霊仙山
(この記事は、滋賀県米原市の山2日目、伊吹山からの続きです。)
霊仙山(りょうぜんざん)は、伊吹山の南に東海道本線を挟んで対峙する山である。伊吹山とは、カルスト地形の山という点が共通している。米原市HPの霊仙山の案内によると、米原市側から登るコースは4つある。その中で一番面白そうなのは、岩場や滝があるという谷山谷登山道だが、現在は土砂崩れのために通行禁止となっている。そこで、距離は長いが駅から直接歩き出せる柏原登山道を選んで、登ってきました。
今日は少し早めに歩き出したいので、朝食は昨晩買っておいたパンで簡単に済まし、宿舎の東横インをチェックアウト。登山に不要な荷物は米原駅のコインロッカーに預け、出先の山歩きの軽装(トレランシューズ+布製ザック)で6:07発の始発列車に乗車。3駅目の柏原駅で下車する。
昨日、登った伊吹山が大賑わいだったのに対し、今日、この駅で降りたハイカーは私一人。静かな山歩きになるのは確実だ。駅舎に掲げられた霊仙山の登山案内図は手書きの年代物で、古くから良く登られていたことがわかる。昨日は快晴だったが、今日はどんよりと曇っていて、気分はちょっとダウン。
かつて中山道の宿場町であったという柏原の集落を通り、R21を横断して名神高速のガードを潜ると、霊仙山登山道入口の標識と登山届ポストがある。ここから先は人家が途絶え、谷間に広がる水田を垣間見ながら、杉林に囲まれて薄暗い車道を進む。分岐には古い道標がある。やがて大きな養鶏場が現れる。異臭には少々辟易。左脇の未舗装の林道を急ぎ足で通り抜ける。渓流の右岸を進み、左岸に渡る橋の手前に数台分の駐車スペースがある。この先は法面からの落石が多く、車の通行は不能である。
砂防堰堤の横を通り、谷の奥へ進む。やがて林道終点となり、一合目の標識がある。ここから山道に入り、狭い谷に沿って登る。急な山肌が、なかなかワイルドな雰囲気。
やがて山腹をトラバースする道となり、シダに覆われた谷を詰め上がって稜線に出る。杉の大木が二本並び立ち、「二本杉」と「二合目」の標識がある。なお、古い標識もあり、それには「一合目」とある。前掲の米原市HPの案内でもここは一合目となっている。以降も新旧の標識で合目が食い違うことがあるが、この記事では新しい標識に基づいて合目を記すことにする。
ここから緩やかな稜線上の道となる。暫く登ると右山腹を巻き始め、小さな沢を横断する。再び稜線上に戻り、アセビなどの樹林に囲まれた道をゆるく登る。三合目の標識を過ぎ、シダが下生えの尾根を登ると、避難小屋が建つ小ピークに登り着く。ここが四合目だ。小屋と言っても鉄道のコンテナ?を置いただけの物で、雨風は辛うじて凌げる。
四合目から少し下るが、直ぐに登りに転じて、若いヒノキの植林帯をゆるゆると上がる。周囲にはヒノキ林に覆われたなだらかな山並みが広がる。左山腹をトラバースすると五合目の標識があり、シダにびっしりと覆われた浅い窪を登る。ここは流水あり。再び稜線上の道となり、下生えにシダやコケの多い稜線を緩く登る。この辺り、疎らな樹林の間の陽当たりが良くて乾燥した斜面もシダに覆われており、ちょっと珍しい植生ではないかと思う。地質や気候に原因があるのかも。
六合目の標識を過ぎ、やがて920m標高点を巻いて右山腹のトラバース道に入る。緩やかな山稜が続くが、登山道はその左を巻いたり、右を絡んだりして、なかなか省力的かつ変化のあるコース取りがされている。右に河内への道を分け、稜線を乗り越して左山腹のトラバース道となると、直下に作業道が通じている。
やがて七合目に着くと、「継子穴危険注意深さ30m」という看板がある。これはどんな穴だろう。踏み跡を辿って山腹を登ると、林の中のロープで囲まれた一角に狭い縦穴の口が開いている。中を覗いても真っ暗で底は見えない。こいつは深そうで、確かに危険だ。剣吞、剣吞。これもカルスト地形の一つだろう。
登山道に戻って先に進むと、小さな白い花をつけた草が斜面の一面に広がっている。後で調べると、この花はマツカゼソウといい、鹿が嫌って食べない植物だそうだ。周囲は、霧が巻いているせいもあり、深山の雰囲気がある。ここでサルも見る。
シダの原を登り、993m三角点峰の北面を巻いて鞍部に出たところが八合目の四丁横崖だ。と言っても、崖は見当たらない。右から谷山谷登山道を合わせる。ここにも手書きの古い登山案内図が設置されている。
柏原駅からここまで2時間半。時間はそれほどかかっていないが、緩やかな山稜を延々と辿って、長い距離を歩いた感がある。霊仙山の山頂まではもうちょっとだ。滑り易い急坂をロープを頼りに登り、無木立でシダに覆われた緩やかな稜線を辿ると、霊仙山避難小屋に着く。新しく立派な小屋で、晴れていれば展望も良さそうだが、今日は残念ながら霧に囲まれて展望は何も見えない。
なだらかな稜線を登って、経塚山に着く。周囲はカレンフェルト(石灰岩の岩塔原)で、異界のような風景が広がる。
カレンフェルトの稜線を辿って、三角点標石のある霊仙山頂上に着く。ここで大休止とし、パンの昼食をとる。霧に閉ざされて、相変わらず展望はなし。風に吹かれて一瞬、霧が薄くなり、お隣の最高点のピークが眺められた。霧の中で話し声がすると思ったら、10名弱の若者のグループがやって来て、一時、山頂は賑わう。しかし、彼らが去ると、静寂の山頂に戻る。さて、最高点にも立ち寄ってみよう。
最高点も同じくカレンフェルトの緩やかなピークだ。吹き付ける風で生ずる霧の切れ間から、三角点ピークを垣間見る。もう、これ以上の展望は得られそうにない。見切りをつけて、下山にかかる。
下山は往路を戻る。緩い山稜の下りは楽チンで、行程が捗る。途中、四合目で女性2人組とすれ違う。二合目の二本杉から沢沿いの山道を下り、途中の湧き水で冷たい水を飲んでホッと一息つき、さらに下ったところでアクシデント発生。トレラン用シューズは滑り易いので注意して歩いてはいたのだが、濡れた岩を踏んだ瞬間に、なんの摩擦もなくスリップ。前に倒れ込んだ先に倒木があり、右腿の前面と右肘を強打する。これは痛かった(>_<)。幸い、骨折とかはなく、打撲で済んだようだ。しばらく休んだのち、右脚をかばいながら再び歩き出す。林道まですぐの地点だったのも幸運だった。
林道をビッコを引いてゆっくり下る。天気はいつの間にか晴れ間が出て、伊吹山の南面が眺められる。ようやく柏原駅に辿り着く。やれやれ。13:03発の列車で米原駅に戻る。コインロッカーから荷物を出して着替えた後、13:24発こだま658号で桐生への帰途についた。
あとがき。打撲はその後、内出血の痣が現れて、それが消えるまでの3週間程、足がだる〜い症状が残った。