九重連山
昨年は仕事で2度、九州に行く機会があり、そのついでに多良岳〜経ヶ岳や阿蘇高岳・根子岳に登った。今年も福岡に仕事で行くことになり、週末を絡めて、また九州の山に登ろうと計画を練る。
九重連山は、福岡に住んでいた子供の頃、家族で久住山に登ったことがあるが、遥か昔のことなので、どんな山だったか、あまり覚えていない。また、登ったのは久住山だけで、九重連山最高峰の中岳をはじめ、他の山は未踏のままだ。
という訳で、今回は九重連山をじっくり登ることにする。坊ガツルの法華院温泉山荘に2泊し、九重連山の主な山に登る計画を立てて、出かけて来ました。
福岡に滞在中は博多駅前のホテルに宿泊。20日までで仕事は終わり、登山に不要な荷物を宅配便で自宅に送り返す。21日朝、ホテルの無料サービスの朝食を急いで食べたのち、博多駅7:45発の特急ゆふ1号に乗って、豊後中村駅に9:44に到着する。
豊後中村駅は九重連山の表玄関となる駅なので、駅前は少しは賑わっていると想像していたのだが、路線バスの転回がやっとの広さの広場を囲んで「歓迎 九重連山登山口」という看板と、営業しているのか怪しい食堂やパブスナックなど数軒の店舗があるだけの寂れたローカル駅だ。人影もなく、夏休み中の登校日帰りの地元中学校?の生徒かな、同じ制服の純朴そうな女の子10人位のグループがおしゃべりに興じているだけだ。
駅前のバス停で九重登山口行9:55発のバスを待つと、10分程して定刻通りにバスが来た。私と観光客らしい女性2人連れ、中学生グループからバイバイと別れた女の子1人を乗せて、バスは出発する。数個目のバス停で女の子が下車。バスは九酔渓というなかなか険しい渓谷に沿って走り、急な崖をジグザグに登って飯田高原の一角に出る。九重“夢”大吊橋(長さ、高さが日本一らしい)の最寄りバス停で女性2人連れが下車。湯坪温泉、筋湯温泉を経由する間、数人の乗降客があったが、最後は乗客は私1人になって、牧草地の中を長者原に向かう。
終点の九重登山口バス停に到着し、牧の戸峠行きのバスに乗り換えようとしたら、同じバスで良いらしい。なお、料金は別体系になるそうな。運賃は豊後中村〜牧の戸峠で計1,200円だった。
牧の戸峠は、阿蘇と湯布院を結ぶやまなみハイウェイが越える観光スポットで、平日にも関わらず通過する車やバイクは多い。出発前に、今晩の宿泊を予約してある法華院温泉山荘に確認の電話を入れると、宿までのルートを訊ねられた上で北千里浜経由の道を勧められたので、素直に従うことにする。
牧の戸峠から沓掛山を経て久住山に登るルートに入る。沓掛山の途中までは、観光客も歩けるように舗装された歩道になっている。途中、東屋が建つ展望台があり、牧の戸峠が俯瞰できる。また、黒岩山や端正な台形の山容の湧蓋山(わいたさん)の眺めも良い。
さらに登ると舗装が終わって山道になり、大きな溶岩が点在する稜線に出る。行く手に星生山(ほっしょうざん)方面の眺めが開け、そちらに続くゆったりと広い尾根の上には登山道がついているのが見える。久住山もちょっとだけ頭を覗かせている。大岩が積み重なった沓掛山の頂上で一休みし、昼食にパンを食べる。
沓掛山から少し下り、先程見おろした広い尾根を緩く登る。周囲は草原と低木で、眺めを遮る物がない。草原の中にはママコナがたくさん咲いていた。ワレモコウは、赤城山などで見るのよりも2割くらい花が大きい感じ。ホクチアザミ(火口薊)は初めて見る花だ(愛知県以西に分布)。
平日とはいえ、久住山のメインルートなので、ハイカーさんとちらほらすれ違う。トレランの格好で元気よく走る女子大生グループまでいた。どこかの陸上部が合宿中なのかしらん。こちらは仕事の疲れが出たのか、ちょっとの登りでちょっと息切れ。
扇ヶ鼻への分岐を過ぎ、ガクアジサイに似たノリウツギの花が多い斜面をトラバース気味に登ると、西千里浜の端に出た。左手に聳える星生山は名前にも惹かれる山だが、宿へ着くのが遅くなるといけないのでパス(というのは言い訳で、バテた)。西千里浜の向こうには、久住山の傾いた三角形の山容がすっくと聳え、連山の盟主らしい風格十分だ。
西千里浜を横断して、星生崎の岩場の下をトラバースし、避難小屋のある広場に下る。石造りの避難小屋の横にはバイオWCもある。
避難小屋からザレた道を登り、北千里浜への下り口の久住分れを通る。盛んに白い噴気を上げる硫黄山と荒涼とした北千里浜が見おろせる。久住山と中岳を結ぶ稜線に上がると、稜線の向こう側は空池という火口跡の深い窪みになり、その底は草原となっている。九重連山にはこのような火山地形が至る所にあり、興味深い。こちらから見る久住山はもっさりとして、西千里浜から見たキリッとした印象と全く違う。回り込むように稜線を辿って、久住山の頂上に着いた。
岩屑に覆われた頂上からは、正に360度の展望が得られる。西には星生山、北には北千里浜と三俣山(みまたやま)が見え、東にはこれから登る中岳と明日登る予定の大船山(たいせんざん)がほぼ一直線上に並んでいる。南面は意外に急峻で、その下には牧場が点在する久住高原が広がっている。
頂上に着いたときには、夏休みの野外活動らしい小学生グループがいて賑やかだったが、彼らが下って行くと急に静かになった。展望を堪能したのち、中岳に向かう。小学生グループは久住分れに下って行ったようだ。
空池の縁を登ると、水をたたえた御池のほとりにひょっこり飛び出た。池の向こうに中岳のピークがちょこんと見えて、晴れていれば絵になる景観だ。しかし、急に雲が厚くなって空が暗くなり、天気が怪しい。先を急ぐ。御池の水辺を半周し、少し登って中岳頂上に着いた。
頂上には古びた山名標があるだけで、人の訪れも久住山に較べると格段に少ない感じだ。今も誰もいない。しかし、展望は久住山に負けず劣らずで、特に坊ガツルが一望でき、草原の中を蛇行して川が流れている様子もわかる。大船山もぐっと間近になり、山容全体が見える。
のんびり展望を楽しみたい所だが、ますます雲行きが怪しいので、下山にかかる。往路を御池まで戻る途中でポツポツと雨粒が落ちて来て、硫黄山から三俣山にかけて灰色の雲に覆われたが、幸いそれ以上天気が悪くなることはなかった。
トラバース道で久住分れに出て、そこから河原のようなガレた道を北千里浜に向かって下る。雲が上がり、硫黄山が再び姿を見せた。北千里浜まで下ると、海岸の砂浜のような平地が広がり、歩き易い。ガスに巻かれた時に迷わないよう、黄色の標柱が一直線のルート上に設置されている。
左のすぐ上に諏我守越を見て右に折れ、さらさらの砂地の上を大船山を正面に見ながら歩く。やがて、ガレた斜面となり、坊ガツルの草原を見おろして下ると、法華院温泉山荘の赤い屋根が現れた。砂防堰堤の脇を通り、山荘に到着。宿泊の受付をして貰う。今日は平日で宿泊客が少ないので、眺めが良い2階の個室1部屋に1人で入れて貰えた。
部屋にザックを降ろし、早速、温泉へgo!湯船は広くはないが、ほんのり硫黄臭のする温めのお湯にとっぷり浸かって手足を伸ばす。窓からは坊ガツルや大船山が見え、バルコニーに出ると(外からも丸見えだが)開放感抜群。風呂上がりに自販機で缶ビールを買って、部屋で飲む。極楽、極楽。
夕食までまだ時間があるので、坊ガツルを散歩する。涼しくて避暑に最適。夕食は18時から食堂で。宿泊客は結局3パーティ4人だったようだ。メニューは魚の唐揚げ、蕎麦など7品ほど。オプションで生ビールを注文して、まずはグイーッと。ああ、美味い(^^)。ご飯はおかわり自由。美味しく頂きました。この晩はまた風呂に入った後、早めに就寝した。
朝6時頃起きて一風呂浴び、7時から朝食をいただく。メニューはご飯、みそ汁に、目玉焼き、納豆、豆腐など。ご飯を3杯おかわりして、しっかりエネルギーを補充する。今日は大船山に登り、できれば黒岳、平治岳(ひいじだけ)を周回する予定だが、予報によると午後から天気が崩れるようだ。宿に頼んでおいたお弁当を受け取って、出発する。
大船山に向かって、坊ガツルを横断する。坊ガツルのキャンプ場には、テントが3張程あった。ふかふかの草地が広がり、炊事場やWCもあって、快適なキャンプサイトだ。
キャンプ場の奥に道標があり、左に平治岳への草深い道が分かれる。右の大船山への登山道に入る。南国らしい鬱蒼とした広葉常緑樹の中の、細く薄暗い道を登る。
展望のない登りが続くが、五合目の標識のある場所で樹林が切れて、坊ガツル方面の展望が得られる。法華院温泉も見えているが、背後の山の稜線には雲がかかり始めていた。やはり天気は下り坂のようだ。
五合目を過ぎると、再び樹林に覆われた展望のない道となる。傾斜が増すと木が低くなって、ようやく稜線に近づいたようだ。登り上げた所は段原と呼ばれる平坦な鞍部だ。右に稜線を辿って、大船山に向かう。稜線を越えてどんどん雲が流れ、もう見えるはずの大船山の頂上はその雲の中だ。
密生したミヤマキリシマを最小限に刈り込んだ、肩幅程の狭い道を辿る。途中の薄暗い木立の中に、コンクリ造りの大船山避難小屋が建っている。雨風は凌げそうだが、中は湿っぽくて快適ではない。少し急な尾根の登りになり、振り返ると雲が一時的に切れて、大きな火口跡の米窪が見えた。直径500mと言われ、中岳の空池よりもさらに大きい。
急坂を登ると、露岩のある大船山の頂上に着いた。ガスに巻かれて、残念ながら展望はない。西側は崖になっていて、ガスが凄い勢いで吹き上がって来る。時々、ガスが切れると、遥か下の樹林が見える。展望はこれくらいだが、ちょっと楽しめた。
頂上の東側直下には、樹林に囲まれた小さな火口湖がある。御池といい、大船山の尖ったピークの陰にひっそりと佇む神秘的な池だ。そちらに向かう踏み跡があるので、デジカメだけを持って辿ってみる。すぐ先で道は二手に分かれ、左は「東稜を経由 今水 七里田へ」、右は「入山公墓を経由…」と書いた道標がある。どちらも樹林の中の細い踏み跡だ。御池には少し近づけたが、ほとりに降りる道はなさそうだ。写真を撮って引き返す。
頂上に戻ると、ハイカーさんが一人登って来ていて、しばらく休憩していたが、展望がないので下って行った。私もその後に続いて下山にかかる。
段原まで降りても、相変わらず稜線は雲の中だ。これでは黒岳や平治岳に登っても展望は期待出来ないから、大船山に登ったことで良しとして、温泉に帰ることにする。その前に、段原でお弁当を食べて行きますか。昼食の間に、坊ガツルから数パーティのハイカーさんが登って来た。さすがに土曜日なので、ハイカーさんも多い。
往路を戻り、12時半頃に法華院温泉に帰り着いた。早速、温泉に入り、風呂上がりにビールを飲む。酔っぱらって部屋でのんびりしているうちに、今晩の宿泊客が続々と到着する。やがて、とうとう雨が降り出し、到着するハイカーさんも雨具を着けている。今日は大船山だけで切り上げて正解でした。
この晩も、パーティ毎に個室が割り当てられたようだ。宿泊客が多いといっても、30人くらいかな。温泉に入り、夕食の時は生ビールを飲んで、また温泉に入って就寝した。
今日も6時に起きて朝風呂へ。さすがに入っている人は多い。7時に朝食を頂いたのち、荷物をまとめて、2日間お世話になった宿を後にした。今日は青空が広がる素晴らしい天気だ。宿の裏手から諏我守越へ登る。北千里浜分岐から諏我守越までは、短い登りだ。
諏我守越には、かつて営業小屋があったという。現在は石造りの東屋と鐘、石碑がある。ここから三俣山に向かって、草原の急斜面を登って行く。振り返ると、眼下に諏我守越、その向こうに硫黄山周辺の荒れた山肌が眺められる。
最初に登り着いた平らなピークにはケルンと山名標があり、「三俣山西峰」と記されていた。北千里浜を囲む中岳、久住山、硫黄山が間近に眺められる。また、長者原や遠く湧蓋山、万年山(はねやま)の展望も良い。三俣山にはたくさんの小ピークがあるが、どのピークも草原に覆われて、展望が良い。以降、360度の展望を楽しみながら、三俣山のピークを巡る。
草原の中の踏み跡を辿って、次は三俣山本峰へ。と思ったら、ピークを間違えて南峰に登っていた。まあいいか。南峰にもケルンと山名標があり、展望が良い。
草原の道を辿って、いよいよ三俣山本峰に立つ。どのピークからも360度の展望だが、遠くの山では鋭い双耳峰の由布岳が特に目立つ。また、久住山と星生山の間には、昨年登った根子岳のギザギザの稜線が遠望できる。
三俣山頂上からお隣を見ると、一段低いが急峻なピークがあって目を引く。これが北峰で、山と高原地図を見ると本峰から破線が通じている。頂上の端に「大鍋・小鍋」と書かれた古い道標があり、これが北峰への破線の道を指しているようだ。しかし、道標が指す先は草に覆われて、トンデモなく急斜面だ。当初は、この道で北峰を経由して雨ヶ池越へ下る予定だったが、これは止めておいた方がいいかなぁ。
と、逡巡していたところ、頂上にいらしたこの辺の山に詳しいご夫婦ハイカーさんから話を伺う。曰く、北峰への道は急だが、意外に楽に行けるとのこと。また、雨ヶ池越への道も最後は草原をガサガサ漕ぐそうだが、問題ないらしい。この話に背中を押されて、予定通りに行くことにする。
北峰に向かって下ると、立ち木やロープにぶら下がって一直線に急降下する道となる。鞍部に下ると、大きな火口跡(大鍋)が間近だ。底の草原を歩いているハイカーさんも見えて、いかにも気持ち良さそうな草原だが、割愛して北峰へ急坂を登る。この登りは本峰から丸見えなので、背中に本峰頂上のギャラリーの視線を感じる(ような気がした^^;)。
頂上でのハイカーさんの話の通り、急だが難なく北峰頂上に登り着く。長者原を見おろす展望が素晴らしい。それにしても、九重といえば九州では超メジャーな山だと思うが、メインストリートから一歩離れると、なかなかマニアックなルートがあるものだ。
北峰から低木に覆われた痩せ尾根上の踏み跡を辿ると、左に雨ヶ池越へ下る道が分岐する。右は小鍋の縁を経由して南峰に至る。ここで振り返ると、北峰と本峰が高く聳えている。ずいぶん下って来たものだ。
雨ヶ池越へは、樹林の中をほぼ一直線に下る。先程の稜線上の道よりかは、うるさい小枝がない分、歩き易い。ずんずん下り、ようやく傾斜が緩くなると草原に出て、振り返ると三俣山が高い。これまた急な所をよく下って来たなあ。深い草藪の中の踏み跡を歩いて行くと、小さな池のほとりに出る。澄んだ水面が周囲の緑を映して綺麗だ。
再び藪っぽい林に入ると、↓の写真のような道標が出現。直進すると草原を突っ切って、長者原と坊ガツルを結ぶ雨ヶ池越の登山道に合流した。合流点には三俣山への道標の類いはなく、そもそも草むらで道があるか判らない。ということで、このルートは下り専用らしい。さもありなむ。登山道を行くハイカーさんも、変な所から人が出て来て驚いたかも。
雨ヶ池越は緩い起伏の草原が広がり、マツムシソウなど秋の花がたくさん咲いていた。昼食にパンを食べたのち、長者原に向かって下る。樹林帯に入ってゆるゆると下り、集中豪雨で土石流の爪痕が残る沢を横断する。良く整備された道だが、結構標高差のあるまっとうな山道だ。長者原から登って来たハイカーさんも息を切らせている。
やがて、タデ原という草原に出て、これを横切って長者原に到着した。帰りのバスまでたっぷり時間があるので、長者原ヘルスセンター2階の温泉に入る。老朽化して設備はちょっとボロいが、速攻で汗を流せて爽快。
その後、隣りのドライブインに入って、瓶ビールを飲む。山行の締めは、やっぱり温泉とビールやね。ヘルスセンター1階の売店でお土産に大分麦焼酎「銀座のすずめ」を買う。300ml缶もあったので自分用にも買って、バスを待つ間に飲む。さっぱりして美味い。
九重登山口15:20発のバスに乗り、豊後中村駅へ。酔っぱらって、危うく駅に忘れ物をするところだった(^^;)。豊後中村16:40発の鈍行で日田まで行き、特急に乗り換える。乗り換え時間が30分程あって腹が減ったので、駅前の店でお好み焼きを食べる。日田駅前はなかなか栄えているな。
日田18:00発ゆふいんの森6号(全車指定)に乗車して、博多19:15着。地下鉄に乗り換えて2駅で福岡空港に到着。福岡は空港が近くて便利が良い。日曜日とあって、空港の出発ロビーはお土産を抱えた観光客で溢れ、荷物検査のゲートには長蛇の列ができていた。20:00発羽田行SKY24便に搭乗して、帰途についた。