藤原岳
名古屋に所用があり、ついでに名古屋から日帰り圏内の山を歩くことを企てる。どこに行こうかなと考えて、まず、鈴鹿山脈の一座で、名古屋から最も近い日本三百名山の藤原岳を検討。最もポピュラーな登山コースとして、三岐(さんぎ)鉄道三岐線終点の西藤原駅から登る表登山道(大貝戸道)があり、鉄道駅からダイレクトにアプローチできる点が大変便利だ。という訳で、鉄道利用で藤原岳に登ることに決定して、出かけてきました。
前夜宿泊したホテルを未明にチェックアウトし、登山装備以外の荷物を名古屋駅のコインロッカーに預ける。今回は、出先の山歩きで恒例の軽装ではなく、季節と行程を考慮して、通常の登山の服装だ(そのために、登山靴を名古屋まで持参した)。近鉄名古屋5:50発の伊勢中川行急行に乗車し、近鉄富田(とみだ)で三岐線に乗り換える。三岐線はICカードが使えず、切符は今では珍しい硬券だ。ちなみに、三岐という線名は、三重と岐阜を鉄道で結ぼうとしたことに由来する。
近鉄富田を6:33発。乗客は疎らだ。列車は北に養老山地、西に鈴鹿山脈を遠望しながら、広々とした伊勢平野を北西へトコトコ走る。やがて鈴鹿山脈が近づいて来て、南面が石灰石の鉱山で、頂上直下まで削り取られた藤原岳が見えてくる。大規模なセメント工場のある東藤原駅を通過し、二駅で終点の西藤原駅に着く。下車したのは、私の他は登山装備の高校生の一団。この一団は迎えの車に分乗してどこかに行ってしまったから、結局、駅から藤原岳に登るのは私だけだ。
駅から仰ぐ藤原岳は、平野から突如立ち上がって急斜面で峙ち、標高1140mの低山とは思えない威風を見せる。石灰鉱山は尾根の向こう側なので、こちらからは見えない。駅構内には、かつて三岐線の貨物運輸で活躍したSLやED22型電気機関車が展示されている。今月頭には新前橋駅でたまたまC6120も見ているから、SLづいている。
駅前から表通りに出て進むと、すぐに「←藤原岳登山口」の道標があり、左折。藤原岳を正面に仰いで車道を上がると、休憩所、WC、駐車場のある藤原岳登山口に着く。広い駐車場はほぼ満杯で、出発準備中のハイカーさんも大勢いる。列車より車利用のハイカーさんの方が主流のようだ。
神武神社の鳥居を潜り、本殿にお参りしたのち、鬱蒼とした常緑樹林中の登山道を登り始める。いきなり急斜面に取り付くが、丁寧にジグザグが切られていて、大変歩き易い。さすが、表登山道。
ハイカーさん数グループと前後しながら登って、程なく二合目に着く。灰色の石灰岩が山積し、その上に不動明王が祀られている。身体が温まって来たので、Tシャツ一枚になって登る。樹林中をジグザグに登って三合目を通過。傾斜が緩むと四合目に着き、休憩しているハイカーさんが多い。ここは黄葉した広葉樹も混じって、雰囲気が明るい。
左斜面をトラバースすると五合目の標識がある。木立の間から頂上稜線がまだまだ高いところに見える。杉林に入り、大きく切り返しながら登って、六合目、七合目を通過する。
木立の間からだいぶ下になった山麓を見つつ、ひと登りして八合目の標識の立つ小平地に着く。木立の上に頂上稜線を仰ぐ。ここで、山麓の聖寳寺(しょうぼうじ)から登って来た裏登山道(聖宝寺道)を右から合わせる。帰りはここから裏登山道を下る予定だ。
八合目から登山道は右寄りに登って、ザレた急斜面をジグザグに登る。ここは植生保護区域になっていて、時期が合えば花が楽しめそうだが、今は冬枯れで、パサパサのコケとシダが生えているだけだ。また、積雪時は雪崩危険区域となり、冬期登山道は八合目から九合目へ直登するようだ(八合目の案内看板による)。
ジグザグ登りが終わると、尾根上のちょっと開けた平地となった九合目に登り着く。頂上稜線はもう間近だ。石灰石の露岩が多い登山道を登ると、冬枯れの明るい林となり、振り返ると山麓の平野を俯瞰し、その向こうに長々と横たわる養老山地を眺める。なかなか高度感のある展望だ。
頂上稜線、というか頂上台地の縁に登り着くと、ここまでの急登が一転して、石灰石の露岩と草地に覆われ、疎らに木の生えたなだらかな起伏が広がり、別天地だ。縦走路との合流点に立派な建屋の藤原山荘が建ち、WCもある。
藤原山荘から藤原岳頂上(展望台)に向かう。青空の下、四方に展望が開けた緩やかな起伏の稜線を歩くのは気持ち良い。少し下って登り返し、頂上に着く。
頂上からの展望は360度に開けて素晴らしい。南には鈴鹿山脈の主稜線が連なり、治田(はった)峠へがっくり高度を落としたのち、盛り上がって竜ヶ岳を起こす。竜ヶ岳は、頂上付近になだらかな笹原が広がっており、魅力的だ。その奥の山影は御在所岳の辺りだろうか。
目を西の滋賀県側に転じると、深い谷と尾根が複雑に入り組んだ山地が広がる。北には鈴鹿山脈最高峰の御池岳(1247m)が舟形の大きな山容が一段と目を引き、その手前には藤原岳最高地点の天狗岩(1171m)がちょこんと突き出している。展望を楽しみながら、なだらかな稜線を天狗岩まで歩いてみよう。
藤原山荘まで戻り、さらに石灰石が露出したなだらかな稜線を辿る。行く手には霊仙山と伊吹山が、これも舟形の大きな山容を見せている。両山には3年前に登っているから、懐かしい。冬枯れの明るい樹林帯に入って緩く登り、御池岳への縦走路を右に分け、最後に露岩の多い斜面を登ると天狗岩の頂上に着く。
この頂は南と西が露岩の切れ落ちた斜面で、そちら側の展望が素晴らしい。南には藤原岳の整った三角錐のピークを眺める。西に少し岩稜を辿ると、山塊に切れ込む谷を俯瞰することが出来る。また、頂上北側に露岩の平地からは御池岳がさらに間近に眺められる。
昼食のパンを齧り、カルスト地形の景観と稜線からの展望を満喫したのち、下山にかかる。藤原山荘に戻り、八合目まで往路を下る。行き交うハイカーさんの数がぐっと増え、やはり人気の高い山であることが判明。まだまだ続々と登って来る。学校や職場のグループで来ている人の割合が高い感じだ。
八合目からは裏登山道(聖宝寺道)を下る。こちらのコースは先行してソロハイカーさんが下って行った他は、ハイカーさんが全く居なくて静かだ。道は涸れ沢を左に見て、ザレた急斜面を下る。滑り易いが、道は小さくジグザグが切られて、良く整備されている。
尾根上の小平地の六合目を過ぎると、ザレた急斜面のジグザクの下りとなる。斜面の途中で五合目の標識を見、杉林に入ってさらに急降下。
三合目を過ぎると涸れ沢に出、しばらく沢の中を下ってから右岸に渡る。この先は、ガレた急斜面のトラバースで、足元に要注意だ。
ガンガン下って行くと山麓が近づいて、やがて巨大な砂防堰堤に下り着く。まだ新しい透過型堰堤で、鋼管フレームの高さは20mくらいありそう。沢が急峻なので、この規模の堰堤でないと、土石流を食い止めることは出来ないのだろう。堰堤のすぐ上流には、風化した岩壁に二段の滝がかかっている。
堰堤から車道を下り、右に分岐する作業道に入って適当に下ると、聖寳寺脇の駐車場に出る。聖寳寺ではちょうど「もみじ祭り」が開催されていて、参拝者が車で大勢訪れて大盛況。せっかくの機会なので、私も協力金200円を払って参観する。紅葉はピークのちょっと前という感じだが、境内からみた本堂の佇まいは、前景に紅葉、後景に色付いた急な山肌を配して、なかなか絵になる。
庭園の池を一周して渓谷に下ると、鳴谷の滝がある。岩盤が石灰石で柔らかいせいか、左の滝は深く彫り込まれて険悪な様相。
参観を終え、養鱒場を経由して約250段の長い階段を下る。登って来る参拝客の多くは気息奄々。そんな中、果敢に坂道ダッシュしている子供の元気さが光る(^^;)
麓に下り着き、鳴谷神社にお参りしたのち、山麓の車道をポクポク歩いて西藤原駅に向かう。途中、東海自然歩道の標識に従ったらちょっと遠回りとなる。振り返ると、山の端が急角度で平野に接している様子が眺められる。本当に興味深い地形だ。
西藤原駅には14時前に到着。待合室で40分程待ち合わせしている間に紅葉観光帰りの人で乗客が増える。といっても20人くらい。14:31発の列車に乗車し、近鉄富田で乗り換えて名古屋に向かう。
名古屋駅では、指定席を予約した新幹線の時刻まで時間の余裕がある。コインロッカーから荷物を出し、駅から徒歩10分弱の「炭の湯ホテル」の銭湯(420円)に向かい、汗を流して着替える。駅に戻り、地下の飲食店街で生中×2と名古屋定食(手羽先、味噌カツ、土手煮)を美味しく頂いたのち、18:39発の新幹線に乗車して、桐生への帰途についた。