五剣谷岳
川内(かわち)山塊は、新潟県五泉市を流れる早出川(はいでがわ)とその支流の源流をなす山地です。標高が1300mに満たない低山の連峰でありながら、全国有数の豪雪地帯にあって、山肌は雪崩で磨かれたスラブで悉く覆われ、錯綜する尾根と尾根の間に深く長いV字谷が食い込む特異な景観を示しています。
一般登山道のある山は、最高峰の粟ヶ岳(1293m)、白山(1012m)、日本平山(1081m)など数少なく、山塊最奥の矢筈岳(1258m)や青里岳(1216m)は険谷と密藪に守られて、近づくことすら容易でありません。
五剣谷岳(ごけんやだけ)は川内山塊の核心部に一歩踏み込んだ位置にあり、頂上に至る登山道はありませんが、悪場(あくば)峠から途中の銀太郎山までは登山道が開かれていて、そこから微かな踏み跡と残雪を利用して登頂が可能です。悪場峠から往復約12時間の長丁場ですが、ネットで検索すると日帰りの山行記録も多くあります。桐生からは遠方で、そうそう出掛けられる所ではなく、時期(残雪の状況)、天気、体調などの条件が揃わないと登れない山ですが、今年のGWは条件が整って念願を叶えることが出来ました。
桐生を車で前日の23時前に出発し、赤城IC〜三条燕IC間を高速道で走る。現在、原油価格高騰対策とかで、ETC深夜割引の割引率がアップされて大絶賛4割引中なので、4,300円のところが2,600円に。この差は大きいv(^^)
高速を降りてからの道のりはカーナビ任せ。上杉川から哺土原(ほどばら)林道を経て、悪場峠に深夜3時に到着する。
悪場峠の登山口は、一昨年6月に日本平山に登った帰り道に偵察している(右の写真)。草に覆われた踏み跡で道標もなく、偶然に降りて来た登山者に尋ねなければ、これが登山道とは信じ難い。この先がどうなっているのか、そのときは不安を覚えたものだ。
今回はGWとあって、路側のスペースには既に10台程の駐車がある。夜が明けたら直ぐに出発するつもりで、後部座席で毛布に包まって仮眠する。
ハッと気がつくと、すっかり明るくなっていて、時刻は4:40になっていた。慌てて朝食のパンを食べて出発する。登山口は、草むらはまだ薄いが、相変わらず道標はない。出発が遅れて少し焦り気味に歩き出すが、先は長いのでペースを落とす。寝過ごした分、ぐっすり眠れて体調はすこぶる良い。今回、新調したザック(MILLET SAAS FEE 30ℓ)も背負い心地は良好。登山道も実はしっかり踏まれていて、いい道だ。
15分程の登りで石祠のある佛峠を越え、山腹をトラバースして水無平に降りる。右にチャレンジランド杉川への道を分け、新芽の緑が鮮やかな水無平を進む。
枯れ草の小さな原を突っ切り、標高差約200mをジグザグに登る。この登りで単独行二人に追い抜かれる。すごい健脚(^^)。稜線に出てしばらく進むと「焼峰の神様」という標識があり、小さな石祠が鎮座している。稜線のあちこちにタムシバとムシカリの白い花が咲いている。
やがて、木六山の左(東)側を巻く道に入る。途中、小さな沢を渡るところで水が飲める。雪が残る小さな谷に沿って歩き、小尾根を越えて再び主稜線に出た所が木六山分岐だ。ブナの幹に「←銀太郎山 木六山→」という道標があり、行く手の遥か遠くに銀次郎山と銀太郎山のピークが見える。
戻る方向に稜線を5分程登った所が木六山の頂上だ。頂上からは、スラブと尾根と谷が幾重にも折り重なった独特の景観が得られる。南には銀次郎山、銀太郎山に加えて、五剣谷岳もほぼ一直線上に見える。途中で追い抜いた地元のご夫婦も登ってこられて、付近の山について話を伺う。先日は毛石山(794m)にも登ったそうで、興味を引かれる。それにしても、小さな羽虫が沢山たかって来て鬱陶しい。歩いている間は集られないんですけどね。
分岐に戻って、銀次郎山へ向かって新緑に覆われた稜線を歩く。足元にはイワウチワの花が多い。やがてブナが主体の林になる。
少し登りが続いて、七郎平山の水場に到着する。テン場に適した平地があり、その奥に残雪を水源としてバンバン流れる水場がある。新しい焚火の跡もあった。ここに泊るのもいいなぁ。ただし、じっとしていると虫に集られるのはいずこも同じ。
冷たい水をたっぷり飲んだのち、残雪を踏んで新緑のブナ林の中を登る。七郎平山のピークは巻く。行く手の銀次郎山が、だいぶ近づいて来る。稜線の左は中杉川の源流域で、山腹の残雪と新緑のブナ林がきれいだ。右には、不自然なほど一直線に平らな中山尾根と、その向こうに粟ヶ岳が見える。
銀次郎山の登りは樹林が低くなって、日当りの良い稜線歩きになる。銀次郎山への最後の急登では、雪が消えた道の脇にカタクリが沢山咲いていた。高度が上がるにつれて、銀太郎山や五剣谷岳、周辺の山々が視界に入って来る。
到着した頂上の一角には露岩があって、風が当たって虫も少ないので、休憩に良い。360度の展望が素晴らしい。五剣谷岳はだいぶ近くなって、あそこなら行けると確信する。水を飲み、ドライマンゴーを齧ってゆっくり休憩する。
銀次郎山からは稜線上にも所々に残雪が現れる。目指す銀太郎山は、左斜面の急峻なスラブがすごい。下りきった鞍部の周辺はブナ林で、ここも足元は一面イワウチワの花が咲いている。
稜線上で残雪に覆われている所がだんだん増える。銀太郎山への急登に取り付いて、道端のカタクリの群落を眺めながら足を運ぶ。銀太郎山の頂上直下には、雪の上に2張りのテントがあり、片方は4人パーティーが撤収中だった。
登り着いた銀太郎山頂上では、男性3人のパーティが休憩中だった。先行した単独行2人は、既に五剣谷岳に向かったようだ。腰掛けて休んでいると、五剣谷岳の方から大きなザックを背負った別の単独行の男性が来た。頂上からの展望は素晴らしい。足元の広倉沢の源頭は広大なスラブになっていて、大きなナメ滝を架けている。
登山道はここまでで、いよいよ五剣谷岳への道のない区間に踏み込む。稜線は密藪に覆われているが、歩く人が多いようで意外にはっきりとした踏み跡がついている。途中で、先行していた単独行の若者が帰って来るのに行き会う。はや〜。しばらく藪を漕ぐと残雪の上に出て、歩き易くなる。稜線の右斜面に続く残雪を拾って歩く。明瞭なトレースがあり、辿って行くだけなので楽だ。
鞍部はべったりと雪が多く、右の尾根を少し辿って、窪地を渡る。根曲がりのブナ林の中の踏み跡を辿ると、五剣谷岳直下の雪の斜面に出た。一直線に登るステップがあるが、急なので念のため軽アイゼンを付ける。立ち止まると間髪入れずに虫が集って来るのは、もう勘弁してくれというか、開き直りの境地。
雪が柔らかいので、急斜面も難なく登れて稜線に到達。ここで、先行していたもう一人の単独行の方が雪の上でのんびり休んでいるのに出会う。藪の中の踏み跡を拾って、稜線を左に少し進んだ所が五剣谷岳の頂上だ。
頂上には三角点があり、その周囲が僅かに切り開かれて、割れた山名標が落ちていた。展望は360度で素晴らしい。白山から粟ヶ岳、青里岳、矢筈岳など、川内山塊の主な山岳が連立している。その向こうには守門岳や浅草岳も少し覗いている。左には独立峰の趣きの御神楽岳が鋭いピークを擡げている。来た方を振り返ると、銀太郎山、銀次郎山、日本平山、遠方には白い飯豊連峰も見える。白山の右には五泉市付近の平野も見える。ここで、缶ビールを飲んで、餅入りもつ煮込みの昼食にする。
昼食を食べてのんびりしていると、単独行の男性が一人到着。話をすると五泉市在住の方で、初めてここに登ったそうだ。例年ならば、この時期の五剣谷岳は五泉市から真っ白な姿が見えるが、今年は雪が少ないそうだ。
名残惜しい大展望だが、帰りも行きと同じくらいの労力がかかるので、そろそろ下山にかかる。五泉市の方と同時に出発。今日、五剣谷岳に登ったのは我々が最後となり、この日は結局10人位が頂上に立ったようだ。
頂上直下の残雪の急斜面を下った所で、軽アイゼンとスパッツを外す。時刻は正午をまわって、照りつける日差しで肌がじりじり焼ける感じ。雪が眩しい。サングラスをかけて来るんだった。
銀太郎山まで戻って、ホッと一息入れる。ここからは再び登山道を歩くので、格段に楽だ。しかし、暑くて喉が渇く。
銀次郎山まで戻って、復路の漸く1/3というところだ。これから帰る木六山が遠くに見える。ここで、2リットルポリタンの水がほぼなくなる。七郎平山の水場に到着して飲んだ水は、冷たくて最高にうまかった。木六山へ向かう途中、往路ではなんともなかった小さなピークの登降が、結構応える。帰りは木六山の頂上には寄らず、分岐点から水無平に下る。ここで銀次郎山、銀太郎山も見納めだ。
木六山の巻き道を滑らないように注意して下ると、あとは歩き易い道だ。水無平では、午後の日差しを浴びて周囲の新緑がますます輝いていた。チャレンジランド杉川への分岐で、男女3人パーティーが休憩中で、私もここで最後の一休み。そして、佛峠への登りが、最後の登りだ。悪場峠へ下ると、残っている車は3台くらいだった。いやー、良く歩いた!
帰りは、さくらんど♨に立ち寄って、汗を流す。一眠りした後、三条燕ICから高速に乗って、桐生への長い帰途についた。