矢筈山〜子双山〜鍬柄峠
最近、赤城山で登り残しているマイナーなピークや古の登路に今更ながら興味が湧き、近場で気軽に出かけられることもあって、赤城山に出向く頻度が高くなっている。今週も赤城山西面の山々で、赤城キャンプ場から登山道が整備されている矢筈山・モロコシ山と、鈴ヶ岳を一回り小さくした溶岩円頂丘の子双(こぶた)山に登り、古の登路の鍬柄峠通りを辿って鍬柄峠まで足を延ばしてきました。
桐生を車で出発し、からっ風街道、赤城西麓広域農道、深山(みやま)を経由して、赤城キャンプ場に向かう。キャンプ場は既に今年度の営業を終え、駐車場も閉鎖されているので、林道を少し上がって、鈴ヶ池分岐の少し手前の道幅の広い所に車を置く。
「鈴ヶ池へ」との道標に従って、右に分岐する未舗装の作業道に入る。入口には、この付近に生息するヒメギフチョウを保護するためのお願いの看板が立ち、登山道以外に立ち入らないことや、チョウの成虫・幼虫・卵を採らないこと、(幼虫の餌となる)ウスバサイシンやカタクリを採らないこと、等が書かれている。関東地方では珍しい貴重な蝶で、「赤城姫」と呼ばれ、春先の蝶が出現する時期には見に来る人も多いそうである。
刈り払われたススキを踏んで作業道を進み、モロコシ山登り口を過ぎる。右に降れば直ぐにキャンプ場で、林間にバンガローが見えている。
直進すると作業道は終点となり、矢筈山登り口がある。直進する山道を指して「鈴ヶ池へ」という道標があるので、ちょっと立ち寄ってみる。山道を下るとすぐに小さな溜池に着く。獣の水飲み場兼ヌタ場になっているようだ。水辺に鮮やかな紅葉があったので、来てみて良かった。
作業道終点に戻って、矢筈山への登山道に入る。現地の道標は「ヤハズ山へ」とカタカナ表記になっているが、これは矢筈が読めない小学生向けの配慮だろう。オシダが疎らに生えた杉林の急斜面に丁寧にジグザグを切って登山道が拓かれている。路面はあまり踏まれた様子がなく、蝶が舞う季節以外に登る人はそう多くなさそうな感じである。
やがて自然林に入り、モロコシ山連絡道を左に分ける。小尾根上に出て登るとモロコシ山への登山道を左に分ける。道標があり、矢筈山頂上はその直ぐ先である。G氏山名標の他は何もない。雑木林に覆われて展望もないが、黄葉を透かして陽が差し込み、晩秋らしいカラッとした明るい雰囲気がある。
矢筈山から稜線を伝ってモロコシ山に向かう。雑木林の稜線を下ると、短いが痩せて急な区間があり、大岩を巻いて通過したり、小さな岩場を下る。鞍部からカラマツ林を登り、左から登山道を合わせるとモロコシ山の頂上に着く。雑木やカラマツに囲まれて、こちらの頂も展望はない。
モロコシ山から「林道へ」との道標が指す登山道を下る。木立を透かして、鈴ヶ岳と子双山の二つの釣鐘型の山容が辛うじて見える。子双山は意外と高くて急だ。急斜面につけられた木の階段を下ると、雑木林の緩やかな尾根道となる。やがて登山道は尾根を外れて左に下るので、登山道から別れて尾根上を直進する。雑木の小枝や蜘蛛の巣が少し煩わしいが、藪と言えるものはない。
平坦な尾根を辿り、「山 六三ノ三一」と刻まれた石柱で右に折れる尾根に入る。落ち葉を踏んで進むと子双山との鞍部で、細い作業道が越える名無しの峠に着く。
ここから子双山の登りに取り付く。地形図を見ての通りの、一定斜度で広く急な斜面を登る。下生えの草木はほとんどなく、柔らかい腐葉土を踏んで一直線に登る。頂上まで標高差約200m。こんな真っ向勝負のストレートな急登は久々かも。思わずトレーニングモードが発動して頑張った結果、頂上に登り着いた頃には大汗をかいていた。下山に要する時間が短いので、ここで缶ビールをあける。しかし、曇って陽が差さなくなり、ビールを飲みきったら少し寒くなった。
子双山の頂上も展望はない。G氏の「コフタ山(ブの濁点が掠れて消えている)」と「児双山」の山名標、硯石山でも見た透明山名標で「子双山」があり、山名表記がバラバラだ。『赤城の神』ではコブタ山、子豚山と記されている。
子双山から南東に下ると、肩に相当する平坦な平地がある。ここから僅かに左寄り下ると、小笹に覆われた雑木林の急坂の下りとなる。下り着いたところは笹原が広がる鞍部で、踏み跡を辿って緩く登り返すと地形図にも記載のある林道に出る。
ここから鍬柄峠まで、現在の地形図では道の記載がないが、古い「沼田」5万分の1地形図には鍬柄峠通りの破線路が記載されている(左下図参照)。この破線路の痕跡がないかなと思って、林道を南に辿ってみたが、獣道はたくさんあっても古の登路らしいものはない。この辺り一帯、下生えに丈の低い笹原が広がる緩斜面なので(コブタ平と呼ぶらしい)、歩こうと思えばどこでも歩ける。緩斜面の上部は尾根に収束するので、もし道型があればそこで見つけられるだろう。ということで、適当な所から登り始める。
笹は精々膝下の高さで、登るに連れて低くなり、藪漕ぎの範疇に全く入らない。尾根の形がはっきりして来ると、どこからともなく現れた道型に合流し、あとはこれを辿る。多分、古の登路を通るものが鹿だけになって、道型が残っているのだろう。鹿さんに感謝。
『赤城の神』では、この辺りを佐々倉(笹倉)山と称し、佐々倉山下に鐙岩があって清滝不動を祀ると書かれているが、それらしい岩は見当たらない。鈴ヶ岳の南回りコースの途中に清滝不動の石碑があるから、もしかしてそれのことかも。
しかし、それにしても笹原の中の気持ち良い道が続く。山深く、聞こえる音といえば、鹿の鋭い鳴き声が時折。鹿さん、驚かせてゴメン。標高が上がるに連れて、鮮やかな派手さはないが、いい感じに色付いた木々も現れる。
尾根を登り詰めると、鍬柄峠の南のピーク(鈴ヶ岳6のポイント)で新坂平からの登山道に合流する。この7月に鍬柄峠を通ったとき(山行記録)に峠道を探して見つけられなかったのだが、こんな所に登って来ていたのかー。これは気がつきませんわ。
鍬柄峠に下って目的地に到達だが、折角だからもうひと登りして鍬柄山に登ろう。稜線上の紅葉もいい感じである。
鍬柄山への登りの途中で、男性単独ハイカーさんとすれ違っただけで、鍬柄山頂上には誰もいない。四方に展望が開けるが、冷たい風と共に雲が流れて来て、黒檜山や地蔵岳を全部は見せてくれない。紅葉は見晴山の辺りが見頃。今週がピークだろう。もう晩秋どころか、初冬の雰囲気。寒いので長袖シャツを着る。ラーメンを作って昼食にしようかと思ったが、うっかり箸を忘れたことに気づく。まあ、アルコール燃料を腹に入れてあるし、非常食のチョコに手を付ければ保つだろう。頂上は寒いし、下山しますか。
ということで、下山にかかる。当初は大ダワから鈴ヶ岳南回りコースを下るつもりだったが、鍬柄峠通りの踏み跡を下るとどこに出るかが気になるので、往路を戻る。鍬柄山直下のジグザグ道から、先日歩いた六道の辻周辺の山々が眺められる。
鍬柄峠通りは下っても気持ち良い道である。尾根上は道型がはっきりしているし、尾根が広くなったところで道を失ったとしても、適当に下って行けば必ず林道に出る。これはお勧め。道型を忠実に辿ると、笹原が切れたところで道を見失うが、足任せで下ると再び道型が現れ、ちょうど往路で子双山から林道に出た地点に降り着いた。
林道を右に辿る。やがて、正面に鈴ヶ岳が現れ、至近距離から高々と仰ぐ。中腹には大岩壁を巡らせた険しい山容で、こうやって眺めると怪峰と言える。
程なく林道は終点となる。古い木の標柱があり、辛うじて前山林道終点と読める、ここから小尾根上の明瞭な踏み跡を下ると、尾根の末端が鈴ヶ岳南回りコースの「清滝不動明王」の石碑のある地点で、ドンピシャで降り着く。石碑の背面には「明治廿弐歳五月吉日」の銘があり、基部から清水が湧き出している。
あとは登山道を下るだけだ。落ち葉に埋もれて道型がはっきりしない所もあるが、道標がしっかりしているので問題ない。右岸の少し高いところをトラバースして下る。左岸には、木の間越しになるが、子双山が高々と聳えているのが眺められる。巨石が山積する斜面の下を通り、カラマツ林に入る。山道から作業道になれば、程なく鈴ヶ岳登山口で林道に出る。矢筈山を眺めながら林道をのんびり下り、駐車地点に戻った。
帰りは富士見♨見晴らしの湯に立ち寄る。鍬柄山頂上では寒いくらいの一日だったので、温泉に浸かって温まるのは極楽。これから本格的な冬が始まるなあ、と実感しつつ、桐生への帰路についた。