蚕影山〜荒神山
鳴神山稜から分かれて、丸山(1065m)、大畑山(754m)、荒神山(654m)へと続く稜線は荒神山稜と呼ばれている。荒神山稜は荒神山からさらに南西へ延び、渡良瀬川東岸に沿うように弧を描いて南へ方向を変え、最後は大間々町塩原に緩やかに落ちる。
この冬に南から荒神山に登ったので(大芝山〜荒神山)、次は荒神山稜を末端から辿って荒神山に登ろうかなと考えていたら、みつまんさんとたそがれさんが相次いで、末端に近い391m標高点から荒神山までを踏破された。荒神山稜のこの辺りは藪が酷いとは聞いたことがあるが、お二人の記事を拝読するとやはり……という感じである。
藪は好きじゃないが、荒神山稜末端には頂上に蚕影明神を祀るという蚕影山があり、この山域では数少ない山名がちゃんとある山なので、一度訪ねておきたい。蚕影山だけでは短時間で登れてしまうので、荒神山まで縦走して、フィニッシュは水沼温泉で一風呂浴びて生ビールを飲み、わたらせ渓谷鐵道で帰れば充実するだろう。この季節はまだ藪は薄いだろうし、新緑も期待できる。前回は大間々駅から歩いたので、今回は上神梅駅をスタートとする計画を立てて、出かけてきました。
「桐生駅そば」で朝食に天ぷらうどんを食べたのち、7:43発のわたらせ渓谷鐵道・間藤行に乗車。行楽シーズンが始まったのか乗客が多い。水沼駅から荒神山に登るという年配の単独行ハイカーさんと山の話に興じているうちに、上神梅駅に8:22に到着して下車。ここで乗降する客も多い。
上神梅駅から小平鍾乳洞を経由して大間々駅まで、関東ふれあいの道のコースが設定されており、塩原まではこのコースを辿る。今日は高曇りだが暖かく、すぐに長袖シャツを脱いでTシャツ一枚で歩く。
貴船橋で渡良瀬川を渡り、まず貴船神社に立ち寄る。群馬では、ここの交通安全御守を付けている車を頻繁に見かけるほどメジャーな神社で、初詣客が多いことでも知られている。しかし、今日はまだ朝早いので、参拝客は誰もいない。主祭神は水を司る高龗神(たかおかみのかみ)である。
関東ふれあいの道の道標に従って、山際の車道を歩く。渡良瀬川の河岸段丘の上に広がる田園風景を眺めながら、気持ち良く歩ける散歩コースだ。ちなみに、大間々の「まま」は河岸段丘の崖を意味する。途中、コースから少し外れて穴原薬師堂に立ち寄る。「まま」を山道でジグザグに下ると、崖を背にして立派な仁王門と本堂がある。説明板によると享保15(1730)年に建てられたとのこと。
本堂の左脇に、ここに寄った目当ての馬鳴(めみょう)菩薩がおわす。とても美しい石像で、お顔もかなりのイケメンである。『間々はゆりかご』によると、右手に持った羽毛で、左手に持った蚕卵紙の毛蚕(けご)を掃き落としているお姿なのだとか。台座には「塚谷戸當所講中拾八人」「寄進連中寛政四壬子(1792)年六月吉日」との銘がある。これは見に来た甲斐があった。
関東ふれあいの道に戻って先に進む。菜の花と桜があちこちに咲き、渡良瀬川の対岸に手振山を望んでのんびり歩く。塩原浄水場の脇にある塩原神社にも立ち寄る。明治の神社合併により、近郊の七社の石祠がここに強制的に移されたとのこと。神社の左手にその石祠が建ち並び、ちょっと珍しい疱瘡神を祀った石祠もある。境内は荒れ気味で、近頃は信仰も薄れつつあるのだろうか。
山の端から荒神山稜に取り付く。最初は車道があり、やがて未舗装道となって配水池で終点となる。この先に道はなく、ちょっと藪っぽい。新緑が芽吹き始めた雑木林の尾根を緩く登る。やがて樹林に囲まれた蚕影山頂上に到着するが、蚕影明神の木造の覆屋は老朽化のためか無残にも倒壊している。中にあった石祠も瓦礫の下敷きである。うーむ、残念。
蚕影明神の裏手は低い灌木が密生する伐採跡地で、渡良瀬川を隔てて赤城山が眺められる。ただし今日は靄って、クリアな展望は得られない。いよいよ荒神山稜の縦走に入ると、日当たりの良い稜線上に篠竹や灌木、松の幼樹、イバラが繁茂し、早速の藪漕ぎとなる。あちこちに猪?が掘り起こした跡があり、それを繫いで歩く。
やがて雑木林に入ると藪が薄くなり、歩き易くなる。緩やかな稜線を小さくアップダウンして進み、新緑を愛でる余裕も出てくる。
杉林と丈の低い笹原を進み、391m標高点に到着。ここで東麓から登ったみつまん・たそがれ両氏のルートに合流する。以降は、雑木林にパサパサと篠竹が生える幅広い稜線を緩くアップダウンして進む。所々に咲く鮮やかな朱のヤマツツジがアクセントを添える。
相変わらず、篠竹と雑木がポソポソと生える緩やかな稜線が続く。途中で、大きな鹿が2、3頭逃げていくのを見送る。灌木の小枝が多少煩い程度で、歩き易いな、と思っていたら、いよいよ背丈を没する篠竹藪に突入する。幸い細い獣道が続いており、これを辿る。獣道がなかったら、この篠竹帯は多分嫌気がさして通過できなかったと思う。
藪を抜けると荒れた作業道に出て、ホッと一息。水を飲んで休憩する。作業道を辿ると稜線から離れていくので、テープの目印から稜線に復帰する。しばらく藪の薄い稜線が続き、新緑を眺めながらのんびり歩く。作業道を横断して小さなピークに登ったところで休憩。ペットボトルの紅茶とランチパックのパンで軽く昼食をすませる。
昼食後、平坦な稜線を辿ると、次は灌木藪が出現。つる性の植物やイバラが行く手を阻み、木の枝を払おうとすれば硬い棘が生えたカラスザンショウだったりして、さっきの篠竹藪より格段にタチが悪い。
ようやく灌木藪を抜けると左斜面は若い檜植林帯となり、梢越しにこんもりと盛り上がる荒神山がたいぶ近づいて眺められる。枯れススキ(夏は凄い藪になりそう)を踏んで稜線を下り、小さな送電鉄塔から切り通しに降りる。ここが奈良坂峠で、木の幹に山が一番さんが取り付けた小さな標識がある。
ネット情報によると、この峠には石仏があるはず。探してみると、荒神山側の切り通しの上に発見。あると知らなければ見逃しそうな所にある。踏み跡を登って近づくと、これは大変に立派な馬頭観音である。側面には大きく「天保三辰(1832)年十一月吉日」「村々馬待講中」と刻まれている。また、台座の三面には「花輪村 萩原村 小中村 神戸村 小夜戸村 大畑村」「浅原村 長尾根村 塩原村 穴原村 桑代村 水沼村」「松島村 座間村 草木村 塩澤村 八木原村 大間々村」と近郊の18村が刻まれ、この峠がかつての交通の要衝であったことが窺える。いやー、はるばる縦走して来て、最後に良いものを見させて頂きました。
なお、荒神山登山口の駐車場からならば、ここまで歩いて5分とかからないので、通常は車利用で訪問するのがお勧めである。
ここまで来たら荒神山の頂上まで行っておこう。車道を辿ると荒神山登山口の駐車場があり、ドライブの車が停まっている。なお、山頂への車道はここで車両通行止め。車道を歩いて山頂に向かう。途中、展望台に立ち寄るが、今日はやはり霞がかかっていて、いまいちの展望である。
手作り広場から荒神山頂上を往復したのち、遊歩道経由で下山する。結構な急斜面をジグザグに下る。途中の斜面にはカタクリがポツポツ咲いていた。
遊歩道から車道に出、あとは車道を歩いて水沼駅へ。駅周辺はちょうど桜が満開で、大勢の人が花見を楽しんでいる。早速、水沼駅温泉センターへゴー。汗と藪漕ぎで被った埃をさっぱり流し、次の桐生行の発時刻を確認して、センター内の食事処で生ビールを飲む。つまみにフライドポテト(300円)を注文したら、3〜4人分の量が出てきた。これはコスパ最高。つまみがたくさんあるので、生ビールをもう一杯飲む。
桐生行の時刻が近づいたので水沼駅のホームに出ると、列車撮影でカメラを構える人が歩道橋に鈴なり。さらに、やって来た14:19発桐生行の2両編成の列車は立ち乗りでぎっしり満員。ツアーの団体客も乗車しているようである。わ鐵でこんな満員状態は、私は初めて。もしかして、わ鐵にブームが来ているのか?などとほろ酔い気分で考えながら、桐生に帰った。
参考URL:奈良坂峠については、激坂さんの「奈良坂峠の巻き」の詳細な記事を参考にさせて頂きました。