日蔭山〜霧ノ塔

天気:時々
メンバー:T
行程:風穴駐車場 4:25 …金城山(1364m) 6:10 …中ノ代 7:25 …小松原小屋 8:35 …日蔭山(1860m) 9:50 …霧ノ塔(1994m) 11:20〜12:15 …日蔭山 13:25 …小松原小屋 14:20 …中ノ代 15:00 …金城山 16:05 …風穴駐車場 17:15
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

桐生を深夜1時半に車で出発。関越道を塩沢石打ICで降り、十二峠トンネル、津南市街を経て秋山郷に入り、東秋山林道の見倉トンネル手前の駐車場に車を置く。まだ夜明け前で、ようやく上空が白み始めた頃合い。このところ桐生では猛暑が続き、昨日は関東甲信で梅雨が明けた。しかし、ここは標高約740mの山の中、かつ未明で風も吹いており、涼しくて別天地だ。

ここに来るのは2回目。2006年に秋山郷を旅行した際に立ち寄ったことがある。ここから小松原湿原へ登山道(見倉ルート)が通じ、当時から一度歩いてみたいと思っていた。また、同じ頃に重鎮さんが歩かれた小松原湿原〜霧ノ塔の記事を読んで、霧ノ塔という風雅な名の山にも興味を持った。霧ノ塔は、田中澄江著『花の百名山』の一座でもある。

という訳で、今日は小松原湿原を探訪して霧ノ塔まで足を延ばす計画を立てて、やって来ました。山と高原地図のコースタイムによると、往復12時間45分の長丁場となるので、早立ちは必須だ。パンとペットボトル飲料の朝食をとった後、出発する。入れ替わりに駐車が1台増えたが、やはりハイカーさんだろうか。

風穴駐車場
苗場山麓ジオパークの案内図の
左脇から登山道に入る

前回はなかった、苗場山麓ジオパークの案内図の左脇から、まだ薄暗い山道に入る(苗場山麓ジオパークは2014年に認定されたそうである)。旧道の細道に出て右に辿ると、見倉の大栃への山道を左に分ける。大栃へは登り25分かかるし、前回、訪問しているので割愛。先に進むと風穴があり、草に覆われた岩の隙間から冷気が流れ出して、辺りをヒンヤリと包む(帰りに気がついたが、この冷気は駐車場まで降りて来ている)。このすぐ先に「苗場山小松原登山道」の古びた道標があり、左に登山道が分岐する。

見倉の風穴
小松原湿原・見倉ルート入口

登山道に入り、ブナが立ち並ぶ山腹を大きくジグザグを切って登る。ほどなく小尾根の上に登り着き、あとは急な尾根道を一直線にひたすら登る。途中、少し傾斜が弛むところがあり、左下に木立を透かして秋山郷の結東辺りの集落を俯瞰する。薄雲が広がる天気で、じっとしていれば山腹の下方から緑風が吹き上がって来て、涼むことができる。

山腹をジグザクに登る
小尾根上に登り着いて急登
急登一直線
左に秋山郷を俯瞰

なおも急登が続く。ようやく傾斜が緩むと、金城山のなだらかな頂上部に登り着く。左の森の中に標高1354mの三角点標石があるはずだが、密な笹藪に覆われているので、探すのは止めておく。平坦で泥濘んだ道を進み、少し高くなったところで小休止。山名標識の類は全くない。地形図で見るとここが金城山の最高点だから、登頂したことにして良いだろう。コースタイム2時間のところを1時間45分で来たから、出だしの調子は上々だ。

ノリウツギ
金城山頂上

休憩していたら、ハイカーさんに追い越された。件の駐車の持ち主さんだろうか(この後は山中で誰にも遭わなかった)。金城山から、なだらかな尾根道を下る。道は最近、笹の刈り払いがされたようだ。正面に見える長く平坦な稜線の辺りが小松原湿原だろう。やがて急な下りとなり、途中にネズコの巨木が立ち並ぶ。復路はこの急坂を登ることになるから、今から苦労が思いやられる。

なだらかな尾根を下る
根上がりしたネズコの巨木

森林に覆われた最低鞍部から、広くなだらかな斜面を登り返す。途中で沢を渡る。沢には冷たい水が豊富に流れ、水面から靄が立ち登る。さらに緩斜面を登っていく。山道に横たわる倒木は水気をたっぷり含んだ苔に覆われ、若い木が芽を出している。

沢を渡る
緩斜面を登る
倒木を覆う苔と若芽
最初の湿原

森林の中の道から、ポンと最初の湿原に飛び出す。湿原にはモウセンゴケが群生し、点々とキンコウカが咲く。木道はなく、湿地中の踏み跡を辿る。貴重な植物を踏まざるを得ず、申し訳ない気持ちになる。疎らなオオシラビソと笹の樹林を抜け、今度は朽ちた細い木道のある湿原を横断すると、中ノ代の三叉路に着く。ここで、太田新田、大場からのルートを合わせる。木道に腰をおろして一休み。歩き始めてちょうど3時間。疲れてきた。

モウセンゴケ
中ノ代の三叉路

しかし、ここからは湿原と池塘が断続的に現れ、素晴らしい風景が展開して、元気復活。大小の湿原に細い木道が通じ、秘境の雰囲気がある。この時期はモウセンゴケとキンコウカが盛り。写真を撮りながら、湿原をのんびり歩いて楽しむ。

中ノ代の湿原
中ノ代の池塘
池塘群
キンコウカの間を木道で辿る
キンコウカ
木の階段道で一段上がる

中ノ代を抜け、樹林に入って木の階段道で台地を一段上がる。樹林中の木道は朽ちて滑り易いので注意。やがて、上ノ代の広々とした湿原に出る。奥に黒々とした樹林に覆われてこんもりとした黒倉山や、これから登る日蔭山を望む。池塘はキンコウカに縁取られ、静かな水面に空や雲、周囲の山と樹林を映す。実によい風景だ。

広々とした上ノ代
上ノ代から日蔭山(中央左)と
黒倉山(右)を望む

木道を辿って湿原の奥に進み、樹林に入る。やがて行手に高い三角屋根が見え、小さな沢を渡ると三角屋根の小松原小屋に到着する。中に入ってみると広い板の間があり、綺麗に使われている。ロケーションも良く、泊まってみたくなるが、WCがないのがちと困る。

上ノ代の奥へ木道を辿る
沢の向こうに三角屋根が見える
小松原小屋
小屋の内部

小屋の中でちょっと休憩させて貰ったのち、いよいよ日蔭山と霧ノ塔に向かう。笹原を切り開いた平坦な道を辿る。沢を渡り、山腹を斜上して日蔭山の北尾根の上に出る。見晴らしがあり、笹原と疎らな樹林に覆われたなだらかな谷の奥に、釜ヶ峰を高々と仰ぐ。結構、登りがあるなあ。霧ノ塔はまだ見えていない。

刈り払いされた道を辿る
沢を渡る
尾根に上がって釜ヶ峰(左)を仰ぐ
ゴゼンタチバナ

尾根道をまっすぐ登っていくと、低い針葉樹林と笹原に覆われた緩斜面の登りとなり、突然、目の前の眺めが開けて、日蔭山の頂上に登り着く。

なだらかな尾根を登る
日蔭山頂上

頂上には文字が掠れて消えた木の標柱と、三角点に似た標石がある(日蔭山に三角点はない)。展望は素晴らしく、硫黄川の深い谷を隔てて、苗場山を高く仰ぐ。平標山から見たときのようなテーブルマウンテンではなく、「クジラの背のような膨大な図体」のような山容を示す。苗場山から落ちる硫黄川左岸の尾根は、途中で猿面峰の鋭峰を起こす。あの尾根(大赤沢新道)も面白そうだ。雲がかかっているが鳥甲山を望むこともでき、日蔭山はなかなか展望が良い。

日蔭山から苗場山を仰ぐ
日蔭山から鳥甲山を遠望

そして、日蔭山から霧ノ塔を望むと、なだらかに上下する笹原の稜線が釜ヶ峰まで続き、その奥に黒々とした台形の頂を高く擡げている。頂上直下の登りは急で長い。歩き始めて既に5時間半。ここから霧ノ塔までコースタイムで1時間40分。これはなかなかきつい。

霧ノ塔に向かう
タテヤマウツボグサ

日蔭山から先は、低い笹原の中の細い道型を辿る。上信越の山らしい、展望の開けた稜線で、素晴らしい雰囲気。刈り払いされていなくて、露が降りた笹原を搔き分けて歩くうちにトレックパンツが濡れるが、気にせず進む。途中、数は少ないがタテヤマウツボグサやコオニユリなど、夏山の花が咲く。

笹に覆われた展望の良い尾根を辿る
コオニユリ

釜ヶ峰までは意外と楽に来られたが、ここから霧ノ塔を眺めると、間の鞍部から頂上まで笹原に覆われた急斜面で、その中を一直線に登る切り開き道が途切れ途切れに見える。あれを登るのかー。しかし、ここまで来たら初志貫徹、頑張るしかない。

釜ヶ峰から霧ノ塔を望む
霧ノ塔への急斜面を仰ぐ

釜ヶ峰から少し下って、いよいよ最後の急坂に差し掛かる。笹原の中の滑り易い踏み跡を一歩一歩登る。やがて低い針葉樹林帯に入り、林から飛び出ると三角点標石と霧ノ塔の山名標識がある。ヤッター\^o^/、登り始めて6時間55分、実に長かった。

まずは腰を下ろして、レトルトパウチのいわしみそ味をツマミに缶ビールを飲む。ク〜、美味い😋。それから、カップ麺のCOOPごぼう天そばを食べる。つゆは美味いが、めんがぱさぱさでイマイチ。食事を終えて立ち上がったら、激しく左足が攣った。急いで芍薬甘草湯を飲んで治す。

霧ノ塔頂上
霧ノ塔から2010m峰を望む

頂上からの眺めは、薄雲が広がって遠くは霞んでいるが、そこそこ得られる。神楽峰に通じる稜線を少し辿ると、お隣の2010m峰(大日蔭山)が見える。すぐ近くだが、足を延ばす余裕はない。東にはかぐらスキー場、奥には雲に覆われて定かでないが、平標山辺りの山影が見える。北にはなだらかな起伏が延々と広がり、遥かに畑地を遠望する。

霧ノ塔から東面の眺め
霧ノ塔から北面の眺め

のんびり展望を楽しんだのち、往路を戻って下山にかかる。霧ノ塔直下の急斜面を、眼下に釜ヶ峰から日蔭山にかけての稜線を眺めながら、うっかり滑らないように注意して下る。急斜面を下り切ると、釜ヶ峰、日蔭山へはそれぞれ短い登りがあるが、なだらかなので比較的楽だ。行きに濡れていた笹原はすっかり乾いている。

霧ノ塔の下りから釜ヶ峰と
日蔭山を俯瞰
釜ヶ峰から日蔭山を望む

日蔭山に着く頃にはガスが巻いてきて、周囲の山々はほとんど見えなくなっている。北尾根をゆるゆると下ると沢に出て、冷たい水でタオルを濡らして汗を拭う(この先にも、沢の横断が数ヶ所があり、リフレッシュできて助かる)。小松原小屋を過ぎ、小松原湿原に出る。日蔭山を振り返るが雲の中だ。

上ノ代から日蔭山方面を振り返る
花の終わったバイケイソウ

湿原を通り抜け、中ノ代の三叉路まで戻って一休み。金城山へゆるゆると下って登り返す。これで登りは終わりだが、最後に一直線で急な尾根の長い下りが控えている。樹林を透かして風穴駐車場が見えてきたときは、本当にホッとした。風穴の冷気で涼んだのち、車に戻る。今回のルートは、湿原の景観、稜線からの展望が素晴らしく、針葉樹林と笹原に覆われて原始的な雰囲気に溢れ、歩き応えも十二分にあって、私好みで実に良かった。

中ノ代の三叉路
金城山を越えて尾根を急降下
風穴駐車場に下り着く
津南駅の温泉
リバーサイド津南に立ち寄る

帰りはJR津南駅に併設されているリバーサイド津南に日帰り入浴で立ち寄る(600円)。地元の人に良く利用されているようだが、観光客は少なく、穴場だ。浴室は駅舎の2階にあり、窓から線路とホームが見おろせる。飯山線利用の山歩きに利用できそう。さっぱり汗を流し、筋肉の凝りを解したのち、桐生への長い帰途についた。