御岳山(兄倉山)〜大山〜鎌抜山
下仁田市街の南には跡倉クリッペ群と呼ばれる山々があり、主なピークに四ッ又山、川井山、大崩山、御嶽、大山、鎌抜山、富士山の7座がある(下仁田ジオパーク「根なし山の形成」)。御嶽は兄倉山、下仁田御岳山とも呼ばれる。
クリッペとは地質学用語で、他所で形成された地層や岩体が低角の断層で移動して来て基盤の地層に押し被さり、侵食によりその一部が孤立して山の上に残された地形をいう。
跡倉クリッペは日本の代表ともいえるクリッペだそうで、「日本の地質百選」にも選定されて地質学的に貴重だが、いずれも低山ながら個性的な山容の険しい山なので、山歩きの対象としても興味を引かれる。跡倉クリッペのうち、四ッ又山と鎌抜山を除く5座は下仁田九峰に数えられている(九峰の残り4座は稲含山、蛍山、浅間山、伊勢山)。
という訳で、この週末は跡倉クリッペでまだ登っていない大山と鎌抜山に登ることを計画。ヤマップshiro氏「下仁田九峰を登る(御嶽(兄倉山)・大山)」、ヤマレコkirakirakira氏「西上州 下仁田九峰最終章 (藤山~岩山~鎌抜山~大山)」の山行記録を参考にさせて頂いて、ほたる山公園から御岳山、大山、鎌抜山を周回して歩いてきました。
桐生を早朝、車で出発。GSでレギュラーを給油したらリッター164円もして目ん玉飛び出る。高速の休日割引が復活したのは幸い。北関東道、上信越道を走る車も増えた。下仁田ICで高速を降り、ほたる山公園の広い駐車場に車を置く。この公園は高台にあるので下仁田市街を見渡すことができ、岩壁を擁する浅間山や鍬柄山、大桁山、奥にギザギザの妙義山も眺められる。今日は快晴で風もなく穏やか。絶好の山歩き日和だ。寒くないので、薄手の長袖シャツとトレックパンツで出発する。
ここから御岳山へは一度登ったことがある(山行記録)。駐車場から坂を上がると、管理棟に隣接して芝生が気持ちよさそうなキャンプサイトがあり、バイクツーリングの人のテントひと張りからラジオの音が聞こえてくる。そう言えばテント泊の山行から随分ご無沙汰している。やりたいなあ。
「下仁田九峰 兄倉山(御岳山)登山口」の新しい道標から山道に入る。最初は緩く登り、赤い鳥居を潜ると御嶽神社の遥拝所に着く。遥拝所の奥に積まれた石垣に、御嶽座王大権現を中心として普寛行者や子安観音、不動明王の石像が祀られている。
遥拝所からクリッペの岩体となり、傾斜が切り替わって、大変な急斜面をジグザグを切って登る。途中、石祠や師子光、師子慧、法挟護、僧守護など三十六童子の名を刻んだ小さな石碑が点々と現れる。台座に「青倉講中」と刻まれた不動明王の脇には虚空護の石碑がある。吉祥妙の石碑ともう一つの不動明王を過ぎ、落ち葉に覆われた尾根道を急登する。
なおも急登すると数基の石祠と八海山大神の石像が現れる。右手に持っているのは宝剣、左手は宝珠かな。次々と山岳信仰のモニュメントが現れて楽しめる。
急斜面を斜上して稜線に出、緩くひと登りすると御岳山の頂上に着く。頂上は小広く、北面の展望が開けて、下仁田市街を俯瞰できる。頂上の石祠や流線形のフォルムが秀逸な猪の石像は健在だ。
御岳山から痩せ尾根を東に辿る。ほぼ平坦な尾根道で、灌木が生えているから怖さは感じないが、両側は結構切れ落ちている。南を眺めると栗山川の谷がV字に深く切れ込み、大山や稲含山のキリキリと尖った三角形の山影が高い。源流の白髪岩辺りの稜線は逆光と靄に霞んで遥かに遠く、奥深い。これはなかなかの山岳風景だ。
やがて3基の石祠のある平坦なピークに着く。前回はさらに尾根を辿って、北面の林道へ下った。今回はここで右折して南東へ、大山に続く稜線を辿る。出だしはギャップへの下りだ。石祠から右手の急斜面を少し降りると、先人の記録の通り、下方の立木から古い固定ロープがぶら下がっているのを見つける。そこまで行くのも急で危なっかしいので、近くの立木を支点に8mm×20mロープを流し、これを摑んで岩壁を下る。
ギャップの底から急斜面を登り返して尾根に上がると、ここにも石祠があってびっくり。元治二(1865)年の銘あり。こんな険しい所までどこを登ってお参りに来るのだろうか。すぐ先にも石祠があり、木立の間から北東の谷間を見おろすと千沢集落の民家が見える。
潰れた石祠のある小ピークを過ぎ、次の550m圏ピークは急峻なので、右斜面をけもの道でトラバースし、右から回り込んで頂に立つ。ここには石祠はない。雑木林の尾根を下り、檜林を抜けていくつか小ピークを越えると正面に大山が近づく。手前の黒々と切り立ったピーク(581m標高点峰)は左から巻けるはず。さらに岩屑が散乱する痩せ尾根を急降下する。左側は岩壁となって切れ落ちているので、足元注意。
やがて杉植林と下生えの常緑樹に覆われた平坦な鞍部に下り着く。僅かに盛り上がった尾根筋を辿ると、途中、勢子役で待機中のハンターさんに遭って挨拶(この日、山中で遭ったのはこの一人のみ)。程なく林道に出て、これをしばらく進む。
程なく林道は終点となり、「木戸沢社営林」の標識を見る。正面は581m標高点峰の斜面でトンデモなく急峻だ。これは登りたくない。幸い、林道終点から左へ明瞭な山道が通じ、581m標高点峰の山腹を巻いて続いている。
最後はけもの道っぽくなるが、めでたく檜植林に覆われた尾根上に復帰。さらに、雑木林の落ち葉に覆われた広い斜面を登ると痩せ尾根となって、いよいよ大山への登りに取り付く。尾根を覆う紅葉は散りかけて晩秋の装いだ。
大山へは痩せ尾根の急登が続き、アキレス腱が伸びっぱなしになる。一直線にグングン登って高度を稼ぐ。振り返ると木立を透かして、御岳山と辿ってきた山並みが遥か下だ。
石標のある小ピークに登り着き、急登の踊り場で一息つく。しかし大山はまだ高く、ここからも急登だ。疎な立木に手をかけて強引に登って行く。ちょっと山行の間隔が空いただけなのに足が鈍っていて、しばしば立ち休みを入れては息をついて、激坂をこなす。
ようやく頂上稜線の一角に登り着き、平坦で痩せた稜線を少し辿って、大山の頂上に到着する。山名標識2枚と主図根点の標石がある他は、樹林に囲まれて展望に乏しく、静寂に包まれた頂だ。しかし、登り応えがあった分、達成感もある。いやー、きつかった。
頂上でレジャーシートを広げて昼食休憩とし、缶ビールを飲んで、サバ味噌煮とカップ麺のかき揚げ天ぷらうどんを食べる。それから、しばらく昼寝をして元気を回復。あとは下り基調なので、楽なはず。
行く手に黒内山と稲含山を仰ぎながら、頂上稜線を緩く下る。石標のある小さな瘤で右折。急坂を下る。急とは言っても大山への登り程ではない。一段下がったところから、さらに一直線に下ると峠に着く。左右に峠道が通じ、特に右に下る道は作業道で、山麓の高倉集落まで通じていそうである。
峠から短い急坂を登ると、アンテナが建つ小ピークに着く。看板によると高倉集落の共同のTVアンテナだそうだ。振り返ると大山の台形の頂上稜線が見える。
アンテナから麓に向かうケーブルを潜って下り、杉林に覆われたなだらかな尾根を辿る。僅かの間、作業道を辿り、尾根を絡んで杉林の斜面をゆるゆる登ると幅広い林道に出る。
林道を左へ辿り、山腹をトラバースする。途中、黒光りする岩が露出した切り通しがあり、触れるとボロボロに風化していた。何の鉱石だろう。「除去土壌等の仮置き場」の標柱を過ぎると左手の展望が開け、大山や御岳山、下仁田市街、これから辿る鎌抜山の尾根、奥に御堂山や大桁山、妙義山のギザギザを一望する。特に大山は千沢川の平坦な谷底からスックと立ち上がって、小振りながらも良い型の山容を示す。
ススキの藪をちょっと搔き分けて鎌抜山へ続く尾根に入る。檜植林の尾根を緩く下り、短い急坂を登り返すと、赤松と雑木に覆われた平坦な尾根となる。鎌抜山の頂上(752m標高点)は平坦な尾根の途中で、どこがピークか判然とせず、山名標識の類もない。右側は雑木林に覆われた急斜面で、小さなアップダウンのある細い尾根が続く。
ところどころで終盤の紅葉を見ながら尾根を辿り、石標のある小ピークに着く。左手には木立を透かして大山の頂上稜線を仰ぐ。ここから細尾根を一直線に急降下する。
途中、こんもりとした小ピークで尾根が二筋に分かれる。ここは右の尾根へ。黄テープのマーキングがある。さらに下るとようやく傾斜が緩まり、尾根を越える作業道に出る。
作業道を横断して少し登ると581m標高点のピークで、主図根点の標石がある。北西の斜面は広く伐採されて枯れススキの原が広がり、御岳山や下仁田市街、その奥には傾いた陽に照らされた西上州の山並みを見渡す。これは最後に良い景色が眺められた。
ススキ斜面の右端を下り、雑木林に入って左(西)に分かれる枝尾根に入る。陽が翳ってしっとりした感じの紅葉を眺めながら、落ち葉を踏んで尾根を辿る。それから杉植林の緩斜面となり、適当に下ると荒れた林道に出る。あとはこの林道を下るだけだ。
林道はシダが下生えの杉林をジグザグに下る。沢沿いの道となると、水害(多分、2019年の台風19号)のためにあちこちで路盤が崩壊しているが、歩いて通る分には問題ない。
やがて舗装道(林道吉崎線)に出る。千沢の集落はすぐ下だ。集落に入ると、右上方に岩山〜藤山間の岩峰群が覆い被さるように連聳する。あそこは一度歩いて見たいと思っているが、やっぱり高難度だなあ。指を咥えて見上げる。
ほたるラインに出て御岳山の北麓を回り、ほたる山公園の駐車場に帰り着く。車が増えていて、上の管理棟の周辺から子供の歓声や大人の笑い声、バーベキューの匂いが伝わって来る。これが普段の週末の様子なのだろう。
今日は急登あり、痩せ尾根ありで、西上州らしくピリッとする山歩きを堪能した。歩き応えもあり、満足して帰途につく。帰宅後の2日程、脚の筋肉痛に見舞われた😅