大楊山〜万寿ヶ峰
桐生を未明に車で出発。R122から県道沼田大間々線に入り、赤城山東面を上がって行くと、路面には刷毛で掃いたように雪が薄く積もり、ヘッドライトの光が風に舞う小雪に反射する。冬タイヤに履き替えてこなかったのは大抜かりだ。慎重に運転する。今日は『私が登った群馬300山』を参考にして、老神温泉周辺の大楊山(おおようやま)と万寿ヶ峰を歩く予定だが、県北には雪の予報が出てたし、こりゃ行き先の選択を誤ったかなあ。
薗原湖を経由し、R120を吹割の滝の手前で右折して、利根保健福祉センターの駐車場に車を置く。雪は降り止んだが、空は灰色の雪雲に覆われている。広い駐車場はガランとして、デイサービスの車が2、3台しかないから、駐車させて貰っても問題はないだろう。
大楊山の登路について。群馬300山では、大楊山北の無名峠に西麓から登るルートを紹介している。しかし、ネット情報によると、このルートはその後、峠の下が広範囲に伐採されて歩き難いとのことなので、避けたい。峠の北方にある1086m三角点(点名:丸野)の点の記を閲覧すると、三角点への経路について「福祉センターから途中まで作業用徒歩道、その先は道なし」と記されている。この記述を頼りに1086m三角点に登り、南に尾根を辿って大楊山に登ろうというのが、今日の山行の前半の計画。後半は万寿ヶ峰に縦走して穴原に下り、車道を歩いて、老神温泉経由でここに戻ってくる予定である。
福祉センターの正門の真向かいの道に入り、すぐに防獣網をゲートで抜けると「上毛幹線69号→」との送電線巡視路の道標がある。送電線の下を潜り、杉林の急斜面に取り付いて登り始める。「←上毛幹線NO.69へ至る」の道標で左に鉄塔への道を分けて右へ。登るに連れて道型が怪しくなってくるが、藪のない杉林なので、基本どこでも歩ける。断続する微かな道型を辿って小尾根を登る。一旦、傾斜が緩むと道型は完全に消え、杉林を抜けるとカラマツ林の急斜面となって、これを登る。
急斜面を登りきると、なだらかな稜線の上に着く。地面は薄っすらと雪に覆われ、寒風が吹き抜けて、急登で温まった身体が冷やされる。稜線を辿り、最後に短い急坂を登ると、1086m三角点峰のだだっ広くて平坦な頂上に着く。一面の落ち葉に覆われているため、三角点標石を探してうろうろ。少し手間取ったが、四隅に石を置いた中央に、半ば土に埋もれた標石を見出だす。その他、山名標識の類は全くない。
寒風に乗って小雪がちらつき始めたので、雨具の上着を着込んで大楊山に向かう。稜線上はなだらかで藪もなく歩き易い。右は片品川、左は栗原川に挟まれ、両側ともかなりの急斜面だ。雑木林に覆われて展望はないが、冬枯れの木立を透かして山麓の畑地が見える。
尾根は一旦細くなるが、次の1120m圏ピークも頂上は平坦だ。ここと次の1143m標高点ピークの間は小さなギャップとなっていて、短いが露岩のある急坂を下る。小ギャップから登り返して、1143m標高点ピークに着く。この頂も広くて平坦だ。行く手には木の間越しに大楊山の山影が現れる。
1143m標高点から落ち葉に覆われた幅広い尾根を快適に下る。最後は右斜面が伐採された急坂となり、正面に大楊山、右に片品川の河岸段丘を眺めながら峠に下る。峠には石祠があるが、倒壊して塔身は離れた場所まで転がり落ちている。峠の右(西)側は伐採後に蔓延った灌木藪に覆われて、先達が残したと思しきマーキングが散見されるものの、突破を図るのはやはり剣吞な様相だ。雪は既に止んでいるし、ここから大楊山へは少し大きく急な登りが控えていて汗をかきそうなので、雨具の上着を脱ぐ。
峠からの登りも右側に伐採地が続いて眺めが開け、吹割の滝の近くの山が見えてくる。急坂だが、ジグザグの道型が微かに残り、登り易い。やがて伐採地から離れ、雑木林に覆われた尾根をひと登りして大楊山の頂上に着く。頂上は東西に長く、西端に落ち葉に埋もれかけた三角点標石と古びたGさん山名標がある。展望は木立を透かして、万寿ヶ峰へ小ピークを連ねて続く稜線が眺められるくらいで、何とも地味な頂だ。
頂上から先に進み、少し下って小鞍部に着くと、万寿ヶ峰から稜線直下に通じる林道がここまで来ている。林道終点は広場となり、片品川側の眺めが得られるが、上流の尾瀬方面はあいにく真っ白な雪雲の中だ。ここから林道を辿っても良いが、まずは主稜線を辿ってみることにして、広くなだらかな尾根の登りに取り付く。左側は枯れた灌木にポサポサと覆われた藪っぽい緩斜面、右側は雑木林に覆われた急斜面となっている。
林道終点の鞍部から1290m圏ピークの頂上へは、等高線を数えると約100mの標高差があるから、そこそこの登りだ。頂上の右(西)側には、疎らな雑木林を透かして、山麓の老神温泉の街並みを俯瞰する。
頂上から落ち葉に覆われた幅広い斜面を下る。足任せに歩けて、なかなか楽しい。鞍部で再び林道に出会い、次の1274m標高点ピークの登りはサボって(^^;)、林道を歩いて左(東)側を巻く。稜線の影に入って風が当たらず、陽だまりを歩くので暖かい。
左の枝尾根の上にNo.203鉄塔を見て、送電線に並行して歩く。行く手に、右肩に送電鉄塔を乗せた万寿ヶ峰のピークが現れる。頂上の左半分だけに木立があり、右半分を坊主に刈り上げたモヒカンヘッドのようだ。
頂上に近づいた所で林道から分れて、すぐ上の稜線に乗る。稜線を登り、204-1号鉄塔を通って、三角点標石のある万寿ヶ峰の頂上に登り着く。頂上西側の目の前に送電鉄塔が立ち、送電線が通っているので、それらが少々目障りではあるが、お陰で樹林が切り開かれて、西方を中心に180度に開けた展望が得られる。
南に延びる送電線の先には、水無山と遠く赤城山を望む。黒檜山の頂上を掠めて白雲が流れ、その下の山肌は薄っすらと白くなっている。赤城山のなだらかな山裾に沿って西へ目を転じると、山間に穴原集落があり、山を一つ隔てて薗原湖の湖面を見出だす。万寿ヶ峰のこちら側(西面)は急傾斜で高度感があり、好展望地だ。訪問する価値ありと思う。
しかし、今日は時期が悪かった。北から雪雲が押し寄せて、西から北にかけての展望は雪に烟っているし、ここにも強烈な寒風が吹き付けて小雪が舞い、非常に寒い。昼食にしたい頃合いだが、とても寒くて長居できない。先に進んで、風が避けられる場所を探そう。
送電線に沿って、稜線を南の鞍部に下る。巡視路と合流し、「←只見幹線NO.204-2」「只見幹線NO.204-1→」の道標が立つ。稜線の左側直ぐ下に林道が通り、降りてみると風が避けられるので、ここで休憩。フリースの上に雨具を着込み、道端にランチシートを広げて腰を下ろす。まずは鯖味噌煮と缶ビール。それから鍋焼きうどんを煮立てて食べる。
温かい食事で暖まったところで、下山にかかる。鞍部に戻り、巡視路を辿って204-2号鉄塔に向かう。急斜面をトラバースして204-2号鉄塔を通り、次の205号鉄塔に向かうと崩壊地に突き当たる。薄い表土が剝がれ落ちて岩盤が広く露出し、ここは危なくて通れない。
稜線へ這い上がって崩壊地を迂回する。稜線上は雑木と丈の低いミヤコザサに覆われて問題なく歩ける。1408m三角点(点名:姫篠)に続く主稜線を左に分け、右に下って巡視路と合流、205号鉄塔に着く。ここも片品川側の展望が良い。
205号鉄塔から少し下った所で送電線巡視路と分かれ、1131m標高点に向かって、西へ尾根を下る。雑木林に覆われた藪のない尾根で、至極歩き易い。風も弱まり、雨具とフリースを脱ぐ。途中の小さな瘤が1131m標高点だろうか。気にせず通過、どんどん下る。
頭に赤ペンキが吹き付けられた石標のあるピークで左右に尾根が分かれる。ここは左の尾根へ。左側に水無山を望み、疎らな雑木林を透かして、すぐ下の谷間に草地が広がっているのが見える。あれがミリオン牧場跡地だろう。牧場に下るなら、この辺りから下るのが最も楽そうだ。
牧場には降らずに尾根を辿ると、やがて右側がヒノキ植林帯となる。左側に高いアカマツ林が現れた所で尾根を右に折れる。アカマツ林の間に山麓の畑地やソーラーパネル、穴原の集落が眺められる。なだらかな尾根を下ると畑地に出、その縁を迂回して、穴原と老神温泉を結ぶ車道(林道老神穴原線)に出る。あとは車道を歩いて、駐車地点に戻る。
長い車道歩きだが、車が通らないので静かだし、眺めが良いからいい散歩だ。急な山腹を大きく切り返して下ると、眼下に薗原湖のバックウォーター部分の片品川を見下ろして、数軒の民家が点在する島古井の集落に入る。ひと気がなく、サルの群だけが何やら諍いがあるらしく、ギャーギャーと騒々しい。
集落から脇道に少し入った所に片品川に架かるつり橋があるので、立ち寄ってみる。橋下の片品川は広く深くて、覗き込むと恐ろしい。高さは50mくらいだろうか。なんと、ここから釣り糸を垂らしている釣り人がいて、ビックリする。上流を眺めれば、大楊山辺りの山並みが渓谷に峙ち、険しい景観を見せる。
渓谷沿いに歩いて二本のトンネルを潜ると老神温泉に着く。片品川の両岸に温泉旅館が立ち並ぶが、日曜日の午後で宿泊客も帰ったあとなのか、ここも静かだ。今日は駐車地まで戻ったのち、ここで入浴して帰る予定。
渓谷沿いの道から、河岸段丘上の平地の道となる。途中、群馬300山に記述されている大楊山の登り口を確認する。水路左脇に踏み跡があり、奥に防獣柵のゲートが見える。
大楊の集落に入り、行く手の山の端に今朝通った送電鉄塔が見えて来れば、駐車地まではあと少しの距離だ。
帰りは老神温泉の東秀館に日帰り入浴で立ち寄る(600円)。仄かに硫化水素臭のする良いお湯で、露天風呂もある。入浴客は数人で、ゆったり入る。今日は一時雪に降られたし、寒風に晒されて身体が冷えているので、熱い温泉に入るのは最高に極楽♪。温泉を出た頃にはとっぷりと日が暮れて、再び小雪が舞い出した夜道を走って、桐生へ帰った。