羽賀場山〜天気山
今夏に刊行された偏平足さんの「東国里山の石神・石仏系譜」という本を読んでいて、栃木県鹿沼市にオテンキ山という山があり、頂上に石仏を祀る、との一文に目が留まった。
オテンキ山と言えば栃木百名山の一座の羽賀場山と結んで歩かれることが多い山で、お天気山、天気山、天強山などとも称され、ウェブにも山行記録が多い。両山ともそのうち登ろうと思っていたが、こういう本で紹介されていると改めて興味を惹かれる。今週末は寒波襲来で、関東甲信の山沿いは雪との予報。しかし、栃木の里山ならば天気の心配はなさそうだし、出かけるタイミングとしては良い。という訳で、思い立って登って来ました。
桐生を車で発ち、太田桐生ICから北関東道、東北道を経て鹿沼ICへ。青空が広がるが、既に冠雪した日光連山には厚い雪雲がかかり、ときおり風花がフロントガラスに舞い落ちる。鹿沼市街を抜け、大芦川の開けた谷に沿って古峰原街道を走る。以前登った二股山の山麓を過ぎると、杉林に覆われた羽賀場山が大きく見えて来る。
今日は羽賀場山から天気山へ縦走する計画だ。登山口の長安寺の前を過ぎ、下山予定地近くの神舟神社(Google Street View で目星を付けていた)に車を置かせて貰おうと思って行ってみると、神社の狭い駐車場は6、7台の車で半ばまで満杯。今日は社務所が衆議院議員総選挙の投票所になっていたのでした(因みに私は期日前投票済)。神社が投票所とは珍しい。後日調べてみると、鹿沼市の73投票所中、神社はここだけ。桐生市にはない。
これは駐車できないので別の場所を探し、大久保田中バス停付近の広い路側帯に車を置く。車道歩きは先週の品塩山で懲りているので、長安寺までは路線バスを利用して戻る。定刻から数分遅れで到着したバスに乗車。長安寺最寄りの天王橋バス停で下車する。所要時間5分、運賃は100円也。安い(^^)
長安寺への車道に入ると、10数人のハイカーさんのグループも長安寺に向かうところだった。もちろん、羽賀場山に登るのだろう。男女混合の20〜40代?くらいの方々なので、職場のグループとかかな。今日の山歩きは意外と賑やかになりそうである。
長安寺の参道石段はイワヒバがびっしり生えていて見事。なんでこんなに茂っているのか不思議だ。踏まないように気をつけて石段を登る。
羽賀場山へは本堂向かって右の住居の前を通る。お寺の奥さんがいらして、伐採作業中で登山道には立入禁止のロープが張られているが、通って大丈夫ですよ、と教えて頂く。行ってみると確かにロープが通せんぼ。潜って登山道(送電線巡視路)に入り、杉林の中を登る。途中で出来立てホヤホヤの作業道が登山道をぶった切っていて、段差ができている。先のハイカーさんグループはこの段差が上がれず、少し迂回して登ろうとしている。
私は段差を正面突破(と言う程のことはない)。巡視路を辿ると尾根上の道となり、やがて広大な伐採地の縁に出て眺めが開ける。眼下には長安寺の本堂の赤い屋根が見え、山麓の田畑や集落、向かいに鳴蟲山、そしてこれから辿る尾根と羽賀場山が見える。伐採のお陰ではあるが、期待していなかった展望が得られたのはちょっと嬉しい。
伐採地の縁を辿って尾根を緩く登る。ハイカーさんグループもすぐ後から来ているようで、賑やかな話し声が聞こえる。一つ目の送電鉄塔を過ぎると杉の植林帯に入り、展望は次の送電鉄塔までない。二つ目の送電鉄塔からは、鉄骨越しに横根山が眺められる。
杉林に覆われた尾根上の道型を辿って登る。やがて短いが急な坂が現れ、これを登り上げると頂上稜線の一角に着く。稜線を左に辿ると、右斜面は植林、左側は雑木林で、明るい稜線歩きとなる。小さな登降を繰り返し、露岩も現れて、道行きに少し変化を与える。
小ピークを越え、登り返すと羽賀場山の頂上に着く。小平地の真ん中に一等三角点の標石がある。植林に囲まれて、展望は全くない。そろそろお昼でも良い時間だが、ここで休憩は少々味気ないので、天気山に向かって、もう少し進むことにしよう。
羽賀場山から同じような標高の小ピークを二つ程越えると、その先は急な下り坂となる。少し傾斜が緩んだところで、左斜面の杉林に赤テープのマーキングがあり、そちらに下る踏み跡があることに気がつく。杉林を透かすと、その先に尾根が続いているのが見える。稜線を直進する方向には木の枝が通せんぼして置かれているので、左が登山道らしい。GPSで確認しても左でOK。ということで左折。実はここが、間違って直進してしまうハイカーさん続出?の迷い易い地点だったとは、このあとの出来事で認識することになる。
急坂を下り、ちょっと大きな(といっても標高差50mくらいの)ピークを越える。このピークの下りも急で、途中、トラロープが張られた箇所がある。そろそろ正午なので、昼食場所を探して歩いていると、次のピークの登りに差し掛かるところで、先行する別グループのハイカーさんに追いつく。いいタイミングなので、この辺りでお昼にしよう。
杉林の中の適当な平地に腰を下ろして、まずは鯖味噌煮缶とDRY ZERO。それから鍋焼きうどんを作って食べる。寒い季節は熱いうどんが美味い。しかもCO-OPで約200円というコスパの良さで、コッヘル不要。鍋焼きうどんは冬の日帰りハイクの昼食の定番です(^^)
腹拵えしたところで、登山再開。急坂を左から巻いて登ると、777m標高点のピークに着く。「P777m 火の用心!!」という標識がプラスチック境界杭に掛けられている。雑木林の間から、行く手に天気山があと少しの距離に見える。
天気山へは、雑木林に覆われた小ピークが連続し、それらを絡んで稜線を辿る。ロープのかかる岩場や、結構、高度感のある崖っぷちを歩く箇所があり、変化があって面白い。岩場を左から巻き、落ち葉の積もる急坂を登ると、天気山の頂上に着く。
頂上では先行の高年ハイカーさんグループ10数人が休憩中で、大賑わい(写真は皆さん下山後に撮影)。「お天気山(天強山)」、「天気山」など複数の山名標があるが、地元が設置している案内板では「天気山」となっている。すぐ先に木立を切り開いた場所があり、横根山方面の眺めが良い。展望を解説した案内板によると、日光や皇海まで見えるそうだが、今日は残念ながら雪雲の中だ。
頂上には潰れた石祠とお目当の石仏が祀られている。石仏は風化が進み、銘などは判らないが、穏やかな表情を浮かべて智拳印を結ぶ大日如来だ。この石像について、偏平足さんの本では次のように書かれている。
(前略)オテンキ山は、麓の人が年一度登って風が吹かないことを祈る山。山頂に石祠と大日如来像が祀られている。またこの地方にも大日如来を祭神とした五穀豊穣を願う天祭りがあり、大日如来を風の神としたに違いない。
高年ハイカーさんグループが下山したのと入れ替わりに、長安寺入口で会った若年ハイカーさんグループが到着。やっと着いたー、などと歓声を上げて喜んでいる。話を伺うと、道に迷って、ようやくここに辿り着いたとのこと。迷う所なんてあったかなあ?と話を聞きながら考えて、例の左折する地点を直進したのだと思い当たる。だいぶ下ってから引き返して来たが、曲がる所が分からず右往左往したそうだ。無事到着で何よりである。
ハイカーさんグループの集合写真のシャッターを押してあげたのち、私も下山にかかる。下山道は最初からロープが張られた急坂の下りとなる。明るい雑木林の尾根をズンズン下ると大岩があり、岩の上には石祠が祀られ、岩の脇には「二の宮」の標識がある。
さらに尾根を急降下し、雑木林から杉林に入ると道標のある分岐となり、左に下山道、右に一の宮経由の下山道を分ける。ここは右へ。杉林に覆われた小ピークを越えると、3基の石祠があり、ここが一の宮となる。
一の宮から薄暗い杉林の中のあまり顕著でない尾根を下って行く。途中で休憩中のハイカーさんグループに追いつき、先に行かせて貰う。やがて凄く急な斜面に差し掛かり、張られたロープを伝って最急降下方向へ一直線に下って行く。地面が濡れている時には、あまり歩きたくない所である。
急斜面を下り切って小さな沢を渡り、杉林に覆われた緩斜面を下ると、一の宮を迂回した下山道と合流する。この分岐点にある道標には「天久山(天気山)」と書かれている。
雑木林に出て、落ち葉の積もる道をカサコソと歩く。墓地を通り抜けると、山麓の上大久保の集落の外れで車道に出る。振り返ると、青空を背景に天気山が小さな三角形のピークを擡げている。日光連山から吹き寄せる北風を切って聳える、なかなか格好良い山である。天気山を眺めながら集落の間の車道を歩き、駐車地点の大久保田中バス停に戻る。
帰りはニューサンピア栃木の鹿沼♨華ゆらりに立ち寄る(550円)。古賀志山を北に望む田園地帯にあるリゾート施設内の日帰り温泉で、意外と入浴客が多い。ロビーではカラオケ大会が開催されていて、お年寄りが多数参加して楽しんでいる。大浴場でゆったり温まったのち、桐生への帰途についた。