阿蘇高岳・根子岳
ひと月前も長崎で所用があり、そのついでに長崎・佐賀県境の多良岳〜経ヶ岳に登ったばかりですが、再び九州に仕事で行くことになりv(^^)、今度は週末の2日間で阿蘇山の2座に登って来ました。
26日(金)は仕事を終えてJRで熊本に移動し、熊本駅前のホテルにチェックインする。予め宅配便でホテル宛に送っておいた登山装備一式は無事に到着していた。駅ビル飲食店街で生ビールと夕食を取り、ホテルの自室でノートパソコンをネットに接続して、掲示板にちょっと書き込み。天気予報をチェックし、明日は晴れとのご宣託に喜んで、就寝する。
翌朝、少し雲が広がっているが、まあまあ良い天気だ。ホテルをチェックアウトし、路面電車でレンタカー営業所まで移動する。ちなみに、熊本の路面電車は全線で運賃150円。
今回のレンタカーにはカーナビのオプションがなく、道路地図も持っていなかったので、東に向かって適当に走る。熊本市街を出てR57に乗れば、あとは阿蘇へ一直線だ。外輪山の巨大なV字の切れ目(立野火口瀬と呼ぶらしい)からカルデラの中に入り、中央火口丘北側の阿蘇谷(谷と言っても広い平野)を走る。阿蘇市宮地の市街でR57から別れて、高岳登山口の仙酔峡に向かう。ススキの穂が出始めた牧場の向こうに、ゆったりとしたスカイラインを描いて聳える高岳が大きい。ジグザグのカーブで高度を上げると、仙酔峡ロープウェイの山麓駅に到着した。
山麓駅の奥に広い公共駐車場があり、ここに車を置く。標高が高いせいか、車外に出ると涼しいを通り越して寒いくらいだ。ここから見上げる高岳は、左手に鷲ヶ峰の岩峰群が連立し、一木もない急峻な山肌に浸食が進んだ谷が刻まれた険しい山容だ。今回、登路に選んだ仙酔尾根も下から上まで遮るものなく望見できて、結構登り応えがありそう。WCを済ませ、インフォメーションセンター(中に売店あり)で登山届に記帳して出発する。
駐車場から花酔橋を渡り、5月の開花期には辺り一帯がピンクに染まるというミヤマキリシマ群落の中の遊歩道を登って、仙酔峠に上がる。峠と言っても仙酔尾根上の単なる小さな鞍部だ。右に登れば高岳だが、左の鷲見平にちょっと立ち寄る。
鷲見平は名の通り、鷲ヶ峰が良く見える小ピークだ。鷲ヶ峰は九州の代表的なロッククライミングのゲレンデで、火山特有の脆い岩質のため遭難が多発し、「九州の谷川岳」と呼ばれているそうだ。鷲見平には、鷲ヶ峰に向かって遭難慰霊碑が立ち並んでいた。
仙酔峠に戻って、仙酔尾根の登りに取り付く。仙酔峡や鷲ヶ峰の眺めを楽しみながら、褐色でブロンズのような質感の溶岩にゴツゴツと覆われた登山道を登って行く。山肌には溶岩から成る地層が現れていて、 仙酔尾根はその地層にほぼ平行に続いている。
尾根道は傾斜を増し、地層によって出来た段差をロープを伝って越える。振り返るとなかなかの高度感だ。見上げれば、溶岩に覆われた急斜面がまだまだ続いている。
終始、尾根の右手に見えていたロープウェイ山頂駅を既に見おろす高さまで登っていて、中岳火口から白い噴煙が盛んに上がっているのが見える。こちらが風下になっているらしく、微かに硫黄の臭いがして喉が痛くなり、咳が出てきた。他のハイカーさんも咳をしている人が多い。そういえば登山口には、喘息など呼吸器系に問題のある人は登らないこと、という看板があったっけ。火口の方向から「火山ガスの濃度が高く危険なので退避するように」というアナウンスが風に乗って聞こえて来た。仙酔尾根は火口から距離があるので安全なはずだが、それにしてもこのガスの濃度はやばい。火山ガスによる事故のことが脳裏をよぎる。しかし、しばらくすると硫黄臭は収まった。よかったー。
急斜面を登って頂上稜線に到達すると、一転して緩やかで広い尾根が左右に続いている。正面には大鍋と呼ばれるフライパンの底のような火口原に、避難小屋がポツンと建っているのが見おろせる。右に行けば高岳の頂上はすぐだが、左に見えるテーブルのような高岳東峰(天狗の舞台)にまず向かう。
密生する灌木の中の細い山道を辿り、テーブル側面の崖の下を右に回り込むと、ケルンと道標がある稜線上の広場に着いた。正面(東側)に日ノ尾峠を隔てて根子岳のギザギザの稜線の眺めが素晴らしい。北東には深い谷が食い込んでいて、覗き込むとクラクラするような断崖絶壁だ。稜線を南に少し辿ってみたら、その先も断崖だった。ケルン近くの露岩に腰掛けて周囲の景観を楽しみつつ、ランチパック・ピーナッツで昼食とする。
東峰でのんびり休憩したのち、大鍋を経由して高岳に向かう。道標から灌木の間の細い道を下ると、開けた草地に出る。霧が出ると迷いそうな所だが、今日は晴れているので問題なく、どこでも歩ける。月見小屋は比較的新しい石組みの避難小屋で、中を覗いてみると土間とベンチがあり、非常時には十分泊れそうだ。
この頃から雲が切れて、青空が広がり出した。月見小屋からペンキ印を辿って頂上稜線に登り、高岳の頂上に立つ。山頂からは360度の展望があり、特に西側の中岳火口から立ち上る噴煙は雄大な眺めだ。その向こうには草地に覆われた烏帽子岳と杵島岳があり、対照的に緑が鮮やかだ。
正面に噴煙を見ながら高岳を下り、緩い稜線を辿ると中岳の頂上に着く。火口が一段と近くなり、火山ガスが心配になるが、今は硫黄臭はしない。中岳頂上から数分下った所に「第一次規制発令中はこれより先の立ち入りを禁止します」という看板があった。先程の火山ガスがひどかったときは、ここから先が通れなくなったようだ(その前にやばいと思うが)。褐色と灰色の地層が露出した荒々しい火口壁や広大な砂千里ヶ浜、巨大なクレーターのような火口群、深い雨裂が刻まれた荒野など、火山らしい景観を眺めながら、ザレた尾根を辿る。
僅かに登り返すと中岳西稜展望所に着く。ロープウエイ山頂駅からここまでは舗装された遊歩道が通じていて、観光客が火口を背景に記念撮影をしていた。噴煙が間近で迫力があるが、火口の湯溜まりまでは火口壁に遮られて見えない。火口を挟んで反対側の火口西展望所には多数の観光客がいる。あちらは火口壁のすぐ上なので、湯溜まりも見えそうだ。ちょっと行ってみたくなった。
火口の観光を堪能したのち、遊歩道を歩いてロープウェイ山頂駅を経由し、仙酔峡の広い谷を下る。デコボコの溶岩の上を簡易舗装した道が続く。すっかり晴れてきて暖かい。登って来た仙酔尾根に陽が当たってクリアに見える。最後はススキ原を通って、山麓駅の駐車場に着いた。
売店でアイスクリームを買って一服したのち、今晩の宿の栃木(とちのき)♨旅館朝陽に向かう。R57を熊本方面に戻り、阿蘇大橋を渡ってR325沿いに走ると案内看板がある。
宿について早速、温泉で汗を流す。夕食は生ビールとしゃぶしゃぶで、うま〜い。部屋(一番安い宿泊プランにした)は1Fの浴室と軽食コーナーの近くになるのだが、夜になると軽食コーナーはバーカウンターと化して、地元の日帰り入浴客が宴会を始めて大賑わい。ちょっと騒々しいが邪魔な程ではなく、いつの間にかぐっすりと眠りについていた。
翌朝、朝食バイキングをがっつり食べたのち、チェックアウトする。値段はとてもリーズナブルでした。
昨日の道を再び宮地市街まで辿り、R57から別れて日ノ尾峠への林道に入り、根子岳のヤカタガウド登山口を目指す。暗い林間の掘り割りのような細い林道をかなり走って、桜ヶ水という地点でようやく眺めが開ける。牛が草を食む牧草地の向こうに高岳が聳えて、素晴らしい展望だ。ギザギザの頂上稜線に雲をかけた根子岳も見えて、よーし、と一段と気合いが入る。
林道を進み、ヤカタガウドの入口に着く。ここから左に分岐する林道をさらに奥まで車で入れるようだが、草藪が覆い被さっていて、レンタカーを擦ってはまずいので、ここから歩くことにする。登山靴の紐を結んでいると、福岡ナンバーの車が迷うことなく奥へ入って行った。明らかに慣れたパーティだ。根子岳登山の案内看板があり、それによると根子岳は七面山とも呼ばれ、ヤカタガウドはヤカタガ宇土とも書くらしい。ヤカタガウドとは変わった地名だが、どういう意味だろう?
林道の道端にはハガクレツリフネとオオマルバノテンニンソウが群生し、キツリフネもぽつぽつと咲いていて、カメラに収めながらのんびり歩く。途中の河原の駐車スペースには先程の車が停まっていて、4人パーティが登攀装備で出発準備をしていた。
15分程歩くと林道は終点となり、数台分の駐車スペースがある。そのすぐ奥に登山届のポストがあり、記帳する。傍らには「安全性に問題があり、長年放置された残置ザイルの撤去を行いました。よって、当登山ルートは、ザイルが必要です。」と書いた看板がある。ザイルは携行していないので、むむむと思うが、登山道に入ると良く踏まれた道でロープのガイドもあり、整備の手が入っているようだ。
連続する砂防堰堤を越えると水の涸れた河原歩きとなり、微かな踏み跡を辿ると、すぐに薄暗く苔むしたゴルジュに入る。水は岩を濡らす程しか流れていない。最初の小滝は右の踏み跡で越える。ゴルジュはU字状で狭く、両岸の岩壁は高い。次の小滝は鎖を伝って越える。
しばらくゴーロが続いたあと、トラロープが下がるナメ滝が現れる。ここは水線(といってもお湿り程度)の左を登り、右に渡って滝上に出る。このあたりは沢登りのセンスを要するかも。ゴルジュの終わりの小滝は右から越える。
ゴルジュを抜けると明るいガレ沢となり、「根子岳山頂→」というまるで一般登山道のような立派な道標がある。この先の左岸の枝沢に「進入禁止」の看板があり、水がバンバン流れている。ここが天狗の水場らしい。黄色いペンキ印を辿って、急角度のガレ沢を浮き石に注意して登る。頭上には奇怪な形状の岩峰が見えるが、主稜線は雲の中だ。
左に眼鏡岩の奇岩を見ると大きな道標があり、ここから林の中の山道に入って、木の根、岩角を摑んで小尾根を直上する。主稜線に近づくと右には天狗岩直下の岩壁が木の間から見えるのだが、ガスが立ち込めて全貌はわからない。
主稜線上の天狗ノコルに登り着くと、やはり雲の中だ。ここから天狗岩へのルートはクライマーしか立ち入れない。入口からちょっと様子を窺ってみたが、超おっかない岩稜で、エキスパートでないととてもじゃないが無理。予定通り、根子岳東峰に向かう。
東峰への岩稜縦走もなかなか峻険だ。右側は地獄谷で、ガスでほとんど見えないが、覗き込むと相当の高さの垂壁の上だ。サメの歯のような岩稜を左から巻き、次は右に巻いて、岩壁のバンドに生えたササの中の細い踏み跡を辿る。ササで直接は見えないけれど、一歩間違えば下は多分断崖絶壁だ。こわー。
次のピークは頂上まで踏み跡があり、上から眺めが良さそうだがガスで何も見えず。縦走路は赤テープに導かれて左を巻く。「←見晴新道 東峰→」という道標があり、左に踏み跡が分岐しているが、「転落事故有り 進入禁止」の看板がある。
ここから暫くは樹林の中の平穏な稜線歩きでホッとするが、長くは続かない。崩壊地があり、稜線から右に下って迂回する。この迂回路も険しく、途中の岩場にはロープが下がっている。どこまで下るんだー、と思うくらいぐんぐん下って、同じだけ登り返す。
主稜線に戻ると、幅は70cmくらいだがぱっくり切れたキレットがあり、勢いをつけて飛び越す。ここは崩壊が進むと通れなくなるのではなかろうか。屋根状に溶岩が固まったピークを越え、小さなピークをいくつか通過すると根子岳東峰の道標のあるピークに着いた。丁度、南麓の上色見からの大戸尾根コースを登って来たおじさん4人パーティと出会う。
東峰の三角点は道標から僅かに北にある。北西側が断崖になった小広い平地で、晴れていれば360度の展望がありそうだが、今日は主稜線の一部がガスに霞んで見えるたけだ。露岩に腰を下ろして、昼食にランチパック・いちご&ホイップを食べる。4人パーティは九州百名山を登っているらしく、登頂数を書いた紙を持って記念撮影していた。
下山は往路を戻る。崩壊地の迂回路を通る頃に急に雲が上がって、1308m峰、地獄谷、そして天狗岩の頂上部分が渦巻くガスの中から姿を現す。急いで迂回路を登って稜線に出ると、おおっ、天狗岩がすっかり見えるでないの。これはラッキー、この景観が見たかったので思わず小躍り\^o^/
あとは慎重に往路を戻る。天狗ノコルに着く頃には稜線は再びガスに包まれて、小雨も降り出した。しかし、樹林の中を下ってガレ沢に降り着いた頃には雨も上がって、雨具は着けずに済んだ。
登山口に着くと車が一台あり、単独行のおじさんが帰り支度をしていた。話を交わすと、このコースは経験があるが、今回は途中の滝の登りで不安になって引き返して来たそうだ。沢筋のコースなので、以前と状況が変わっていたようだ。
車に戻り、日ノ尾峠を越えてカルデラ南部の南郷谷に降りる。山と高原地図に記載の♨を目指したら、それとは別の高森温泉館を偶々発見して立ち寄る(400円)。設備が新しく、浴室も広くて、いいお湯でした。
汗をさっぱり流して着替えたのち、熊本空港に向かう。レンタカーを返却して、空港で生ビール2杯+ソーセージ盛り+熊本ラーメンを食べ、すっかり良い気分になって18:55発の航空便で桐生に帰った。