天狗山〜男山
桐生を未明の4時に車で出発。佐久南ICで高速を降りて、早朝の7時前に信濃川上駅に到着。駅前の村営駐車場(無料)に車を置く。ここは既に標高1135mの高地で、周囲の紅葉した山に纏わり付く様に朝霧が漂い、空気がヒンヤリと冷たい。駅舎の中ではストーブが焚かれ、ジャージ姿の高校生が二人、ベンチに腰掛けて静かに列車を待っている。全くひと気のない駅前に出て、千曲川対岸の山の稜線から男山の鋭峰の先端がちょこんと突き出ているのを仰ぐ。今日は天狗山から男山に縦走して、ここに戻ってくる計画だ。
7:10発の川上村村営バス川端下(かわはけ)行きに乗車する。普通の路線バスの車両で後乗り前降りだが、整理券とかはなくて、運賃表示機の代わりに運賃表が張り出され、運転士に行き先を尋ねられる。とってもローカル。乗客は私一人だ。途中はノンストップ、10分程で大深山(おおみやま)中央バス停に到着し、220円を運賃箱に入れて下車する。
下車した所にはバス停が見当たらないと思ったら、道路の反対側だけにバス停があった。とってもローカル。そのバス停の背後には、水嵩を増した千曲川がドウドウと流れている。先日の台風でかなりの雨が降ったようだ。
梓山方向に少し進み、馬越(まごえ)峠への車道に入って坂道を上る。山麓ではちょうど紅葉が盛りだ。行く手には、鮫の歯の様な天狗山の岩峰が青空に突き立ち、登高意欲が高揚する。
大深山遺跡とカワカミバレーCCへの道を左に分け、その先で斜め左に分岐する農道に入り、高原野菜の広大な段々畑の中を一直線に登る。正面には天狗山が遮るものなく眺められ、素晴らしい山岳展望だ。裾野を覆うカラマツの黄葉が朝日に輝いて美しい。
段々畑が尽きてカラマツ林に入ると未舗装の作業道となり、頑丈な防獣ネットをゲートを開閉して通り抜ける。荒れた作業道を辿ると「天狗山」の道標があり、ここから山道に入る。ダケカンバ林の中に微かな踏み跡が続き、赤テープやペンキのマーキングが頼りだ。
踏み跡を辿って急斜面を直登すると岩壁に突き当たり、ルンゼを伝って細い一条の滝が落ちている。数段に分かれた滝の落差は、全体で15m位だろうか。岩壁の基部には、この滝を登路と間違わないように、赤ペンキで×印が書かれている。山道はこの滝を右から越え、大きな岩場を右手に見ながら急登する。
稜線に登り着き、馬越峠から天狗山への登山道に合流する。この地点には下り口を示す道標はない。馬越峠側は岩峰となり、登ってみると展望が良く、天狗山の意外にもっそりした頂きが間近に仰がれる。馬越峠へは岩稜が続き、その上をこちらに向かうハイカーさんが見える。御座山の大きく颯爽とした山容も眺められる。
天狗山への登りは、ところどころに岩場を交えた急坂となる。高度が上がるにつれて背後の眺めが開け、馬越峠の向こうの御陵山(おみはかやま)や巨大な南相木ダム、遠くに上信国境稜線が見えてくる。
細尾根を急登して天狗山の頂上に登り着くと、正面に現れる男山の鋭峰と、その後ろにドーンと展開する八ヶ岳連峰の大展望にまず目を奪われる。雲が北から少しかかり始めているが、横岳や赤岳、権現岳がくっきりと見える。
頂上は意外と広く平坦で、三角点標石の他に新しい石祠があり、南を除く三方の展望が開ける。北には御座山と山麓に点在する南相木の集落、東には御陵山と上信・武信国境稜線の山々の眺めが良い。日陰には薄く霜が降り、風が冷たいので長袖シャツを着る。甘栗を食べてしばし休憩する。
頂上の南側は松などの樹林に覆われて眺めはないが、樹林に分け入る踏み跡を見つけて辿ってみると、天狗山南面の大岩壁の上に出て展望が開ける。千曲川沿いの集落や野菜畑、ゴルフ場を俯瞰し、奥秩父の高峰を遠望する。瑞牆山のスカイラインが遠目にもすごいギザギザを描いているのがわかる。
頂上に戻ると、後続の男女4人組のハイカーさんが到着。記念写真のシャッターを頼まれて押したのち、男山に向かって出発する。
天狗山の頂上から稜線を下って行くと、稜線が断ち切れて断崖絶壁の上に出る。転落注意。男山への稜線は足元の遥か下にあり、紅葉の色付き具合が奇麗だ。断崖の縁に沿って左に下り、右に折れて岩壁の基部をトラバースする。この辺りはスリルがあり、西上州の山のような感じがする。
「←大深山遺跡」という道標を過ぎ、男山への稜線に復帰する。さらに下り、ロープが下がった岩場を降りるとようやく緩やかな尾根道となり、南相木村の立原高原へ降りる道が右に分岐する。ホッと一息。
黄葉したカラマツ林や紅葉した雑木林に覆われた尾根道をのんびり辿ると、垣越山の頂上に着く。樹林に覆われて展望はなく、小さな朽ちかけた山名標があるだけだ。
垣越山を過ぎると、ところどころに松を交えた岩稜が現れ、左側にカワカミバレーCCのグリーンを俯瞰する。山腹の紅葉が鮮やかだ。展望の良い岩場があり、男山の双耳峰がだいぶ近づいて見える。振り返れば、天狗山が大岩壁を廻らせた怪異な山容で聳えている。
次の針葉樹林に覆われた岩峰は右から巻き、苔むして湿っぽい斜面をトラバースする。この辺りは奥秩父の山の感じがする。稜線に戻って進むと、男山の直前の鞍部で左から登ってくる登山道と合流する。ここで急に賑やかになって、ハイカーさんが10人近く休んでいるし、登山道からもグループで上がってくる。男山はなかなか人気の山だ。
鞍部から短い急坂を登ると、360度の展望が開ける男山の頂上に着く。ここもハイカーさんで大賑わい。小広い頂上の隅に陣取って腰を下ろす。
頂上から西には屛風の様な岩稜が延び、南面にかけて断崖絶壁が続く。絶壁の端から見おろす中腹の紅葉が見事。天狗山に勝るとも劣らない岩峰っぷりである。
八ヶ岳連峰には雲がかかって残念ながら見えないが、信濃川上駅や周辺の集落、農地の様子が俯瞰できる。南へ目を転じると横尾山や瑞牆山、金峰山、小川山など奥秩父の山々が連なり、遠くに茅ヶ岳や富士山の山影も見える。東には天狗山と辿って来た稜線、北東には御座山が大きく見える。
大展望を楽しみつつ昼食とする。お湯を沸かし、カップ麺を作って食べ終わる頃には団体さんが去って、静かな山頂となった。さて、私も下山しようかと腰を上げると、天狗山の頂上で会った4人組のハイカーさんが到着。また頼まれて、記念撮影のシャッターを押す。
鞍部に戻り、手挽坂と呼ばれる登山道を下る。急斜面の樹林内を一直線に下る道だが、小さくジグザグが切られ、良く踏まれているので歩き易い。これから登るハイカーさんとも行き合い、なかなか人気の山だ。
カラマツ林に入って徐々に傾斜が緩くなると、林道終点に出る。あとは林道を辿って、てれてれ気楽に歩くだけである。カラマツ林に覆われて展望はほとんどないが、数カ所の林の切れ間から仰ぐ男山の岩峰は迫力がある。
林道は山腹をトラバースし、尾根を乗り越すと急な山腹を大きくジグザグに下って、千曲川沿いの登山口(林道始点)に降り着く。登山口には防獣ネットのゲートがあり、開閉して通り抜ける。あとは山麓の紅葉を愛でながら車道を歩き、男橋で千曲川を渡って、信濃川上駅に戻った。
帰りは、以前も入ったことのある松原湖♨八峰(ヤッホー)の湯(500円)に立ち寄る。ゆっくり湯船に浸かって温まったのち、桐生への帰途についた。