長七郎山

天気:
メンバー:T
行程:広萱橋 8:45 …林道終点 9:20 …追分 10:55 …茶ノ木畑峠 11:15〜11:25 …長七郎山(1579m) 11:55〜12:10 …天竜弁財天 12:25 …茶ノ木畑峠 12:55〜13:20 …梨木分岐 14:20 …広萱橋 15:15
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

一昨日、西上州に出かけたばかりなので、今度は近場の山歩きにしよう。とすると赤城山がいいな。赤城山南面の登路のうち、「つつじが峰通り」と「小峰通り」は大猿川から周回して歩いたことがある(山行記録)が、梨木(なしぎ)温泉から登る「梨木通り」はまだ歩いたことがない。梨木通りは深沢川左岸の尾根を登り、追分で小峰通りに合流して茶ノ木畑峠に至る。岩沢正作著『赤城山大観』では「梨木新道」と称して紹介されている。

梨木通りを歩いた山行記録をネットで探すと意外と少なく、ヤマレコben1966氏の記録だけが見つかる。これを参考にさせて頂いて梨木通りを登り、茶ノ木畑峠から長七郎山まで脚を延ばしたのち、小峰通りを下る周回コースを歩いてきました。

桐生を朝のんびりと車で出発。R122を走り、本宿駅入口を過ぎて宿廻(しゅくめぐり)交差点で左折。県道梨木上神梅停車場線で深沢川の谷を上がり、梨木温泉に向かう。周囲の緑はすっかり濃くなり、あちこちに藤の紫色の花が咲く。梨木温泉を深沢川の対岸に見て通過。さらに深沢川の谷を舗装道で上がって、広萱(ひろがや)橋の手前の路側スペースに車を置く。天気は快晴で、暑いくらいの陽気だ。

広萱橋の手前に駐車
左の林道に入る

ben1966氏は林道をショートカットしているが、私は初めて歩くルートなので、林道を律儀に始点から辿る。駐車地点から車道を戻ってすぐ、左に分岐する未舗装の林道に入る。林道は山腹を削って登って行く。脆い法面には火山らしく礫岩の層が露出し、路面に岩がボロボロ落ちていて、用心しつつ進む。

林道は方向を変え、尾根上を登るように延長されている。植林帯の間を小さく蛇行して登ったのち、下生えが笹原で檜と雑木に覆われた尾根をほぼ真っ直ぐに緩く登る。

山腹を削って上がる
緩くなだらかな尾根の上を進む

やがて、左斜面が伐採されて植林された区間に入り、眺めが開ける。なだらかな山裾に鮮やかな緑に覆われた尾根と谷が幾重にも重なり、良い眺めだ。程なく林道は終点となり、笹原の間の明瞭な山道に入る。

林道終点
振り返って山麓を俯瞰

伐採地を抜けて樹林に入ると、すぐに簡易な鉄管製のバリケードが現れる。ben1966氏のレコによると、これは最近、設置された物だそうだ。看板には「私有地につき、バイクの侵入を禁止します。発見次第、現状復帰にかかる費用を請求します。」と書いてある。徒歩で現状を変えなければOKかなと考えて、バリケードを通過する。

バイク侵入禁止のバリケード
新緑と笹に覆われた尾根を辿る

新緑の雑木や笹原に覆われた気持ち良い尾根道が続く。緑の中にポツポツと真っ赤なヤマツツジが咲く。ところどころ、左側斜面が笹原となって開け、深沢川の谷や対岸の緩く傾いた尾根が眺められる。やがて、尾根筋が拡散し、少し傾斜が増した斜面を小さくジグザグを切って登る。浅い窪の登りとなり、に「保安林 大間々営林署」と書かれた看板のある曲がり角で一休み。右に出ると長七郎山の東斜面の展望が得られる。新緑が綺麗だ。

長七郎山の東斜面を眺める
渡り廊下の様な尾根道

さらに登ると、渡り廊下のように狭まった尾根上の道となる。芽吹き始めた並木の道で、この辺りは梨木通りの中でも特に雰囲気が良い。傾斜を増した痩せ尾根に差し掛かり、尾根の右を絡んで登る。オオカメノキの白い花があちこちに咲く。白いザレを渡り、細尾根を登る。変化に富んだ尾根道で、なかなか楽しい。

白いザレの尾根を渡る
尾根を絡んで登る

右斜面の白いザレを横断し、小さな窪に入る。何やらカラカラ音が聞こえると思ったら、小さな水溜りで蛙が合戦中。窪には僅かながら水が流れ、水際にはコバイケイソウがフレッシュな緑の葉を出して群生している。

白いザレの斜面を横断
小さな窪を登る

窪から離れて斜面を緩く登り、左から上がって来た小峰通りの登山道に合流する。この地点には「追分」のプレートがある。梨木通りの入口は、小峰通りを下山するハイカーが迷い込まないように、横倒しの枯れ木で塞がれている。梨木通りは、道標こそないが道型は明瞭で、一般登山道と言ってもよいレベルの良い道であった。

雑木林と笹原の斜面を登る
追分で小峰通りに合流

追分からさらに尾根道を登る。途中で女性ソロハイカーさんとすれ違う。カラマツ林の中をひと登りして、茶ノ木畑峠に着く。赤城の山上の一角に登り着き、行き来するハイカーさんもちらほら見かけるようになる。

尾根を緩く登る
茶ノ木畑峠

大した時間はかからないので、茶ノ木畑山にも立ち寄って行く。峠から道はないが、丈の低い笹原を踏んで灌木の間の微かな踏み跡を辿ると、茶ノ木畑山頂上に着く。木の幹に山名標識が掲げられている。展望はない。隣の前山への稜線は、かつて茶畑に見立てられた程、ツツジ類が密生して藪が深いから、行くのは止めておく。

茶ノ木畑山頂上
前山はツツジ類の密藪の向こう

茶ノ木畑峠に戻り、長七郎山に向かう。山上の雑木林は未だ冬枯れだが、風はなく、陽が射して暖かい。長七郎山の南で、おとぎの森への道と小沼への道に分かれる。分岐から鞍部に立ち寄るといわゆる賽の河原(ザレの平地)になっていて、長七郎山側の斜面に踏み跡の入口がある。これは長七郎山への直登ルートらしい、ということで登ってみる。

長七郎山南の分岐点
直登ルートに入る

岳樺などの疎な樹林と笹原の斜面を急登する。踏み跡は微かだが藪はない。テープ類を追って直登すると、長七郎山頂上の一角にある鉄鳥居と石祠の前に着く。石祠には明治十五年五月吉日と刻まれているが、神社名は判らない。これは、Googleマップには「おう比古神社」として載っているが、出典不明。おおさる山乃家にある澳比古神社の奥宮かな。この神社は、頂上の広場からは灌木の茂みの陰になって見えないので、頂上で休憩中のハイカーさんからは在ることを気付かれないし、私も前回登頂したとき、気付かなかった。

疎な樹林と笹原の斜面を急登
長七郎山頂上の鉄鳥居と石祠

今井善一郎著『赤城の神』p.215には、長七郎山について次の記述がある。

小地蔵の南隣の山、この山を何故長七郎と呼ぶか不明である。松平長七郎は臆病の為島原の乱におくれた。それから臆病の神様として信仰があり、戦争中、小さな金物(鉄)の鳥居が沢山上げられたという。その鳥居の古くなって欠けたのを貰って行って御守りにすると安全だというのであった由。

石祠と臆病の神様信仰との関係も不明。後日、写真を見て気が付いたが、頂上の道標の下に錆びた鉄製の小さな鳥居が一つ置かれている。もしかして、この信仰の名残かも。

長七郎山頂上(背景:地蔵岳)
長七郎山頂上(背景:黒檜山)

長七郎山の頂上では、家族連れや若者のグループが三々五々登って来て休憩中。私も一昨日、長井屋製菓で買ったまんじゅうを食べ、ペットボトルのお茶を飲んで小腹を満たす。

頂上からの展望は、暖かいので少し霞んでいるが、赤城の黒檜山や地蔵岳を望み、北にはまだ雪を頂く日光白根山や黒々とした皇海山、袈裟丸山を遠望する。南には茶ノ木畑山を見おろし、その向こうに関東平野を俯瞰する。

皇海山と袈裟丸山を遠望
茶ノ木畑山(右)と関東平野を俯瞰

一通り展望を楽しんだ後、下山にかかる。稜線を西へ向かい、荒山を正面に眺めつつ賽の河原を通過。分岐を小沼(おの)に向かう。小沼尻の水門で残雪を見る。なんと、今シーズン見た唯一の雪だよ😭。

荒山を正面に見て賽の河原を下る
小沼尻にはまさかの残雪

湖畔の歩道を辿って、すぐ先の天竜弁財天まで行く。小沼越しに望む黒檜山は佳い風景だ。湖面越しの長七郎山や地蔵岳の眺めも愛でつつ、小沼尻へ戻る。

天竜弁財天
小沼から黒檜山を望む
小沼尻から見た長七郎山
小沼尻から見た地蔵岳

長七郎山の南面の登山道を経由して、茶ノ木畑峠に戻る。途中、木の間越しに横引き尾根や銚子の伽藍の岩壁を見ると、ピンク色が点々と見える。交差した男性ソロハイカーさんに尋ねると、やはり、アカヤシオが咲いているとのこと。それなら見に行くとしよう。

長七郎山南面の登山道
おとぎの森分岐

茶ノ木畑峠から横引き尾根を緩く下る。木立の隙間から南麓を俯瞰すると、吹き上がって来る風が涼しくて気持ち良い。

横引き尾根
赤城山南麓を俯瞰

つつじが峰通りへの下り口を過ぎた辺りからアカヤシオが現れる。満開で花は散っていないから見頃だ。花びらをズームすると少し萎れた感じがあるが、引いて眺めれば、なかなか良い。これでアカヤシオに満足して、茶ノ木畑峠に引き返す。

つつじが峰通り分岐
アカヤシオが現れる
アカヤシオ
茶ノ木畑峠に戻る

茶ノ木畑峠から追分へ下り、往路の梨木通りを左に分けて、右の小峰通りを下る。

小峰通りを下る
追分で梨木通りを左に分ける

すぐ先に岳人岩がある。なんで岳人?と前回も疑問に思ったが、今回は岩の側面に「昭和二十七年…岳人会…」と刻まれていることに気付く。なるほど、これが名前の由来か。

岳人岩
岳人岩の落書き

小峰通りも梨木通りと同様、新緑の雑木林と笹原に覆われた尾根道で、緩急あり、尾根を絡む箇所もありで、変化に富む。道も良く、歩き易くて快適だ。

笹原の尾根を快適に下る
左に深沢川の谷と尾根を望む
尾根を絡んで下る
新緑とツツジに包まれる

標高が下がるに連れて傾斜が緩まり、緑が濃くなってヤマツツジの真っ赤な花が多くなる。トウゴクミツバツツジの紫の花もあるが、終盤だ。

大猿川へ下り始める手前の道端に、文字がすっかり掠れた道標がある。前回、小峰通りを歩いたときは、この道標はまだ新しくて「←梨木方面」とはっきり読み取れた。今回は、この道標の指す枝尾根を下ってみる。

ヤマツツジ
掠れた「梨木方面」の道標

枝尾根の下り始めは木立が藪っぽく、道型も判然としないが、緩く下るに連れて、浅く窪んだ道型が現れる。しめしめと思って道型を辿ると、尾根から離れて左の沢へ下り始める。一方、直進する尾根上にも比較的新しい切り開きがあり、道が通じている模様。これはどちらへ進んだものか。

地形図を眺めて悩んだ末、左の沢へ下る道型を辿る。道型が続いているか気になるし、等高線から読み取る限り穏やかな沢なので、道型が途切れても何とかなりそう。

尾根上の道型を下る
沢へ降りる道型を辿る

沢へ下る道型は数回ジグザグを切って、水のない広く浅い窪に降り立つと、案の定、消えてなくなる。しかし、ゆるゆるの谷で、藪もなく開けているので、問題なく下れる。むしろ、楽しい。少し谷が狭まると、転石の多い沢に水流が現れる。危険箇所は全くなく、右岸通しで下れる。

緩やかな沢を下る
深沢川右岸の支流を渡る

やがて、深沢川右岸の支流に出合い、豊富な流れで汗を拭って一休み。水流を渡り、対岸の林に入ると荒れた林道に出る。あとはこの林道を下るだけだ。林道は出水で流出した箇所もあるが、歩行に支障はない。途中の路上に毛皮だけが残った獣を見て、ギョッとする。若い植林帯に入り、右岸の岩壁や左岸の梨木通りの尾根を仰ぐ。

林道に出る
登った尾根(梨木通り)を見上げる

深沢川の本流を飛び石伝いに右岸に渡ると広い駐車スペースがあり、そこから程なく舗装道に出る。車道を左に下ると、車を置いた広萱橋は目と鼻の先であった。

深沢川本流を渡る
広萱橋に帰り着く

帰りは梨木温泉に立ち寄ってみたが、日帰り入浴はやっていないとのこと。残念。それでは、久し振りに水沼温泉に立ち寄ろう。GW中なので混んでいるかなと思ったが、そうでもなくて良かった。ゆっくりと湯に浸かったのち、帰宅の途についた。