茂倉岳〜武能岳
関越道を新潟県から群馬県に向かって走ると、湯沢ICを過ぎた辺りから行く手に谷川連峰が聳立し、関越トンネルに近づくと真正面に金字形の頂をグッと高く擡げた茂倉岳が立ちはだかる。素晴らしい山岳展望で、通りかかるたびに、こちら側から茂倉岳に登ってみたいと思っていた。
今週末は天気が良いとの予報。久し振りにちょっとハードな山歩きがしたくなり、茂倉岳を思いつく。新潟県側から茂倉新道で茂倉岳に登ると、標高差は約1300mある。最近、足がだいぶ鈍っているから、リハビリ(というか鈍り具合の確認)に良さそう。さらに武能岳、蓬峠へ縦走し、蓬新道を下って周回するコースを計画して、出かけてきました。
コースタイム総計が9時間45分となる長丁場なので、日の出(5:20)とともに歩き出したい。逆算して、桐生を深夜2時過ぎに車で出発。深夜営業のGSで給油して太田藪塚ICから高速に乗り、北関東道、関越道を走って湯沢ICで降りる。IC近くのコンビニでパンを買って朝食としたのち、土樽を経由して茂倉新道の登山口に向かう。
夜明け前でまだ真っ暗ななか、蓬沢に架かる橋を渡り、関越道・土樽PAの施設を回り込んで一段上がると、草叢に囲まれた広い空き地がある。ここが茂倉新道登山口の駐車場だ。ライトで照らしながら一周したが、他の車はない。最近、雨が続いたのか、地面は泥濘んでおり、一番乾いていそうな所に車を置く。
明るくなるのを待ちながらのんびり出発の準備をしていると、続けて2台の車が到着した。どちらもソロのおじさんで、話を伺うと1人は茂倉岳、谷川岳を経て土合に下り、JRで戻る計画。もう1人は私の逆コースで、それならどこかで交差しますね、という話をする。
5時になるとヘッドランプなしでも歩ける明るさになったので、先行して出発。下の写真は風景がはっきり写っているが、実際には物の輪郭がぼんやり見える程度の明るさである。3月に新調したデジカメ(Canon PowerShot G9X Mark II)はなかなか感度がイイ(^^)
泥濘んだ林道を奥に進み、樹林に覆われた斜面を登る。登山道は赤土が露出して滑り易く、所々に補助のトラロープが張られている。やがて明るくなり、尾根に乗ると傾斜も少し緩んで、登り易くなる。ブナ林が美しい。後ろから熊鈴の音が近づいて来て、ハイカーさん2人に相次いで道を譲る。
尾根の幅が狭くなると、ところどころで右側の樹林が切れて、万太郎谷の深い谷を隔てて、朝日を浴びる万太郎山や、その右奥の仙ノ倉山が眺められる。尾根上には年を経た見事なクロベが立ち並ぶが、張り出した根が登山道を覆って、いささか歩きにくい。
細尾根を緩く登り、樹林が低くなると矢場ノ頭に着いて、ここで一休み。露岩のあるピークで、四方の見晴らしが良く、行く手に茂倉岳の山頂が現れる。完全に逆光だが、これも新しいデジカメで撮ると、そこそこ写っている(^^)。右(南)には万太郎山と大障子ノ頭が険しく刻まれた山肌を見せ、迫力がある。振り返れば、山麓の関越道を俯瞰し、湯沢の町並みを望む。
この先はそこそこの傾斜の細尾根となり、展望を楽しみながら登る。道端にはウメバチソウやミヤマコゴメグサ、タテヤマウツボグサがたくさん咲いている。ハクサンフウロはもう終わり。リンドウはまだ蕾だ。
尾根の右斜面は万太郎谷に向かってスラブを交えて切れ落ち、豪雪地帯らしい景観を示す。登るに連れて、草原状の万太郎谷源流域とそれを取り囲む谷川岳、オジカ沢ノ頭の稜線が迫ってくる。まだ朝早い内で涼しいし、周囲の景色も良いし、楽しい登りが続く。
樹林が消え、一面の笹原に覆われた尾根を登ると、茂倉岳避難小屋に着く。中を覗くと、綺麗で居心地の良さそうな小屋だ。外にWCあり。小屋の裏手の笹原を1分下ると水場があり、パイプからバンバン冷たい水が流れ出している。もちろん、小屋の前からは展望が良い。ここは一度泊まってみたいかも。
避難小屋から笹原の尾根をのんびり上がる。大きなザックを背負ったソロのおじさんが、少し先をゆっくり登っている。もしかして、昨晩は小屋に泊まったのかな。
ゆるゆると登って、茂倉岳の頂上に着く。360度の展望が一気に開け、どちらを見ても山また山の大パノラマである。1992年に谷川岳〜蓬峠を縦走して以来の2度目の登頂だが、全然記憶になくて新鮮な眺めだ。おじさんに話を伺うと、やはり小屋泊まりとのこと。他の宿泊者は1人だけだったそうで、それくらいならば落ち着けて良いなあ。
おじさんはこの辺りの山は詳しくないとのことなので、指呼して教えて差し上げる。北には、高さはここより一段低いが、稜線直下の急峻な岩壁が目を惹く武能岳、その向こうには尖鋒の大源太山、遠くに巻機山を望む。
視線を右(東)に転じれば、湯檜曽川を隔てて清水峠から朝日岳、白毛門へと稜線が続き、その向こうには、八海山と中ノ岳、平ヶ岳、燧ヶ岳、至仏山、日光白根山、武尊山、赤城山と、錚々たる山々を遠望する。
南には一ノ倉岳と谷川岳が近く、その間のギザギザの稜線の向こう側は一ノ倉沢だ。一ノ倉岳まで往復して、向こう側を覗き込んで見たい気もするが、近いとは言っても往復40分かかるので、今回は割愛。谷川岳から西へ、オジカ沢ノ頭、万太郎山、仙ノ倉山、平標山と続く。谷川連峰の向こうには子持山、榛名山、噴煙を上げる浅間山、平標山の右奥に苗場山が眺められる。苗場山の奥には北アまで見えた。
展望を楽しんでいると、トレランの若者1人が北から上がって来た。なんと、朝5時に山麓を発って大源太山を越えて来たそうで、目が点である。
大展望が名残惜しい頂だが、そろそろ武能岳に向かおう。歩きながらでも終始展望が楽しめる。丈の低い笹原に覆われた稜線を下ると、茂倉新道登山口で別れた逆コースのおじさんと交差し、やはり会いましたねー、と挨拶する。しかし、茂倉新道より蓬峠経由の方が遠回りなのに、この方もすごく速くないか。今日はなぜか健脚者との遭遇が多い。
笹原の中の細い道型を辿って、ぐんぐん下る。振り返れば、笹原に覆われた一ノ倉岳と茂倉岳の頂が既に高く遠い。
小さなアップダウンを経て最低鞍部に下り着き、一休み。ここから武能岳へ、標高差約160mの登りとなる。右側に湯檜曽川の谷底を見下ろし、どっしりとした山容の朝日岳や小さなピークの白毛門を眺めながら登る。茂倉新道の登りが応えてきて、足が重い。
急坂から頂上稜線の片端に登り上げ、平坦な稜線を少し辿って武能岳の頂上に着く。ここで昼食としよう。360度の展望を楽しみながら、缶ビールを飲み、カップ麺の鴨だしそばを食べる。小さな羽蟻がたくさん飛び回り、腕を一箇所チクリと刺された(帰宅後、数日腫れていた。調べたらアリガタバチという種類のハチらしい)。
武能岳から蓬峠へは一面の笹原に覆われたなだらかな尾根の下りとなり、山上の快適な散歩道だ。土合から湯檜曽川沿いの道を合わせて、蓬峠に着く。笹原に囲まれて蓬ヒュッテが建つ。2015年に竣工した新しい小屋で、管理人さんも入っている。人気ありそうな小屋だが、泊まり客が少ないときならここに泊まって、朝日岳に縦走するのもいいな。
蓬峠から蓬沢沿いの蓬新道を下る。蓬沢の下流を見通すと、そう遠くない所に関越道が見える(が、実は結構時間がかかる)。笹原の斜面を斜めに横切って下る。右側の尾根上には、シシゴヤノ頭の小さなピークが見える。あそこは大源太山〜七ッ小屋山を歩いたときに登ったところで、そのときはあちらからこちらの登山道が笹原の中にくっきりと見えていたことが思い出される。
笹原を斜めに下って10分程で「岩清水」の水場に着く。ここも冷たくて美味しい水がバンバン流れている。登山道はこの先で沢を渡り、やがて樹林帯に入る。さらに数本の沢を渡り、水場もあって、水分補給には事欠かない。
山腹をジグザグに下り、中の休場の標識のある小平地を過ぎる。ブナが現れ、ようやく蓬沢の瀬音が聞こえるようになり、右からも水量の多い支流が近づく。「東俣沢出合」の標識があり、このすぐ先で東俣沢を飛び石伝いに渡渉する。濡れた岩がすごく滑るので要注意。蓬沢の右岸に沿って下る道となり、ところどころで蓬沢の水量の多い流れを見て、振り返ると蓬峠付近の稜線を仰ぐ。
蓬沢に付いたり離れたりして、樹林化した礫河原を下る。既に傾斜は緩いが、足元にはゴロゴロ岩があって、足任せには歩けない。砂防堰堤を過ぎ、ようやく未舗装の林道に出て楽になる。林道終点近くには駐車が数台あり、この辺りまで車で入れる。
後は林道を辿って、茂倉新道登山口に戻る。土樽PA近くまで下ると、茂倉谷の奥に笹原に覆われた茂倉岳の頂上を高く仰ぎ、その左に峨々とした武能岳を望む。今日はよく歩いたなあと実感。充実感を覚える。足は少し鈍っていたけれど、歩き通せたから問題なし。
帰りは湯沢町共同浴場「岩の湯」に入浴に立ち寄る(500円)。湯沢ICへの道のちょうど途中にあり、この辺りの山歩きの後の定番の温泉だ。I♥岩の湯。サッパリ汗を流し、山歩きの疲れを解す。それから、上村酒店で上善如水とエチゴビールを土産に買う。湯沢ICから関越道に乗り、もう一度、茂倉岳と武能岳の勇姿を拝んで、桐生への帰途についた。