岩壁の下に本堂がある。境内の説明板に書かれた「滝沢不動尊の由来記」によると、ご本尊の不動尊は1406年に奉祀されたもので、上杉謙信が戦のお守りとして右腕を切り取ってしまったため、「片手不動」とも呼ばれているとのこと。本殿の中を覗いて見たが、暗くてご本尊は見えなかった。
滝沢不動尊から粕川に降り、渓谷に沿って歩く。すぐに分岐があり、沢沿いの道と右岸を行く道に分かれる。ここは沢沿いの道へ。河原を歩いたり、不安定な工事用の足場板で流れを渡るところがあり、遊歩道からはちょっとレベルが上がってスリルがある。滑って川に落ちないように注意。
忠治の岩屋(岩窟)は右手の岩壁の基部にある。なかなか深い洞窟の中へ階段を下ると広間があり、雨風を完全に凌げる。中は暗くひんやりとして、寒いくらいだ。天保11年(1840年)に国定忠治が八州見回り役の追っ手から逃れて、冬の三か月間をここで過ごしたとのこと。
忠治の岩屋から上流へ数分進むと、大岩壁の上から豪快に水を落とす不動大滝が現れた。かつては落差50mと言われていたが、群馬県指定文化財に指定されたおりに計測したら、実は落差32mということが判明したとのこと(Mさん談)。滝の高さはどうも高く見えてしまい、実際は6〜7割掛けくらいだね、などと話す。しかし、それでも50mくらいに見えてしまう大きな滝だ。今日は水量も多くて迫力満点。
不動大滝の手前辺りからつつじが峰通りの尾根に上がる道があるらしい、ということで、滝から下流に戻りながら左岸に道を探すが、どうもなさそう。忠治の岩屋のすこし下流から、こういうところが得意なMさんを先頭に、道なき斜面に取り付いて登る。
途中でカモシカに出くわして、お互いビックリ。傾斜はきつく足元は脆いが、うまいこと岩壁の間を登って、ようやく山道のあるつつじが峰通りの稜線の上に出た。急登に二人とも息が切れて、暫く休憩する。
稜線上にはミヤコザサの下生えの間にはっきりした道があり、楽に登れる。途中、両側から崩壊が進んで稜線が痩せた個所があるが、問題なく通過。ヤマツツジの赤い花がポツポツ現れる。樹林に覆われて展望は少ないが、ところどころから粕川上流を取り囲む稜線や山麓の展望が開ける。天気もグングン晴れて、陽射しが強い。
急坂を登ると、蜀山人の歌碑に着く。石碑になんと彫り刻まれているのか、全部は読み取れないが色っぽい歌らしい。解説はこちらを参照下さい。すぐ後ろのさねすり岩を通り抜けると、横引き尾根の分岐点はすぐだ。
横引き尾根の上に出ると、反対側には地蔵岳や長七郎山に囲まれた緩やかな谷と斜面が広がっているのが眺められる。ちょうど新緑の前線が地蔵岳の頂上に届こうとしているところで、葉っぱの鮮やかな緑とミツバツツジの花の紫、ムシカリの白い花が混ざり合ってきれいだ。尾根を辿り、道標に導かれて右に下る。バイケイソウが茂る湿った斜面を通って、川のほとりに下った。
降りた所は銚子の伽藍のすぐ上流で、火山らしい白茶けたザレに囲まれた広場があり、ハイカーさん数組が休憩している。広場を横切って下流へ粕川を辿ると、深く抉れた狭隘なゴルジュの中に吸い込まれて行く。ゴルジュの中は2段、3段の滝となって曲がりくねって落ちており、その先はどうなっているか見えない。これは不思議な景観だ。
ゴルジュの両岸はぼろぼろに風化した高い崖になっている。牛石峠の方に少し上がった所から、銚子の伽藍と下流を俯瞰してみた。ゴルジュの中とその下流がどうなっているか興味を引かれるが、踏破は難しそうだ。
広場に戻って、昨夜の宴会の残りから貰って来たご馳走を美味しく頂く。今回はさすがに缶ビールは無し。ここから上流の粕川は穏やかな流れで、こういうのを辿って歩くのも面白そうだ。易しくて楽しい沢登りをしたいね、などという話がMさんとの間で出る。
下りは往路を戻る。つつじが峰通りの尾根を下って滝沢不動尊分岐を直進すると、おおさる山乃家〜前不動駐車場間の車道の途中に降り立った。車を置いた前不動駐車場へは、見晴らしの良い車道を歩いてすぐ。すっかりハイキング日和になって、広い駐車場にはハイカーさんの車がずらりと並んでいた。