大矢岳〜冠ヶ岳〜俵山
熊本に所用があり、その帰り掛けに阿蘇山の辺りを歩くことを計画。高岳と根子岳には登ったことがある(山行記録)ので、今回はガイド本『九州の山岳』を参考にして、阿蘇南外輪山の西部を縦走してきました。
前日の夜は「けんぞう」という店で熊本名物の馬肉料理を堪能。酒も進む。翌朝8時、熊本駅前からレンタカーで出発する。コンパクトカークラスを予約していたのだが、客が多くてこのクラスの車が足りなくなったのか、数クラス上のデリカ(4WDディーゼル)を代替にオファーされた。もちろん料金は同じなので、二つ返事でOK♪
熊本市街を抜けて、阿蘇外輪山の山麓を走る。今日はカラッと良く晴れて、絶好のドライブ&山歩き日和だ。広域農道「グリーンロード南阿蘇」、別名 Kenny Road に入り、広大で緩やかな牧場の斜面の winding road を走る。
樹林に覆われたなだらかな外輪山の稜線を越え、少し下った山腹に地蔵峠登山口の駐車場がある。中央火口丘の阿蘇五岳(高岳、中岳、根子岳、烏帽子岳、杵島岳)とカルデラの火口原を望む好展望の地だ(そして今日の山歩きでは終始、阿蘇五岳の眺めを堪能することになる)。8台程度の駐車スペースはハイカーさんの車で既に満杯に近く、最後の余地に滑り込む。
出先の山歩きの軽装(トレランシューズ+布製ザック)で出発。すぐ上が稜線で、擬木の階段を上がって樹林帯の山道を登ると、ザレ地となって開けた地蔵峠に着く。ここも高岳や根子岳の眺めが良い。峠の一角にはコンクリブロック製の御堂があり、中に4体の地蔵尊が祀られている。昭和20年代に九州電力の社員と子供1人が天候急変でこの峠で遭難し、その慰霊のために昔からあった地蔵尊に1体を加えて、御堂を建立したそうである。
峠からは、最初に外輪山を南東に辿って、大矢岳に向かう。草原と中低木帯の緩やかな稜線を登り、程なく大矢岳の頂上に到着。草叢の中に三角点標石がある。頂上の周囲の樹林は切り払いされて、360度の展望が得られる。東には外輪山の稜線がゆったりとうねって連なる。あちらへは大矢野岳(1236m)、駒返峠を経て、高森峠まで縦走路が続いているとのことである。
北東には阿蘇五岳と南郷谷(中央火口丘の南に広がる火口原)の眺めが開け、遠くに祖母傾山系や九重連山の山影を望む。北西にはこれから辿る外輪山の広く平坦な稜線が横たわり、目指す冠ヶ岳と俵山のなだらかなピークが結構遠くに見える。今日は俵山まで縦走路を往復して、地蔵峠に戻る計画である。
大矢岳から地蔵峠に戻り、そのまま外輪山を辿って、グリーンロード南阿蘇を横断。擬木の階段を上がって再び縦走路に入ると、ヒノキ林とスズタケに覆われた広くなだらかな高原状の稜線が延々と続く。右側は樹林に覆われたカルデラ壁の急斜面となり、一方、左側はヒノキ植林帯の緩斜面となっている。展望が全く得られない地味〜な区間だが、ほとんど平坦なので距離はぐんぐん稼げる。
地蔵峠から3.3kmを50分かけて歩いて「←冠ヶ岳」の道標のある三叉路(本谷越)に到着。ここから左に分かれる枝尾根を冠ヶ岳まで往復する。樹林を抜けると草原の尾根に出て、行く手になだらかな冠ヶ岳の頂稜が見える。
最後に軽く登って、草原が広がる冠ヶ岳の頂上に着く。ここも草叢の中に三角点標石がある。頂上から先は北西に下る道があり、山麓を回って地蔵峠に戻る「一周コース」の道標がある。360度の展望が開け、ベンチもあって憩うのにもってこいの頂だ。
東には南外輪山のなだらかな山稜が横たわり、その向こうに阿蘇五岳が頂を覗かせる。外輪山を右に辿ると大矢岳が既に遠ざかり、左に辿ると俵山のピークがまだまだ遠くに見える。ここは両山の中間点だから、全行程の約1/4にようやく来たというところだ。
西側には緑鮮やかな草原の緩斜面が広がり、いかにも阿蘇という感じ。一ノ峯、二ノ峯の形の良い双子の丘が目を惹く。その向こうには熊本市街を望み、金峰山と雲仙岳の山影を遠望する。大展望を写真に収めたのち、分岐に戻って、再び外輪山の縦走路を北に辿る。
地蔵峠から冠ヶ岳分岐までは平坦で単調な縦走路が続いたが、ここから先はアップダウンの多い変化に富んだ道に一変する。滑りやすい急坂を下り、小ピークに登り返すと俵山へ連なる稜線が一望される。稜線上には高木がなく、ところどころにザレ場が広がって、1000m級の稜線にしては開放的でちょっと高山的な景観だ。
小ピークからザレの左脇の草原を急降下し、最後はトラロープを伝って緩やかな稜線に降り立つ。ザレた稜線を緩く登り返して、次の小ピークに立つ。ザレ場の頂から南郷谷を隔てて阿蘇五岳がどっしりと眺められる。
小ピークを下って、樹林とスズタケに覆われたピークに登り返すと、一ノ峯への山道を左に分ける。そろそろ正午に近く、腹が減ったので休憩したいのだが、なかなか適地がない。ヒノキ林の斜面を急降下し、小ピークを一つ越え、登り返すと見晴らしの良いピークに着く。道標にマジックで「中間ピーク」の書き込みがある。行く手の縦走路はここから護王峠に大きく下り、俵山へ大きく登り返しており、なかなか骨が折れそうだ。ここで一休みして、パンとペットボトルのお茶で昼食とする。じっとしていれば爽やかなそよ風が吹いて涼めるが、日差しが強くて前腕と首筋の肌がチリチリ日焼けする感覚がある。
腹が満ちたところで、俵山に向かおう。大きく下ったのち、小ピークをいくつか越えて、草原に覆われたなだらかな稜線を緩く下る。正面の俵山はどんどん高く見上げるようになって、登りが大変そう。護王峠のすぐ手前には「君も志連 我ハ心を尽し野々 道の志をりに 名を有雄 明治十年六月 道守甲斐有雄」と刻まれた石碑がある。後日調べると、甲斐有雄翁は石工を営むかたわら、旅人が道に迷わないように、阿蘇を中心に約1800基もの石道標を設置したことで知られる方だそうだ。
護王峠は草深く、峠越えの道は歩かれていないようだ。ここから俵山の頂稜が高く見上げられる。標高差は約200mあり、長距離を歩いてきたあとではなかなかしょっぱい。まあ、ゆっくり行くとしよう。数体の風化した石仏を過ぎ、中低木帯と草原に覆われ、ところどころザレのある稜線を急登する。小ピークに登り着いて一息入れ、最後に草原の急斜面を上がって、頂稜の一角に登り着く。右に俵山峠への道を分け、左に平坦な稜線を辿って、俵山の頂上に到着する。
頂上周辺は草原が広がり、数組のハイカーさんが休憩している。この頂も360度の展望が得られる。立野火口瀬(外輪山の切れ目)を隔てて北外輪山が近く、2016年4月の熊本地震で阿蘇大橋を崩落させた大きな地滑りの跡もはっきり見える。俵山は、冠ヶ岳より少し標高は低いが独立した山容の山で、九州百名山の一座に選ばれている。
俵山から歩いて来た稜線を振り返れば、冠ヶ岳と大矢岳が遥か遠くに見える。少し休憩したのち、往路を地蔵峠へ戻る。護王峠への大下りは快適にこなすが、峠から冠ヶ岳分岐へのアップダウンは応える。山行のブランクと暑さのためか、結構疲れてペースダウン。しかし、冠ヶ岳分岐まで来れば、あとは平坦で楽な道だ。グリーンロード南阿蘇に出て、そのまま車道を辿り、地蔵峠登山口の駐車場に帰着する。最後のハイカーさんグループが帰り支度をしているところで、他の車は既に帰ったあとだ。
下山後はまず温泉へ。高森温泉館(300円)に立ち寄る。ここは根子岳登山の帰りに入湯したことがあり、懐かしい。さっぱり汗を流し、足の筋肉の凝りをほぐしたのち、俵山トンネルルートで熊本空港に向かい、レンタカーを返却。空港ビルのレストランで火の国ビール、生中、あか牛ハンバーグ定食の美味しい夕食をとり、久し振りのちょっとロングな山歩きと雄大な阿蘇の景観、温泉、グルメですっかり満ち足りた気分となって、19:50発のフライトで桐生への帰途についた。