東天狗〜根石岳
今年の夏は北八ヶ岳を集中的に歩いていて、今回で4回目。ミドリ池から本沢温泉に入り、そこから東天狗、根石岳、夏沢峠を周回するコースを歩いてきました。
桐生を深夜2時頃に車で出発。八千穂高原ICで高速を降り、松原湖を経由して、大月川沿いの細い車道を上がる。未明で寝静まる稲子湯を過ぎ、みどり池入口バス停のある駐車スペースに車を置く。既に5台程の駐車がある。ずっと続いていた酷暑も一休みしたようで、車外の気温は8℃と、涼しいを通り越して寒いくらいだ。朝食にパンを食べ、夜明けの橙色の光が林間に差し込むのを待って出発する。
白駒林道のゲートの所に「稲子湯唐沢橋登山口」の案内板と登山者カード入のポストがある。登山計画書はいつもの通りコンパスから事前に提出済み。唐沢橋を渡って、すぐに登山道に入る。シダが下生えに茂るカラマツ林を緩く登り、林道を数回横切る。
林道のコンクリート橋を渡り、道標に従ってこまどり沢左岸の作業道を辿る。以前は右岸に登山道が通じていたが、間伐作業中のため、道が付け替わったとのこと。木橋で沢を渡ると再び山道となる。
やがて森林軌道の跡が現れ、山道はこれを辿る。軌道跡は鉄道とは思えないくらい半径が小さなヘアピンカーブを連ねて、斜面を登って行く。「ここはこまどり沢 みどり池がんばって!40分」の標識のある地点から傾斜が増して、苔むした針葉樹林帯をジグザグに登る。展望はなく、木の間からニュウの岩峰がチラと見える程度。傾斜が緩み、キャンプ場入口を通って、標識から20分強でミドリ池としらびそ小屋に着く。
しらびそ小屋はミドリ池の畔に建つ古風な雰囲気の山小屋だ。朝早いためか、人が動く気配はない。小屋は池を隔てて東天狗を眺める絶好の立地にある。朝日を浴びた東天狗が、凪いで滑らかな水面に鏡写しとなって美しい。池の畔を少し進むと、岩壁を擁して聳える稲子岳も見える。前回、稲子岳からミドリ池を俯瞰して、あの池に行ってみたいと思ったのが今回の山行の動機の一つだから、この景色を見ることが出来て、来た甲斐があった。
池の畔から平坦な樹林帯に入り、中山峠への道を右に分け、湿原や川を木道で渡る。花の終わったクリンソウの群落があり、たくさん実が付けている。やがて緩く登って、山腹をトラバースする道となる。
トラバースから下りの道となり、松原湖からの幅広い道に合流する。「本沢♨︎クリン草園」の標識のある群生地とキャンプ場を通ると、硫化水素の臭いの漂う本沢温泉に着く。宿泊客が出発した頃合いだからか、ここも人の動く気配がない。売店の前に山水を引いた水場があり、冷たい水を頂いて一休みする。
ここから白砂新道で東天狗に向かう。沢を二つ渡るとシラビソやダケカンバの樹林帯の急登となる。所々、木立を透かして硫黄岳の爆裂火口の断崖が見えるくらいで、展望には乏しい。小尾根上の登りとなると、頭上に根石岳の稜線が垣間見える。「頂上まで後十五分」との古い道標を過ぎると、ダケカンバとハイマツ、草地の急斜面に差し掛かり、背後に開ける展望を時々見ながらジグザグに上がって、根石岳と東天狗の鞍部に登り着く。
白砂新道の白砂とはどこを指しているのかと思っていたが、登り着いた稜線上の一帯が一番それらしい。北(右)には西天狗と東天狗、南(左)には根石岳へ縦走路が延びて、大勢のハイカーさんが歩いている。東天狗には前回登ったばかりだが、東天狗〜夏沢峠間は八ヶ岳連峰で未踏の主稜線なので、ここはちょっと拘って、もう一度登りに行く。
白い砂礫をザクザクと踏んで登る。手前のピークを越えると、右側は崩壊壁となって、稲子岳やミドリ池を俯瞰する。鉄桟橋を渡り、短い鎖場を登るとハイカーさんで大賑わいの東天狗の頂上に着く。
前回の登頂では雲に覆われてイマイチの展望だったが、今回は青空が広がって空気が澄み、360度どちらも遠くまでくっきり見える。南には硫黄岳の円頂が大きく、その奥に赤岳と阿弥陀岳が鋭く天を指す。そこから目を右へ転じれば、南アの北岳、甲斐駒、仙丈、さらに中ア、北アの槍、穂高、頸城山塊の火打、妙高まで眺められる。また西から北にかけては奥秩父、西上州、浅間連峰の山並みが広がる。この展望は素晴らしい。再訪して良かった。山岳展望を堪能するが、睡眠不足で疲れが出たので、頂上の片隅で昼寝する。
30分程寝てスッキリしたところで根石岳に向かう。白砂新道入口から根石岳ヘは僅かな登りだ。頂上は小さな岩場で同じく360度の展望がある。ここから眺める天狗岳(西天狗)は、小振りな山容ながらスックと聳えて、なかなか格好良い。
根石岳の北の鞍部を俯瞰すると平坦な砂礫地が広がり、その端に根石岳山荘が見える。11時を回ったばかりだが、そろそろ腹が減ったから昼食にしよう。まず、根石岳山荘に立ち寄ってWCを借りる。綺麗なWCでびっくり(チップ制)。その後、鞍部で昼食休憩できそうな場所を探したが、コマクサ保護のためロープが張り巡らされていて、イマイチ落ち着かない。根石岳の頂上に戻り、展望を楽しみながら昼食とする。例によって鯖味噌煮とノンアル。それからカップ麺の鴨南蛮そばを作って食べる。
昼食を終え、元気を回復したところで、下山にかかる。根石岳山荘からハイマツの間の階段道を上がり、シャクナゲなどの樹林帯に入ると、すぐに箕冠山(みかぶりやま)の標識のある分岐点に登り着き、オーレン小屋への道を分ける。箕冠山の最高点は明らかに右(西)の樹林の中だが、頂上はここでいいや。夏沢峠への縦走路を進む。
縦走路はしばらく平坦。左斜面は樹林に覆われて分かりにくいが、絶壁だ。右折すると緩い下りとなり、所々から正面に硫黄岳を高々と仰ぐ。ほどなく夏沢峠に到着。ヒュッテ夏沢と山びこ荘の二つの山小屋がある。ここも大勢のハイカーさんが休憩している。
夏沢峠から本沢温泉へ下る。最初は急斜面をトラバースし、それから傾斜が緩んでジグザグに下る。ほどなく、開放的な谷間にあって有名な本沢温泉の露天風呂「雲上の湯」を見おろす場所に出る。湯船を覗き込むハイカーさんはいるが、入浴中の人はいない。
この少し先に硫化水素の臭いの漂うザレ地があり、露天風呂への道が分かれる。ちょうどそちらに手拭いだけの軽装のおじいさん二人が入って行くところだった。露天風呂に浸かりに行くのかあ。いいなあ。私はこのあとも長い歩きがあるから、今日は止めておく。
ガレ沢の上に壮絶な爆裂火口壁を巡らせる硫黄岳を仰ぎ見て、本沢温泉に戻り着く。宿の前は今晩の宿泊客だろうか、大勢のハイカーさんが休憩中 or 宴会中で、今朝とは打って変わって賑わっている。あとは往路をみどり池入口に戻る。
松原湖への道から分岐してひと登り。そこからゆるゆると下ってミドリ池に着く。今朝とは光の当たり方が違い、水中の藻が良く見えて池が名の通り緑に見える。東天狗は逆光気味で、朝の方が良い眺めだった。しらびそ小屋の前には、ベンチに寝っ転がって昼寝したり読書したりと寛ぐハイカーさんが数組。優雅ですなあ。小屋のケーキセットは3時をわずかに回っていて、販売を終了していた。残念。
ミドリ池からは緩い下りで楽な道のはずだが、結構疲れが出る(急に涼しくなったせいか、どうも夏風邪を引いたようで、帰宅して熱を測ったら37℃を少し超えていた)。のんびりゆっくり下って、車を置いたみどり池入口の駐車場に戻る。
帰りはこの夏の定番となった八峰の湯に立ち寄って、さっぱり汗を流して温まる(この時点では少し寒気を感じていた)。時間が遅くなったので、上信越道の途中で久し振りに「ららん藤岡」に立ち寄り、上州ロースカツセットを美味しく頂いて栄養をつけたのち、帰桐した(風邪は一晩寝て完治した)。