瑞牆山
桐生を未明に車で出発。中部横断道を終点の八千穂高原ICで降り、長野・山梨県境の信州峠を越えて、瑞牆山西麓の「みずがき山自然公園」に向かう。自然公園の駐車場に到着して喫驚。100台分の広い駐車スペースは首都圏一円、なかには中京圏のナンバーの車もあって既にほぼ満杯となっており、僅かな残りスペースに滑り込んでなんとか車を置く。ほとんどがボルダリングに来た人の車で、でっかいマット(クラッシュパッド)を背負った若者のグループが次々に出発して行く。こんなにボルダリングの人気が高いとは魂消たなあ。普通のハイカーさんはほとんどいなくて、なんだかアウェー感を覚える。
自然公園からは、ニョキニョキと岩峰が集まった瑞牆山が間近に聳えて仰がれる。今日の天気は、予報では晴れであったが、上空に薄雲が広がって、あまりパッとしない。追々晴れることを期待しつつ、歩き出す。
駐車場から一段上がったところに綺麗な芝生に覆われた広場があり、その奥から歩道に入る。電気柵を開閉して越え、「不動滝→」の道標に従ってすぐに右折(直進すると行き止まり)。ミヤコザサが下生えのカラマツ林に入る。
林内は四方八方に歩道が通じ、斜め左上へ向かう歩道を適当に選んで進む。T字路に「瑞牆の森歩道案内」の看板が建ち、それを見て現在地を確認。ここからは山腹をトラバースする歩道を辿る。若者3人組のハイカーが先行している。カラマツ林の中には大岩が点在し、その一つで2人組のボルダラーがマット広げて支度中。ふむふむ、ああいう岩を登るのか。
やがて、歩道から未舗装の林道(小川山林道)に出る。古びた道標あり。林道を上がると程なく終点となり、ここもボルダラーの駐車でいっぱいである。「不動滝50分→」の道標にしたがって幅広い山道に入る。周囲の岳樺などの樹林は黄葉しているものの既に終盤で、折りからの曇天のもと、ちょっと寒々しい雰囲気。山腹をトラバースして進む。行く手に見える小岩峰は富士岩(1813m標高点)らしい。
左に折り返して枝尾根の鼻を回ると、不動沢左岸の山腹をトラバースする道となる。シャクナゲが繁茂する針葉樹林の中を進み、巨大な岩壁の基部を通過する。基部では数人のクライマーが登攀前の休憩中。これから、この岩壁を登るのか😱。いやー、凄いな。
登山道は不動沢に降り、花崗岩が堆積して、澄み切った水が豊富に流れる渓流に沿って上流に向かう。桟道が架かる箇所が多いが、どれも新しい鎖の手摺が付いていて、安心して歩ける。渓谷の両岸には大きな岩壁や岩峰が次々に現れ、見事な渓谷美を見せる。写真を撮りながらのんびり歩き、数組のハイカーさんと相前後して進む。
桟道で不動沢を渡り、右岸の登山道を進む。程なく左側に大きな岩壁が現れ、上から一筋の水が流れ落ちている。あれが不動滝だな。
不動滝は一枚岩の岩壁に架かる滝で、上部はナメとなり、両側には岩峰が聳え立つ。滝の大きさに比して水量は多くない。上部から滑り落ちて来た水流は下部の岩盤をポケット状に穿ち、方向を変えて、最後に小滝となって落ちる。実に見事な自然の造形だ。
不動滝の前には樹林が切り開かれた広場があり、ベンチもあって休憩適地。滝見を堪能して一休みしたのち、さらに渓流に沿って登る。不動沢を飛び石伝いに渡って左岸を登り、「夫婦岩」の標識のある岩壁の基部を通る。見上げるとアイロンを立てたような岩壁が並び立ち、これを夫婦に見立てたらしい。
シャクナゲと針葉樹に覆われ、苔むした大岩が散積する斜面を登る。傾斜が増し「ししくい坂 頑張って」という古い標識を見る。その先に「右 矢立岩 左 摩天岩」という標識もあるが、どの岩を指しているのかは分からない。
やがて「左 王冠岩」の標識があり、不動沢を隔てて岩峰が高々と聳えているのが見える。王冠岩はあれ(2062m標高点)だろう。良く見ると岩壁の天辺から垂直に垂れ下がる1本の白線があり、見間違いかもしれないがロープのように見える?あそこの登降は怖すぎる。すぐ先には「左 小川山 右 瑞牆山」の道標が地面に落ちている。左の道は、道型が判別できず、廃道化している模様。
登山道はこの道標で右に折れ、不動沢から離れて、オオシラビソなどの若くてまだ細い針葉樹林に覆われた斜面を登る。苔むした岩や木の根の道が淡々と続き、単調で地味な道程だが、奥秩父らしいとも言える。
途中に「クーラー岩 下から冷風が出ます」という標識があり、実際、大岩の基部の隙間から冷気が吹き出している。元から気温が低いのにさらに冷たく感じるからヒエッヒエだ。面白い。この先で「左 瑞牆山 右 黒森民宿」の古い道標も見る。昔は黒森から本谷釜瀬林道、小川山林道を経て、瑞牆山が登られていたのだろう。なかなかクラシックなルートである(さらに古くは、原全教『奥秩父研究』に瑞牆山から黒森へ下った紀行がある)。
やがて、小鞍部に登り着いて富士見平からの登山道と合流し、ハイカーさんの数が一気に増える。この分岐点から頂上へは僅かの距離。梯子や鎖場ですれ違い待ちの行列ができるが、譲り合って順番に登る(富士見平小屋のブログによると、ここの梯子は9/29に新設されたものだそうだ🙏)。
登り着いた瑞牆山頂上は、大勢のハイカーさんで大混雑。さすが日本百名山。狭く切り立った岩場の上にひしめき合って、うっかりすると誰か押されて落ちるんじゃないかと思うくらい。特に、崖っぷちに子供が居てヒヤヒヤする。まあ、それはともかく、展望は素晴らしい。瑞牆山に登頂するのは2回目だが、前回は30年前だからさっぱり覚えていない(山行記録もない)。新鮮な感覚で大展望を楽しむ。
東には岩峰群が連なり、その先は樹林に覆われたなだらかな稜線が小川山へ続く。目を右に転じると悠然とした山容の金峰山が高く、頂上稜線には五丈岩がぽっつり飛び出て視認できる。しかし、そっちの写真を撮るには、大勢のハイカーさんがどうしてもアップで写り込んで、チト邪魔だな😅。その右には富士山のシルエットを遠望する。
南から西にかけては、奇峰・大ヤスリ岩を間近に見おろし、その向こうに茅ヶ岳辺りの山塊を遠望する。西には横尾山の山並みを望み、その奥には八ヶ岳連峰の権現岳、赤岳、横岳といった高峰がズズズイーッと連なる。さらに北には天狗山〜男山を望み、薄らと浅間連峰を遠望する。
大展望を一通り撮影したのち、ササッと下山にかかる。本当は頂上でのんびり昼食にしたいところだが、如何せん、人が多過ぎる。頂上直下の分岐点から富士見平へ下り始める。両側を岩峰に挟まれ、大岩がゴロゴロ散積した急坂を下る。これから登ってくるハイカーさんも多い。
右手の樹林越しに大ヤスリ岩を見ながら、どんどこ下って行く。やがて深い針葉樹林帯に入り、浅い窪の中を下る。細々と水が流れるナメ滝の脇を階段で下る。
さらに巨岩の脇を階段で下る。この巨岩を下から見ると真ん中でパックリ割れている。この岩は桃太郎岩と呼ばれている。割れ目に挟まって記念撮影するハイカーさんが続出し、お約束になっているようである。
桃太郎岩の前にはベンチもある広場となっている。その一角に腰を下ろして昼食休憩とする。正午となって、さすがに腹が減った。お湯を沸かしてカップ麺を食べる。その間も絶えることなくハイカーさんが往来する。
休憩を終えて出発。天鳥川を渡り、短い急坂を上がる。それから山腹をトラバースして緩く登ると、富士見平に着く。
富士見平には、樹林に囲まれて富士見平小屋が建つ。営業中で食事を頼めるようで、看板の写真付きメニューを見ると美味そう。小屋前のベンチで注文して待っていたり、食事中のハイカーさんも居て、お客さんも多い。小屋の下の緩斜面にはテン場があり、たくさんのテントが張られている。あとでわかるが水場も近い。居心地が良さげなテン場だ。
小屋から瑞牆山荘に向かってちょっと下ると、右手に水場(富士見平湧水)がある。立ち寄ってみると、ポリタンに一旦導かれた水がバンバン迸っている。
登山道に戻ると、道端でガソゴソ物音が。なんと、すぐ近くでシカが落ち葉の間の草をワリワリ食んでいる。こちらを警戒する様子はなく、近づいて来たところを写真に撮る。
瑞牆山荘へ向かって下り、「瑞牆自然公園→」の道標で右折すると林道終点に出る。駐車があり、瑞牆山荘からここまで車で上がって来られるようだが、小屋関係者限定だろう。
しばらく未舗装の林道を下る。樹林に覆われて眺めはないが、木立の隙間から天鳥川の谷を隔てて瑞牆山の岩峰群を仰ぐ。左奥に大ヤスリ岩、その右隣りに頂上が見える。
再び「瑞牆自然公園→」の道標があり、右折して尾根上の山道に入る。シャクナゲの群落を通り抜けると、カラマツ林と紅葉した樹林が混じる尾根道となる。こちらの道はハイカーさんをほとんど見かけない(一人だけ会った)。静かで落ち着いた雰囲気が好ましい。
T字の分岐に突き当たり、右の芝生広場への道を辿る。整備された歩道が山腹をトラバースして通じ、やがて天鳥川を渡る。ここの木橋は老朽化して、荷重をかけると折れそう。
瑞牆の森に入って、整備された歩道を辿る。道標のある分岐で右折(直進するとすぐにみずがき林道沿いの駐車場に出る)。ちょっと登って階段を上がると、あとはカラマツ林の中のほぼ水平な歩道となる。左下に並走するみずがき林道を樹林の間にチラ見しつつ、歩道を辿ると芝生広場に出る。
この頃になってようやく晴れて、山麓のツツジ類の紅葉や中腹のカラマツ林の黄葉に陽が当たり、青空を背景に瑞牆山の岩峰群を仰ぐ。最後にも良い景色を見ることができた。
芝生広場では家族連れが遊び、キャンプサイトにはたくさんのテントやタープが張られ、賑わっている。駐車場に戻って、また喫驚。行楽客の車も来て駐車がさらに増え、通路まで縦列駐車で埋まっている。大人気のみずがき山自然公園であった。
帰りは増富温泉「増富の湯」に日帰り入浴で立ち寄る。増富温泉は奥まった山間にある温泉郷で、ひっそりと鄙びた風情がある。増富の湯には瑞牆山荘→韮崎駅の路線バスの停留所もあり、丁度到着したバスから、入浴のため下車する登山者も居られる。公共の交通機関利用でも入浴できるのは良いな(さっぱり汗を流せて、風呂上がりの🍺も飲める)。
温泉は源泉ぬるま湯で、湯温の異なる湯船が4つあり、そのうち、温度が37℃で一番高い湯船に浸かる。ゆっくり浸かって良く温まったのち、桐生への帰途についた。