品塩山
先週まではあまり寒くなくて、この冬はもしかして暖冬少雪?などと思っていたのだが、この週末は西日本と日本海側で大雪、桐生でも最低気温が氷点下と冷え込み、本格的な冬が到来した感がある。寒い時期の山歩きは、下山後に温泉に入って温まるのがとても楽しみ。もっと言うと、私にとっては下山後の温泉は必須。ないと出かける気がしない。
という訳で、先々週に引き続き、上野村の浜平温泉しおじの湯を起点・終点とする山歩き。神流川源流域の中央に位置する寂峰、品塩山(しなしおやま)に登ってきました。
桐生を車で発ち、下仁田ICから上野村に向かう。湯の沢トンネルを抜けたとたん、路面一面にうっすらと雪が積もっていて驚く。ノーマルタイヤなので、おっかなびっくり慎重に砥根平への下り坂を走る。これは、昨日のうちにスタッドレスに履き替えておくんだったなあ。砥根平からしおじの湯への道も雪に薄く覆われて、カーブとアップダウンが多くて注意を要す。辿り着いたしおじの湯の駐車場も一面の雪。隅っこに車を置く。車外に出ると、空気がキンと冷えて吐く息が白い。毛糸の手袋をはめて出発する。
「三岐(みつまた)学生の家 50m→」の道標に従って、しおじの湯を見下ろす尾根末端の高台に登ると、廃校となった校舎を利用した学生の家がある。後日調べると、昭和48年に廃止された上野西小学校三岐分校の校舎だそうだ。校舎左手の林間には寂れた小さなお堂があり、中に小さな石仏がおわす。説明板によると、山中領西国三十三札所写しの第一番札所として建立されたもので、如意輪観世音を祀るとのこと。
黄色い標識に従って送電線巡視路(至る安曇幹線2号線211号)を辿る。落ち葉に埋もれた道型を辿って浅い窪を登り、斜面をジグザグに登って尾根の上に出る。右が品塩山への尾根、左の小ピークには何かの観測所らしき鉄製の小屋が建つが、用途は不明。
右へ痩せた尾根の上の踏み跡を辿ると、直ぐに送電鉄塔がある。中ノ沢の谷を隔ててボンデン山の岩峰を望み、谷の奥に白い上信国境稜線を仰ぐ。青空が広がって天気は上々だ。
送電線巡視路はここで終わりで、この先は細尾根の上を忠実に辿る。尾根を覆う樹林は疎らで藪はなく、快適に歩ける。
ちょこんと突き出た小ピークに登り上げると、二等三角点の標石のあるトヤノツムジの頂上に着く。古びた小さな山名標が木の幹に掛けられている。木立を透かして諏訪山と上野ダムの堤体が意外と間近に見える。
トヤノツムジからさらに細尾根を辿る。小さなアップダウンが続く。西側の斜面にはうっすらと雪が積もって白くなっている。短い急坂を上ると、標石が二つあるピークに着く。この辺りから、尾根上にもサラサラの顆粒状の雪が薄く積もっている。雪の上には微かな靴跡があり、先行者がいるようだ。
尾根を歩いていると、突然、右下の斜面をガサガサと駆け下る黒く大きな獣一頭を目撃。これは!間違いなくクマだ。少し下ったところで止まり、林の中からこちらの様子をジッと窺っている。写真を撮ってみたが、おわかりいただけただろうか。離れているので危険は感じないが、熊鈴を持っていなかったので、パッタリ遭う可能性もあった。
この辺りから、まだまだ遠いが、行く手に品塩山が見え始める。右斜面が切れ落ちて、なかなかの鋭鋒だ。尖った大岩の右を巻いて少し下り、小さな登降を繰り返しつつ登ると「公共」の標石のあるピークに着き、中ノ沢から登って来た道を右から合わせる。
この先で単独行の男性(多分、先行のハイカーさん)とすれ違う。次の小ピークの上に立つと、鞍部を隔てて眼前に品塩山が鋭く聳える。鞍部へは右寄りのザレた急斜面を下る。
鞍部からは、さっき見て取った通りの急な登りとなる。岩場を交えた急坂は確たる手掛かりや足場に乏しく、固く凍った土にうっすらと積もった雪のせいで滑りやすい上に、結構高度感がある。四つん這いになり、マジで必死に登って、ようやく平坦な頂上稜線の北端に出る。登ってきた急坂を振り返って見下ろすと、うわー、ここを降りるのは勘弁かも。登りに増して恐ろしい。さっきの人はよくぞ下ったものだ。軽アイゼンとロープを持ってくるべきだった。
頂上稜線をしばらく進むと、岩場を巻いて送電線巡視路が現れるので、これを辿る。巡視路といっても微かな踏み跡だ。稜線直下の落ち葉の斜面をどんどんトラバースして行くので、位置を見計らって稜線に復帰すると、山名標のある品塩山南峰の頂上に着く。頂上は樹林に囲まれて展望はないし、陽が差し込まず寒いので、あまり長居する気にならない。この先の送電鉄塔まで行ってみよう。
稜線を辿って巡視路に合流し、ほどなく送電鉄塔(神流川線6)に着く。送電線が延びる両方向に眺めが開け、東には諏訪山、西には船坂山が眺められる。しかし、眺めが良い分、風当たりが強くて、この場所も休憩にはいまいちだ。
取り敢えずここまで来たものの、このあとの下山ルートはどうしようか。さっきの急坂(というか崖)を下るのは避けたい。巡視路を戻ると中ノ沢に下れるそうだが、今日は雪もあることだし、安全策をとって林道を下ることにしよう。
ピンクテープに導かれて山腹をトラバースする巡視路を辿る。この道も落ち葉に埋もれて相当にか細い。踏まれた痕跡があるのは人か獣か。林道に出てホッと一安心。既に正午を回っていて、腹ペコだ。林道脇の平地の日溜まりに腰を下ろして昼食とする。まずは鯖味噌煮の缶詰を肴にビール。喉が渇いていたので美味い。それから鍋焼きうどんを食べて、ようやく人心地がつく。
さて、林道に出たのは良いが、この林道は地図に載っていないので、どこを通ってどこに通じているか判らない。西に行ったり、東に行ったりしてみたが、いずれも行き止まり。残った南に向かう林道(中ノ沢支線)を辿る。幅広い立派な道だが、法面や路肩が崩れて相当荒れている。稜線直下をトラバースして緩く登り、しおじの湯からどんどん遠ざかって、さらに山奥へ入って行く。
又尾山(1444m三角点峰)は巻いて通過。ゲートを通って、稜線を東西に横切る幅広い舗装道(中ノ沢林道)に出る。路面を覆う雪には車の轍が残っている。
林道を左(東)に辿って、奥神流湖側へ下る。山腹を巻いて緩々と下る林道歩きは長いが、先月登った上武国境稜線の山々を眺めたり、奥神流湖を見おろしたりして、展望はなかなか良い。途中で子連れを含む20頭くらいのサルの群れを見た。写真を撮ろうと試みるも、一斉に林の中に逃げ込んでしまい叶わず。それにしてもこの山域は獣が多い。
林道は御巣鷹山(1640m三角点峰)の北面をトラバースする。見上げる御巣鷹山は険しい谷の奥に黒木に覆われた急峻な山肌を見せ、ちょっと興味が湧く。神流川本谷を隔てて望む諏訪山の山裾には、中止の滝が水を落としているのが見える。
延々と山腹をトラバースし、ゲートを通って、ようやく神流川本谷沿いの車道(御巣鷹の尾根登山道路)に下り着く。長い車道歩きで足裏に肉刺ができて痛い。しかし、しおじの湯へはここが折り返し点で、先はまだまだ長い。
奥神流湖の上流端で神流川発電所の開閉所を対岸に見る。琴音トンネルに入り、以降、湖岸の山襞を貫いて長いトンネルが連続する。トンネル内は、照明が間引いて点灯されていて、暗い。ひと気のないトンネルを一人で歩いていると、不気味で何か出そう。足音がピタンピタンと壁に反響する。振り返ったら誰かいたりして(^^;)
もう一生分くらいの長いトンネル歩きを経て、日が落ちて灯りがともるしおじの湯に到着。下山ルートで大回りした結果、全行程の3/4が車道歩きという、何とも微妙な山歩きだった。しかし、神流川源流域の様子はかなり把握できた気がするし、最後に温泉に入って温まれば目的達成で大満足。帰りは幸い路上の雪は消えている。夜道を走って帰桐した。