和久土也山
この週末は久しぶりの好天の予報で遠出する好機だったが、仕事が忙しくて計画を練る余裕がなかったし、金曜日の夜も帰宅が深夜になって準備する気力もない。また、気軽に行ける赤城山にしよう。赤城山には興味をもっているピークやルートがいろいろあり、そのなかの一つの和久土也(わくとや)山に出かけることにする。
ここで言う和久土也山は、小黒檜山の北方にある1400m三角点峰(点名:二本楢)である。この山については、その筋の方々の登った記事がネット上にあるが、ハイトスさんの和久土也山の記事のコース(和久土也山→北尾根)が面白そう。北面道路歩きの部分を自転車での下りに替え、ハイトスさんの逆コースで歩く予定を立てて、出かけてきました。
なお、山名について。文献では『赤城山花と渓谷―沢あるき/滝めぐり30選』が概念図中でこの山を「和久土也山」と記している。『赤城の神』ではこの山を「オオバン」とし、船ヶ鼻〜野坂峠の中間ピークに和久土也山の名を付している。新ハイ2016年9月号では「孫黒檜山」として紹介されたが、これについてはネット上で異議が提起された。そこで提示された情報によると孫黒檜山は不適切で、ワクトヤヤマ(サン)と呼ぶのが適切なようだ。個人的にはワクトヤに和久土也という妙な漢字を当てた経緯に興味が残る。
桐生を車で朝遅くのんびりと出発し、県道沼田大間々線を経て、南郷から県道沼田赤城線(北面道路)を上がる。今日は予報通りの晴天。先週登った船ヶ鼻ののっぺりした山容や、目指す和久土也山の釣鐘形の山容が(一部の区間から)眺められる。双方とも頂上付近に巨大な送電鉄塔が建っているから、それと視認しやすい。
北面道路を標高1200mまで上がった所にあるヒカリゴケ駐車場に車を置く。道路の反対側の溶岩の岩屋の中に、かつてはヒカリゴケがあったようだが、現在は「県指定天然記念物 赤城山砂川のヒカリゴケ自生地の跡地」の標柱と「天皇陛下御立寄の所」という石碑が建つのみである(後日調べると、天然記念物の指定は既に解除されていた)。
ここからマイ自転車 Radon I 号でダウンヒルする。南面の赤城道路に比べれば、車の通行は格段に少ない。ただし、サーキットのようにカッ飛んでくるバイク乗りが多いので要注意。途中に「赤城水源の森」の入口がある。これも後日調べると、森林内に遊歩道が整備され、森林浴、渓流遊び、山菜やきのこ狩りなどのレクリエ-ションが楽しめるらしい。
距離5km、標高差320mを20分程で下り、林道入口の利根沼田森林管理署の看板の支柱に Radon I 号をチェーンロックしてデポ。ここから歩き始めて、林道に入る。
この林道は現役で使われているらしく、大型ダンプの車輪で踏み固められた様子がある。急な山腹を斜めに上がり、緩やかな台地状の尾根の上に出る。この先から、ガッコンガッコンという工事の音が微かに響いてくる。適当な所から右側の杉林の中に入り、平坦で広い尾根を南に向かう。
杉林に入って、ひと登りもしないうちに作業道に出る。この作業道は使われていないようで、あちこちに獣のヌタ場があり、気のせいか湿って饐えた獣臭がする。しかし、辿って歩くのに支障はない。しばらく辿ると作業道は終点となるが、杉林の中にそこはかとなく踏み跡があるので、さらにこれを辿る。
『赤城の神』では、この辺りの小ピークに「タカトヤ山」の名を付けている。踏み跡を辿っていたら、うっかりタカトヤ山を巻いてしまった。GPSに入力しておいた位置を確認し、少し戻ってタカトヤ山の頂を踏む。小ピークというか単なる小さな瘤で、樹林に囲まれて展望はない。まあ、どんな所か一応確認したということで。しかし、地形図で見ると、このピークを頂点とする頂角の小さな扇型で北向きに緩斜面が広がり、同じような地形の船ヶ鼻の1/2スケールの相似形となっていて、ちょっと面白い。
ここから尾根が狭くなり、小さなピークを次々に越える。自然林に入り、藪は全くない。尾根の右側は急斜面となっていて、時折、下方の北面道路からバイクの甲高い走行音が聞こえてくる。相変わらず樹林に覆われて展望はない。
ちょっと大きなピークに登り、和久土也山との鞍部に向かって下る。木立の僅かな隙間から、和久土也山の釣鐘形のピークと送電鉄塔が見える。登りはかなり急そうだな。
鞍部に下り着き、和久土也山への登りに取り付こうとするところで、傍らに傾いた石柱があることに気がつく。よく見ると上面には十字に「北」の文字、側面に「左タカノスニ至」と刻まれ、道標のようである。石柱を起こして他の側面を調べると、掠れて不確かな文字もあるが、左回りに「林野局」「右髙泉根利小蛇ニ至」「向二本楢ニ至」と刻まれている。鷹ノ巣、二本楢は和久土也山の西麓、高泉、根利、小蛇(小出屋)峠は東側の地名で、ここが双方を行き来する林業のための峠であったことがわかる。これは面白い。
さて、和久土也山への登りにかかると、こりゃどこを登るんだ?という感じの急斜面で、岩場もある。しかし、すぐに左から送電線巡視路が現れ、ほとんど朽ちているが木の階段が続いている。岩場を縫うように左右に振れながらグングン登り、だんだん木々の葉も色づいたものが現れ、なかなか雰囲気の良い道である。
送電鉄塔に登り着くと、予期できる通り送電線の下の樹林が切り払われて、展望が開ける。西には送電線の先に船ヶ鼻がだら〜んと稜線を延ばし、そこから右に目を転じると谷川連峰、鉄骨越しになるが武尊山や尾瀬の山々、東に皇海山と袈裟丸山を望む。今日は久々に天気が良いので、有名処の山は紅葉や展望を目当てに登る人が多いだろうな。
展望を楽しみながら、ここで昼食とする。今日はすぐに下山できてしまうので、ビールはなし。赤いきつね(コンビニ限定の揚げ2枚入り)を作って食べる。
腹が満ちたところで、和久土也山の頂上へ。微かな踏み跡を辿って樹林内を急登すると、丈の低い笹と雑木、カラマツに囲まれた和久土也山の頂上に着く。三角点標石と「孫黒檜山」の小型山名標がある他は、展望もない頂だ。少し立ち休みして、下山にかかる。
カラマツ林と笹原の広い稜線を緩く下る。所々に露岩がある。樹林を透かして小黒檜山と黒檜山が高々と聳え、中腹には赤い物がポツリポツリ見える。鞍部から右側の赤テープに導かれて小尾根上の踏み跡を下る。最後は尾根が広がり、適当に下ると北面道路の擁壁の上に突き当たる。左の沢の方に下って道路に出ると、ちょうどヒカリゴケ駐車場の上端の向かいだった。
帰りは Radon I 号を回収し、南郷♨しゃくなげの湯に立ち寄る。ここの温泉に入るのは久し振り。仄かに硫黄臭のするいいお湯である。ゆっくり浸かって温まったのち、帰途につく。途中、R122が日光帰りの車で渋滞するのではと心配したが杞憂に終わり、すんなりと帰桐した。